【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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12_ドラゴンボーンステーキ(高い)

「つ、疲れたああああ……!」

 

「お疲れ様です」

 

「…………はは……まさか待っててくれてる、なんてな……俺も偉くなったもんだ」

 

 2日後、ディーンさんは無事に戻ってきた。

 二級探索者がついているんだから当たり前──なんて噂話をひっくり返すほどには大変な探索だったらしい。

 

「ドラゴンモドキがいてよ……」

 

「そうなんですか!?」

 

「俺たちでも倒せるくらいの雑魚だったけど……でも、やってやったぜ」

 

「凄いじゃないですか!」

 

「…………ははっ」

 

 本当に、凄いことだ。

 ドラゴンモドキは、レベルが低いだけでドラゴンと同じ姿をしている。

 同じ姿を保っているということはそれなりの体格と筋力を持っているということで、容易な相手じゃないってこと。火だって噴ける。

 前に見たことがあった。

 

「こっちの3人も頑張ってたぞ」

 

「加賀美さん!」

 

 加賀美さんは頑丈な膜? みたいなものに3人を乗っけて運んできた。加賀美さん自身はまだまだ元気なようで、半分くらい溶けている3人とは正反対だ。

 

「ヒナミさんたちもお疲れ様です」

 

「ぬへえ……もう、しばらくダンジョンはいいよお……」

 

 散々な目に遭った、というような顔をしている。

 

「ディーンがいつもの三倍くらいはしゃいでて……」

 

「私たちじゃ制御できなくて……」

 

「もう、疲れちゃって全然動けなくてェ……」

 

 ヒナミさんが大楯を背負うことすらせず加賀美さんに任せているんだから、そりゃあもう疲れたってことだ。

 でも、帰り道は大丈夫だったのかな。

 

「普通に粉砕しながら帰ってきたが、何か?」

 

「あ、そうですよね」

 

「流石にな? でも、いつもよりも全体的にレベルが高かったな」

 

「……やっぱりそうですよね!?」

 

「うん。三船くんもアンダーに潜ったんだっけ。大丈夫だったのか?」

 

「ハシュアーが大怪我しちゃって……」

 

「ええっ!? 嘘だろ!?」

 

「!?」

 

「アイツどうなった!? 一応大丈夫なんだよね!? その感じと!」

 

 加賀美さんはハシュアーの話を聞いてすごく、すっごく驚いていた。そのショック具合は僕たちのことよりも余程心配しているようで……少しだけ頭に来た。

 加賀美明宏さんは結局、新しい子が好きなんだ。

 最近は前に比べて顔を合わせる機会も少なくなったし。

 

「知りません」

 

「え、なっ……なんだ?」

 

「……」

 

「あ、もしかして……ハシュアーしか心配してないと思ってる? 違うからな?」

 

「ふーん」

 

「でもほら、アイツの存在そのものが色々とややこしいじゃん? だから警戒してるってわけ!」

 

「……」

 

「……そっか…………今日はこれ売った金で、みんなで美味しいご飯でも食べようと思ってたけど……三船くんはダメか……」

 

「!」

 

「酒場の一番高いメニュー、美味しかったなあ」

 

 それは、ドラゴンのボーンステーキ! 

 僕はまだ食べたことない! 

 

「まあ、入荷してればの話だけど……」

 

「い、いつですか?」

 

「え? ……でもほら、三船くんは俺とご飯なんて嫌だろうし……ウソウソ、夕飯」

 

「ステーキ、いいんですか?」

 

「ステーキは〜〜良いです!」

 

「わーい!」

 

「でも、あくまでメインはディーンだからな? コイツらがいなきゃ魔石も手に入らなかったんだから」

 

「ハシュアー達にも教えてきます!」

 

「……怪我は?」

 

「もう治ってます!」

 

「えっ!? 俺の心配なんだったの!?」

 

「しりませーん!」

 

 夕方、シエルちゃんとハシュアーと山田姉妹を連れて酒場に行くと何やら騒いでいる。霧のせいで声が霞んでいるけど、あんまり穏やかな話し方じゃない。

 喧嘩かな。

 

「どうします?」

 

 早苗さんや日向さん(どう低めに見積もっても美人な2人)がいるので、喧嘩に巻き込まれると危ない。シエルちゃんも可愛いし、一旦待ったほうがいいのかな。

 

「んだよこの空間……俺以外ツラがいいのなんのって……」

 

 ハシュアーはさっきからぶつぶつと何かを言っている。

 

「これだからヒューマンは……」

 

「おいおい、輝いてる集団に1人だけ毛色が違うやつがいるなぁと思って見てたらハシュアーじゃねえか」

 

 レイジさんが女の人と腕を組んでいた。

 

「師匠!」

 

「なんたってそんな事になってんだ? 罰ゲームか?」

 

「ほぼ罰ゲームだよ!」

 

「へえ〜(笑)」

 

「何笑ってんだ!」

 

「いや、面白いなって」

 

「……」

 

 ヒクヒクと頬を引き攣らせるハシュアーにお構いなしで、さらに質問を続ける。

 

「今からどっか行くのか?」

 

「…………飯」

 

「め! し! 酒場にこんな奴らが入ったらあっという間に男どもに群がられるだろうが! バカだな?! ……あ、嘘だよ。君の方がもちろん可愛いよ」

 

 なんだろう、女の人に何かを弁明しているみたいだ。

 

「えっと……それじゃあ、2人を邪魔したら悪いし僕たちもそろそろ……」

 

「おう、よろしくやれよ!」

 

 女の人は強い香水の香りがして、それに加えて日向さんのことを強く睨んでいる気がした。もしかしたら、どこかで喧嘩したのかもしれない。

 

「日向さん、もしかして喧嘩とかしたの?」

 

「してねえよ。見たこともねえ」

 

「ふーん?」

 

「まじだって。一回喧嘩すりゃ忘れねえから」

 

「えええ……」

 

 すごい物騒だ。

 加賀美さんとも喧嘩した事あるのかな。

 

「ちっ」

 

「えっ……」

 

「日向ちゃんはアキヒロくんに喧嘩で勝った事ないからね。普段の喧嘩はともかく、殴り合いだと」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 女の子と殴り合うって、やっぱり良くないよね……

 

 

 ──────

 

 

「うぉー! 俺が最強だー!」

 

 凄くうるさくて、すごく楽しそうな声。

 さっきの剣幕と違う。

 気のせいだったのかな──なんて思ったら1人倒れていた。

 目を回しているようにも見える。

 叫んでいるのはディーンさん。

 顔が赤い。

 

「きゃー! ディーン!」

 

 ヒナミさんたちから黄色い悲鳴が飛んでいた。

 加賀美さんは騒ぎの一切を無視してベンチで横になって虚な瞳を天井に向けているし、なんなんだろうこれ。

 

「アキヒロくーん!」

 

 騒ぎが大きいし皆んな入り口に背を向けているのもあって、僕たちが酒場に来たのには気づかれなかった。

 早苗さんは一目散に加賀美さんの元へ駆け出して、そのお腹に飛び乗る。

 

「ごへぇっ!」

 

「うわあっ!」

 

 完全に力を抜いていたらしい。

 身体をくの字に折り曲げると、ベンチからへたり落ちて悶絶している。早苗さんも当然、加賀美さんの崩落に巻き込まれた。

 

「早苗ちゃん……なぜ、そんなご無体を……ガクッ」

 

「ア、アキヒロくーん!」

 

「何やってんだあいつら……」

 

 そんなことを言いながら少し羨ましそうだった。

 ヒナタさん、高校生の時は一緒にバカをやっていた? とかよく自慢してるし、加賀美さんと遊ぶのが本当は好きなんだと思う。もちろん加賀美さん自身のことも。

 

「いてて……みんな来るのが遅いから飲兵衛どもがおっ始めちまったよ」

 

「アキヒロくん、ごめんね〜」

 

「……なんだかんだで人数多いから、頼んだヤツが来るタイミングを考えるといい感じか……よし、じゃあ食べようかな」

 

『お待たせい!』

 

 テーブルに着くと、ちょうどドラゴンステーキが届いた。表面の狐色から肉汁が滲み出て、岩のモンスターの身体から削り出したお皿に溜まっていく。焼けた肉の煙が、振り掛けられたスパイスまで巻き込んで香ってきた。

 

『…………!』

 

 運んできた受付嬢──あんまり話したことはない人だ──も、目を大きく開いてステーキを見ている。

 僕ももしかしたら同じ状態かも。

 ハシュアーなんかは目の色が変わって、飛び付こうとしたのをシエルちゃんに取り押さえられていた。

 

「オ、オデ! ニク! クウ!」

 

「ダメ」

 

 確かに理性を失うのもわかる。

 でも、これはディーンさんの分だ。

 

「おいディーン! いつまでそっちいんだ! 一旦戻ってこい!」

 

「!」

 

 ディーンさんはウキウキと弾むような笑顔で歩いてきて、席の一番真ん中に飛び込んだ。

 目はお肉の肉汁を反射して輝いている。

 

「さ、お前のだ」

 

「私たちのは?」

 

「もう直ぐ来るけど……最初はリーダーからでいいだろ?」

 

「…………仕方ないなあ」

 

 三人とも、やれやれみたいな顔をしながらディーンの横に腰掛ける。最初にいた加賀美さんも奥に追いやられ、すごく窮屈そうだ。

 

「こういうの、普通は音頭とかあるもんだけど……探索者は無縁か……」

 

「もっと奥行って!」

 

「はい……」

 

 主役は加賀美さんじゃないって、こういうことなんだ。

 どんどんヒナミさんに押されて壁のシミになってしまった。もう、張り付きすぎて背中しか見えない。

 

「…………ごくり」

 

 ディーンさんは、添えられている大きな葉っぱで骨を掴み、持ち上げる。重みで撓んだだけで肉の隙間からさらなる肉汁が溢れ出す。一体どれだけの旨味中に閉じ込めているんだろう。

 ディーンさんも、ドキドキした様子で口元に接近させた。

 

「んあぐっ!」

 

 かぶりつき、一思いにかじりとる。

 

「んぐ……んぐ……んぐ──」

 

 噛んで、噛んで、噛んで、口の中で溢れたのであろう肉汁が唇から垂れてくる。だけど、拭うのも忘れて咀嚼を続けるディーンさんの口をケイちゃんが拭く。

 その仕草は、本当に嬉しそうだ。

 

「やったね、ディーン」

 

 その間にもディーンさんは咀嚼をし続ける。

 もしかしたら筋張っていて噛みきれないのかもしれない。ドラゴンは強いし、硬い──僕は戦ったことないけど、それくらいはわかる。だから、その肉だって強さに恥じないだけの硬さを持っている可能性もあるんじゃないか。

 

「──ごくん」

 

 みんなが見つめている事にすら気を取られず、ようやく飲み込んだ。

 美味しいのか、美味しくないのか。

 ただ、それだけを考える僕たちの目の前でディーンさんは──

 

「うまあい!」

 

 勢いよく立ち上がった。

 

「このホロホロのお肉がうまあい! 口に入れた瞬間、あれ? もしかしてまだ入れてない? って思うほど柔らかくて、噛むほど汁が溢れてくる! なんだこれは!」

 

「ディ、ディーン?」

 

「肉汁の甘さたるやスイーツを食べているかのようだぅた! しかも脂っこさを感じさせないサラッとした喉越し! 甘さに飽きさせないように振られたスパイスが味変の役割を果たして、いつまでも噛んでいられる!」

 

「…………わ、私も──」

 

 ヒナミさんがそう言い終えるか否か、ディーンさんは大きく口を開けてさらに肉を齧った。

 

「ぶばあい!」

 

 詰め込んだままだから何言ってるかよくわからないけど、何を言いたいかはわかる。

 そのまま脇目も降らず自分のお皿の上に載っているものを食べ尽くしてしまった。

 

「──はっ!?」

 

 食べ尽くすと、やっと正気に戻った。

 

「お、俺は一体何を……?」

 

「むしゃむしゃむしゃ」

 

「ひ、ひなみ……?」

 

「むしゃむしゃむしゃ」

 

「……ケイ? みんな?」

 

 ディーンさんのパーティーメンバーは皆、お肉の虜になっていた。その光景に空恐ろしいものを感じたのか、助けを求めて視線をあっちこっちへ寄越して──

 

「レイト、なんだこれ」

 

「ドラゴンのお肉が美味しすぎて、そうなっちゃったみたいです」

 

「…………確かに、肉を食べた瞬間から記憶が──うっ!」

 

 ところで、ここは酒場なんだ。

 こんなのを見せつけられれば皆んな涎を垂らし始める。

 だけど──

 

『俺もアレ!』

 

『あ、ごめんなさーい。今日はもう無いの』

 

『ええー!?』

 

 そんな声があっちこっちから聞こえてくる。

 加賀美さんは僕たちの分まで頼んでくれたけど、そのせいで他の人たちが注文することは出来なくなってしまった。

 

『くそ……あの焼肉野郎さえいなければ……!』

 

『牛だけ食ってろよ……!』

 

 そんな、ヒソヒソとした妬み嫉みを受けて、当の本人は──

 

「飯がうめえ〜」

 

 全然気にしていなかった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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