【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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8_誤算

 

「中がいつもよりも明るいような……」

 

「気のせいじゃないよ。いつもはもっと暗い」

 

 僕たちはダンジョンに入ったけど、その明るさがいつもと違っていた。

 倍くらいは違うのかな。

 元が暗いから倍明るくても見える範囲はあまり変わらないけど、それでも違いははっきりわかる。

 

「……」

 

 これもリヴァイアサンの影響なのかもしれない。

 それともエリュシアが何かしてるのか……だけど、そんなこと考えたってしょうがない。今はダンジョン攻略に集中しよう。

 

「気配が薄いね」

 

 昨日の件があったせいか、アンダーに潜る探索者は少なめだった。入り口付近で聞こえるざわめきが薄い。

 ちょっと不気味な雰囲気だ。

 進むにつれて音はさらに希薄になって、とは言っても奥に行けば人がいないのはいつものことか。

 

「……待って」

 

 シエルちゃんの声に従って止まる。

 緊張感をはらんだ声。

 僕たちじゃ分からない何かがある? 

 

「なんか、ザワザワしてる」

 

「ザワザワ?」

 

「うん、嫌な感じ」

 

「嫌な感じ……」

 

 どうするか、決めるのは僕だった。

 昨日のことや、最近のダンジョンの変な感じを思い出す。

 安全に、安全にって、そう言われてきたけど……時には危険を冒すことも必要だ。特にこれからは、もっと力が必要になる。

 シエルちゃんの故郷に行くにあたっても──エリュシアの人たちと戦うにしたってそうだ。そもそも探索者なんだから、こういう場面だってある。

 

「進んで……みよう」

 

「本当に?」

 

「うん。僕たちは強くならなくちゃいけない」

 

「……分かった」

 

 ハシュアーは僕達のやりとりに対して何も言わなかった。あるいは、鉱石に夢中なだけかもしれないけど。

 従ってくれる人がいるっていうのは凄く安心した。

 

 ──ソレが間違いだった。

 

「ハシュアー! しっかりして!」

 

 背負った小さな身体は震えている。

 血が止まらない。

 穴の空いたお腹。

 回復薬は途中で吹き飛ばされたから不完全な回復しかできなかった。内臓がはみ出るのを防ぐために応急の布だけ巻いて、急いで出口に向かっているところだ。

 

「──くるっ!」

 

「っ!」

 

 とっさに身を屈める。

 頭上を通り過ぎたのは、アイツから発射された鱗だ。

 当たっていれば頭がなくなっていた。

 岩壁を削り取りながら止まったのがその証拠だ。

 

「何でこんなところに……!」

 

「いいから走って!」

 

「分かってる!」

 

 僕たちが必死になって逃げているのは、第二階層にいる筈のモンスター、オクザンコウからだった。

 第一階層最強のタイラントを捕食する、まごうことなき強者。ハシュアーの暴走もまるで意味をなさなかった。だけど……こんなところにいるはずがないんだ。

 

「ハシュアー! もうちょっとだよ!」

 

 持ってきたアイテムを散々に使って、僕たちはやっとこさ入り口に戻ってくることができた。

 同じ事を2回やれって言われてもできる気がしない。

 こんな速度で、こんな正確に。

 

「に、逃げられた……」

 

「おいおい、大丈夫かお前ら」

 

「──ハシュアーが!」

 

「うおっ!? ……ああ、なるほどな。今回復薬持ってくるから」

 

 取り敢えず残っていた薬を全部飲ませながら戻ってきたから何とかなったし、急いでベッドに寝かせたから命も助かった。だけど、ハシュアーは落ち込んじゃった。

 

「負けた……よくわからないうちに……」

 

「そんなガッカリしないで。しょうがないよアレは」

 

「せめて意識がある時に負けたかった……」

 

 ふて寝するハシュアーが、それこそ不貞腐れてる時のコマちゃんみたいで可愛らしいので撫でていた。そうしたら、ドタドタと急いでアオイちゃんがやってきた。

 ダンジョンに入ってから2日経っていたけど、特に変わりはないみたい。

 …………前の僕ならこんな長時間の行動は絶対にできなかった。

 もちろん休憩は取ったけど、それでも、ちょっとだけ変われてるんだなって実感があった。

 

 それはそれとして──

 

「よがっだああああ!」

 

 ハシュアーのそばに突っ伏して泣いているアオイちゃんを見ると悪いことをしてしまったという気分になる。

 最近の2人はお姉ちゃんと弟みたいな雰囲気がある。あんまり付き合ってあげられないレイジさんとの朝練にアオイちゃんもちょくちょくと顔を出しているらしいんだよね。

 

「大袈裟だよ」

 

「大袈裟じゃないよお! なんで大怪我するまで戦ったの!」

 

「うーん……」

 

 困ったと言わんばかりに頭を掻いて、助けを求める視線を寄越すけど……ダメだよ自分で解決しないと。

 

「ほら、見ろよ。怪我なんかないだろ?」

 

「…………んっ!」

 

「あ」

 

 ペロンと捲られた右脇腹には、なくなった肉を補充して再生した痕が残っている。回復薬万々歳だ──とはならないのがアオイちゃんだった。

 

「これのどこを見たら怪我がない、なんて言えるの!」

 

 だけど、ハシュアーもジト目で睨む。

 

「俺って探索者だから、怪我しないは無理だよ」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

「それに、探索者が倒さなかったら誰がダンジョンから出てこようとするモンスターを抑えるのさ。溢れちゃうんだろ? 増えたら」

 

「うっ……」

 

「師匠と特訓してるのだっていつも見てるじゃん。アレにだってお金払ってるんだから、戦うなってのは無茶だよ。心配してくれるのは嬉しいけどさ」

 

「うっ……うっ……」

 

 うっうって言いながら、だんだんと俯いていく。

 

「そもそも、探索者じゃなくなったら何でお金稼ぐんだよ。俺、お腹空いて死んじゃうよ? 聞いたよ、学校出ないと普通には働けないんでしょ?」

 

 ハシュアーも講習だけじゃなくて色々な話を聞いて、地上のことが分かり始めた。

 飲み込みが早くて、どんどん人間に詳しくなっていく。

 ……ドワーフとヒューマンって何が違うの? 

 なんで分けるのか、よくわかんないや。

 モンスターと違って言葉はわかるし、西の部族と違って穏やかだし。

 僕は西の部族に会ったことないけど、酒場で聞いた限りではすごく怖いらしい。

 

「アオイちゃんだって探索者に一杯働いてもらうために受付をやってるんだから──あっ」

 

「うううう〜……!」

 

 頬っぺたを目一杯膨らませたアオイちゃんがそこにいた。

 

「うるさーい!」

 

「うわっ」

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさああああい!」

 

「うるさっ」

 

「人が心配してるのに! なんでそんなこと言うの! もう知らない!」

 

「いや、それは分かってるし心配は嬉しいけど……っていうか言ったけど……いや、うん、ありがとう」

 

「もうやだ! ばか! ばーか!」

 

 アオイちゃんは走ってどこかにいってしまった。

 依頼を受けた時も同じ光景を見た気がする。

 

「行っちゃった」

 

「今のは良くなかったね」

 

「え……レイトさんにそんなこと言われるの……」

 

 僕もどこかに走り出したくなってきた。

 

「これ、かっこいいよね?」

 

「え? 傷が? ……うーん……痛そう……」

 

「はぁ……加賀美さんに聞くからいいよ」

 

「な、なんで!?」

 

 意味不明なことを言い出したと思ったら、ハシュアーはベッドから足を下ろした。まだベッドで1時間くらいしか寝てないのに。

 

「いてっ」

 

「だ、ダメだよまだ寝てなきゃ」

 

「うん、いてて……」

 

「だから立っちゃダメだって!」

 

「アオイちゃん追わなきゃ」

 

「それは後でもいいから!」

 

「いや……友達を泣かせたらイルファーレ様に怒られちゃうんだ。だから行かなきゃ」

 

「…………」

 

 凄く真剣な眼差しだった。

 だけど、泣かせちゃいけないって言うなら最初からもっと優しく接していれば……

 

「汝を偽るな。汝の思うところを知り、隣人と語れ」

 

「???」

 

「それで泣かせちゃったら、ちゃんとごめんなさいしてくださいね──これがイルファーレ様のお言葉だよ」

 

「なんか、前と後で言ってる人が違う気が……」

 

「なんだとお!?」

 

「ひぇっ」

 

「イルファーレ様が適当なことを言ってると──」

 

 凄い早口で何かを言ってくるハシュアーと、ぼーっと天井を眺めて助けてくれないシエルちゃんを見てある事を思った。

 

 ──もう、イルファーレ様の話を振るのはやめよう。

 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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