【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
2人が牢屋前に来ると、当然のように全員が人質にされていた。
『武器を捨てろ』
「はあ……」
『少しでも妙な真似をしてみろ。こいつらの首を掻き切る』
それはもう、明白に脅している。
首元に当てられた白刃は、確かに動かされれば容易くシエル達の首を切り落とすだろう。
少年の怒りを首筋に感じ、湧き上がるマグマを腹の奥底に宿しながら応じる。
「どうしてこう……いや、俺の想定が甘過ぎたな」
『その通りだ。まさかノコノコと人質になりに来るような愚か者どもを引き連れていたとは』
あまりにも打つ手がない。
古今東西、人質をとるような輩は鏖殺しないと予後が悪いとアキヒロには分かっていた。
しかし、瞬きの間に距離を詰めるにはやや距離が離れている上、ジワリジワリと兵士たちが近づいてくる。
超速再生待ちのアリサはともかく、シエルがダメだろう。それは許容できることではなかった。
「それにしても……どうしてそこまでして俺を戦争に参加させたいんだか」
『ふん、手などいくらあっても足りんわ』
「わざわざリスクを背負うほどか?」
『神器の所有者だぞ、圧倒的な戦力になるに決まっているだろう』
「すごい褒められてる! 嬉しくない!」
ドワーフ達は、すぐそこまで迫っている。
距離にして僅か5mほど。
それが命に届くかは置いておくとしても、一息でお互いに必殺の一撃を繰り出せる距離だ。
にも関わらず、アキヒロは呑気に喋っていた。
背中にいるレイトは生きた心地がしていないというのに。
『しかし……エルフが仲間だから戦うのを渋っていたわけか』
「エルフ」
『…………貴様、エルフだと知らずにこの娘を連れていたのか?』
「いやいや、もちろん分かってたさ。知らされてはいなかったけどな」
その言葉に固まったのは2人。
背中の上にいたレイトと、首筋に刃物を突きつけられている
結局のところ、2人は彼のことを信用しきれなかった。
イルヴァの牙から出立するまでにシエルの事を伝えていない。
つまり、シエルがエルフであるという事は知らないはずだ。
2人は絶体絶命の状況だというにも関わらず、別の恐怖によって背筋が凍り付いていた。
『自力でエルフの存在に辿り着いた? …………まさか、そんなわけはない。ヒューマンがこの山脈を超えて何かを出来るわけがないのだから』
「そうか……ところで気付いているか? 既に状況が詰んでいることに」
『…………そうだな、詰んでいる。人質を取られ、背中にいる小童は震えて役に立たないどころか足手纏いだ。しかも戦力はたった1人──何が出来る?』
「……逆に何が出来ると思う? なあ」
『──?』
それはドワーフに向けた問いではなかった。
ドワーフが剣を突きつけるシエルでもない。
不安気に見つめるアリサでもない。
一番後ろ、ドラゴンと一緒に縄でぐるぐる巻きにされている美麗な少女だ。
「お前なら…………何が出来る?」
何でもないように、穏やかな笑みを浮かべて問いかける。むすっとした表情の少女は、色素の薄い瞳でそれを見つめ返した。
子作り拒否系男子と傾国系女子で相性は悪いが、意図は通じているようだ。暫くムーッと明宏のことを睨んでいたが、仕方ないとゆっくり口を開く。
「私の体が欲しいなら──」
『!』
硬直。
その場に集まっていたすべての存在の肉体が、不自由を強制された。
声が耳穴から入り込み、身体を侵す。
私を見て。
私以外を見ないで。
私の身体の隅々までを知って。
愛している人から耳元で囁かれ続けているように、彼女から目を離すことができない。女も男も関係なかった。
「私を自由にして」
彼女を拘束していたドワーフ達、最も近くにいた2人は酷い有様だ。身体を痙攣させ、股の間からは粗相をした幼児のように何かが染み出して来る。
そうでなくても、周囲にいる者達全てが何かしらの影響を受けていた。
『うあ……』
人質を取っていたドワーフ達も、手に力が入らず武器を取り落としていく。どれだけ力を込めようとも、全て剥奪されて敵わない。
この場にあるまじき武装解除により、金属と床の打ち鳴らされる音がいくつも響いた。もはや戦闘を行える者はいない──ただ1人、その光景を冷ややかに見やる男を除けば。
「……」
男は、手に握った薄刃を正しく構える。
既に全員が強制的に解放されている。
故に、狙うのは腕。
反応すらできぬほどの速さ──を出してしまうと背中でヘロヘロになっている少年が振り落とされて危ないので、そこそこの速さで距離を詰めた。
──惨劇。
その場にいた戦闘員は、男女に関わらず全員が腕の腱を深く切り込まれた。もはや武器は持てない。
回復薬を浴びせれば治るだろうが、誰が回復薬を扱えるのか。
少なくとも暫くは何もできない。うめき声に満ちた場で、何者かがヒタヒタと彼に歩み寄る。
「あなたは……なんですか?」
『娘』は問う。
外に来て初めて知った自分の力。
その力が通用しない男の不可解さ。
それら全てが込められた質問だ。
だが、男は首を振った。
「その前に、まずはここを出よう」
「……そうですね」
彼女も、来ていきなり殴られたので既に嫌気がさしていた。ドワーフ=嫌いの図式が半ば築かれつつある。
「アリサ、ほら」
「ヒロさん……ごめんなさい……」
アキヒロは、まず大事な人を確保した。
お風呂にも入れず、ろくに眠れず、挙句に殴られて疲れている彼女は倒れていた。
背中に腕を回すと弱々しく腕を返す彼女の頭を優しく撫でて、額にキスを落とす。
ドラゴンを縛っていた超高強度の縄は黒炎で焼き切る。
『──グルルルル』
「ダメだぞ」
『…………』
全てを食らい尽くしてやろうかと牙を剥き出しにするドラゴンの翼をポンと叩いて、アリサをその背中に乗せる。
「お前には大事な役目があるんだから」
『……グルル』
「なんて?」
「あの肉をよこせって」
「あの肉……?」
話がわからないアキヒロは首を傾げるしかない。
それらは全て、没収されてしまった。
広大な地下王国だが、大事なものが多くある。
全てを取り戻さなければいけない。
アキヒロの行動は早かった。
「さっさと教えろ」
『ぐ……卑劣な術を……!』
「……言葉分からないのか?」
珍しくアキヒロは不機嫌だった。
仲間を、アリサを傷つけたドワーフへの印象はもはや地の底だ。
本来、ドワーフは滅ぼしてはならない。
種族保護という観点ではなく、壁としての話だ。
彼らが天命山脈の地下にてエルフと戦っているからこそ、エルフ達の手が蒼連郷に強くかかっていない。
そんな事は彼にだって分かっている。
しかし、感情は別の話だった。
「アリサは俺の女だ。エルフどもに剣を向けるならともかく、客としてやってきただけのあの子をどうにかしようとしておいて……ただ帰るだけで済ましてもらえる事に感謝とかないのか?」
『っ!』
「人の醜い側面だ。お前らはイルヴァの牙にいるドワーフと比べて、元の人類に近いみたいだな」
『なにを……バカなことを! イルファーレ様の加護を持つ我々は、旧き民などよりも余程優れている! 故にこそ、火を自在に操れるのだ!』
「ナイスジョークは良いとして……みんなから盗んだものを返すんだな。それに、ハシュアーとヴォルフガングも」
『ふん……ぐあああ!?』
黒い炎が、彼の精神を削り取りながら肉体を焦がしていく。腱を切られ、何もできない彼は喚きながら転がるが消えない。
最悪の末路を予感し、ドワーフはみっともなく叫ぶ。
『イーヴァ様!』
だが、何も現れない。
神の領域内で外の人間が暴れているにも関わらず、ドワーフの叫びに応えるものはいない。
ただ、戦慄した表情の戦士達が立ち上がることもできずに後ずさって離れていくばかりだ。
『誰か! 助けろ!』
同胞に向けて放たれたはずの嘆願も空に消えゆく。
その間にも苦痛と炎は広がり、我慢ができなくなった男は遂に叫ぶ。
荷物の場所と、閉じ込めた2人のドワーフの居場所を。
「全く……こんなところに閉じ込めやがって……」
「うわーん! 怖かったよー!」
案外余裕だな、というのが2人の姿を見て生じる感想だ。
シエル達が閉じ込められていた牢屋からそう遠くない場所ではあったが、より暗く、より鬱々とした場所だ。
それにも関わらず半泣き程度。レイトの胸に飛び込もうとして、予想外に疲れ切った表情のリーダーの姿にむしろ正気に戻って気遣っていた。
ハシュアー、ヴォルフガングについては大したものを持っていなかった上、既に時間が経っているせいか持ち物が見つからなかった。大したものでもなかったのでそれは諦めるとして、気分は下がり切っている。
これはもう、帰宅一択だ。
例の階段を登っていく。
疲労状態の三名はドラゴンの背中。
ハシュアーは牢屋の中でも鍛錬を欠かさなかったようで、体力が削げていない。若干痩せたようだが、レイト達が往路で手に入れた干し肉を食めばすぐに目を輝かせて元に戻った。
「なにこれ! なにこれ!」
そんな興奮に答えられるものはいない。
例のモンスター(?)と遭遇した3人はドラゴンの背に揺られてネムネムだ。
アキヒロも興味本意で齧り、一噛みした瞬間崩れ落ちて階段に顔面から突っ込んだ。鼻から血を流して顔面蒼白な様子に、ヤバいものを食べてしまったとハシュアーは涙目。
ハシュアーのみならず、レイト達も緊張の面持ちで彼の言葉を待った。
「…………し……」
「え? なに?」
「う…………う、し……」
「ううし? それがなに? ううしって毒なの?」
「ち、ちが……これ……牛肉…………」
「牛肉? …………うし!?」
シエルすら目を見開く。
あの貧弱な生物が牛。
彼が求める存在。
ただ肉をほんの少し齧っただけで分かるのかと、疑いの目だって向く。
しかし、シエル達が討伐した生き物の見た目の特徴を教えられて涙を一筋流す男の顔は、とても嘘を言っているとは思えない。
角。
足。
皮。
部位を伝えるごとに確信が深まり、絶望も深まっていく。
最後に鳴き声を教えられて再び崩れ落ちた。
「こんな事……許されて良い訳が……」
明らかに言うべき場面を間違えているが、彼にとっては心底からの思いなのだろう。もっと他に話すべきことがあるにも関わらず、イルヴァの牙に帰還するまでずっと泣き言を言っていた。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない