【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「……来てくれたか」
「期待させて悪いですけど、そう甘い話ではないです」
「それでもいい。話を聞く余地は持たせてくれているんだな?」
高峰レオに指定された場所へは1人でやってきた。
2人は、暴走してお話になりそうもなかった。
「ここは?」
一軒家。
何となく察しつつも一応な。
「…………」
無言の背中についていくと一室の扉の前についた。
「開けるぞ」
嫌な予感というのは大抵が当たる。
押し開けられた扉。
その奥に昏い光が二つ見えた。
「彼女が……そうだ」
肩書は室長だったか。
その名前から連想するようなバリバリのキャリアウーマンとはかけ離れた、暗い女がそこにいた。
「初めまして」
「……」
数瞬だけ合った瞳は、すぐさま逸らされた。
静かに側に寄っていたレオに片手を差し出すと、握り返されて安心したように表情が和らぐ。
「──あの様子を見せられて、俺が頷くと思いましたか?」
居間に戻り次第、感想というか──誰もがそう答えるであろう答えを返した。
「それでも……頼むしかないんだ」
「うー……」
ますます理解し難い。
どんな事情があれ、あれ程に憔悴した大切な人を置いてどこかへ消える権利があると思っているのだろか。
それがたとえ親の死に目だとしてもだ。
そうだとしても、連れていくのが筋だろう。
「あのですね……あなたも、彼女も、俺も、誰も望んでないのにその選択肢を取る事は普通に悪手ですよ」
それともなにか。
連れていくことがこれ以上の悪手になりうるパターンがあるのか。
飢えた男しかいない場所に行くとかか。
ソレなら分かる。
「……言えない」
「はぁ……」
なぜ俺は厄介事を引き当ててしまうんだ。
「あのですね……事情も言えないってことは、俺の身内に危険が及ぶ危険性もあるって事ですよね?」
「……それはない。彼女のせいで君たちに危害が及ぶ事は決してないと誓う」
「誓う、ねえ」
「君なら……引き受けてくれると思ったんだけどな」
犬猫ならともかく、人間だ。
しかも成人女性。
俺は身動きの取れない女性に対してそういう欲求は湧かないけど、そこを考慮しないのは意味がわからない。
「だからこそアナタを選んだ」
「過大評価というか、職権濫用ですね」
「何と言われようと……」
「…………はぁ……ヒナタたちに怒られるな……」
「!」
何か手を打つしかあるまい。
福祉施設なんてないんだから。
流石にこのまま放っておくのは忍びない。
「離れでも建てるか? ……というか残りの仕事どうすんだよ……ああ、もう……」
一度決めると、これまではどうでも良かったことでも気にしなければならなくなる。商工会の地位ある人間を半ば連れ去りのような形で持っていくんだから、そこの隙間に生じる問題は中々なものだ。
可哀想なのが誰かといえば、決してこの2人などではなく、この2人がトップを張っていた部署の人間と育成途中の職員な訳で。そこにそのまま事情を伝えるわけにもいかない。
いきなり出てきて『すいません! オタクの室長もらっていきます!』は凄すぎる。俺がその立場だったら呆気に取られて動けないけど、まがいなりにもこの地を治める商工会だ。追求が入るだろう。
その追求に応えられるわけもないけど、それに納得してくれるわけがない。
「引き継ぎとかは?」
「引き継ぎ? ソレは一体……」
「ああ……おおあ……」
そんな概念はなかった。
そうだよな、引き継ぎってのは親切だもんな。
そういえば生徒会長になった時も引き継ぎ書なんかどこにもなかったわ。
商工会レベルでもそうなのは、中々にグロいな。
終わりかもしれんね。
「仕事を引き継ぐ、か……考えたこともなかったな」
「ドロンするんだからそりゃあそうでしょうけど」
気にならんのかねえ。
気にならんのだろうねえ。
「基本的には地方から上がってきた調査報告書なんかを危険度ごとにまとめたり、我々が追加調査を行うべきかを判断する程度の話だ。誰だってできる」
「みんなそう言うんだよ、やれば出来るって……」
理想論を現実にぶつけるな。
自分ができたから他人もできるは理想論だ。
みんなやってるも夢物語だ。
「随分……詳しいな……?」
「まあいいです。それはいいとしましょう」
俺のことを深堀するな。
商工会のことも忘れてやる。
「この家は?」
「彼女の借り家だ」
一軒家に女が1人暮らし……妙だな。
「元々借りていたのが半壊したからな」
とにかく、ここに関しては引き払えばいいということか。それならシンプルで分かりやすい。
お金は……引き出してもらうしかないな。
「そこは俺が何とかする」
「そりゃあ頼みますよ」
見れば、低レベルのダンジョンであれば余裕で超えられるであろう防具や武器が揃えられている。商工会も意外と良いモノを支給してくれんのね。
「彼女は元々探索者だったからな」
「じゃあこれは残しておきますか」
売っぱらっても二束三文で取られるだけなので、保持していた方が価値がある。
「包丁とか机はどうでも良いな。端末、服、武具、そんくらい……だな、うん」
「慣れてるな」
引越は最小限の荷物でいい。
それこそ、家電がほぼないこの世界なら身軽に済む。
──正気の沙汰じゃない。
人間を1人預かるのはとても大変なことだ。
しかもレオに依存しているような女を……ああ、俺は本当にバカだ。
──────
「はい、わかってました〜……なんていうと思ったかー! バカ! アホ! 人の話全然聞いてないじゃん! あの時間なんだったの! 本当に首輪つけないとわかんない!?」
「バカ! バカ!」
気持ちいいくらいの罵倒。
そうしてくれる方が気が楽だ。
「えいっ!」
「うりゃっ!」
まるで微風のような暴力。
それで気が済むならいくらでも受け入れよう。
「幼女好き」
「男の子にも手を出す変態」
「顔さえ良ければ何でもいいヤツ」
「先生にお漏らしさせた鬼畜」
「食堂を粉砕しかねない」
「生徒会長とかいって自分だけのパラダイスを作ってる」
「山田さんの顔殴ったらしいよ」
おい待て、それは俺の高校生の時の悪評を集めただけだろう。しかも何でアリサが知ってるんだ。
「高校行ったことありますもん」
だからって、俺のそういう話どうやって聞いたんだよ……
「もちろん学校の人からです。ヒロさん生徒会長だったじゃないですか」
うん、レオが言ったことを既に実感し始めているぞ。
趣旨からはズレてるかもしれないけど。
「そうじゃない! 本題はそこじゃないですよ!」
「そうだよ。なんで私たちの話全然無視して話進めちゃってるの!せめて相談するとかあるでしょ!」
相談する癖をつけるとタイミング逃すからな……できるなら、自分1人で決めるのがいい。
「その結果ろくなことにならないんだから、私たちを頼ってよ」
悲しい。俺の努力の結果は、『ろくなことじゃない』に分類されるらしい。今回の件に関してはそれも飲めるけど、いつもはもうちょっと考える時間もあるし、ちゃんとやってるぞ。多分。
「──それで?」
「?」
「その女の人はどうするの」
「……連れて帰るしかない」
「はぁ……」
「ごめん」
「はぁ〜……」
九条手鞠。
彼女を迎えに3人で行くと、レオがやはり建物の前で待っていた。その荷物の様子からして、いなくなるのはもうすぐのようだ。
ミツキ達は、この家に来る前から俺に対しても怒っていたし、レオにはもっと怒っていたし、こうして目前にやってくると、さらに怒りを募らせた。
「……君たちの怒りは理解しているつもりだ」
「感情を理解しようとか、全部受け入れようとか、そういう小賢しいのは何の弁明にもなりませんからね」
「…………」
静かな怒りと言うべきか。ミツキは声を荒らげたり、拳を振り上げたりするわけではなく、ただ冷たい声音と視線でレオを射すくめていた。
「女の人を置いて行くなんて……信じられない」
吐き捨てた言葉には、心底からの軽蔑しか感じない。
そしてレオは、ただ、その感情を粛々と受け入れていた。それしかできる事はないと言わんばかりに。
「ミツキさん、そのくらいで」
アリサも同様の怒りを滲ませつつ、レオには興味がないようで手鞠の様子を早く見ようと促した。
「いなくなる人の事なんか早く忘れたほうがいいんです」
なんというか……俺にも刺さる言葉だった。
アリサは、ミツキの手を尻尾で柔らかく包むと家の中に入る。残されたのは俺たち男2人だけだ。
「……」
瞑目し、先の言葉を噛み締めるように唇を引き結んでいる。
「こんなこと俺が聞いて、何の意味があるのかとは思います」
「……」
「でも念のために聞かせてください。いつかは戻ってくるんですよね?」
「それは……」
「わからないとか戻ってこないとか、そういう答えはいらないんですよ」
「俺は……手鞠と一緒にいる権利なんてないんだ」
「説明できない事情なんてこの世にはない。ただ、上っ面を守りたいから話したくないだけの事です」
俺自身もそうだから。
でも、話した。
ちゃんと3人に話したし、少しずつ話せるようになってきた。彼がまだ若いのはわかってる。自分の不明を認めるには少し時間がいるのもわかる。若いからこそ……ここで大きな選択ミスをして欲しくない。
「約束してくれ、彼女を迎えに来るって」
「…………っ!」
ああ……そんな泣きそうな顔するくらいなら、最初から連れて行けばいいんだ。
だけどできないんだろう?
男だから、一度決めたことは守らなきゃいけない。
なんてくだらない生き物だ、男ってのは。
プライドが邪魔して何もできなくなっちまう。
「彼女は32セクターの……多分俺ん家の近くに匿っとく感じになると思いますんで」
「……」
項垂れ、動かなくなってしまったレオを置いて俺も家の中へ入ろうとしたら、逆に扉が開いた。
2人が、手鞠を支えて歩いてきたのだ。
「……」
力なく、意志の弱い目で、女はレオのことを見た。
「──レオ」
乾いた唇を開いて、分かりきっている故の失望を滲ませながら言葉を紡ぐ。
「レオ……どこかに行っちゃうんだ」
「…………俺、は……」
「一緒にいてくれるって……思ってたのに……」
「っ……」
黒く濁った空気が沈澱していく。
弱まった雷鳴は遠ざかり、固まった時間の中でわずかに動くのは向かい合う2人だけだった。
身じろぎすら躊躇われ、観客としてあるしかない俺たち。場を重いものに変えた九条手鞠がもう一度、口を開いた。
「……さよなら」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない