【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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35_大穴下降

 彼女が指し示す方へ。

 ドラゴンの背に乗って進む。

 氷の壁なんか無視して、氷塊も避けて。

 戻り道にはなるけど僕たちは迷わずに突き進んだ。

 シエルちゃんが持っていたヘッドフォン。

 思念に類する力を増幅する、彼女の故郷に伝わる力。

 

 あの時、コマちゃんが言っていたように神器の一つなんだ。

 

 突然すぎてアリサちゃんは面食らっていたけど、その力は疑いようがなかった。

 目の前であんな光景があったら、それを否定するのは頭が悪くないと無理だ。

 アリサちゃんは大学に行っているので、ちゃんと受け止めてくれた。

 

「よく分かんないけど……そういう事もあるよね!」

 

 僕たちが壁より先に行く気がないことが伝わったのか、氷の攻撃は無くなった。もしもシエルちゃんがいなかったら氷と永遠に戦っていなければならなかったことを思うと、本当にヒリヒリする。

 振り返ると、あんなに高く聳え立っていた半透明の氷壁は無くなって、奥にまた天命山脈が見えるようになっていた。

 

『…………』

 

『娘』は相当な消耗をしていた。

 シエルちゃんの神器によって加賀美さん──というよりも、加賀美さん達を載せたドラゴンの位置を突き止めたはいいけど、その頃には汗びっしょりだ。

 顔色も悪かった。

 お風呂に入りたいって言うから急いで川近くに運んで、ナイトドラゴンくんに川の流れを変えてもらって、ナイトドラゴンくんのファイアブレスでお水を温めた。

 

 最初からこれで良いじゃん! 

 

 移動を開始しても疲労自体は回復していなかった。

 回復薬もスタミナを元に戻す力まではないので、ドラゴンの背中ではアリサちゃんにしがみついている。昨晩はお腹を触られて触るなって怒りを見せていたアリサちゃんだけど、今日は許してあげたらしい。

 抱きしめる前に若干警戒していたのは仕方ない。

 

 喋らなくても意思は通じるのか、ドラゴンは彼女の指し示す方向へ一直線。

 僕たちはそうして、地面から遥か下まで続く巨大な大穴に辿り着いた。変な奴に襲われることはなかったから、本当に良かった。

 

 大穴は、明らかにダンジョンに思えた。

 だって向こう側の崖までかなりの距離があって、壁面から張られた太い糸の上を巨大な蜘蛛型モンスターが歩いていて、糸に引っかかっているのはきっと獲物でって……普通にダンジョンじゃないとありえない。

 こんなところにドワーフがいるなんて信じられない。

 というか信じたくない。

 

「行こう」

 

 この先に加賀美さんがいる。

 多分、それはそうなんだろう。

 彼女が嘘をついて僕たちをここまで連れてくる。

 それは、ここまでの状況を思い出すとありえないと思う。

 殺すだけならナイトドラゴン一匹で十分なんだから。

 

 でも! 

 それはそれとして! 

 

「ここを降りてくのはちょっと……ええ……本当に……?」

 

 心底からやりたくなさそうな顔のアリサちゃんに僕も大賛成だ。壁を大回りするように階段がついているとはいえ、隠れる場所がない。途中で休むための台らしきものはあるけど、蜘蛛に見つかったらそれも意味ない。

 

 しかもイルヴァン王国が本当にこの下にあるとして、女の子はバカにされなきゃいけないような場所だ。辿り着いてしまって本当にいいのか。

 そんな疑念がどうしても隠せなかった。

 

「行こう」

 

 シエルちゃんはハッキリと口に出した。

 迷いない瞳で、先頭を切って階段の一段目に踏み出す。

 横幅的には問題なくドラゴンも通れるけど、恐ろしいものが潜むであろう場所へ進もうと。

 

「レイトが守ってくれる、でしょ?」

 

「──!」

 

 その通りだ。

 僕が彼女を守る。

 みんなを守るんだ。

 

「私はヒロさんに助けてもらおーっと」

 

『私は?』

 

「ナイトドラゴン君でいいじゃん」

 

『なんだか疎外感……』

 

「ヒロさんに色目使ったこと、許してないし」

 

『色目……』

 

 あっちの2人は気楽だ。

 アリサちゃんはそれこそ加賀美さんがいるわけだし、『娘』はドラゴン。

 僕が一番気合を入れなきゃ。

 

「──気持ち悪い」

 

 悍ましい残骸が、そこかしこに散らばっている。

 それはきっと、迷い込んだモンスター達だ。

 身体中の体液を吸い尽くされた亡骸が階段に散らばっているだけじゃなく、小蜘蛛に群がられて苦しむモンスターの悲鳴がずっと聞こえる。

 

 僕も、1人だったら絶対にこんなところ進めない。

 そもそもダンジョンとして考えた時は一体どれだけのレベルに該当するのかな。

 

 蜘蛛の糸が張っている近くではより多くの死骸が糸にとらわれている。

 その事から考えると、糸の近くでは更に静かに動くことが求められた。

 ドラゴンも同じく、だ。

 

 時折踊り場があったから一時休憩を取ることはできるけど、その間も気は休まなかった。

 何せ、下手に動けば気付かれる可能性がある。

 テントだって張れない。

 火も使えない。

 

 疲労はどんどん溜まっていった。

 気は滅入るし、体も重い。

 だけど、下に降りていく途中で幾つか不思議な光景を見た。

 

「まただ」

 

 アリスちゃんが見つけたのは糸が切れている箇所。

 燃え焦げたような痕だ。

 周囲には、グチャグチャにされたり鋭利な刃物で斬られたような小蜘蛛の死骸が転がっている。

 なんとなく、加賀美さん達なんじゃないかという気がした。

 

 やる事がないから変化に敏感になっているのは僕達も同じだけど、特にアリサちゃんは素早く見つける。

 シエルちゃんはその度にムッとしていて、ほっぺだか膨らんでいるから突いて落ち着かせる。

 近い役割だから気になるんだろうね。

 

 もう一つおかしなことは、大きな穴がいくつも壁に開いている。

 小蜘蛛がそこに住んでいるのかと思えば全然そんなことはなくて、むしろそこを避けるように移動していた。

 

 そして、進んでも大穴は狭まったり広がったりしなかったけど、それが辛い。

 どれだけ進んでも似たような光景で、自分がどれだけ進んだのか全く分からないんだよね。

 ダンジョンなんてそんなもんだけど、蜘蛛を見ながらっていうのが尚更。

 

 でも、僕たちは気付かれずに進み続けることができた。

 アンダーだとモンスターの姿がまるで見えない状態で進まなきゃいけないけど、ここでは巨大な蜘蛛型モンスターが待っている。

 見えていた方がいいなんてのは嘘だって分かった。

 

「そりゃ、あそこはみんな大体あの周辺のダンジョンしか行かないじゃん。他のセクターのことなんかあんまり興味ないんだって」

 

 僕たちは慎重に進んでいたけど、そうし続ける事ができない子もいる。

 

 ドラゴンだ。

 理性はあるし、『娘』の言葉に従ってはいるけど野生のモンスターであることに変わりはない。

 コマちゃんみたいに躾けられているわけでもないから我慢をするのにも限界はあった。

 

『がるるる……』

 

『落ち着きなさい』

 

 いい加減、あの蜘蛛をなんとかしたい。

 そんな雰囲気で蜘蛛をずーっと睨みつけている。

 自分が負けるわけなんかないっていう、プライドがあるんだ。

 

「多分、門番」

 

 シエルちゃんはそう言っている。

 ドワーフ達の国に続く大穴がこんな風に開けっぱなしで晒されているのは、あの蜘蛛が門番として絶対的な信頼を置かれているからだって。

 だとしたら、仮に僕たちがあの蜘蛛より強かったとしても、殺したら大変なことになる。

 エルフからの侵略? 

 それで済む? 

 なんにせよ、実力の話は置いておくとしても不用意に手を出していい相手じゃなかった。

 

『グルアアア……!』

 

『ダメだって』

 

 もう、抑えつけておけないくらいの限界が来ている。

 今にも飛び立ちそうだ。

 

「ちょっと? ちゃんと抑えられるって話だから連れてきていいって言ったんだからね?」

 

『わ、分かってますけど戦いたいみたいで……』

 

「だからそれを抑えてって」

 

 運んできてくれた事には感謝しているけど、ここで争いを始めたらその全てが台無しだ。

 

『ふーっ! ふーっ!』

 

 燻製肉を使いつつ必死に宥めていたけど、いよいよ限界だ。

 僕たちも、そうなったらすぐに離れられるようにいつでも覚悟はしてある。最初からドラゴンを連れてくるべきじゃなかった。

 それを許した時点で僕たちにも責任はある。

 今の疲労状態であんな蜘蛛と戦えるような立ち回りはできない。

 途中、モンスターが戦っていたけどあっという間に蜘蛛の吐き出した糸で捕まってぐるぐる巻にされていた。

 

『も、もう少しだから……!』

 

『グルォア──』

 

 ──モンスターが壁から飛び出した。

 

 勢いは凄まじく、壁から反対側の壁まで届くほど。

 その途中で蜘蛛の糸を引っ掛けて千切っていた。

 蜘蛛に当たればそこそこのダメージにはなるのかもしれない。

 

 一方で、いなくなった敵なんてどうでも良いようで巣の修復を始めている。

 

 その背後から、更にモンスターが飛び出す。

 さっきのやつと同じ見た目だけど、微妙に見た目が違った。

 複数体で戦いを挑んでいるみたいだ。

 

「あの穴……」

 

 シエルちゃんな言葉に釣られて見ると、モンスターが飛び出した穴は途中で僕たちが見たのと同じような形状だ。

 穴が空いていた理由が分かった。

 

 乱入で戦意を削がれたのか、ドラゴンはまたおとなしくなった。

 土を激しく掘り進める音も、飛び出す音も、激突する音も、全てがけたたましい。

 僕たちの移動音なんてかき消してしまう。

 今のうちに移動するのがいい。

 

 みんな、同じことを考えてドラゴンの背中に乗った。

 ドラゴンは凝り固まった関節をほぐすように骨を鳴らして、崖からスッと足を踏み外す。

 自由落下に始まり、翼を広げて滑空に続ける。

 さっきまでとは比べ物にならない速さで移動し、張り巡らされた意図を全て回避して下に突き進む。僕たちも振り解かれないように鱗を掴んだ。

 

「ふぇぇ……」

 

 僕たちは、大穴の最下層に辿り着いた。

 そこには骨や鱗、皮の山がある。

 モンスターの素材と言い換えてもいい。

 肉や血がほとんど見られないのは、蜘蛛に吸い尽くされているからだろう。

 おあつらえ向きだろ。

 これだけあれば、僕たちの防具をいくつ作れるか。

 大金持ちにだってなれる。

 

 だけど、そんな場合じゃない。

『娘』も含めてヒトガタはみんな疲れすぎて、へたり込んでいる。

 ドラゴンだけが、まだまだいけるぞと翼をバサバサさせていた。

 

 僕たちの周りには幾つも通路が繋がっている。

 そこから覗く鈍い光。

 そして、ガチャガチャと金属を擦り合わせて近付いてくる足音が幾つもあった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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