【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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34_なんちゅうもんを食わせてくれたんや……

 

 朝、起きると変な鳴き声が聞こえた。

 聞いたことがない声だ。

 モンスターに違いなかった。

 間延びしていてあんまり強くなさそうだけど、霧のせいで姿が見えない。シエルちゃんを揺さぶり起こして、ぐずる耳元でモンスターが来たって教える。

 今の今まで目がトロンとして夢見心地だったのに、パッチリと目を開けて準備を始める。

 

 こういう切り替えの早さはうちのパーティーだと一番だ。ハシュアーは切り替える必要がないし、僕はちょっと……うん、頑張ろう。

 

『モー』

 

 霧の向こう側から聞こえる鳴き声目掛けて、僕達はゆっくりと近づいた。

 ドラゴンを頼ることはできない。

 あくまでこれは僕たちの旅だ。

 出来る範囲は、全部僕たちがやらなくちゃいけない。

 加賀美さんがいたら勝手に先にやっちゃうから何もできないけど……今は違う! 

 

 そうして現れたのは四足歩行で茶毛の、見たことがないモンスターだ。ボア系のモンスターに似てるけど、あいつらはすぐにこっちに突っ込んでくるのにコイツは動かない。

 それどころか、僕たちを見て挙動不審になっていた。

 何度も後ろを振り返って、もしかしたら群れでいるのかもしれない。

 そうなったら不利だ。

 

 とはいえ、そもそもが未知数。

 何をすれば攻撃を始めるのか分からない。

 あの二本の角の先からビームや雷撃を放つかもしれない。

 あるいは、油断したところで突進してくるかもしれない。

 尻尾の毛が針みたいになって飛んでくるかもしれない。

 そう考えると、最初の一手が一番肝心だ。

 大きさは僕たちと同じくらい。

 僕たちを大きく超えるサイズがデフォルトの、モンスターに対するイメージから考えるとかなり小さい。

 

『力を感じませんね』

 

 いつの間にか、隣に『娘』が立っていた。

 彼女の言葉を信じるなら、モンスターになる以前の純粋な獣に近い姿だという。

 第100セクターだったかな。

 それこそボアが獣にほぼ等しい程度のレベルしかなかったから、そういう類の相手。

 

 僕たちとは違う、鋭い動物的な感覚で生きているであろう彼女がそう言うなら。

 

『…………』

 

 僕たちが一歩近づくとビクッと一歩後ずさって顔をのけぞらせる。目も大きく開いているから本当に怯えているんだと思う。

 一番美味しくないドッグフードを近付けられる時のコマちゃんみたいだ。

 悪い事をした時はこれを食わせろって教えられたんだよね。

 ちなみに、その時のコマちゃんは加賀美さんの後ろで凄い顔をしていた。

 

「怖くないよ〜?」

 

 普通の獣に対して接したことがないからどうすれば良いかわからなかった僕たちと違って、アリサちゃんは臆することなく手を差し出した。僕たちの慎重さを嘲笑うような素早さ。

 思わず、シエルちゃんと目を見合わせた。

 

「ほら、可愛い〜」

 

 アリサちゃんの手の動きに合わせて、頭をすりすりとなすりつけている。

 気持ちよさそうだ。

 ドラゴンといい、このモンスターといい、意外と世の中には安全なモンスターがいるのかもしれない。

 

「何だろうね、あのモンスター」

 

「とりあえず朝ご飯」

 

 ──火が弾ける。

 

 肉を木の枝に刺して焼く。

 いい匂いがあたりに広がると、全員が早く食べたくてソワソワし出す。

 想像と違ってすごく美味しそうだ。

 アリサちゃんは泣きながらお肉を捌いていたけど、それでも匂いが香り始めてからは目を爛々と輝かせて待っている。尻尾がゆらゆらと揺れて、本当に猫みたい。

 

『娘』とナイトドラゴンくんも同じだ。

 加賀美さんに焼肉を教えられてしまった2人は、僕たちがどんな風にお肉を焼くかが見たいらしい。

 普通に焼いて、そこら辺の果実からソースを作って、あとは塩を振れば──って加賀美さんも言ってたし間違いない。

 実際美味しい。

 

 ドラゴンの里では肉を焼くところまでしかしていなかったらしくて『娘』は一瞬だけ怒っていたけど、ソースをかけたお肉を口に運んだらすぐニコニコになった。

 神秘的で僕たちとは遠い、どちらかといえばコマちゃん達の方が近いように見えるけど、こうして見ると普通の女の子みたいだ。

 加賀美さんがこの子をフッたっていうのは、逆に加賀美さんだからこそ、加賀美さんにしか出来ないことな気がする。

 

 それにしても美味しい。

 これまで食べたお肉の中だと、かなり上の方だ。みんなも同じようで、解体したばかりのモンスターからさらにブロックのお肉を切り出して串に刺す。

 

「美味しいね、シエルちゃん」

 

「うん」

 

 最近良くないことが続いていたから、ご飯が美味しいだけでも嬉しい。もちろんドワーフのご飯もおいしかっけど、それとは別腹っていうのかな。

 こうやって、冒険をしながら食べるご飯の美味しさっていうものを改めて実感した。

 

 残ったお肉は全部燻した。

 いつもなら多すぎると邪魔だから要らない分は燃やし尽くしてしまうんだけど、こんな美味しいものを全部炭にするのはあまりにも勿体無い。

 手分けして持っていくことにした。

 

 だからダメだよ2人とも。

 今全部食べるなんてことはしません。

 ドラゴンなら全部食べられるとか言ってもダメです。

 アリサちゃんとシエルちゃんだって我慢してるんだから2人もちゃんと我慢して。

 それに、我慢した方が美味しく感じるんだから。

 

 お肉を焼いて荷物の一つとしたら、出発だ。

 また空の旅。

 風の中を突っ切っていくのは、実際疲労が大きい。

 なるべく風を遮るために予め布を被っておくことにした。無いよりは全然マシだ。

 あの寒さを鷲掴みにされて移動していたって……結構ひどい。加賀美さん以外のメンバーだったら死んでいたかもしれない。

 

『いつまでも会いにこないのが悪いんです!』

 

 頬を膨らませて、なんとも可愛らしい怒りを滲ませながらそんな事を言う。

 恋をしているみたいだと思った。

 だからアリサちゃんも敏感に拒絶反応が出ているのかも知らない。

 

 空の旅は、ちゃんと準備をすれば本当に心地が良い。

 霧の上を行くという貴重な経験。

 時折、すれ違う巨大なモンスターがこちらを見上げて口を大きく開ける。大抵はビームや火球なんかの攻撃を繰り出してくるけど、ドラゴンの高機動ではかすりもしない。

 振り落とされないようにしがみつく必要があるとはいえ、爽快だった。

 そんなドラゴンでも苦戦する相手。

 

『あの鳥は……厄介です!』

 

 前方斜め下から、凄い勢いで飛んできたのは──

 

「はやっ!?」

 

 もう、見えない。

 通り過ぎた風の動きと、何かが弾けたような音だけが聞こえる。ドラゴンですら遅すぎると煽るかのように、何匹もの鳥が突っ込んできて、ドラゴンと僕たちの体に穴を開けようとした。

 迎撃として斬撃を飛ばしたけどなかなか当たらない。その代わり、シエルちゃんが矢を番えずに弦を震わせると星屑が一つ飛んでいく。キラキラと輝きながら鳥を追尾して、確実に一話ずつ仕留めていった。

 レベルはそこまでじゃないのに速度だけで殺されそうだった。

 

『長い耳なだけありますね』

 

『娘』は人と触れ合った経験の少なさが露骨に出ていて、全然嬉しくない褒め言葉でシエルちゃんを微妙な顔にさせた。言われた瞬間にシエルちゃんが顔上げたので、これはヤバいなと思って早めにフォローしてよかった。

 多分、あのままだったら普通に喧嘩が始まっていた。

 シエルちゃんを普通にイラつかせる逸材がこんなところにいたなんて。加賀美さんと相性が良いんだから普通と言えば普通か。

 

 大きな雲を抜けると、遥か彼方に巨大な白壁が立ち上がっている。

 僕たちが先へ進むのを拒絶するそれは、世界の終わりだと言われている天命山脈だ。

 だけど、実際はそうじゃない。

 

 シエルちゃんはあの向こう側からやってきた。

 あの向こう側から、エリュシアがやってきた。

 あの向こう側に、シエルちゃんの家族がいる。

 いつか、僕が行くべき世界がある。

 未知の世界が。

 

 飛んで降りてを数日繰り返すと、山脈にだいぶ近付いた。

 ナイトドラゴンくんは、少しだけ警戒するような仕草を見せている。きっと、強力なモンスターが生息しているんだ。ダンジョンも相当な難易度で、僕たちじゃ到底敵わない。

 

 その晩の夜、寝支度をしていた僕たちは一つの音に気がついた。小枝がいくつもへし折れるような、だけど少しだけ違う音だ。

 炎で照らすと、そこには水色の塊が。

 

 氷だ。

 僕たちの行く手を巨大な氷の壁が閉ざして、これ以上進めなくなっていた。

 それもちょっとの壁じゃない。

 どこまで回り込もうとしても途切れない、とんでもなく大きな氷の壁だ。

 異常。

 明らかに、僕たちは何かしらの妨害を受けていた。

 

『ドラゴニアです』

 

 彼女は断定した。

 強いドラゴニアの意志を感じるって。

 だけど姿は見えない。

 こんな強大な力を操るドラゴンが、どこか見えないところから僕たちを監視している。

 急襲してこないだけマシとすら言えない恐ろしさだ。

 

 進むか退くか。

 正直、僕たちにはどうしようもない。

 前回、アンダーで大失敗した。

 あの時は回復薬があったけど、それでもハシュアーはあのままだったら死んでいた。

 今度はそれじゃ済まない。

 

『防いで!』

 

 空から突然に、氷塊が降り注いだ。

 一つ一つの大きさが僕たちの倍ほどもあるそれを、ドラゴンの爪が砕く。

 僕たちも見ているだけじゃない。

 新しくなった武器の力で迎撃した。

 

 こんなのが四六時中来るのであれば、休息すら取れない。死ぬのは時間の問題だ。

 だけど、そう簡単に避難はできない。

 僕たちがここから安全に帰るためにはドラゴンの翼が必要だけど──ドラゴン対ドラゴン。プライドの問題なのか、ナイトドラゴンは全く引く気がない。

 

 氷の壁を熱しては鉤爪を叩きつけ、少しずつ削っていく。だけど、とんでもなく分厚い。もはや山のようになって、中にある木々が凍り付いているのがはるか太古からそうであるかのようだ。

 

「何とかできないの!?」

 

『……ドラゴニアとして、引くわけに行きません』

 

 苦々しげに返すその表情は、ある意味で彼女達の答えでもあった。

 だから、僕たちが別の答えを出すしかない。

 答えを見つけるための鍵はすでに持っていた。

 

「加賀美さんはどうやって超えたんだ……?」

 

 それを解き明かすしかない。

 

「…………」

 

 だけど、ダメだ。

 何をどう考えれば良いのかすら分からない。

 

「ここには……地形が分からないね。それにどんなモンスターが出てくるかも分からない」

 

「──アリサちゃん?」

 

 アリサちゃんは、顎に手をやって周囲を見回していた。

 

「私なら…………私の方がヒロさんの事はわかるからさ。どうやって先に進んだのか、思い付くかなって」

 

「…………みんなで、考えよう!」

 

 ドラゴンの力でも辿りつかない。

 加賀美さんを運んだのは別のドラゴンだけど、その強さはほとんど一緒って話だ。

 つまり、加賀美明宏さんよりも弱いはず。

 この氷の壁と、氷塊の雨を防ぎ切りながら数日を進むには難しい気がする。

 それなら、どうやって進むんだろう。

 

「ヒロさんはむちゃくちゃに見えて絶対に出来ないことは諦めるよ。きっと、別の方法を探すはず」

 

「……空は?」

 

 確かに、この氷を降らせているらしき雲の上に辿り着けば抜ける方法もあるかもしれない。だけどそれには、さらに攻勢が強まるであろう上方へ突き進まないといけない。

 

『おそらく、上には待ち受ける者がいるはずです。不可能かと』

 

 つまり、加賀美さんでも無理? 

 じゃあ……

 

「もっと横に大回りしていくとか?」

 

「それは……山脈を迂回って事?」

 

「流石に無理だね」

 

 アリサちゃんも自分で言って無理だと思ったらしい。

 そうなると下とかどうだろう。

 地面を掘り抜いて、ドワーフの王国まで……

 

「うーん」

 

 自分で言っといてダメだなって案を、アリサちゃんに変な笑顔で否定された。ちょっと傷付いたところで、シエルちゃんが何かしているのが見えた。

 

「ねえ、遠見が出来るんでしょ」

 

『言いたいことはわかります。ですがここから彼の姿を探すのは流石に──』

 

「これを使って」

 

『…………これは?』

 

「きっと……あなたなら十分に使えるはず」

 

 シエルちゃんは、あの道具を取り出した。

 以前、コマちゃんに一時封印されていた。

 確か……ヘッドホン? 

 

「頭につけて」

 

『こ、こうですか? ────あ』

 

 固まった彼女は、口を大きく開けた。

 

『うわあああああ!』

 

 何かを見てしまったように引き攣った顔だ。

 

「な、なにが……」

 

 苦しんでいるようにすら聞こえる声は、否応なしに僕らの心をかき乱した。

 何も出来ない。

 感情むき出しの声が、イルファーレ様の守りすら突き抜けて僕たちの動きを止める。

 氷の壁すら、その姿がゆらめいて狼狽えているようだ。

 ただ、わずかだけ見えた彼女の瞳は何かを高速で捉えている。

 

『み、見える! 見える! 見える!』

 

「っ……その、まま……探して!」

 

『ああああああ!?』

 

 更に何かが溢れ出す。

 僕らではどうしようもない、恐ろしい力が解き放たれている。

 シエルちゃんが渡した神器が何かをしでかして、『娘』は半ば飲み込まれている。

 

 ただ、それを呆然と見ることしか出来なかった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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