【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「ヒ、ヒロさんっ……うくっ……ぷくくっ……!」
「なんで笑うんですか……?」
「そ、それやめっ……いひひひっ! ひーひっひっひ!」
廊下で腹を抱えて笑うのは端ないと思わないかい? そこゆくお嬢さん。
「──アキくん!」
「いよっす」
「いよっす!」
「どんな感じ?」
「部室で話しましょう!」
「まだ講義あるから、その後な」
「うん!」
アリサがなんでそんな笑っていたかというと、研究室の外であのやりとりを聞いていたからだ。笑われるほどのことはしてないけど、女の子なんて箸転がしとけば笑うからな。
キャーキャッキャッキャ!
「私、そんな風に笑ってないですけど……」
「笑ってたぞ」
「笑ってないです〜」
「突くなて」
尻尾に対する理解度が深まったようだ。
槍のような突きを避けながら講義を終え、お餅サークルの部屋に行く。いつ潰れてもおかしくないよなこのサークル。
「アキくん! ……と、アリサちゃんだ〜」
「どんもー」
「アリサちゃんもお餅サークルに入る決心ついた?」
「あはは……」
塩です、みたいな感じで断られるも特に傷ついた様子はない。散々断られてるだろうしな。
そもそもお餅の意味を理解できないと怪しげなサークルにしか思えん筈だ。
「この丸い塊が食べ物っていうのが未だに……」
そういう括りにされちゃうの悲しいね。
「しかも、匂いだってカビ臭くて食べ物とは思えません」
「か、カビ臭くないよお……」
「このお餅がカビ臭くないとしたら他のものがカビてるってことになるんですけど」
「うー……」
そんな目で縋られても、俺にはどうする事もできない。素直な話をするなら数十年放置されていた餅が腐ってないわけはないので、表面は硬化してカピカピなだけで中がダメになってるんだろう。アリサの鼻は確かだ。
「アキくんもなんか言ってよ〜、お餅サークルの部員なんだから……」
「ヒロさん?」
モチモチとモフモフに挟まれてしまった。
個人的にはモフモフだけど、部員としてはモチモチに走るべきなのかもしれない。一旦ポジションキープしよう。
「なんで壁際に行くんですか」
「ここなら挟まれないから」
「何に?」
「餅とフワフワ」
「意味がわかりません……」
とにかく、おばあちゃんからもらった大事なお餅を指差しで腐ってると主張することだけは避けられた。偉い。
後でミツキにも注意しておこう。
「女の気配っ!」
「ひぇっ」
これまでの中で最もスムージでポリシーかつモイスチャーな動きだった……
「今、何か考えましたね?」
「…………あ、あれだよ。フウカちゃんの調べ物は進んでるかなあと」
フウカちゃんは今、米について調べている最中だ。
米というか稲。
俺がそこら辺について知ってることは何となく察しているようだけど、それに頼らず頑張ってくれてて花丸。
「ふうん……?」
疑うような目付き。
咄嗟に出てくる適当な言葉ではアリサの野生の直感を誤魔化すのは難しいようだ。
「全然進まないからアキくんにも手伝ってもらいたいなーって……」
「何を手伝えば良い?」
「うん、実は──うわっ?!」
ピシャリと、一等大きな雷鳴が空を貫いて飛び消えた。
弱まっていた中でのこれに、いつも驚かされる。
雷季の最後を告げるサヨナラだ。
明日には霧が満ちているだろう。
「やっとうるさいの終わりなんだね〜」
「そうだな」
これからの時期、列車の本数は劇的に減る。
その影響で大学も休みだ。
シェンにあんなことを言われた直後だけど、普通に休みなんだ。大抵の人間はセクター内に引きこもって過ごす。
大抵じゃない人間は
「それで?」
「あ、うん。実はね? 色々な場所を探さないといけないなって思ってるんだ。でも私だけじゃ手が足りないから……もし、どこかに行くことがあったらその時にちょっと探してくれないかなって」
「分かった」
帰り途中、アリサが少しだけ不満そうだった。
「安請け合いしすぎじゃないですか?」
「そうか?」
「そうですよ」
「でもほら、アリサとそろそろダンジョン行きたかったしちょうど良いじゃん」
「…………」
「な?」
「……ぶぅ」
探索者として活動を続けるなら、定期的にダンジョンに行かなければ感覚を忘れてしまうだろう。明日はディーンと一緒なので連れて行けないけど……そうだ、三船くん達と一緒にやらせてみるというのも──
「アリサさんと僕たちですか? あー……」
あー、だった。
レベル的には大差がないので、理由があるとしたら俺の彼女であるということだ。他はわからん。
「アリサさんは嫌いじゃないけど、気まずい」
「まあ、そうだよな」
こういう時、遠慮をしないシエルの言葉は頼りになる。でも、その発言を少し穿って見ると、アリサのこと『は』嫌いじゃないけど…………なんだい? みたいな。
「それに、アリサさんを怪我させたらあなたが何か言うかもしれない。一応恩人であるあなたの言うことを断るのは難しいレイトにそういう押し付けはやめて欲しい」
「ぼ、僕はそんなに思ってないですよ!? シエルちゃん? そんな決め付けないで……」
なんだろう、俺のせいな気がしてきた。
妖精のとまり木の内部で軋轢が生まれる前に発言を撤回しておこう。あと、アリサが若干寂しそうな笑顔をしているのも堪え難い。
「なあ、あの女の人ってどうなったの?」
「テマリさん?」
「それそれ」
「今日は早苗ちゃんと日向と一緒に俺の家のことをやってくれてる、みたいな?」
「ふーん……あ! 分かった! アレやってもらうんでしょ!」
「どれ?」
「あのー……そう、娼婦!」
「!?」
絶対に勘違い、というか何か間違えてる。
「バカなこと言うな!」
「え? でも家に呼んで色々してもらう人のことはそう言うって師匠が言ってたよ」
「レイジさんのこと師匠って呼ぶようになったんだ」
「へへ……」
「師匠変えた方がいいよ」
「!? な、何でそんなこと言うんだよ!」
お手伝いさんのこと娼婦とか呼ぶ生ゴミは情操教育に良くないし、普通にカスだろ。
「娼婦の意味は──」
「──はああああ!? あのやろおおおおおおお!!!」
「あ」
土煙を巻き上げながら走り去った。
どこにいるか分かるのかよ。
「だいたいは同じ場所にいるので……」
「へー」
「……その、テマリさんは大丈夫なんですか?」
「いや」
「…………僕も会ってみてもいいですか?」
意図するところが分からなかった。
しかしダメと切り捨てるにはあまりに真剣な表情で、彼の人柄を考慮しても無意味な事をするとは考えられない。
シエルと一緒に行くということでテマリさんの元へ。
「…………」
日向はあまり良い顔をしなかった。
だけど口を開くわけではない。
三船くんの肩を叩いて、ただ、それだけだった。
「お前は外だ」
シエルと三船くんの2人だけが寝室に入った。
俺たちはリビングにいた。
早苗ちゃんもアリサも口を開かない。
彼女達といて、気まずいと久しぶりに感じた。
そんな時、日向だけは俺を見ていた。
「お前じゃ、あの人は助けられない」
「……そうだな」
「最初に分からなかったのか?」
俺は心の専門家じゃない。
傷ついた誰かを助けられると思ったことなんて一度もない。三船くんが持ち直したのだって、シエルのおかげでしかない。
それは理解していた。
「お前、そんなにバカだったか?」
「そこまで言わなくても……」
「……やっぱり、ちゃんと言ってやらなきゃ気が済まねえ。おいアキヒロ、あの人を自分で世話できるなんて……そんな甘っちょろい見立てをお前がしてた筈ねえよな? 私はいいよ、お前のやる事くらい手伝ってやるよ。それくらいは……いくらだってやってやるよ……」
「日向ちゃん……」
「でも、何を考えてんだ? やっぱり……分かんねえよ」
「…………アキヒロくん、私も知りたい」
「アキヒロ」
「アキヒロくん」
3人の視線が集中しているのを感じた。
そして、俺はそれを言語化する事ができる。
なぜ自分がこんなことをしたのかは分かっていた。
「良い人でいたかった。ただ、それだけだ」
「…………」
「テマリさんを助けても現時点でメリットはない。それどころか皆んなの迷惑になる…………そんなのは分かってるさ」
「はぁ……」
「それでも──」
「言い訳くらいしろ」
「っ!?」
まさか、最後まで言う前に小突かれるとは思わなかった。
「はぁ……あぁ〜……」
日向は俺を小突いておきながらしゃがみ込んでしまった。
「ああ、もう……こういう奴だって分かってたけど……」
「日向ちゃん、しょうがないよ。だって──」
「分かってるけど……」
この場にいる3人は、全員が俺の正体についてある程度知っている。だから、ある程度の価値観について共有は出来ているのだろう。
その上で頭を抱えさせてしまっているのは、世界の違いというものに共感できる人間がいない事の証左でもある。
「ヒロさん」
「ん」
「助けたらメリットがあるからとかいつも言ってますけど……あと、良い人でいたかったとか…………ただ、助けたいからじゃダメなんですか?」
「ダメだ」
「……」
「第1セクターでも言ったけど、自分1人でできることには限界がある。俺は特に、自分が何をできて何が出来ないか人よりもちゃんと把握してる。だから、その範囲でやらないといけない」
「人の力を借りるのはどうなんですか? だって、ヒナタさんも協力してくれるって……」
「後からでしかない」
本当に、どの口が言っているんだろう。
あの子供達の事は簡単に見捨てられたのに……日向達にだって呆れられるってもんだ。
「じゃあ、見捨てるって選択肢は……」
「テマリさんを無視するなら、最初から私たちのことだって放ってるってことだろ」
「……それが、コーキョーのフクシ? との違いですか?」
「はあ? なんだそりゃ」
──────
「孤児がたくさん、ね……」
「だから……よく分かんなくなっちゃって……」
「…………私もよく分かんねえけどさ、テマリさんも同じように商工会に預けるんじゃダメだったのか?」
それは厳しい話だ。
「商工会は慈善団体じゃない。統治機構としても……10点だ」
「何点中?」
「100点」
「ひくっ」
荒くれ者達をまとめていた組織がそのまま格上げされただけで、中身は何も洗練されてない。探索者特化の組織が権限を流用して纏めているだけだから歪なんだ。
「だから信用できないって?」
「……いや、会長は信用できる」
「なんか色々変えようとしてるとかって話じゃなかったか? いなくなった先生とか私達のことをコソコソ調べてるのも今の会長なんだろ?」
「永井先生と馬が合わないし、やり方が過激なのは間違いないけど……為政者としては好ましい人だった」
「──会ったのか!?」
「ああ」
「すげえな……じゃ、じゃあ、そのうち預けられるような団体に変わるってことか?」
「孤児達のことも言えば対応してくれたから、誰かが進言すれば…………分からないけどな、そもそもテマリさんは会長と面識あるだろうし」
何より、そういうのは得てして金がかかる。
税金周りの整備だって不完全なんだから、そこの話が最初に来るだろう。
税金が増えるということだけど。
「今は……レオが戻ってくるまでは、テマリさんを預かっておくしかない。それか病気が治るまでは」
「病んでる、ってやつだな」
「治っちまえば、それこそ好きにして貰えば良い。レオのことを忘れても良いし、待ってても良い。そこは俺の知ったことじゃない」
「…………」
「みんな、ごめん。後からだけど……俺を助けてくれ」
「──ばーか。最初から言ってんだろ、助けてやるって。今度からはそれを先にやれってんだ」
「ありがとう」
寝室。
そろそろ三船くんも終わる頃だろうか。
『──!?』
何か驚いたような声。
寝室の扉が勢いよく開けられ、2人分の足音が激しく響いた。
「どうした!」
「シエルちゃん!」
廊下に出ると、三船くんが急いで飛び出すところだった。
「──すまん! 俺も追いかける!」
「きをつけろよ!ーーこれって」
世界に新たな季節が満ちていく。
霧季の訪れだ
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない