【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「ここがどこか分からずに入ってきたわけではあるまい?」
そう言ったのは、太い髭を蓄えたドワーフだった。
兜の分厚さと豪華な感じも、他のドワーフに比べて一層目立っている。
偉そうで、太々しくて、にやけた笑み。
偉そうにするのに相応しいだけの武器も持っている。
巨大なハンマー。
探索者が使うような大きさだ。
表面を太いヒビが覆って、赤く明滅している。
明らかに何かしらの効果を付与されていた。
「また外の……しかも今度は女ばかりときたか」
「僕は男です!」
「む? …………仮にそれが本当だしとして、その見た目なら誤差だ」
「えっ!?」
こんなに酷い言葉を言われたのは久しぶりで、開いた口が塞がらなかった。
だけど、次に言われたことで意識が一気に集中した。
「──エルフ!」
シエルちゃんはフードを被っているのに、全く関係なくバレていた。
武器も、すでに構えている。
──応じるしかなかった。
「ほう、あくまで反抗するか」
「シエルちゃんは敵じゃありません!」
「──ぶはっ!」
「な、何がおかしいんです!」
「わーっはっは! …………まるで、自分たちは敵じゃないと思われてるような口ぶりだったからな」
「っ!」
強い敵意が集まる。
既に武器の力が解放される直前。
あの武器が振るわれれば、異能が僕たちに集中するだろう。
それを捌き切れるか?
僕の……今の実力で、シエルちゃんを守り切れるか?
「こんな真正面からやってくる大間抜けがいるとは思わなかったが……既に陥落していたか、蒼連郷め!」
「情報収集もまともに出来てないのかよ」
「女が喋るなあ!」
「ああ!? 殺すぞこのクソチビ!」
まずい。
想定よりもアリサちゃんが喧嘩っ早すぎる。
僕が知ってるアリサちゃんじゃない。
──目の色が違う?
何か様子が……
「チビ……だと……?」
「お前みたいなチビ、用なんかねえよ」
「貴様あ! 黙ってその少年の後ろにいたならば許してやったが! 覚悟しろ! この異形め!」
「さっさとヒロさん出せってんだよ! 加賀美明宏、いるんだろ!」
「──捕まえろ!」
気付いたら暗闇だった。
「──! ────!」
五月蝿い声に瞼をゆっくり動かすと、見えたのは石の天井。
前には金属製の格子。
僕がいるのは牢屋の中だった。
「レイト!」
口の中に血の味が広がっている。
唾を吐き出すと、冷たくて硬い地面に赤が咲いた。
武器もない。
当然に奪われている。
服は取られなかったけど、みんな1人ずつの牢屋だ。
「ごめん……」
アリサちゃんが半泣きで謝っているけど、正直もう遅い。
どうすれば良いんだろう。
まさか、ドラゴンですら捕まってしまうとは思わなかった。
これが王国。
これがドワーフ。
戦争をしている国。
やっぱり来るべきじゃなかった。
牢屋の中には、小さなボロ布が一つ置いてあるだけでそれ以外何もない。
トイレすら。
真正面にはアリサちゃんがいるし、とても気まずい思いをするのが確定していた。
そして隣がシエルちゃんだ。
「レイト…………」
「シエルちゃん……大丈夫?」
「……耳を殴られたから、ちょっとだけ聞こえづらい」
「っ!」
頭がカッとなって、言葉が出てこなかった。
さっき、何もできなかった。
本当に無力で、ただ捕まりにきただけだった。
せめて3人は逃せばよかったのに……それすらできなかった。
ドラゴンの飛行能力ならそれができたはずだ。
気持ちを落ち着かせて、もう一度声をかける。
「他には……何もされてないよね?」
「うん。レイトが守ってくれたから……レイトこそ、大丈夫?」
武器を絡め取られた後、咄嗟にシエルちゃんとアリサちゃんを抱き寄せた。そのせいで全身が痛いけど……2人が傷つくよりはまだマシかな。
でも、本当に痛い。
刺し傷もあるけど、薬は使ってもらえなかった。
声もあんまり大きくは出せない。
……死ぬかな?
暫く待っていると3人組がやってきて、無理やり立たされた。傷が痛んで早く歩けない。
それでも急かされて、そうして、かなりの距離を歩かされた。
「ここは……あぐっ!」
「無駄口を叩くな!」
背中を蹴られた。
中の構造は、大体イルヴァの牙と同じように見えた。
だけど大きさが桁違いだった。
どこまでも続く地下世界。
その中で輝く太陽のような何かが、天井近くから照らしている。
そして……武器を持って、防具を着ているドワーフのなんと多いことだろう。
張り詰めた空気なのが、見るだけでわかる。
僕に対して向けられている視線も悪意や敵意に満ちていて、仲良く迎え入れてくれるなんて思えない。
こんなのどうしようもない。
加賀美さんだって捕まっているんじゃ……
「跪け!」
「うあっ」
突然、足を引っ掛けられて転んだ。
そのまま髪を掴まれて、体勢を無理やり直される。
誰かが前にいて、その人に向けて頭を下げているみたいだ。
「そいつが侵入したヒューマンか」
「はい。他の奴らは牢屋に閉じ込めてあります」
「エルフもいたと」
「ええ」
「なぜ殺さなかった?」
「それが……加賀美明宏に会いにきたと」
「なにっ」
まただ。
加賀美さんに会いにきたって言った時の過剰な反応。
まさか、加賀美さんに何かしたんじゃ……
「このタイミングでやって来るというのは……厄介な……仲間か」
「かっ、加賀美さんに会わせてください! そうじゃなきゃ、加賀美さんはきっと気付く!」
「黙らせろ」
──────
「あ……う……」
少年はもはや、身じろぎすらできない。
動こうものなら激痛が全身に走るのだから。
最近は身体に馴染んで取らなくなった義手すら無理やり外された。
武器もない。
単純な力でも負けている。
これ以上、彼に何ができよう。
少年の前に立つドワーフは、呻く彼の髪を掴み、無理やり頭を持ち上げる。左太ももからジワジワと出血している事すら気にせず、だ。
「ううっ!」
「加賀美明宏に会いたいと言ったな……ならば会わせてやろう」
「!」
「会って、こう伝えろ。帰るから気にしないで良いとな」
「…………な……んで……」
「それを貴様が知る必要はない!」
「っ……うあああ!」
出血箇所を強かに打たれ、悲鳴を漏らすも羽交締めにされていては碌に動けない。
「それ以外の事を言えば──女どもは全員慰み腹として、擦り切れるまで使ってやる。貴様にはその光景を目の前で見せてやろう」
「はぁ……はぁ……うぅ…………どうして……どうしてこんなことができるんだ……!」
「連れていけ」
回復薬を浴びせられ、万全に戻っても少年は大人しいままだった。
沈んだ表情で前後を挟まれ、彼の元へ。
幸いな事にアキヒロは無事なようだ。
それどころか兵士たちと談笑をしているように見える。
「──ああ!?」
やってきた少年の存在に、驚き過ぎて酷い表情になっていた。
「なんでここにいるんだ!?」
「……ごめんなさい。でも、すぐに帰るので……」
「あ? おお? うーん? …………アリサ達は?」
「…………入り口で待ってます」
「……なんで?」
来たばかりにも関わらず、すぐに帰るという不可解さ。
アキヒロは大きく首を捻った。
「と、とにかく、先に帰ってます!」
それだけ言って、囲むドワーフ達に連れられて去ろうとする。レイトの顔には明らかに焦燥が浮かんでいた。
彼女達の──シエルの無事を確かめなければと、心の中を占める思いがあったからだ。
ドワーフ達も、長居する気はない。
足早に進もうとする。
「ああ、ちょい待て!」
そんな彼らを呼び止めたアキヒロは、待たせたまま何事かを呟く。
「そこの……兵隊さん、取り敢えず顔が見たいからアリサ達を連れてきて欲しいんだけど。お風呂とかも入れてあげたいし」
「…………既に帰り支度をしているぞ?」
暗に、連れて来るのはやめておいたほうがいいと兵士は主張した。だが、あまり強く否定し続けても不自然さがある。
そんな流れを断ち切るため、ナイフがレイトの背中に突きつけられた。鋭さに背筋を凍らせ、彼女たちの為に欺瞞を吐く。
「加賀美さん、大丈夫ですから……ぼ、僕が責任を持って連れて帰りますから!」
「あー…………そんなに全滅したいのか? お前ら」
「──え」
その場にいる全員の頭に空白が生まれた、次の瞬間。
「仕方ない」
黒い炎が立ち上る。
黒い嵐が巻き起こる。
レイトだけを避けて周囲に広がっていく。
燃やし尽くしていく。
兵士は飛び下がり、レイトは取り残された。
周囲を見回してもゆらめく炎しかない。
狼狽える彼の元へ、そんな黒をかき分けて男が現れる。
「これ勉強だな、三船君」
先程まで兵士と仲良さげに話していたのに、この変わりよう。
周囲を強く観察し、近付いてくる者はいないか注意深い視線が牽制している。
アキヒロは言う。
到着してから、神様に会わせろと再三要求したがタライ回しで話がひとつも進まなかった。
しかも兵長から戦争参加への打診をされ、挙句の果てには、参加して功績を上げればお目通りも叶うということになってしまったのだ。
ここで脳内スパコンが弾き出した(アキヒロ談)のは一つの答え。
自分は戦争兵器として使われようとしている。
しかも、知らん国と知らん国の最前線に放り込まれてだ。
そんな事になれば一生帰れない。
神様に会わせろ→戦争右功績→足りないから戦争行け→戦争
のループは確定だ。
どうやって抜け出そうか考えていたらハシュアーとヴォルフガングもどこかに行ってしまう。
そんな折、レイトがやってきた。
待っていろと言ったのにも関わらずやってきたので、これはおかしいぞと。
しかもシエルがいない。
アリサもいない。
普段は疲れるからやらない──肉体のスペックをフル活用して、聞こえて来る会話の中から情報をかき分けたというわけだ。
少なくとも、良くない話は聞けた。
「さて、みんなはどこだ?」
「──ごめんなさい! ろ、牢屋に捕まってます!」
「だろうなあ」
正確な場所は思い出せなかったが、おおよその方向を指差すレイト。
アキヒロは彼は背負い、駆け出した。
炎の渦の外から睨んでいたドワーフたちの目には、風が飛び出してきたとしか捉えられなかっただろう。
『ぐあっ!?』
「さあて! ここで一つ、頭脳戦と行こうか!」
アキヒロは1人の兵士の首を握りしめ、レイトの指した方向へ進む。悍ましい炎を撒き散らしながら。
『離せ! くそ!』
「お前には特等席で見てもらう! この国が滅ぶところを!」
「ええっ……!?」
いきなり物語の魔王みたいな事を言い出したアキヒロに、背中のレイトは唖然とする。
頼もしい背中が、一気に邪悪なものに見え始めた。
「お前が選べ! みんなの居場所を吐くか、それとも崩壊の引き金となるか! さあ!」
頭脳戦(笑)。
黒い渦が街へ燃え移る。
阿鼻叫喚がすぐに広まっていく。
パニックはさらなるパニックを呼び、もはや何が原因なのか分からぬ程の混迷が街を走り抜けていく。
それは、アキヒロの移動速度などよりも余程速い。
今は建物のみ──それでも、木製じゃない家が燃えているのは恐ろしい光景だ──だが、いずれ人にも燃え移るだろう。
兵士はすぐに白状した。
「ありがとよ」
『ぐあああっ!』
左足の骨を踏み砕き、進む。
何故そんな事をしたのかと言えば──
「三船君、怪我してたな?」
「あ……はい。でも、もう治りました」
「痛かったな」
「…………」
強くしがみつく。
本当に痛くて、怖かった。
シエル達を助けられなかった事だけじゃなく、ただ、純粋に恐怖で満たされていた。
あれ以上痛めつけられるのが恐ろしくて、反抗心を折られていた。
「よく頑張ったな」
「……うん」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない