【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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7_宿は実際大事

「治った」

 

「はやーい!?」

 

 次の日にはもう加賀美さんは治っていた。

 やっぱり、二級探索者ともなれば回復もとんでもない速さだ。

 だけど、飛んできたミツキさんとアリサさんに無理やりベッドに押し込められる。

 

「大丈夫だって! だっ……ちょっ……」

 

「…………!」

 

 2人は問答無用でグイグイと押し込み、日向さん達も呆れてるけど止めはしない。気持ちは同じってことだ。

 特にミツキさんは泣きそう。

 ベッドに押し込んだら、くっついて泣き始めてしまった。ソレにつられてアリサさんも。

 

「ぶえええ!」

 

「ずびびび!」

 

 同じ部屋にいるのが悪い気がして、テマリさんの様子を見た。

 

「……」

 

 チラッとだけ僕の顔を見て、あとはまた壁を向くだけ。

 シエルちゃんも後ろに隠れて強く服を握っている。

 例えば、エリュシアの事をテマリさんに教えるっていうのは──正しい対応なのかな。きっと…………加賀美さんならその答えを知ってる。

 僕的には、あんまり正しい事だとは思えなかった。

 全てを教えることが全部を解決してくれるとは思えなかった。

 

「っ……」

 

 シエルちゃんが、また強く息を漏らした。

 取り敢えず、お見舞いのパイを焼いてきたからソレを置いた。あんまり美味しくないかもしれないけど……何かを食べて欲しかった。食べれば、少しだけ元気が湧くから。ソレで、蓋をしていた辛い事を思い出しちゃったりするけど……でも、きっとそれも必要なことだった。

 

「あの、三船黎人です。パイ作ったので……置いておきますね」

 

「…………」

 

 すごく、寂しそうだったから。

 

「加賀美さん、治るの早かったね」

 

「おっ! 敬語! 昨日の覚えてたな! 偉いぞ!」

 

「や、やめてよ……」

 

 日向さんはやたらと大袈裟に褒めるものだから、シエルちゃんが何事かと勘繰ってちょっと大変だった。

 でも勘弁してほしい。日向さんに変なことしたなんて加賀美明宏さんに知られたら、それこそ怖くて仕方ない。

 

「ふーん」

 

「シエルちゃん、違うんだってえ……」

 

「あっそ」

 

 朝は寒いとか何とか言っていつのまにか同じ布団に入ってたのに、途端に距離が出来た気がした。

 

「ほええ……」

 

 アオイちゃんはおっかなびっくり、ハシュアーと一緒に家に入ってきた。

 

「探索者で、こんなちゃんとした家買う人って聞いた事ないです! みんな、併設の宿とか安宿に泊まるので!」

 

「俺が最初泊まろうとしてたとこじゃん?」

 

「そう! それ!」

 

 僕も多分、加賀美さんが面倒を見てくれることにならなかったらそうなっていた。前から借りている家だって、腕をなくして最初の頃は加賀美さんがお金を出してくれていたんだ。そうじゃなかったら引き払わないといけなかった。

 

「実際どんな感じの場所なの?」

 

「…………」

 

 すごく渋い顔だ! 

 

「虫がいっぱいいるし、ゴミで埋まった部屋とかもあるし……あと臭い」

 

「えー……」

 

「同じ人が同じ部屋をずっと借りてるから……あと……夜はうるさい」

 

「何で知ってるの? 受付で仕事してるのに」

 

「っ……ば、ばか! 私、受付嬢だから色々詳しいだけだもん!」

 

「…………俺、なんで怒られたの?」

 

「ふんすふんす」

 

 よくない事を思い出させちゃったみたいだ。

 分かったのは、とにかく安宿は良くないって話。

 シエルちゃんは僕たちと会う前はどこに住んでたんだっけ…………

 

「フツーの宿。探索者嫌いだから」

 

「そうなんだね」

 

 ホッとした。

 変な人たちと一緒に住んでたわけじゃなかったんだ。

 

「でもアレだな! 俺は別に安宿でも問題なさそうだ! 男だし! 虫は慣れてる!」

 

「ゴキブリで騒いでたのに……」

 

「あ、アレは別だろ! ……え? アレがいっぱい?」

 

 やっぱりハシュアーも商工会の宿は無理みたい。

 

「加賀美さんって、何でおうち買ったんですか? 宿でもいいのに」

 

 ソレは、誰に聞いているんだろう。

 僕は知らないし日向さんと早苗さんも首を振ってる。

 

「虫がいねえからだろ」

 

 ハシュアーは断言した。

 だけど、本当にそうなのかな。

 

「アイツ、よく野宿とかするしそこら辺は気にしねえんじゃねえか」

 

「ミツキちゃんから聞いたんだけど、うんち持ち帰ってきたこともあるんだって。あと、うちにすごい臭い石みたいなの持ってきたこともあったなあ……」

 

 あった。

 玄関脇に置かれてて、通るみんなが臭いからそこら辺の茂みに捨てろ! って日向さんに怒られてた。

 結局、無くさないようにもう少し別の場所に移動してたけど……あれはなんだったんだろう。

 

「あれな、なんか先生へのお土産だったらしい」

 

 ……嫌がらせ? 

 

「いや、すっげえ喜んでた。……その先生もいなくなっちまったけど」

 

「あっ……」

 

 そうか。

 その人が、加賀美さんがお世話になってたって人なんだ。

 

「お前ら今日はどうすんだ? 私たちは買い物行くんだけど……」

 

「僕は取り敢えず、ダンジョンに行こうかなって」

 

「お? 昨日の今日でか?」

 

「…………もうちょっと、強くなりたいなって」

 

「ふーん」

 

「な、なに?」

 

 日向さんは、すっごく意地が悪い感じの笑顔だった。変な事を考えているのだけは間違いない。

 

「なんでもー?」

 

 すごく意地悪だ。

 あと、敬語じゃないのやっぱり違和感すごい。

 

「まあ、頑張れな。ディーンだっけ? あいつに鍛えてもらってんだろ」

 

「うん」

 

 とにかく、まずは商工会に行こう。

 アオイちゃんも一旦お家に帰りたいだろうし。

 商工会がアレからどうなったのか知りたい。

 

 

 ──────

 

 

 商工会に辿り着くまでですぐに分かった。

 昨日の騒動でかなりの被害が街に出ていた。

 特徴的なのは、壊れた道からウニョーンって飛び出したカラフルなスライム達。戦闘の時に下水の上部まで貫通しちゃったらしい。

 急いで作業員さんが閉塞しようとしているけど、流石にモンスターの対処は探索者の仕事だ。

 僕らくらいの年齢のパーティーと、もう一つのパーティーがスライムを切り刻んで小さくして、下水に潜っていった。

 

「僕たちも偶にはああいうの受けたほうがいいのかな」

 

「そんなことないですよ? 自由じゃないですか」

 

「まあね? でも、一回ぐらいはやっとかないと後々やるってなった時が大変かなって……」

 

「……でも後々だったら、レベルも高くなってるだろうしそんな困ることありますかね」

 

「確かに」

 

 確かに。

 

「アオイちゃんって頭いいんだね」

 

「はい!」

 

 壊れてるのは下水だけじゃない。

 家やお店だって巻き込まれてる。

 普段から僕たちが使ってるところもだ。

 大変そうに片付けを行っていて、見過ごせなかった。

 

「……」

 

 僕が手伝おうか声をかけるよりも先にシエルちゃんが動いた。店先でしゃがんでゴミを拾っているおばちゃんの前に同じようにしゃがむ。

 

「あらシエルちゃん、手伝ってくれるの?」

 

「うん」

 

「ありがとうね、腰が痛くてなかなか進まなかったの」

 

「……うん」

 

 シエルちゃんは凄く一生懸命にお掃除を手伝った。そのお店だけじゃなくて、他の建物も。

 手伝うたびにありがとうって言われて──商工会にたどり着く頃には結構汚れちゃった。

 でも……

 

「頑張ったね」

 

「……」

 

 その顔を見て、余計な事を言う気にはならなかった。

 

「シエルはどうしたの? いきなり」

 

「しっ! ハシュアーくん! しーっ!」

 

「え?」

 

「……もう! デリカシーのない男の子は嫌われるよ!」

 

「アオイからも?」

 

「そう!」

 

「分かった、やめる」

 

「……!」

 

 商工会についたらついたで、職人達が一晩で作り上げた牢屋に例の人たちが閉じ込められている。

 

『開けろー!』

 

『無実の民を捕まえるのかー!』

 

『エリュシアの教えに反逆するのか!』

 

 いろいろ言ってるけど、職員の人たちも冗談じゃないって顔だ。昨日、アレだけ頑張って何とかしたのをまた振り出しに戻されてはやってられないよね。

 

「一晩中あーなの」

 

 はーなの、って感じの顔で項垂れているナナオさんを見ると哀れみも一層強い。

 きっと昨日から一睡もしてないんだ。

 

「してないよ……報告が止まらないんだもん……私、受付嬢なのに」

 

「あはは……」

 

「どうせなら、レイトくんも制服着て受付嬢やる!?」

 

「ええ!?」

 

 ナナオさんは錯乱しているようだ。

 

『ええ!?』

 

『嘘だろ……』

 

『来るのか……時代が……』

 

『わっほい』

 

『私、レイトくんのところしか行かないかも』

 

『そりゃ俺もだ』

 

『祝杯を上げよう』

 

 それは置いといて、ダンジョンに潜りたいんですという話がしたかった。受付嬢の話はもちろん置いたまま放置だ。

 

「受けられるよ? でも、すごい危ない人達がいたんでしょ? アキヒロくんも大怪我してるんだし──そうだ! すみませーん! ちょっとうちのエースのお見舞い行ってきまーす!」

 

『ちょっ、このクソ忙しい時になにを──』

 

 いろいろと限界を迎えたのか、逃走を選んだ。

 責任とか……

 

「え? 何で私がそんなものを……そういうのは上の責任だし……そもそも、本当に心配だし」

 

「あ、そうなんですね」

 

「私のこと、何だと思ってる感じ?」

 

 だいぶ自分勝手な印象──とは言えない。

 

「明るくて、リーダー気質……ですかね」

 

「やだもう!」

 

「あはは……」

 

 僕たちはそもそも加賀美明宏さんの家から来たばかりなので、そっちに行く用事はない。アンダーでの討伐依頼を請け負って、一旦装備を整えに戻ることにした。

 

「じゃあ、ここでね」

 

「うん」

 

 ハシュアーもアオイちゃんと話していたのを切り上げて、一旦ね。

 

「あ、ハシュアーくん」

 

「ん?」

 

「昨日はありがとう」

 

「おう! いつでも任せろ!」

 

「っ……ま、またね!」

 

「お、おい、走ると転ぶぞ〜」

 

「んべっ!」

 

「あ……大丈夫?」

 

「んん……だ、だいじょぶだから〜!」

 

「…………変なの」

 

 アオイちゃんがすごい勢いで駆けて行った後、ハシュアーはしきりに首を捻っていた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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