【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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29_彼らが失ったもの

 呼ばれた部屋はアルスさんの部屋だ。

 お城の中にはなくて、比較的近い場所にある質素な家。

 質素って言ってもお城と比べたらの話で、扉だけでも触り心地が違う。

 軽い力で開くのにとても重厚な感じは、それだけ緻密に扉が作られてるからだ。

 キィキィ鳴ってうるさかった僕の部屋の扉も、ハシュアーが直したらこんな風に引っ掛かりなく動いて音がしなくなっていた。

 

「やあ」

 

「!?!?!!」

 

 アルスさんはとんでもない薄着だった。

 間違えてエッチな店に来たのかと思って何度か扉から出入りを繰り返したけど、レイジさんはいなかった。

 その間、アルスさんは苦笑して僕の行動を待っていた。

 

「すまんな、これが一番楽なんだ」

 

「き、着てください! 上着を!」

 

「はあ……中々理解されないな……」

 

 誰がそんな服装を理解するっていうんだ。

 

 アルスさんが服を着るまで待ってもう一度中に入ると、今度はペラっとしてるけどしっかり服を着ていた。

 …………身体のラインが強調されてて余計気になる! 

 シエルちゃんは身体が全体的に薄いからそういうの無いのに! 

 ちょっとヒナタさんのことを思い出した。

 

 だけど、相変わらずアルスさんは真面目な顔をしている。勧められたのはソファーで、僕でもちゃんと座れるサイズだ。

 何故か隣に座って、アルスさんがわざわざ入れてくれた白い液体を飲んで、話が始まった。

 

「一つだけ……確認をしておきたい」

 

「は、はい」

 

「シエルは本当に、その光景を見たと言っているんだよな?」

 

「え?」

 

 その確認をするなら、さっきの話し合いの前だと思うんだけど。

 

「言いたいことは分かる。だが……念の為の確認だ、教えてくれ。動揺などによって記憶が捻じ曲がっていたわけではないんだな?」

 

 よく分からないけど、アルスさんの言うことに従って記憶を遡る。

 ──やっぱり言われたことは何も間違ってない。

 

「シエルちゃん、今から連れてきましょうか?」

 

「……いや、いい。君がそう信じるならそうなんだろう」

 

 安心したように脱力して、背中を背もたれに預ける。腕も垂らして、腕組みで支えられていた胸が──

 

「……スケベ」

 

「はぷっ!」

 

 見てない見てない見てない見てない見てない! 

 

「そういう視線、女は敏感だぞ」

 

「…………ご、ごめんなさい」

 

 僕は何で、アルスさんの家に来てスケベのレッテルを貼られているんだろう。

 強引でも話題転換しないと、どこかふわふわした空気のまま時間だけが過ぎ去ってしまいそうだ。

 

「──その、救出隊とかってあるんですか?」

 

「採掘や食糧採取の時は備えをしている。だが、あくまで出現するモンスターが弱くて種類も限られているからこそ取れる手法だ。ドラゴンとなれば、もはや我々の手には負えない。最高の採掘者でも突発的な落盤には勝てないように、最も優れた兵士であろうとドラゴンに勝てる道理などない」

 

 救出隊を出すことはない、ということだよね。

 きっと、その結論は動かない。

 アルスさんは優しいけど、リーダーだから。

 

 僕にとって大事なのがシエルとハシュアーだけなのとは違って、アルスさんの大事なものは『イルヴァの牙』の全てなんだ。

 パーティーのリーダーなんてちっぽけな存在じゃなくて、ドワーフの人たち全てのリーダー。

 それは……どれだけの重圧を感じることなんだろう。

 そう思うと、こうして話してくれるのが不思議なくらいに差を感じた。

 

「何だ、その目は……こそばゆいからやめてくれ」

 

 サッと片手で顔を隠す。

 普段は見せない姿を、こんな風に見せてくれる。

 ──なんで? 

 家に招待してくれたこともそうだ。

 蒼連郷からやってきた、よく分からない子供を自分の家に……しかも、一番偉い人が。

 

 僕にはわからない、すごく深い意図があるんだと思った。

 

「イルファーレ様なら、3人が無事かどうか分かるんですか?」

 

 会議の時に言ってた、姫様に確認するということの意味。あれは姫様を通じてイルファーレ様と話すってことらしい。

 僕たちを助けてくれた時は直接話してくれたけど、あれじゃダメなのかな。

 

「2人だ」

 

「……」

 

「あくまで分かるのはドワーフの居場所で、アキヒロの場所はわからない」

 

 じゃあ、コマちゃんが僕たちのいる場所にすぐやって来られるのもそれと関係しているのかな。

 

「少し喉が渇いたな」

 

「あ、ごめんなさい。いっぱい話しちゃった」

 

「……楽しいと時間は長く過ぎるものだな」

 

 アルスさんはすっと立ち上がると、また新しく飲み物を入れてくれた。この白い飲み物……凄いさっぱりしてるけど、コクもある。

 不思議な飲み物だ。

 

「聞かないのか?」

 

「え?」

 

「何故、私が付いていかなかったのか」

 

 想像もしていなかったというのが本当のところだけど、そう言われると気になる。

 

「その顔は……思ってもいなかった、というところか」

 

「あはは……」

 

「断絶していた我々が再び交わろうとしている。そんな重要な局面、普通ならば最高責任者が赴くのが当然だろう?」

 

 だろうって言われても、僕は最高責任者だった事がないので良くわからない。そういう話は加賀美さんにして欲しい。

 

「よくわかりません」

 

「そういうものなんだよ」

 

「じゃあ、何でそうしなかったんですか?」

 

「良い質問だ」

 

 どう考えても誘導されていたけど、アルスさんは機嫌が良さそうだ。

 実は聞いて欲しかったのかもしれない。

 

「ハシュアーはきっと、大きくなる」

 

 なんでこのタイミングでハシュアーの話になるのか。

 疑問を挟むのはやめておいた。

 

「アキヒロがヒューマンからドワーフへのアプローチを担っているように、ハシュアーはドワーフからヒューマンへのアプローチを担って欲しい」

 

 すると、何でハシュアーが行くことになるんだろう。

 

「アキヒロと同じ目線で物事を見て欲しかった」

 

 それはおかしい。

 何故なら

 

「じゃあ……それこそ、アルスさんもついていくべきなんじゃ──」

 

「私は女だ」

 

 まず、寂しそうな顔をした。

 

「男優位の考え方が強いイルヴァン王国では侮られ、話すら聞いてもらえないだろう」

 

 次に、諦めた顔をした。

 

「私は牙になったが……それはイルファーレ様の加護あってこそだ。その加護の大元たる王国では、私のようなものなどいくらでもいるかもしれない」

 

 最後に、悲しい笑顔を浮かべた。

 

「女じゃダメなんだ。男であり、外に出ることに躊躇のないハシュアーこそ──」

 

「そんなの!」

 

「っ……」

 

「そんなのおかしい!」

 

 湧き上がる思い。

 僕は、怒っていた。

 年齢が二倍近い女の人、それもイルヴァの牙で一番偉い人に。

 

「おかしいじゃないですか!」

 

 それこそ上から、偉そうに怒りをぶつけていた。

 

「なんでアルスさんが侮られるんですか! 馬鹿にされるんですか!」

 

「女だからだ」

 

「っ……だから、それがなんなんですか!」

 

 ムカムカして気分が悪かった。

 白いのを飲み干して、コップをテーブルに戻す。

 

「世の中にはそういう考えもあるという事だ」

 

「間違ってます!」

 

 女だから。

 そんな理由でアルスさんが馬鹿にされるのは、何故か許せなかった。

 こんな凄い人が馬鹿にされるなんて……何でそんなことになるんだ。

 

「理由は私だって知らないさ。でも、常識に理由は問えない。本国のドワーフにとってそれは当然のことで、ここに住んでいるドワーフ達の方が少数派なんだ」

 

「じゃあ、みんなイルヴァの牙の下につけば良いんです! そうすれば、そんな馬鹿な事ないんだから!」

 

「……そうだな」

 

「というか、むしろ行ったほうが良かったじゃないですか!」

 

「…………何故?」

 

「加賀美さんの力で、そんな馬鹿なことをいう奴らを蹴散らしてやりましょうよ!」

 

「っ!?」

 

 とんでもないことを言っている自覚はあったけど、口が止まらなかった。

 そのまま息が切れるまで、アルスさんをソファーに押し付けて言いたいことばかりを言った。

 

 言いたいだけ言ったら疲れちゃって、ソファーにもたれて……赤ちゃんみたいだ。

 

「…………ごめんなさい」

 

「いや…………ありがとう。少しだけ、気持ちが楽になったよ」

 

「ありがとうなんて……」

 

「やっぱり──私たちの元を訪れる人間は皆、どこか変わっているんだな」

 

「僕は変わってないです」

 

 本当に普通だ。

 凄い力なんてないし頭も良くない。

 そこら辺にいる人間でしかない。

 

「やれやれ」

 

 アルスさんは、首を横に振った。

 まるで、僕が聞き分けの悪い子供みたいに。

 

「君にも分かりやすく言おう。彼は──カガミアキヒロは、本当に普通の、何の変哲もない、何の特徴もない、力も持たない、そんな人間を見出すのか?」

 

「──」

 

「私にはそうは思えない。奴は人を選んでいる。だからこそ選んだ人間に肩入れするし、そうでない人間など気にも留めない」

 

 周りにいる人を思い出す。

 確かにみんな、何かしらすごい出自や特徴を持っていた。

 そんな中で僕。

 本当に何もない。

 

「少なくとも一つはあるだろう」

 

「え?」

 

「可愛らしい顔立ちというのも才能じゃないか?」

 

「そんな事ないですよ」

 

 よく褒められるけど、加賀美さんの周りにいる人はみんな顔が良い。みんなと比較して、そこまで顔が良いとは思えなかった。

 というか、みんな顔が良いんだから僕の顔は特徴にならない。勿論、加賀美さんが顔が好きって言ってくれてるのは知ってる。

 でも、それだけだ。

 

「そんな事はないと思うがな」

 

「……」

 

「聞きたいんだが──顔以外に何もないなら、何故アキヒロはキミの面倒をそこまで見るんだと思う?」

 

「優しいからです」

 

「優しい、か」

 

 それ以外にない。

 僕に関わったって何にも良いことない。

 その為に時間を取られるっていう点から考えると寧ろ……

 

「だとしても……自分の価値を、もう少し認めてやっても良いんじゃないか?」

 

「──」

 

 アルスさんのジッと見つめる視線に吸い込まれて、動けなかった。

 何も言えなかった。

 

「キミ自身が考えるよりもずっと、キミは彼の役に立っているはずだよ」

 

「……ボクの…………価値……?」

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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