【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
『人のメスの裸、本当に私と同じなんですね』
「本当にってどういうこと」
寝たと思ったら、また変な話を始めた。
加賀美さんと裸でお風呂入ったって話をしてアリサちゃんを怒らせて、そのくせ声色は本当によく分かってない感じ。
しかも、身体の良さ? も自分のほうが上だって自慢し始める始末。
肌艶とか髪の長さとか胸の……とか、そういうのが闇の向こう側から聞こえてきて、本当に寝ることに集中できない。
だから昔を思い出した。
隣の部屋とか、僕の部屋でグダグダといつまでも話していた彼女達のことが、恋しくなった。今はその部屋で僕たち3人が暮らしている。
……昔を思い出しても前より苦しくなくなったのは成長なのかな、加賀美さん。
それとも忘れちゃってるだけなのかな、みんなのこと。
死を背負うって、すごく難しいよ。
「私の方が身体柔らかいっつーの! ほら、このプニプニ! ヒロさんは柔らかい方が大好きだから! そんなカチカチのお肌触っても楽しくねーから!」
『つまり、すぐ死んでしまうということですね? それでは子を育てることは難しいでしょう』
「んだとこら!」
『口調が荒い人ですね……探索者みたい』
「探索者だよ!」
『そうなのですか! では、少しは頑丈な胎を持っているんですね』
「んっ…………触るな! このバカ!」
『なんですか、お腹を触るくらい』
「ヒロさん以外のやつが私に触るな! 噛み殺すぞ!」
アリサちゃんがすごく荒ぶっている。
加賀美さんの話を聞いて気が昂っているに違いない。
でも、こんな夜に大声で話されるとこっちも気が昂って眠れなくなってしまう。
あと、話題が話題だからやめてとも言い難い。
加賀美さんが浮気まがいのことをしているのが原因で怒っている。そこに僕が余計なことを言ったらもっとムキーってなるかもしれないし、僕まで怒られる。
でも、寝たい。
でも言ったら怒られるかも。
シエルちゃんは黙って何してるのかっていうと、もう眠りに落ちている。
この煩さの中でも全然気にせずに眠れて凄い! とかじゃなくて、眠れるまで僕が耳を塞いでてあげただけ。冬に使ってた耳当てがたまたま道具の中に入ってたから。
付けてると寝返りが難しいから、眠ったら外してあげたんだよわざわざ。
「ところで、なんでヒロさんに会いにきたの? フラれてるんでしょ?」
『フラれてる、とは何ですか?』
「指振りじゃなくて」
『何かを意図しているのは分かりますけど……ヒトの言葉は複雑なので、わからないことが多いんです』
「そもそも誰から習ったの? モンスターなんて人間の言葉話せないもんだと思ってた」
『最初はお祖父様です』
「またお祖父様……本当にドラゴンなの?」
『偉大なる──』
「もういい。とにかく、フラれるってのは……ええと……こ、交尾を断られたってこと」
『フラれたことと、追いかけてきたことは無関係です』
「ふーん。でも、もうちょっと色々勉強してからきた方が良かったんじゃない?」
『むう……里を目指してやってくる探索者たちからも色々と学びましたよ」
『娘』は、近くのセクター跡までやってきた探索者達から人間がどういう存在かっていうことを少しずつ勉強していたらしい。話しかけたり目の前に姿を現したわけじゃなくて、遠見? でこっそり、会話とか姿とかから学んでいたんだって。
その中で『娘』はベッドとか、服とかっていうものの存在を知った。最初は本当に何も身につけずにいたけど、自分と姿が似ている人間が服を着ているんだから、そういうものかと思って着たんだ。
本当によかった。
裸でこられたら何もできなか──
「いててて!」
眠っているはずなのに、シエルちゃんにつねられた。
ほっぺたを撫でても寝たままだ。
最近、よくつねられる。
やめてって言ってるんだけど意味ないというか、その場で頷くだけで、いざちょっと機嫌が悪くなったらすぐ手が出る。
僕の周りにいる子──シエルちゃんとハシュアーが、関わっている人のよくないところを順調に吸収していて本当にまずい。
このままだと『妖精の止まり木』の中でまともなメンバーが僕1人だけになってしまう。早苗さんにちょっと相談しようかな。
ヒナタさんのすぐ手が出るくせを何とかして欲しいって。そうじゃないと、ハシュアーまで家の中で手を出してくるようになったら僕も覚悟を決めなきゃいけないから。
──夜空に浮かぶ月みたいに、浮かんだ発言が一つ投げ込まれた。
『私がアキヒロに会いにきたのは、ベッドが壊れちゃったからです』
時間が凍り付いた。
あれだけうるさかったアリサちゃんもすっかり静かで、シエルちゃんの寝息すら聞こえない。ナイトドラゴンくんも手で必死に口を押さえるほどに閉じ込められた空気だ。チチチと囀っていた虫や、時折小さく羽ばたきを聞かせていた鳥達すら静まり返って、言葉の意味をよく考えている。
アリサちゃんがその意味を聞いた。
加賀美さんは彼女にベッドを作ってくれたんだって。
彼女が真似をして作っていたベッドはぼろくて、寝辛くて固かったけど、加賀美さんが作り直してくれたからすごく寝やすくなった。
ベッドを見るたびに楽しかった時間のことを思い出していたけど、加賀美さん自身が言っていた通り、割とすぐに壊れちゃったんだ。
だから、ベッドの作り方をもう一度教えてもらいに来たんだって、そう言った。最初に作りながら聞いたけど、流石に一回じゃ無理です〜だって。
確かに僕も、ハシュアーみたいにものを作れるかって言われたら無理なので──というか、加賀美さんってそんなことできたんだ。
ドラゴンの里では、焼き肉を焼いたり子供の相手をしたりして過ごしていたって。いつのまにそんな事をしていたんだ。
僕たち、そんな話は一度だって聞いたことがない。
『当たり前です。彼は言っていましたから。私たちの里を人の目に触れさせてはならない。決して交わらず、お互いに孤独な種族であることが、ドラゴニアが平和に生き続ける最低条件だって』
それなら、僕たちに教えたことが間違いだ。
アリサちゃんも同じように考えて注意していたけど、彼女は穏やかな声で答えた。
『アキヒロが選んだヒトであれば……私も、私の家族達も信じられます。そのようなことはしないでしょう』
そんな事を言われて、アリサちゃんは露骨に声色を変えていた。
猫撫で声というか、機嫌が良くなった。
荒げ気味だった声も一瞬で収まって、夜らしい静かな会話に戻っている。
ちなみに加賀美さんを鷲掴みにした理由は、全然会いにこなくて腹が立ったからだってさ。
また来るって約束していたしドラゴニアの皆んなも楽しみにしていたのに来ないんだからって、可愛らしい怒りを見せていた。(見えないけど)
だけど、本当にドラゴンの里なんてものが存在するなら。ドラゴニアが人間と同じように平和に暮らしているなら、僕たち探索者がやっていることはもしかして──かと思いきやそこら辺はモンスターらしい思考で生きているようで、戦って勝てば勝者なので何しても許されるらしい。
もちろんモンスター側も。
だからこそ、その垣根を超えてやってきた加賀美さんのことが大好きなんだ。あと、お肉を焼いてくれたから。
元々はお肉なんて生で食うのが一番だって考えていたドラゴニアも、加賀美さんがお肉を焼くと意見をひっくり返して食べるようになったらしい。それで今では彼女がお肉を焼いている。
ドラゴニアは体が大きい上に鉤爪だから細かい作業はできない。彼女の役割ってわけだ。
大変だなあ、って思ったけど本人的には役割があることが嬉しいんだって。ドラゴンの中では弱い彼女には、他のドラゴン達と同じように空を飛んで狩りをすることはできない。周辺に住んでいるモンスターも強力で、一筋縄じゃいかないから、人間よりは強くても、その程度じゃ意味がないんだ。
出来ることがない悔しさは僕にも良くわかる。
少しだけ、彼女のことが身近に感じられた気がした。
「ところでさ、その寝袋どんな感じなの?」
浮いている寝袋なんて、見たことない。
僕も正直興味はあったけど、違うテントの中だから実際に使っているところが見られないのが残念だった。
『あげませんよ』
「いらないよ! 臭そうだもん!」
確かに、ちょっとだけ匂いは気になった。
だけど彼女は普通の匂いだと思っているようで、何でもない雰囲気で言葉を返している。
アリサちゃんがそれに突っ込んで、また言葉を返して。
結局、実際にアリサちゃんが使ってみることになった。
「やっぱりちょっと匂う……これ、洗った?」
『洗う?』
「絶対洗ってないじゃん……」
彼女には洗うっていう手段が存在しなかった。
基本的に、燃やせるものは燃やして綺麗にして──例えば体の汚れ──そうじゃないものは壊れるまで同じものをずっと使い続ける。
すごく、考え方の違いを感じた。
鼻はすごくいいのに、そういうの気にならないんだ。
『これが臭いなんて言っていたら、みんなが暮らしている洞窟になんか入れませんよ』
糞がたくさん落ちているらしい。
本当に入りたくないし、アリサちゃんも嫌そうに断っていた。
でも、それと比べたら臭くないっていうのは納得が……ギリギリできないくらいかな。臭いは臭いんだから、綺麗にしなきゃ。
でも、他に人間もいなかったら洗うなんて考え、思い付かないのかもしれない。燃やすっていうのも文字通り、自分に炎をかけて汚れを全て燃やし尽くすらしいから。
僕たちが水を使うのと同じように、ドラゴンは火を使うってことだ。
「ほええ……におひに目をつむへばなかなかわるふないひゃん」
『ふむふむ……この寝袋も……なかなか……悪く…………』
「…………へ?」
『娘』は、アリサちゃんの寝袋を借りてそのまま眠ってしまった。
鼻を摘んでいるらしきアリサちゃんの寝袋の中で。
つまり、アリサちゃんが眠るための道具が……?
「ちょっと! 交換とは言ったけど貸すなんて言ってないから!」
『すぅ…………すぅ……』
「全然起きないじゃん! ぐぬぬぬ……! しかも、全っ然抜けない……!」
どうやら彼女は強く寝袋を掴んで眠っているようで、アリサちゃんの力じゃ引っ張り出せずにいることが声から伝わってきた。
でもそのうち諦めて、想像上の加賀美さんに泣き付きながらちょっとだけ匂う最高級の寝袋に包まれた。
なんだかんだで探索者だ。
臭いがしても、休める時は休まないといけないからね。
僕も、やっと2人が静かになったので意識が遠のいていくのを感じた。
おやすみ、シエルちゃん。
「…………おやすみ」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない