【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
加賀美さんは既に、『イルヴァの牙』とイルヴァン王国が敵対しているとか、イルヴァン王国まで距離が遠いとかの話をアルスさんと済ませていた。
それで、やっぱりブリンクポイントは設定されてないそうだ。
情報はイルファーレ様を通じてある程度やり取りされてるけど、直接の交流は無いんだ。王国の人が来たことも、カゾーさんを除いたら無いって。
「面と向かったら喧嘩になるって話だわな。そのカゾー何某も追放されたからここに来たって聞いた」
「神様を通じてやり取りって……すごいですね」
「贅沢だよな、使い方が」
だけど、ブランクポイントが無いってなると──
「うん、脚を使って行くしかないな」
「で、でも、そんなのどれだけ時間がかかるか……」
みんなを残して──僕たちじゃなくて、アリサちゃんやミツキさん、それに加賀美一家のことだ──数ヶ月も帰らないなんて、待っている側はどれだけ心配するだろう。
それに怒るはずだ。
ミツキさんと早苗さんは特に心配性で寂しがり屋だ。
ロイスさんだってそう。何か大変なことをするときは相談して欲しいって言ってたのに、またこれ?
ちょっとだけ……おかしいと思う。
「いやいや! 俺がそういう人間なのは今に始まった事じゃないからな!」
すごく軽かった。
そこら辺の話は織り込み済で俺と関わってるでしょ? という意識が透けて見えた。
すごく悪い人だ。
「それにさ。俺達だけなら、走って行けば数ヶ月の道のりも一週間くらいで済むかもよ?」
「うーん……」
「な、なんだよ、疑ってる?」
ここ一年で、僕が直接目撃しただけでも加賀さんの大怪我の回数は5回以上。
中程度の怪我や小程度に関しては数え切れないし、僕が見てないところでもたくさんしてる筈。
ダンジョンに行く頻度が人よりもずっと多いからだ。
危険を危険と知った状態であえて突っ込むのがカガミン式とかふざけたことを言ってた。
そのときは流石に、お腹に拳をこうしてやった。
実力は確かだし人柄も知ってるけど、行動について信用できるかはまた別。
途中で大怪我するんじゃないかなあ。
「北の途中までは列車で行けば良いじゃん? それで、最後の駅から足を使う! これ完璧でしょ」
「……この時期の列車はゆっくりじゃないですか」
それこそ、僕たちが走るのよりも全然ゆっくりなときもあるくらいだ。継続的に走り続ける力は上だけど、移動の速度を考えないといけないんだからダメ。
というか、考えが適当すぎる。
僕でもわかるくらい浅い考えだ。
「じゃあほら、線路に沿って行くとか」
「……そもそも、一番近いところにある線路はどこなんですか」
「…………」
「やっぱり……」
あっちを見たりこっちを見たり、いつもの口のうまさはどこへ行ったのか。アリサちゃんも背後からジトっとした視線を浴びせている。
「ヒロさん……行くっていう結論ありきで進めようとしてますよね」
「ほぇぇ?」
「実は、ナイフの事なんかどうでもよくてドワーフの大元に行きたいだけですよね」
「えぇ〜? アキヒロわかんなーい」
聞いているだけですごく具合が悪くなりそうな声色だった。低い声でぶりっ子をやるのは本当にやめてほしい。
そしてアリサちゃんの言う通り、神器がどうとかじゃなくて本当はドワーフの国に行きたいっていうのが最優先なんだ。戦争が起きてるなんて、躊躇する理由にはならない。
それで、僕たちがいると足を引っ張られるから置いていきたいって事もハッキリした。勿論、心配してくれてるのは本心だと思うけど、それはそれとして邪魔なことには変わりない。
僕だって赤ちゃんを連れてダンジョンに行けるわけないんだから。僕と赤ちゃんよりも差がある相手を守りながらって、間違いなく疲労の溜まり具合がすごい。
悔しいけど、そういう差が僕たちの間にはある。
でも、一番悔しいのはアリサちゃんだ。
探索者として、僕と会う前は相棒みたいな感じでやっていたらしい。だけど、最近はあんまりそういう活動はしてないって。
もう説得はされてる身だけど……やっぱりみんな、付いていけないのは嫌な気分だ。
それが顔に出ている。
シエルちゃんですら。
何も言えずにいるとヴォルフガングさんが腕組みをして、顔を顰めて言ってくれた。
「本当に仕方のない男だな、お前は」
「俺が仕方ない男なんじゃなくて、男なんてのはみんな仕方ないやつばかりなんですよ」
「極論で話を逸らそうとする辺り、本当にどうしようもない」
「……」
バツが悪そうな顔で椅子に座ると、また口を開く。
前は教えてくれなかった事。
このタイミングでの卑怯な告白だった。
旅の危険さ。
牛にこれがどう関係しているか。
戦争に関わるということ。
拷問、陵辱、死体の山。
人の倫理観の限界。
「俺は良い。実際に戦争に関する何かに巻き込まれても、そこまで揺れることはない」
「僕たちは動揺して使い物にならないってことですか?」
「そこまでは……」
「でも、そういう事ですよね」
「…………みんながそこまで心が弱いとは思ってない。でも、物理的な強さは別の話だ」
「そこまで言うなら、僕とも約束してください。怪我しないって」
「む、むずいこと言うな……」
「あと、女の人増やさないこと」
「増やさないから……そんな気ないから……」
「向こうは困ってる人だらけなんですよね? そしたら、そういうのは無視すること」
「え…………」
アリサちゃんからはきっと言えない。
だから僕が言う。
「アリサちゃんやヒナタさんが家で待ってるんだから、できるだけ早く帰ってくるって約束してください。カゾーさんの場所が分かったらすぐに帰ってきてください」
そもそも、なんで本国に行かないとカゾーさんに会えないのかが僕には分からない。だから、いつまでに戻ってこいとか何日で終わらせろとかは言えない。
でも、カゾーさんの場所さえ分かればあとは用がないんだから──
「牛の事は、ちょっとだけ許して欲しいかなあって……」
「それは許します」
「いいんだ」
それを止められるなら、もうミツキさんが止めてる筈だから。
「あ、ねえねえ、俺も聞きたい」
「なんだハシュアー」
「カゾーさんの場所って本国に行かないと分からないの何で? 俺も知りたい」
「イルファーレ様の本体の力を借りないと、場所が分からないんだってよ」
「そーなの? こっちにいるイルファーレ様じゃ何でダメなの?」
「アルス様から聞いた話だけど──」
蒼連郷は広い。
そして、いろいろな神様がいる。
イルファーレ様はすごい神様だけど、他の神様を押し除けて誰かを探すには相当な力が必要。
それにはイルヴァの牙にいる分霊──本体から分かれた真似っこみたいなものらしい──のイルファーレ様だと力が足りないんだ。
「ヒロさん……でも、本国に行ってもイルファーレ様に会えるとは限らないんじゃ……」
「分霊のイルファーレ様は大丈夫って言ってるらしいから、それに賭ける」
「か、賭けるって……無茶ですよ」
「無茶をやってこそ、意味がある人生だ」
辿り着けないかもしれない。
会えないかもしれない。
戦争に巻き込まれて大変な目に遭うかもしれない。
そんな最低の『かもしれない』ばっかりなのに……加賀美さんはどこまでも前向きで、どこまでも朗らかだった。
「行っちゃった…………」
見送ったのは地上。
周辺のセクターで一番近くて北上できる線路を目指して、加賀美さん、ハシュアー、ヴォルフガングさんの三人が旅に出た。
本当のことを言うとコマちゃんが付いていくのが良いんだろうけど……今はヒナタさんやアオイちゃん、ナナオさんの護衛で大忙しだ。
──イルファーレ様が分霊を生み出せるなら、コマちゃんも分霊が作り出せるってこと?
このタイミングで気付くことじゃないかもしれないけど、それでも大変なことに気付いてしまったような……
これが本当なら、コマちゃんが色んなところにいる理由って──
「──ううわっ!?」
突然、辺り一帯の霧を吹き飛ばすほどの風が巻き起こった。加賀美さんが歩いて行った方向からやってきた。
思わず後ずさるほどの圧力に、顔を庇う。
弱まった瞬間、もしかしたら風の奥に加賀美さんが見てるかもと思って目を凝らしたら、何かが空に向けて飛び立っていた。
間違いなくモンスターだ。
あのモンスターの羽ばたきが、風を起こしたんだ。
「──!」
弓を使う関係上、僕やハシュアーよりも遠くのものを見ることができるシエルちゃんが目を丸くしている。
何がいたのかちゃんと見えたんだ。
「シエルちゃん、今のは何か見えた?」
「──あとで」
「?」
その場で話してくれれば良かったのに、わざわざ中に戻ってから教えてくれた。しかも、アルスさんやフィアステラさん、アリサちゃんのいない二人っきりで。
「ドラゴンがいた」
「ドラゴン?!」
「ヴォルフガングとハシュアーは背中に乗ってた」
「背中にって……どういうこと? それに加賀美さんは────はっ?!」
まさか、加賀美さんが何かをする暇もなく捕まってしまった!? それなら早く助けに行かないと!
こんなところで呑気に話している場合じゃない!
「大丈夫。鷲掴みにされてただけ」
「大変じゃないか!」
本当にこうしている場合じゃない。
「落ち着いて」
「これが落ち着いていられるわけ……」
「こっちに向かってOKってしてた」
「え……何かの間違いじゃなくて?」
「うん」
「ドラゴンに捕まって、OK……?」
何やら、最初から波乱に満ちた旅を送っていそうな予感がした。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
-
いる
-
いらない