【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
三船くんの入院している部屋への道も慣れたもんだ。
何度目の訪問だったか……今日は方目さんはいないんだな。
扉をノックすると控えめな声が返ってきたので、中に入る。
「三船くん、こんばんは」
「こんばんは加賀美さん」
「今日は少し顔色がいいな?」
「あはは、久しぶりに点滴じゃないご飯を食べたからですかね……」
不健康な肌色をしていたと言いたい訳ではない。
ただ、個室の光の中にいる三船くんの肌はやけに白く見えていたのだ。
そういう地肌なのかもしれない。
「退院も近いってわけだ」
「はい」
「これ、お土産」
サイドの机にお土産のプリンを置く。
冷蔵庫の中を見ると、この前持ってきた饅頭のようなオヤツが二つ残っていた。
逆に言えば、もうそろそろ無くなるところだったということだ。
順調に食べてくれていたようで嬉しい限り。
「ありがとうございます……いつも、すみません」
「いいのいいの、こういう時じゃないと好きなの買えないし」
実の所、一個食べた。
「そう……なんですね」
「うるさいのが3人と1匹いてな」
「…………ご家族ですか?」
「2人は違う、1人は妹だ」
「…………ぁ……」
掠れ声で何かを言いかけて、結局何も言ってはくれなかった。
彼の左手は、右肩を掴んでいる。
切断面の疼痛か、失くした腕の幻肢痛か。
目元は暗く、噛み締めた唇は震えている。
今し方まで中々に楽しく会話できていたのに、変化は顕著に表れていた。
だからだろう。
思わず──本当に思わず、手が伸びていた。
伸びた手が頭頂部に触れ、三船くんの肩が少しだけ反応した。
ゆっくりと動かす。
ああ、本当に俺は懲りないな。
こんなお節介、誰が求めてるんだか。
『ヒロさんのやりたいようにやればいいんです!』
そうだな。
お節介だって自覚はしているけど、手を止めるつもりはない。
拒絶されない限り、それは受け入れているという事だ。
受け入れているのなら、何かを求めているのだ。
「…………っ」
柔らかい髪質が、その身体と心の有り様を見せてくれる。
彼はまだ、子供なんだ。
何かの間違いでこちら側に来てしまった。
ダンジョン探索とは。
望まない者にとっては、恐怖と絶望の中に身を投げ出すに等しい行為だ。
アリサもかつてはそうだった。
闇と、怪物と、そして悪意のある人間。
子供が太刀打ちできよう筈も無し。
「今なら引き返せるぞ」
そう、彼はまだ引き返せる。
人生の使い方を決めた俺と違って、三船くんには無限の道が開かれている。
その中の一つには探索者となる道が確かにある。
だけど、俺は鬼畜じゃ無い。
「もう、ダンジョンのことは忘れて生きていくんだ」
「──っ!?」
勢い良く顔を上げた拍子に手は弾かれた。
当て所なく彷徨わせるのも気まずい。
胴体の横に戻し、三船くんの顔を正眼に捉える。
……こんな時になんだが、本当に顔が整っているな。
だが、そんな顔も形無しだ。
迷子のような、泣きそうな、傷付いたような。
クシャリと歪んだ眉根。
「三船くん、探索者はとても大変な仕事だ。君が今回味わった以上の苦痛が、容易に君を賽の河原の向こう側へ連れて行ってしまう」
「…………だけど……」
それでもと、弱々しくも言い募る彼の心情。
年の功か。
亀の甲か。
何を考えているかが手に取るようにわかった。
「……みんなを、忘れたく……ないんです……!」
「ダンジョンで死ねば、覚えているものは本当に誰もいなくなるんだぞ」
「っ…………じゃあ……僕は……なんのために逃げたんですか……?」
「それを探すのが人生だ」
「──」
絶句している少年の顔を見下ろす。
俺がこんな幼い表情を浮かべることができたのは、果たして何年前のことだ。
もはや、捨て去って久しい青さ。
アリサやミツキ、茜、ロイス達が持つそれ。
見た目が若くなければ俺など只のキチガイだ。
そんな俺から一つ、説教をしてやろう。
説教おじさんとしてな。
「俺の人生は焼肉のためにある」
「ぇ……」
「君の人生はなんのためにあるんだ?」
「な、なんの話……なの?」
「たとえ道半ばで朽ち果てようとも、俺は進み続ける。君にそこまでを求める訳じゃ無いけど……死者を思いながら戦うことは、生半可な信仰では出来ないぞ」
「信仰……」
この世界は、凄まじい世界だ。
神代であり、俺にとっては隠り世でもあり、そして現実でもある。
信仰が魔素と共鳴した時に莫大な影響を齎すことは、既に過去の事例から明らかになっている。
祈るものは神に魅入られるのだ。
「死を胸に抱いて、神に背中を叩かれても歩き続ける覚悟はあるのか?」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない