【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「──そうか……大変だったな、レイト」
「…………僕は何も出来ませんでしたから」
僕は結局、最後まで無力だった。
これまでに学んできたことを活かす事もできず、加賀美さんがいなかったら本当に……終わっていた。
力不足を強く感じた旅だった。
だった──って、もう終わったみたいな感じだけど、全然終わってない。まだイルヴァの牙だ。
イルヴァの牙に戻ってきて、休養に励むことになった。
僕たちがやったことといえば『娘』の導きに従ったドラゴンに乗って空を飛んで行ったことくらいだ。あとは大穴を降りて捕まっただけで、イルヴァン王国の暮らしとか……そういうのは全然分かってない。
少なくとも、楽しい暮らしをしていそうではなかった。
でも、すごく疲れた。
少しだけ止まりたかった。
アルスさんに事の顛末を報告すると、悲しそうだった。
当然だ。
同じドワーフのはずなのに、まるで違ったんだから。
それなのに気遣ってくれた。
「とにかく、休んでくれ」
「はい」
「……その前に、ちょっとかがめ」
「? ……はい──!?」
「よく頑張ったな」
言われた通り中腰になると、早苗さんみたいに撫でてくれた。背筋を伸ばして撫でづらそうではあるけど、心に温かい気持ちが広がっていく。もっとしゃがんで、膝を地面についた。
「ふふ、撫でやすい高さだ」
「あはは……」
確かに僕は背があまり高くない。
ドワーフみたいに小さいわけじゃないけど、それでも加賀美さんとか他の人と比べると──っていうか、加賀美さんは背が高い。
商工会でも基本的に加賀美さんは目立つ。
「ありがとうございます」
「ああ、ちゃんと休むんだぞ。せっかくお前達のために貸切で大浴場を使えるようにしておいたのだからな」
「ええ!?」
大浴場。
イルファーレ様の加護を受けたドワーフしか使えないから僕たちはダメだよって聞いていた。
それがなんで。
「イルヴァン王国にまで行かせてしまった。もうこれは、ただの客人として捉えることはできまい。我々よりもドワーフの実情に詳しいと言えるのだからな」
それとこれとは別問題だ。
イルファーレ様の加護は受けてない。
……でも、良いって言うなら入ってみたいな。
「ああ、楽しむようなものではないと思うがな」
僕はハシュアーと一緒に入ることになった。
流石に女の子達と一緒に入るわけにはいかない。
加賀美さんは……入ろうとしたら燃えてた。
湯船どころか、大浴場の部屋に入れた左腕がいきなりボッて火が付くから慌てて水に突っ込んだ。
その後も、入ろうとするたびに火が付くから1人だけ無理だった。
だから……本当は加賀美さんと一緒に入りたかったけどハシュアーと2人きりだ。
慣れているハシュアーの後ろをついていくと、確かに大きな浴場があった。男と女で別れていて、シエルちゃん達はもう入っている。
ハシュアーの身体を見ると結構な数の傷跡がある。
僕たちを庇った傷や単純に戦いの中でついた傷。
最初の頃は無かったものだ。
僕も……ちょっとは増えてきたけど、ハシュアーに比べるとあんまりない。
「へへ。俺が前張るんだから、1番怪我して当たり前だな!」
ハシュアーは嬉しそうに言うけど、怪我しないほうがいいんじゃないかって思う。キズは名誉の勲章だ、なんて偶に聞くけど……あんまり共感できない。でも、ハシュアーが僕たちを守ってくれた傷がカッコいいっていうのは──何となくわかる。
「ね、ねえ……くすぐったいんだけど……?」
「あ、ごめん」
傷をボーッと見て触っていただけ。
でも、ちょっと触りすぎたみたいだ。
ハシュアーは傷を抑えて睨んでくる。
何かな。
「なんか手つきがエロかったんだけど」
「えっ──エロくないよ!」
「……うーん……前から思ってたけど、レイトさんちょっと距離近くない?」
「そ、そんな事は……」
「いーや! 近い! 自分の胸に手を当ててみるんだね!」
ハシュアーがそう言うので、胸に手を当ててみた。
僕が付き合いのある人たちのこと。
加賀美さん──今、僕の周りにいる人の中で1番付き合いが長い人。物理的な距離の近さでいえば、加賀美さんが1番近いかもしれない。お風呂に一緒に入った事もあるし、脇に抱えて移動された事も、おんぶしてもらった事もある。
すごく不思議な人だ。
一年ちょっとじゃ他人のことなんて分からない──とかいうレベルじゃなくて本当によく分からない。
まだシエルちゃんのことの方がわかってる。
加賀美さんの事でちゃんとわかってるのは、子供が好きな事、牛肉が好きな事、顔の良い人? が好きな事、大学に通っている事…………くらい?
あとは、コマちゃん(神様)の飼い主な事と3人と付き合ってる事も。
何かを隠してるって感じはあまりしないんだけど、心が見えてこない。
あと、目の前に立つと無言で撫でようとする。
ナナオさん──受付って事もあって、自分から話しかける回数は多い。多分二番目か三番目くらい。気安いけど、ちょっとプライドが高くて、自分の間違いをあんまり認めたがらない。加賀美さんはそこが可愛いところだって褒めていて、シエルちゃんはそれに出くわすとけちょんけちょんに貶す。変な事を言って困らせられることは多いけど、それが面白い人でもあった。
友達ってほどじゃないけど、一緒にいると楽しいのは間違いない。
早く彼氏を見つけられるといいね。
ディーンさん──最近まともに話すようになったばかりだけど、女の子ばかりのパーティーで苦労してるみたいだ。周りの探索者からは、加賀美さんには届かないけどイケすかないやつだって言われている。この前も、ヒナミさんとケイちゃんの2人と一緒にデートをしていた。
その後ホテルの方に行ったので、お泊まり会とかしたのかもしれない。付き合ってるって言ってたし……チューとかしてるのかな。2人と。
頼れる人だ。
ハシュアー。
僕たちのパーティー、妖精の止まり木の重要な盾役だ。最初は加賀美さんに連れられて、イルヴァの牙から僕たちの地上世界にやってきた。あの時は驚いた。子供を誘拐してきたのかとちょっとだけ疑っちゃうくらいには。
手先が器用で、何でも直してくれる。ウチにあるものは多分、そのうちほとんどがハシュアーお手製のものに置き換わると思う。本人は未熟だからって渋る事もあるけど、十分に役立ってくれている。
力が強いのも特徴だ。イルヴァの牙に来て知ったけど、ハシュアーに限らずドワーフは力が強い。
だからこそ盾とメイスを持って自由に動き回れるんだ。
それに、暴走状態みたいになると更にメチャクチャな動きでモンスターを叩き潰す。それもレベル差が開くと無理だけど……そのうち制御出来るようになるってレイジさんは言ってた。
距離は普通?
弟みたいな。
シエルちゃん。
第100セクターで出会った女の子。
最初はすごく口が悪かった。
才能がない、何で探索者やってるの──そんな悪口を言われた。それを聞いて頭に来なかったわけじゃないけど……寂しい顔をしていた。だから、お世話になって間もなかった加賀美さんに無断でパーティーを組んだ。
今でも間違ってなかったと思ってる。
あの時シエルちゃんを誘った僕は正しかったんだ。
探索者として、シエルちゃんは斥候と援護役をまとめたような役割をこなしている。
斥候と言ってもそこまで距離を離して行動する事はない。援護にしてもモンスターの気を逸らしたり、隙を伺って急所に矢を打ち込むのがメインで、異能で回復させてくれるわけじゃない。
だから、本来の意味とはちょっと違うんだけど、僕たちのパーティーだとそれで十分だった。本当の意味で斥候をやってもらおうと思ったら、遠距離攻撃が主な攻撃手段なのに1番最初にモンスターと接敵するっていう本末転倒な役割になっちゃうから。
ディーンさんも、これで良いとは言ってたし。
それに探索者としてだけじゃない。
ハシュアーが来るまでは2人きりで家に住んでいた。
あの頃は悪夢を見ることがよくあって、夜中に目が覚めることも多かった。その度にシエルちゃんは落ち着かせてくれて……アレがなかったら、自分でもどうしていたかわからない。
今でも口が悪いところは偶に出てくるけど、そこも含めて、いてくれないとダメな人だ。
基本的に同じ部屋で寝ている──のは、今となっては慣れてきたけど最初は落ち着かなかった。シエルちゃん自身もあんまり眠れてなさそうだった。
他にも、ベッド自体は部屋の反対側の壁にくっついてるから、離れて寝てるといえばそうなんだけど、偶に夜中にトイレか何かで目覚めてそのまま潜り込んでくるから朝起きたらビックリすることがある。
特に最近……シエルちゃんがエルフだってことが分かってから多くなった気がする。
お風呂に一緒に入った事は一度だけ…………アレ以降は、うん。あの時は変になっちゃいそうだった。
でも一度だけだ。
「そんなことないよ」
「長すぎ……」
いつの間にかハシュアーが茹っていた。
ドワーフなんだから、お湯にちょっと浸かっただけでのぼせるなんてだめだよ。
と思ってお湯から出たら僕も視界が回り始めて……きゅー、バタンってな感じに床が近付いてきた。
「う……?」
気が付いたらベッドの上。
横から、ほんの少し慣れた暖かさを感じて視線を向ける。
「すぅ……すぅ……」
規則的に動く背中があった。
僕が気絶している間にお風呂を上がったのかもしれない。他の女の子の例に倣って、シエルちゃんもお風呂が長い。
綺麗好きだからこそなので、それをやめてほしいとも思わないけど。
「…………ん」
ボーッと見ていたら、寝返りを打ってこちらを向いた。
見開いた時はまんまるの目も今は閉じられていて、年相応以下に見える。
耳がぴくぴく動いているのは、エルフ特有なのかシエルちゃんの癖なのか。
涎を垂らしているのは……うん、見なかったことにしよう。とりあえず袖口で拭いて、綺麗に戻した。
「…………」
サラサラとした髪の隙間から見える額に一つ、大きな窪みができている。毛布を足元まで蹴り出しているせいで寒いのかもしれない。
重い身体を動かして掛け直すと、寄っていた眉が元に戻った。
シエルちゃんが落ち着いて眠っているのを見ると、僕もまた眠気が一気に襲ってきた。
身を委ねて……瞼が落ち切る寸前にシエルちゃんの手を握った。
何でかわからないけど、そうしたかった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない