【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「やったな! レイトさん!」
倒れ伏している岩の体は二つに分かれている。
それをやったのは──
「僕?」
「そうだよ! 何ぼーっとしてんだよ! ほら、魔石とりなよ!」
「あ……うん」
そう言っている間にシエルちゃんが取っていた。
「断面から綺麗に見えてた」
「あ、うん」
「前は譲ったから、今度は私ね」
「──そうだね」
それにしても、この斬撃の威力。
僕の素手の腕力じゃ絶対切れないような岩鱗もアッサリ、真っ二つにしてしまった。
雲の構え……あの時ボクがやろうとしたのは逆袈裟じゃなくて、貫通を狙った突きだった。
型が崩れて、流れた勢いが斬り上げっていう結果になった。
「すごかったよ、三船君」
「あはは……ちょっと不甲斐ない結果になっちゃいました」
「え? なにが?」
「雲の構えでやろうと思ったんですけど……」
「…………山田さんのところのか」
「そうです」
「倒せりゃなんでもいいんじゃね? ──なんて言ってもアレか……次は上手くできるといいな」
「はい!」
「それにしてもカッコよかった」
「そ、そうですか?」
「俺には出来ないからな」
「……」
素直に喜べなかった。
僕の実力が上がったわけじゃなくて、作ってもらった剣ありきの力だ。
アリサちゃんに庇われなかったら岩に直撃して頭が吹き飛んでいたかもしれない。
「アリサもよくやった。ブランクは無しだな」
「大学でも運動の時間は無敵ですから!」
「大人気ないね君……」
「ヒ、ヒロさんだって同じでしょ!」
「俺は免除されてるから」
「そっちの方がずるい!」
「……まあ、本当によくやったよ」
「…………えへ」
これがグリムス砦のもっと近くだったらみんなに持っていってもらってもよかったんだけど、生憎とそんな距離じゃない。正確にはわからないけど……2回、夜を超えていた。
「レイトさん!」
「どうしたの?」
「いいね、それ!」
「え?」
ハシュアーが興奮している。
僕の剣を──斬撃を良いって。
モンスターがスパッと綺麗に切れるから、素材が上質なまま残るんだって。
ハシュアーはミンチにしちゃうから、何も残らないもんね。
「今回の旅では素材集めは無理だけど……戻れたらもっとたくさんダンジョンに行こうね!」
「うん、そうだね」
「撫でるな!」
夜になるとみんなで野営を始める。
第100セクターや冬に加賀美さんに連れられて行った以来のことを思い出した。
第100セクターの時は何もわからないまま寝辛い土に苦しんで、冬は寒さの中でシエルちゃんとくっついて暖を取ったなあ。
あの時ほど無知じゃないけど、こうして久しぶりに野営を加賀美さんとやってみると、その洗練された手付きに驚く。
ディーンさん達ともダンジョンに行ったけど、こんな風にロープを使って色々とはしていなかった。
シエルちゃんやアリサちゃんも同じであんまり器用じゃないけど、ドワーフの三人は感心したように見ている。
「相変わらず妙なワザを使いこなすな」
「どこで覚えたのか教えてくださいよ」
「またよくわからない本で読んだ感じ?」
鬱陶しそうに手で払っても三人はくっついて回る。
諦めてローブ捌きを見せながら僕たちのテントまで作ってもらった。
「わー!」
「ふかふか」
ドワーフ達と加賀美さんが持ってるバッグには物がたくさん入る。こんな時でも毛布があるのはとても嬉しい。
数は少ないからシエルちゃんと共有だけど……そこは諦めた。
綺麗なとんがり三角のテントはダンジョンとかで真似しようと思ってもできない。
「今日はもう寝ちゃおうか」
「……ちょっと、やだ」
「え──」
「お風呂」
「あ、そ、そういうこと……」
シエルちゃんは面倒くさがりだけど綺麗好きだ。
「火、つけて」
「俺?」
「できるでしょ」
イルファーレ様の加護を受けているハシュアーに火をつけさせていた。確かにハシュアーは何もないところから火をつけることが出来る。
でも、お風呂に入るために神様の加護を使わせるなんて、罰とか与えられないかちょっとだけ怖かったり。
シエルちゃんがお風呂を上がってきたので、さあ寝ようとしたらお風呂を指差す。
「臭い、入ってきて」
「えっ……」
心が、すごく痛かった。
──────
道を進む。
『イルヴァの牙』に近づく程、口数が減っていった。
探索者とはいえ長く歩いてれば疲労は溜まるし、休息も外だから回復効果も薄い。
積み重なった疲労もあったんだとは思う。
だけど、それ以上にヴォルフガングさんや加賀美さんの浮かべる険しい表情が、茶化した話をできなくさせていた。
いつも明るいアリサちゃんでさえ、不安そうに加賀美さんの手を握るだけで何も言わない。
それを見てシエルちゃんがまた暗い表情をするのが辛かった。
だからせめて、僕もシエルちゃんの手を握った。
話をすれば少しは紛れてくれるんじゃないかって。
暗い雰囲気のままたどり着いたのは山の間? みたいな場所。その場所だけは花が咲いていて、霧がない。
空も開けている。
妙な雰囲気だった。
「あれが……イルヴァの牙?」
「あれは玄関だよ」
「玄関、ですか?」
「まあ入ってみればわかる」
加賀美さんについていくと、薄い布を突き抜けたような感覚があった。
中は暖かくて、張っていた気が一気に抜ける。
シエルちゃんとハシュアー共々腰を下ろした。
「ほら、もう直ぐなんだから座るのは後な」
そもそもどうやってイルヴァの牙に入るのか分からない。
どこに廊下があるんだ。
「そこに立って」
「ここに立って」
「あ、シエルとハシュアーも一緒にな。一人だけ行ったらめんどいかもしれないから……ハシュアー! ちゃんと説明するんだぞ!」
「お、おう!」
ハシュアーが要ということで、シエルちゃんと挟んで立つ。
「つ、潰れる……」
「ほら、もっと寄せて」
「真ん中の俺がどうやって寄せれば──」
下に模様が現れて、最初の時みたいにブリンクの感覚に飲み込まれた。
「──っと…………」
両足で着地。
足がふらつくのを抑えつつ、辺りを見る。
丸い形の部屋で、僕たちと一人のドワーフがいた。
少し驚いた目でこちらを見ている。
「ハシュアー!?」
「……モーケンさん!」
知り合いのドワーフがいて助かった。
シエルちゃんは取り敢えず恥ずかしがり屋ということにして、フードを被らせて僕の後ろに。
後からやってきた加賀美さん達はほっとしたのも束の間、捕まって罵声を浴びせられていた。
「ミツキはどうしたんだよ!」
「この浮気性分のタマ無し! いや、タマが多すぎるのか!」
「幼馴染を負け属性にするなー!」
「ミツキおねーちゃんを返せ!」
「嬢ちゃんも可哀想に……あんなクズ男に捕まっちまったんだね……やめときな、あんな男」
神器を持ってるからすごい丁重に扱われるはず、みたいな話はどこへ行ったんだろう。もしかして険しい表情をしてたのもこれ?
「い、一応言っておきますけど! 私が浮気相手とかそんなことないですから! 私も本命ですから!」
フォローなのかよく分からないことをアリサちゃんが言うと、更に罵倒が深まった。
普通だったら泣いてると思う。
本人はそれだけ言われて怯んでいるのかというとそんなこともない。
ジッと、ドワーフ達の声の中で目を瞑っていた。
せめて反論をした方が良いんだろうけど、うるさ過ぎてそれも通らないか。
暫く待ってると不思議なものでみんな静かになっていく。そのタイミングでようやく口を開いた。
「嫁さんが三人います」
『ええ!?』
どよめきが走る。
「一人はミツキ」
『ほっ……』
「一人はここにいるアリサ」
『そうだよな』
「もう一人はヒナタっていう子です」
『…………う、浮気はだめだぞー』
「浮気じゃないです。本気です」
『本気で三人とか言ってる奴の方がおかしいだろー』
「人の家のことに口出さないでください」
言い訳とか弱気は出す気が全く見られてなかった。
何が悪いと言わんばかりにアリサちゃんを見せびらかして、言論を封殺している。
「とにかく……アリサが可愛いからって狙ったらダメですすんで」
『なんだコイツ……』
怒りよりも困惑が気勢として強くなってきたあたりで人波が割れた。現れたのは、見てるだけで気圧されるような、そんな大きさの胸で──
「シエルちゃん……見えないんだけど……やめてもらっても……」
「見たら目が腐るから」
「そんなわけ……」
「腐るから」
「…………み、見ないから離してもらってもいい?」
凄そうな人だし、このタイミングで現れたって事は加賀美さんに用事があるって事だ。どんな話をするのか、何をするのか、それを見逃したらここに来た意味がない。
「……」
「見ないって……」
シエルちゃんは、僕があの人の胸に興味があるとまだ思っている。そんなわけないのに。
「久しぶりだな」
「半年も経ってないので、やや拍子抜けでしょう」
「まあな。だが……歓迎しよう、色々と話は聞いている」
加賀美さんは胸になんかまるで気を取られずに話をしていた。対して、隣にいるアリサちゃんはそんな見たら失礼だよってくらいしっかり見ている。
シエルちゃんは──
「…………」
下を見ていた。
疲れているからかもしれない。
今日は早めに休めるように言ってもらおう。
「皆、散れ! 客人が進めないではないか!」
「……おお、これは権力」
「…………」
「失礼」
だけど油断はできない。
あの時は神様がとりなしてくれたけど、シエルちゃんの正体がバレたら大変なことになるはずだ。
今はまだ、姿を隠してもらうしかない。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない