【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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23_初実戦

「ほら言っただろ! 俺なんだよ! やっぱり俺なんだ!」

 

 見るからに調子に乗っている。

 他の人は悔しそうに睨んでいるけど、そんなの気にならないって具合に勝ち誇った笑みで人混みをかき分けてきた。

 

「よお! 俺だぞ!」

 

 挨拶を向けたのは僕たちじゃなくて魔剣。

 中腰で加賀美明宏さんの腰に向けて話しかけている。

 それに応えるように、黒い波動がまた一つ広がった。

 ざわめき。

 確かにそれは、ドワーフが神器との対話に成功した証だった。

 

「おおお!? 今のはなんて!?」

 

「…………こんにちは、だって」

 

「こんにちは!」

 

「俺に言うな」

 

「くそっ……直接話したいのに……!」

 

「この黒い波を解読すればなんかわかりそうですけどね」

 

 ドワーフ達の興味は、話せるということもそうだけど、その先にこそあった。

 

『ヴォルフガング! 話せる理由は!? 聞けないのか!?』

 

「! ……それは、どうなんだ?」

 

「それは教えないって」

 

「そうか……いやしかし、神器にもしっかりと意思があったというのは大きな収穫だ! もうカゾーを探さなくても良いんじゃないか!?」

 

「そんなことあります?」

 

「わはは! 冗談だ!」

 

「…………」

 

 加賀美さんはちょっとイヤそうな顔をしていた。

 ともかく、僕の武器を作るってこと。

 それともう一つの目的のために長居をしてもらった。

 そのもう一つの目的。

 

「やっぱり私だった!」

 

「そんな気はしてたよ」

 

「……そーお?」

 

 おさげはそのまま、先日とは違ってフリフリとした服装で案内の場に現れたペムーニャ。

 鍛治利きの勝者は彼女だ。

 だから、彼女が街を案内してくれる事になっている。

 

「もう直ぐ出発ってのがなー……もうちょっといない?」

 

「あはは……加賀美さん達のこと、散々待たせちゃったから」

 

「……あの人、ちょっと怖い」

 

 確かに、加賀美さんはヒューマン(僕たち)の中でも体格が恵まれている。昔からご飯をしっかり食べているからだって本人は言っていた。

 ドワーフがあの高さから見下ろされると、モンスターと人間くらいの圧迫感があるのかもしれない。

 

「大きさの話じゃなくて、何考えてるかわからないところ」

 

「あー……」

 

「わかる!? 道を歩いててもさ、私たちと目が合うとちょっとだけ笑ったかな? って思ったら直ぐに前だけ見て歩いてくんだよ!?」

 

「あー……」

 

 僕も偶にやられる。

 あれ、ちょっとだけ怖いんだよね。

 多分、やる事があるけど子供がいるから自然と笑顔になってるだけっていう。それで満足して、やるべき事に向けて頭がいっぱいになる。

 

「加賀美さん、目付きがちょっとね」

 

「そう! レイトさんはなんであの人と一緒にいるの?」

 

「あー……」

 

「まさか無理やり連れてこられたの!? だったら許せない! お母さん達に言ってやめさせるように言うよ!」

 

 話がまずい方向に行きそうだったので、慌てて止める。

 

「その、いや、あの…………僕が勝手に付いてきたんだ」

 

「ええ? ……あのシエルって女が来るって言ったから、とか?」

 

「それも確かにあるけど……加賀美さんは僕の命の恩人なんだ」

 

「えっ」

 

「ダンジョンで死にそうになってたところを助けてくれて、その後も面倒を見てくれたんだよ」

 

「へ、へえ〜……全員殺しそうな雰囲気してるのにね」

 

「そんな事ないよ!?」

 

「……えい!」

 

 突然だけど、ドワーフの女の人はみんなおっぱいが大きい。ペムーニャも同じで、そんな子が抱きついてきたら──

 

「ぺぺぺペムーニャ!? だ、抱きつかないで!?」

 

「えへへ……あったか〜い」

 

「そ、その……当たってるから……!」

 

「なにが〜? あ! ほら、アレが坑道だよ」

 

 坑道。

 確か、ここから中に入ると石を取るための洞窟が広がってるって。

 採掘するための鉄もここから? 

 

「鉄はイルヴァの牙から送られてくるやつの方が質がいいから、ここのやつは私たちみたいな子供の練習用に使わされるんだよね」

 

 鉄にも質っていう考え方があるってことを初めて知った。熱くして叩けば全部使えるわけじゃないんだ。

 

「あったりまえじゃん! 黒い鉄、白い鉄、赤い鉄、青い鉄。いろんな鉄があるんだから!」

 

「僕の剣は青い鉄で作ってもらったのかな?」

 

「魔石をふりかけてたんでしょ? それなら白い鉄かもね」

 

「そうなの?」

 

「白い鉄は何とでも馴染むから」

 

 鍛治の奥深さみたいなものを、改めて知った気がした。

 ペムーニャは既に見ているけど、もう一度剣を取り出す。斬撃を飛ばせる剣を普通に買おうと思ったら、一体どれだけの値段になるだろう。炉と同じくらいの値段はするのかな。

 

「普通は買えないんじゃない? この町を守ってくれたから作ってもらえたんだし」

 

「……うん」

 

「あーあ、私も探索者になればレイトさんと一緒にいろんなところいけるのかなー」

 

「──探索者って、そんな自由じゃないよ」

 

 自由なのは、加賀美さんだ。

 加賀美さんだけが何処までも自由に、誰からの縛りも無視して飛んでいける。

 僕たちは、そこにタダでくっついてく事を許されているだけだ。

 

「ハシュアーだっけ? あの子もイルヴァの牙からわざわざ出て行ったんでしょ? いいな〜」

 

「……ペムーニャって幾つなの?」

 

「15」

 

 二つしか年が違わなかった。

 だから大人びた雰囲気だったんだ。

 

「探索者は自由じゃないなら……レイトさんはどうして探索者をやってるの?」

 

「…………仲間がいるから、かな」

 

「それってシエル?」

 

「それと、ハシュアーだね」

 

「ふーん……あ! アレ、みんなでよく食べてる木!」

 

 それは実じゃなくて、地面から飛び出した根っこがよく目立った。丸く膨らんだ根っこがいくつも出ていて、ちぎられた後もある。

 それをとって食べると、とても甘い。

 

「美味しいでしょ?」

 

「うん、美味しい」

 

「──あっちのはメェル、あの子はマツバ、あの騒いでるのはワット」

 

「友達?」

 

「ガキだよ、ガキ。みーんなガキ」

 

「あはは…………あの子達もみんな、鍛治をやってるんだよね?」

 

「そう。生まれた時から鍛治を始めて、死ぬまで鍛治をやるの」

 

 ただの質問だった。

 だけど返ってきたのは、悲しみとも怒りとも違う諦めたような笑顔だった。

 

「…………もし、本当に鍛治がイヤなら出て行くのも一つなんじゃないかな」

 

「無理だよ……」

 

「ハシュアーはそうしたよ? だから、ペムーニャにもできるさ」

 

「……そうかなあ」

 

「うん。あ、でもハシュアーは鍛治が嫌いってわけじゃないか……」

 

「なんだそりゃ!」

 

 とても居心地が良いのは事実で、いつまでもいたくなるような場所だった。シエルちゃんは耳を隠していなきゃならなかったけど、僕だけで言えばここはかなり好きだ。

 殺されかけたっていうことがなければ、もっと楽しめたかもしれない。

 

 ともかく、出発だ。

 

 

 ──────

 

 

「そんな長い道なんですか?」

 

「アリサなら大丈夫だぞ」

 

「……ミツキさん、体力ないですもんね」

 

「でも、頑張ってたよ実際」

 

「今はミツキさんの話はいいんです!」

 

「ごめん」

 

 道のりは確かに、アンダーとかの暗闇をひたすら行くのに比べたら全然楽な気がした。霧のおかげでモンスター達も僕らのことを見つけられないのか全然遭遇しないし、来ても加賀美さんが一瞬で倒しちゃう。

 ちょっとは僕も戦いたい。

 せっかく新しくなった武器を試してみたい。

 

「じゃあ、次に出たやつは『妖精の止まり木』のみなさんに倒してもらおうかな」

 

「はい!」

 

 起伏の激しい場所を進むと、ゴロゴロと僕たちくらいの大きさのまんまるが転がってきた。目の前を横切ったかと思えば、遅れてやってきたまんまる1つが止まって、まんまるの姿を解いて真の姿を晒す。

 

 ごつごつとした岩のような──というよりも岩そのものな肌? 鱗? に、四本の足。尻尾は長くて、先端に大きな岩が張り付いている。目はぎょろぎょろと動いて、落ち着きがない。

 

「ロックリザードの幼体か……レベル20だっけ」

 

「硬そう……」

 

「硬いけど、レベル的にもやれないことないと思うぞ。ちょっと頑張ってみ。アリサも」

 

 背中を押されたので、ハシュアーを先頭にしてアリサちゃんと並ぶ。

 事前の打ち合わせ通りだ。

 まずはハシュアーを囮にして出方を見ないと。

 

『──』

 

「いっ!?」

 

 いきなり、横向きに回転し始めた。

 尻尾岩が地面を削り取り、耳障りな音を立てて迫る。

 それもかなりの勢いだ。

 立っているままだと僕たちはすり潰される軌道、身を投げ出して回避した。

 フィアステラさん達は加賀美さんが守ってるから何の問題もない。

 

 アリサちゃんは上に飛んで避けた。

 身のこなしがとても軽い。

 得物はやや大きめの手斧。

 剣よりも使いやすくて、一撃の威力が出やすい。

 その反面リーチが短いのと、肉や鱗に食い込むと取りづらい。

 実際、あんまり使ってる人を見たことはない。

 

「私、トカゲと戦う機会が多い気がする!」

 

 通り過ぎて止まったロックリザードの尻尾目掛けて斧を振り下ろす。

 

「……!」

 

 表面を覆う岩にヒビを入れて止まった。

 当然、モンスターがその隙を見逃すわけもなく、横に振られた尾と岩がアリサちゃんを弾こうとした。

 

「んがあっ!」

 

「ナイス! ハシュアー!」

 

 割り込んだハシュアーは自分が吹き飛ぶのと引き換えに岩を弾き返し、ロックリザードは重心が狂ってバランスを崩した。

 見える位置──前足へ振り下ろされた斧は比較的小粒の岩の鱗を砕き、その下にある棘皮へ食い込む。

 途端にジタバタと暴れに暴れ、近付けない。

 

「──!」

 

 声もなしに放たれた矢が、僕の右を抜けた。

 シエルちゃんは状況を見ていつでも援護できるように待機していたんだ。

 

『ガギェッ!』

 

 急所にとはいかなかったけど、岩の隙間を縫って皮膚に突き刺さる。暴れて僕たちが近づけないうちに、という事なのか連続して放たれた矢はほとんどが鱗の隙間を徹った。

 

「ちっ……」

 

 仕留めるつもりだったのか、舌打ちだ。

 前だったらロックリザードの向こう側にいるハシュアーに当たっていただろうから大きく進歩しているのに。

 でも、止まった今がチャンスだ! 

 

「ハシュアー!」

 

「おうさ!」

 

 飛び出た矮躯。

 振り上げたメイスの真価が発揮されるのに合わせて突っ込んだ。

 だけど──

 

「か、かたい……!」

 

 新調したばかりの剣が通らない。

 ハシュアーのメイスは岩鱗を破壊して、その下にある棘皮まで押し潰して出血させているのに。

 

「離れて!」

 

「あっ──」

 

 いきなり、息が全部なくなった。

 押し付けられた柔らかさと硬さ。

 目の前を通り過ぎた黒い塊。

 背中を地面に打ち据えて、息が乱れた。

 だけど、痛みは浅い。

 子供の時に味わったのと同じ、なんでもない痛みだ。

 

「あっぶね〜……これはかっこいいでしょ!」

 

「あ、アリサちゃん……」

 

「危なかったね!」

 

「──ありがとう!」

 

 落とした剣を拾い直して、そして、握る。

 ロックリザードはまだ元気だ。

 幼体でも、いずれドラゴンに近しい姿に育つようなモンスターの幼体だ。

 長くなれば、他のモンスターやさっきの群れがやってくるかも。

 

「レイト君、武器の力を使ってあげようよ」

 

「うん」

 

 手に入れたばかりで、使いこなせるか自信がなかった。

 だけど、だからこそ……こんなタイミングだからこそ使うべきだ。

 

「ハシュアー! 耐えてねー!」

 

「こなっ! くそっ!」

 

 ごめんね、ハシュアー。

 僕がもっと要領が良ければ良かったんだけど。

 今は許して欲しい。

 

 額のあたりで剣を水平に構え、動き回るロックリザードへ切先を向ける。

 防御を捨てた、攻撃のための構え。

 僕がやっても隙だらけだけど

 これが、今は一番いい気がした。

 

「──雲の構え?」

 

 シエルちゃんも知っている。

 僕たちが教えてもらった剣の技。

 実戦でこれを使うのは初めてだ。

 当然か。

 本来は対人剣だから。

 

「どうするつもり?」

 

 あの時の光景を思い出す。

 今の僕にできるのは、あれを再現する事だ。

 これまでに見た中で一番綺麗な動き。

 

 ──右足を踏み込んで、滑らせるように体を深く落とす。

 

 ──逆足を引き付けて、右足を追い越しながら剣を振り上げた。

 

 ──ハシュアに尻尾を叩きつけようとしたロックリザードの胴体のど真ん中。

 

 放たれた斬撃が両断した。

 

 

 

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