【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
伝えたところで状況は変わらないけど、どう考えても伝えなければならなかった。
「ドラゴンに捕まって飛んでった……?」
しかし、やはりと言って良いのか。
アリサちゃんに伝えた途端、唇が震え出した。
顔からは血の気が引いて、視線が定まってない。
今にも倒れそうで、だけど顔が向いている方向は外。
「シエルちゃんが見たところはOKサイン出してたらしいから! 大丈夫だよ!」
「…………う……」
いよいよ脚から力が抜けた。
フラフラとした足取りはまるで、骨がなくなってしまったかのようだった。
そのままでは通路から墜落し、最下層まで真っ逆様だったから支えたけど、完全に脱力してしまった。
「と、とにかく運ばなきゃ……」
不可解なのはシエルちゃんがドラゴンのことをみんなの前で言わなかったことだ。そうすればもうちょっと早く対応できたかもしれないのに。
でも、そういう疑問は一旦後回しでまずはアリサちゃんを運んだ。
どこかと言えば、滞在中に二人が寝泊まりしていた家だ。
カゾーさんの家。
ヒューマンでありながら鍛治師になった人。
どういう生まれで、どういう育ちで、どうすれば鍛治師になるんだろう。
カゾーさんは何を思ってドワーフたちと生きていたんだろう。
そもそも、今何歳なんだろう。
「うう……」
やっぱり伝えないほうが良かったのかな。
でも、それで加賀美さんが戻って来なかったら理由がわからないままになっちゃう。そっちの方が嫌だ。
──戻って来なかったらどうしよう。
「ハシュアーのお母さんもいたから……」
「そっか……加賀美さんは本当にOKってしてたんだよね?」
「うん」
「じゃあ、それをみんなに伝えてくるね」
まずは誰に言うべきか。
そもそも誰なら言えるのか。
名前がわかる人が少ないから慎重に選ばないといけない。
「──ドラゴンだったか」
結局、アルスさんにした。
一番偉い人だから。
「あの場で言わなかったのは正しい。だから、隠したとか言ってシエルを責めるんじゃないぞ」
「はい」
アルスさんはドンドンと動いてくれた。
議員? を集めての会議の場には何故か僕まで。
お爺さん達の顔が怖くて、正直緊張する。
目立ってる気がするし……
「何を縮こまってるんだ。さあ、話してくれ」
「へえっ」
「……ククッ、何だその声は」
だって、まさか、僕が話すなんて思わない。
アルスさんが事情を説明してくれるものだとばっかり思っていた。
この人たちの前で僕が話す?
それを想像しただけで心臓が落ち着きなく鳴り始めたし、頭の中はまとまってない。
でも、やらないといけないんだ。
「アルス様、ご用命とあらば我々は確かに集まりますが……そこの童はあの男の連れてきた小間使い。一体何故ここにそいつだけが──」
「客人に対して無礼な口を聞くな、と以前にも言ったな」
「…………」
「彼はレイト。確かにアキヒロに付いてきた身ではあるが、我々よりもよほど多くの経験を積んでいる。侮るな」
「それは流石に……」
流石にない。
あんなおじいさん達よりも僕の方が経験が上だなんて、絶対に言えない。
けど、それを口にしたら僕が何かを言える可能性が下がるだけだ。
シエルちゃんに話させるわけにはいかない。
アルスさんは大丈夫って言ってくれたけど、加賀美さんはこう言ってた。
『老人は自分の考え方を変えられない。知識の更新もできない。現実に対する認識も歪んでる。悪人だからじゃないぞ? 脳みそが固くなってるから仕方ないんだよ』
つまり、頭が硬いってことだ。
もしもシエルちゃんのことを悪人だと思われたら、それを直す事は僕の言葉じゃできない。
そうなれば、この町で暮らすことはできない。
ここにずっと暮らそうなんて思ってないけど、二週間はいようと思ってる。それまでに加賀美さんが帰ってきたら一緒に帰るし、そうじゃなかったら僕とシエルちゃんとアリサちゃんだけで行く。
アリサちゃんが残るって言っても、そこは従ってもらう。
──という計画も、僕たちが追い出されなければっていうのが前提だ。
だから、こんな最初に
加賀美さんと僕は違う。
上手く言うなんて出来ない。
でも、アルスさんが作ってくれたこの空気。
「──」
「ふむ……」
決して上には見られてない。
それでも、バカな子供を見るだけだった視線とは全く違う。
侮られてない。
その空気を何とか──
「それで、レイトよ」
「…………」
「おい?」
「──はっ!? は、はいっ!」
いきなり話しかけてくるから、全然反応できなかった。
普通こういうのって僕が話し出すまで待ってくれるものじゃないの?
どうしよう、何言おう。
「えと……あの……」
「そんな慌てんでも取って食わんわい」
「…………」
とんでもなく情けなくて、顔が熱かった。
「聞きたいのは、何故この場に現れたかということじゃ。あの娘二人は伴わなかったのには何か理由があるということじゃろ」
「…………はい」
「タイミングがタイミング、何となくはわかっとる。出発時に何があったかということじゃな?」
「そうです」
「申してみよ」
ドラゴンの話をすると、大きな動揺が走った。
アルスさんが落ち着いていたのが信じられないくらいには騒ぎが議場の中を走って、僕が何かを言う空気は丸ごとなくなった。
エリュシオンの刺客とか、王国からの挑戦状だとか、はたまた近くにドラゴンのコロニーができたんじゃないかとか、一つとして気楽な話はない。
「何故、こうなるか分かるか?」
「え…………ど、ドラゴンが強いから……?」
「そうだな。一面ではそれもまた関係している」
「はあ」
「だが、本質的な話をすると──イルファーレ様の領地である『イルヴァの牙』においてはドラゴンに限らず、モンスターは極端に出現しない、という事が関係しているんだ」
そういえばそんな話もあった。
ハシュアーの家にはワームのお肉がいっぱい干してあったから、加護? の話が頭から抜けていた。
「あれは加護の届かぬ範囲まで遠征をして、そこで手に入れているんだ。西の部族と取引をして肉や素材を手に入れる事もある」
「ええっ!?」
「驚いたか?」
「だって西の部族って危ない人達なんじゃ……」
「利があればその限りじゃないという話だ」
頭がホワホワしてきた。
なんか全然違う場所の話みたいだ。
──よく考えたら、全然違う場所の話だった。
ドワーフ達のザワザワは時間が過ぎたら落ち着いて、話を聞く事ができる状態になった。まだ興奮している様子だけど、なんとか。
「ハシュアーとヴォルフガングはドラゴンの背に乗っていたと言ったな」
「はい」
「…………どういうことだ?」
「さ、さあ……」
「あの二人はドラゴンを駆ることができるのか……?」
議員さん達はやっぱり混乱しているみたいだけど、とりあえず聞くことにした。
「ここにドラゴンが現れたことはあるんですか?」
「ゼロではないが接触はない。我々は探索者ではないからな。倒すも食うもできる事じゃない」
「……じゃあ、ドワーフがドラゴンの背中に乗ったのは初めてなんですね」
「当たり前じゃろうが」
アルスさんの顔を伺っても、おじいさん達の言葉に対して何か付け加えることはなかった。今は見る時間のようだ。
「逆に聞きたいのじゃが、探索者はドラゴンに乗ることは良くあるのか? ワシらはそんな話を聞いた事がないんじゃが」
議員さん達も元は鍛治師だったから、高レベルの探索者ともやりとりをした事がある筈だ。そんな人たちが分からないっていうものを僕が知るはずもない。
「最近の話じゃよ。そういうのがあるのか?」
「ない……と思います」
いつもボーっと生きてたツケがきた。
こんな事なら、普段からもっとナナオさんに色々聞いておくんだった。
聞くとなんだかんだで教えてくれるし。
「それにしても、竜を駆る者…………名付けるならばドラゴンライダーか」
「!」
すごく。
すごくかっこいい。
僕もなりたい、ドラゴンライダー。
でも、掴まれてた加賀美明宏さんはどうなるんだろう。
「嘘はないんじゃな?」
「はい!」
「イルファーレ様に誓って?」
「コマちゃんに誓います!」
「何じゃそれは」
「……と、とにかく大事な人です!」
「ふむ……まあ、いい。それが事実ならば我々に出来ることは何もない。レベル50を超えるような探索者がOKサインを……何故OKサイン……んんっ、とにかく、そういう事じゃから手出しは無用と解釈できる」
「…………はい」
「二人の事実は気になるが、そもそも手出しも出来ないからの」
その通りだ。
「あとは私が」
「アルス様──ではお願いいたします」
場に、凛とした静寂が訪れる。
議員がみんな首を垂れて、言葉を待っていた。
呼吸すらできないような詰まり方をした空気の中で、アルスさんの視線だけが部屋を照らし出す。
やっぱり、凄い人なんだ。
「この事実は、今知っている者達の中だけのものとする」
この部屋にいる僕たちと、アリサちゃんと、シエルちゃん。
「皆に伝えても混乱をもたらす。それに、ハシュアーの母ミネアに知らせれば大きく取り乱すだろう」
アリサちゃんがそうだったように、ドワーフの人たちも大切な人がいなくなって悲しくないわけがないんだ。
「ドラゴンの目的は不明だ。何故ここに現れたのか、何故あの三名を連れ去ったのか、何故アキヒロは無抵抗だったのか。だが、それはまず『姫』に確認をしてみよう」
「!」
「何にせよ、この事について広める事がないよう徹底してくれ」
議員達を解散させたアルスさんから、また少し違う話をしたいと部屋に誘われた。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない