【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「馬鹿か!」
「ぐべえ!」
リビングの扉を開けた瞬間、鼻っ面へ一発──
「うりゃっ」
「おごっ」
続けて小さめの踵落としが肩へ──
山田姉妹の息のあった連撃は、完全に油断していた俺では回避不能だった。怪我は治るけど、ダメージは普通に……通常態じゃ流石にね?
「……」
「うぐえっ」
完全に昔の眼光を取り戻したヒナタに首根っこを掴まれて家の中へ運び込まれ、床の上にぶん投げられるという恐怖体験。俺じゃなかったら泣いてるね。
「女を連れてきたって聞いたぞ」
「…………」
「どうなんだよ、おい」
「……ほ、本当です」
「殺す」
こ、ころされる!? ──というのは後で受け入れるけど、まずはテマリさんをどうにかしなきゃな。
「ヒナタ、早苗ちゃん、俺を殺すのは後にしてくれ。まずは彼女を──」
「ふんっ」
言われるまでもない、とヒナタは廊下に出て行った。
テマリさんを丁寧に案内してくると、俺を素通りしてソファーに座らせる。
「ほら、ここに座りな」
「…………」
「感謝くらいしてほしいもんだけどな」
「……ありがとう」
「ふん」
床の上に座っている俺のことなど御構い無しだ。
早苗ちゃんも飲み物を用意する為に冷蔵庫を漁り出し──前よりも更にものが入っている気がした。
「はい、これ飲んで」
緑色の飲み物を差し出す。
ガラスのコップはみんなの要望に応えて買ったものだった。この家の中で俺の性癖が反映されているのはベッドくらいなものだ。
「…………」
テマリさんはコップをぼうっと見つめるが口をつけない。
無理もないだろう。
「取り敢えず、ウチに住むならルールには従ってもらうぜ」
ああ、なんか感動した。
家って感じがする。
「掃除、洗濯、買い物、料理、やることはいくらでもあるからな。そうやって沈んでる暇なんてねえぞ」
「…………」
「……まあ、すぐにってわけじゃない。少しは……休んでな」
テマリさんを寝室に押し込んだあと、日向は難しい顔で座り込んだ。
「ヒナタちゃん……」
「…………」
2人の間に共通して存在するナニカが俺にはわからない。だけど、邪魔しないのが正解だということはわかった。
「……アキヒロ、何があったんだ?」
少し経つと、2人の興味はそこに至った。
隠すことでもない。
洗いざらい話すと、尚更2人の顔は険しくなる。
早苗ちゃんまで。
普段は見ない表情だけど、それは早苗ちゃんが普段は努めて明るく振る舞っているだけなのだろう。
「アキヒロくんは……友達が死んじゃったことってあるの?」
「あるよ」
この世界での話じゃないけど、それこそたくさんいる。
「お母さんとか、お父さんも?」
「ああ」
「そっか……」
少しだけ、気まずいと思った。
だからだろう。
つい、口を開いてしまった。
「死は特別なことじゃない、誰にだって訪れるものだ」
「……でも、仲がいい人がいなくなっちゃうのは嫌だよ」
「…………そうだな」
余計なことを言ってしまった。
死は特別じゃないなんて──そんな分かりきった事、実体験でもしない限り共感できるはずもないのに。
「ん……」
早苗ちゃんの身体を抱き上げて、抱きしめる。
暖かな匂い、秋川家でよく嗅ぐような天日干しの香りが鼻いっぱいに広がった。
「寂しくないのは……なんか、寂しいよ」
そうかもしれない。
そうかもしれないで終わってしまうのも、また、寂しいのだろう。
「俺はいなくならないからさ」
「……うん」
我ながら、なんて信用のない言葉だろうと鼻で笑いたくなる。いつ死んでもおかしくないくせに。
「…………」
「留守番、ありがとな」
「ん」
日向の肩を抱き寄せると、早苗ちゃんと似てるけど少しだけ違う香りが広がった。
地味に頬をつねられてるのは、まあ仕方がない。
「……あの人、どうすんだよ」
フブキには、アキヒロが世話をするなんてナンセンス、みたいなことを言われたけど実際俺がやるべきことだ。だから──
「暫くはウチに泊めて、動けるようになったら何かバイトでも……」
「ダメに決まってふはふぉ」
強く顔を押し付けるから最後の方は言葉が砕けていたけど、どうやらフブキと同じようなことを考えたらしい。
詰まるところ、俺が手を出さないかということを心配しているのだ。
出すわけがない。
「俺はやましい気持ちがあって言ってるわけじゃないんだけど?」
「そんなこと、最初から分かってる」
「えー?」
それならなんだ。
「…………」
「ヒナタ?」
どうしちゃったんだろう。
早苗ちゃんも無言でしがみついたままだし、心無しか首もしまってる。このままいけば窒息?
「とにかく、私たちがやるから」
「山に捨てたりしない?」
「ふざけてんなよ?」
「はい……いや、はいじゃなくて。自分で決めたことなんだから自分でやるよ。ヒナタ達もやる事あるんだから」
「その時間を削ってやるって言ってんだよ」
世にも珍しくないヒナタのジト目(睨み付け)だけど、このタイミングでやられると何故か背筋が濡れ始めたような気がする。
「な、なんで?」
「教えない」
教えてくれないなら任せないって言いそうになった。
言った時の未来が見える。
任せない→早苗ちゃん参戦→任せない! →アリサ参戦→任せない!! →ミツキ参戦→任せない!!! コウキ参戦→I lose
負け確定で酷い。
「もういいよ」
「ふん……」
「ごめんな」
「……うん」
静かに、呼吸の音だけが二酸化炭素と共に室内へ充満していく。雷で覆い尽くされていた空気の粒は長大な揺れを最早受け付けず、振幅の小さな波が2人の喉を押し広げて俺の耳へ届いた。
もしも2人きりだったら。
ジジイがアブナイ妄想をする程度には、ヒナタの瞳の真っ直ぐさを否定することができなかった。
──尚更に、首に回された腕が閉まっていく。
「さ、さなえちゃん……しまってる……」
「……」
意識が消えると消えぬの間くらいのところまで。
人体の限界をよく理解した少女は、細腕でもお構いなしの技量だった。
筋肉では受けきれないダメージをよく分かってる。
しかも、肩に回していたはずの腕をすり抜けたヒナタが正面から首に腕を回した。
意識が集中するのは布越しの豊満な体と、首筋の圧迫感。
「ま、まて……」
早苗ちゃんに対抗するようにそちらも締め付けられ、前後からの絞首攻撃に抗うこともできず意識が消失した。
──────
「うっ……?」
「あ、起きた」
血流遮断による気絶は、探索者にとって致命的な隙を生むが致命的なダメージを与えるわけではない。おそらく数秒から数十秒の間に意識を取り戻すと、目の前には早苗ちゃんの顔が。
「やっほ、アキヒロくん」
「やっほ」
「……」
「……」
ただいまを言うのもタイミング的に違う。
こういう時、何を言えばいいか。
今回行ったのは、お土産話をするにはあまりにも凄惨な場所だったけど──話せることもあった。
「第一セクターで高校の時の仲間に会ったよ」
「仲間? ……同級生?」
「そういう言い換えじゃなくて。昔、冒険をした時の仲間」
「……私が知らない時の?」
頬に触れた手は少しばかり冷えていた。先ほど、俺をメタメタにしていた時からそうだったのかもしれない。
上から手を重ねれば、すぐに暖かくなる。
見た目にそぐわぬ大人な微笑みを浮かべた早苗ちゃんに、劇の話を聞かせた。
「──私も聞きたかったな」
「恥ずかしかったからやめてくれよ」
「アキヒロくんの事、もっと知りたいんだ」
「ええ? なんだよそれ」
妙に恥ずかしい事を言う。
「もっと色々……私が知らないこと、聞きたいな」
「そのうちな」
早苗ちゃんの、細いけどしっかりと鍛えられた太ももに頭をいつまでも載せていたらダメになってしまう。それに、ヒナタに見られたらまた浮気だなんだと言い出すに決まっているんだ。
「あ……」
「そろそろ荷物を片付けなきゃな」
「それならヒナタちゃんがやってるよ?」
「えっ……」
俺がやることがなくなってしまった。
ミツキとアリサは一旦家に帰ったし、コマちゃんもどっか行っとるし。あとは飯食って寝るくらい?
「うん、ご飯食べて一緒に寝よう?」
「そうすっか〜」
「なにがそうすっかだよ」
「あ、ヒナタ」
おヒナタ様が俺の荷物を片付けて舞い戻って下さった。
「人様が荷物を片付けてやってる時に、よくもまあそんなふざけた事が言えたもんだな」
「いやほら、暇だったから」
「お前は私と一緒に風呂だよ。ほら行くぞ」
男らしすぎて全然エロくない誘い文句にホイホイと付いていき、先に俺が入った。
女が優先だよなあと思いながら湯船に沈んでいると、扉を開けて入ってくる。
「そっち詰めろよ」
「そんなこと言われても、俺が先に入ってたんだよーん──あぶなっ」
「ちっ……おら」
右の真っ直ぐを掴んで止めたら、今度は足蹴にされた。
「おらおら、どけ」
「んあー」
グイグイと押し込まれるままに居場所を奪われる。
「んー……熱い」
「風呂だからな」
「うるせえなあ」
熱い風呂でくっつく。
これもまた乙というやつか。
第一セクターでの滞在は多少なりとも疲れるものだった。
こうしてのんびりと一緒に風呂に浸かる事と凄く癒される。
なんて思っていたのは俺だけだったらしい。
チャプリと、わずかに持ち上げられた湯が音を立てる。
何をと問う前に左腕がゆっくりと柔らかさに飲み込まれていった。
……またデカくなった?
「……ん」
目の前に来たのは薄い皮に隔てられた水晶体。
見つめあいながらというのは彼女の癖じゃないのだ。しかし、あくまで最後は自分から来いということらしい。目を瞑って待つばかりで動こうとしない。
「ん!」
迫っておきながらではある。そこまで来たら最後まで来て欲しいという思いはある。
でも、こんなしおらしい仕草を見せられては動かないといけない。応えたい。さりとて自分から寄せに行くというのも少しばかり癪だった。
「──!」
抱き寄せると、この場にいるのがただの悪友じゃないという事を証明する甘い匂いが唇から入り込む。
「んふぅ……ちゅ……」
充分に味わった香りが、喉を遡って鼻に抜けた。
「……ふぅ」
溜め息と同時、ようやく開かれた瞼の間に俺が映った。
「へへ……」
脱力──同時、肩に乗った頭部の重み。
押し潰れて形を変える柔肉。
先ほどとは性質の違う吐息。
どこまでも違う性を感じ、大きくなっていく何かを内に留める。
何事も節度は大事だ。
理性を持って人生を──
「もっかい」
やっぱ本能だよな。
「ちゅ、ん……んん……」
再度押し寄せる熱。
息のし辛さと引き換えに、流れ込む甘露を飲み下す。
「もっと……」
深く重なる水音。
何度もお湯がこぼれ、その度に眼下の絶景が揺れ動く。
激しい言葉遣いが鳴りを潜めた代わりに動きが荒くなっていく。リビングに家族がいることなどお構いなしだ。
「──!」
息継ぎの為に一旦止まる。かと思えば、熱に浮かされているかのように揺れる瞳が、残像をその場に俺の首筋へ襲いかかった。
即座に走るヌメリとした感触と僅かな痛みは、かつて彼女に与えたものの意趣返しなのだろう。言葉にした事はないけれども。
「ちゅっ……ふぅっ……れろ……」
好きにさせると、やがて感触は肌を降りていく。
軽く背中を撫でれば僅かな硬直の後に腕を押さえ付けられ、強い噛みつきでもって返事が来る。噛みつきそのものに痛みはないが、興奮したモノも彼女の身体に抑え込まれているのでそれが若干。
もちろん、悪い気はしない。
「…………」
下腹部まで辿り着くと満足したのか、歯と舌の感触が離れる。距離が生まれたことで解放されたバネを見つめ、おそらくは湯の熱によって赤くなった頬を持ち上げた。
「なんだよ、結局準備万端じゃねえか」
「…………」
生意気な。
「どうしたい? ……どうして欲しい?」
思うことは一つ。
「とりあえず、お湯は汚したくな──」
「あむっ」
お湯は汚れた。
俺は悪くない。
ちゃんとお仕置きはしておいた。
俺は偉い。
お湯はもっと汚れた。
俺は悪くない。
早苗ちゃんに怒られた。
俺が悪い。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない