【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「えー、まずはお説教です」
僕たちは加賀美さんの前に座らされていた。
硬い地面じゃなくてベッドなあたりが加賀美さんらしい。
でも、丁寧な口調なのがちょっとだけ怖いです。
「俺は確かに言いました。付いてくるなって」
僕たち全員から反論があった。
加賀美さんが彼女を連れて行かなかったせいで彼女は僕たちを待っていた。僕たちを連れて行かないといけないと思っていたんだ。
「彼女が言ったからって何でも聞くのはおかしくない?」
何でもじゃない。
そもそも加賀美さんが女の子に見境なく手を出すのが悪い。僕たちだって本当は待ってるつもりだったけど、彼女はドラゴンの力を使わずにちゃんと待っていたんだから。血も涙もないわけじゃないんだから、一緒に行ってあげたくなるよ!
「手なんか出してません。ちゃんと断ってます」
お風呂に一緒に入ったって聞いてるから、その話は信用できない。女の子と付き合ってるのに、別の女の子とお風呂に入るなんて……間違って子供ができたらどうするつもりなんだろう。
そこは本当に僕がお説教したい。
子供を育てるのは凄い大変なんだ。
シエルちゃんと一緒に生活してるとそれが分かる。
…………子供かあ。
いいなあ。
僕も子供とか持てるのかなあ。
違う! 今はそんなことを考えている場合じゃない!
「あのな……俺が助けなかったら本当に大変なことになってたって分かってるのか? 分かってないよな……」
何も言えなかった。
さっきみたいに怒られていたなら、まだ何か言い返せたかもしれない。
座り込んで溜息までついて、頭を抱えている。
加賀美さんは落ち込んでいた。
僕たちから信じて貰えてないって、悲しそうだった。
そんなことないって言おうとしたけど、実際僕たちは言いつけを破って──アリサちゃんに至っては約束を破っている。
正面から、堂々と顔を見ることができなかった。
気まずさに逃げ出したくなりそうな空気がしばらく続いて、アリサちゃんがまず口を開いた。
「……ごめんなさい」
アリサちゃんは待っている2週間の間ずっと、加賀美さんと会えなくなったらって不安そうにしていた。話すと笑顔で対応してくれるんだけど、どこか影があった。
僕たちではどうしようもない寂しさを隠そうとしているのがバレバレだった。
イルヴァン王国に行くのだって乗り気で、道中もずっと嬉しそうだったのに到着した途端酷い目に遭わされて……
「はあ……」
「っ……」
溜息。
頭の中をグルグルと闇が回り始める。
なんて謝ろうとか早く何か言わなきゃとか思いはしても、口を突いて出てくる言葉がなかった。余計なことを言わないように静かにしていたら、炎に照らされて揺れる影が目の前にやってきた。
「お前らは本当に叱り辛いというか……アリサも良い子ちゃんになったな」
「ヒロさん……」
「昔は人の食い物を盗むために店に凸して来たっていうのに……」
「そ、それは本当に最初の話でしょ! アレ以降はやってませんから!」
「うん、だから次はやらないって信じてるぞ」
「…………はい」
「良い子。……シエルも分かったか? いくら興味があるからって、やりたいことだけやってれば良いわけじゃないん──」
途端に押し寄せる罵倒。
外で見ていたドワーフのみんなも力を合わせて反論の嵐が加賀美さんを襲った。突っ込んで欲しいのかって言いたくなるくらいにツッコミどころしかない。
シエルちゃんにだけ向けて言っているのも謎だし、やりたい事だけやってるのは加賀美さんだ。
耳に指を突っ込んで聞こえないフリをするという、とんでもなく卑怯なことをやり出したから手を剥がそうとしたけど、力が強くてどうにもならない。
本当に卑怯だ。
ドワーフが解散して今度こそ僕たちだけになると、指耳栓をなくしてドヤ顔をした。
「ゴミ」
「ひどい」
シエルちゃんのストレートな悪口が刺さった。
「シエルは後でお尻ぺんぺんだな」
「え」
「……ごめん、何でもない」
いくら加賀美さんでもシエルちゃんのお尻を触らせるわけにはいかないし、アリサちゃんも冷たい目で立ち上がっている。
なんなら、武器を使ってでも止めるつもりだった。
「アリサだな」
「ええ〜まあいいですけど〜」
「良いですけどって……お仕置きなんですけども」
「へー」
アリサちゃんが舐めてかかる気持ちもわかる。
加賀美さんは相手が悪人であれば女の子であっても顔面を思いっきり殴ったりするらしいけど、今回はそういうのじゃない。
そもそも、何があったとしてもアリサちゃんの顔を殴るなんてあり得ない。
僕だって許さない。
お尻ぺんぺんだって、きった大した事ない。
「ご飯食べたーい」
「しょうがないな……じゃあ食べに──その前にちょっとだけ」
お話は終わりみたいで、『娘』と話している。改めて、あの子はイルヴァの牙の中に入ることができた。
ドラゴンも一緒にというわけにはいかなくて外で待機してもらってるけど、そもそもドラゴンが街の中にいる方がおかしいからそれで良いんだと思う。
さっきはちょっと怒っていたけど、今度は彼女の行動力を褒めていた。外に出てくるなんてやるじゃん、みたいなよく分からない褒め方だけど、褒められてる『娘』は満更でもなさそう。
どこに住んでいたんだろう。
少なくとも、僕たちが辿り着けるような場所じゃないのは間違いない。
「ねえ」
シエルちゃんに付いていく。
すごく深刻そうな顔をしていた。
その話の内容は当然──
「加賀美さんがシエルちゃんの事をエルフだって知ってた事だよね」
「なんでだろ」
「なんでだろうね」
分かっていたって、加賀美さんは確かにそう言っていた。知らされてはいないけど分かっていた。
じゃあ、学校で習ったって事?
「それはない」
「……だよね」
学校で習ってるなら、エリュシアの人たちの事を誰も知らないわけがない。アリサちゃんだって知らなかったんだ。
「聞くしかないかな……」
ここまで来たら、そうするしか──
「──何を?」
「わひゃあ!?」
ヌッ……て現れた加賀美さんは、周囲の火に照らされて影が濃く現れていてあまりにも怖かった。シエルちゃんと思わず抱き合ってしまうほどには。
普通に驚いたのもある。
「おおう、乙女だな2人とも」
「なに」
「何って……俺の話してたから」
「…………」
「エルフの話だろ?」
「!」
「みなまで言わずともわかる」
シエルちゃんは冷静に話ができなさそうだったので、肩を叩いてチェンジした。後ろから加賀美さんに向けて良くない視線を向けてるのが肩越しでもわかるけど、それはいつもの事だ。
「エルフだって分かってた理由が知りたいんだな?」
「はい」
「本で読んだことがあるんだよ。エルフは耳が長くて、金髪で、美人で弓が上手いって」
「…………シエルちゃんだ」
「だろ?」
「どこでそんな本見つけたんですか」
「旅の商人が持ってたの勝手に読んだ」
「ええ〜……」
ズルい気がした。
それってつまり、シエルちゃんに出会うずっと前からエルフの知識があったってことじゃん。
何で最初に言わなかったんだろう。
「耳が尖ってて目が綺麗で金髪で顔が綺麗なくらいで騒ぐ必要ないじゃん。アリサなんかこんなに可愛い猫耳と尻尾が生えててニャーニャー鳴くんだぞ! こっちの方が大問題だろ!」
加賀美さんの前だけじゃなかろうか。
「何で言っちゃうの! ばか!」
顔を真っ赤にして加賀美さんの胸板をポカポカ叩いていた。
「ま、まあそういうわけだから……」
エリュシオン──エルフが僕たちの敵だって分かってからも黙ってた理由が知りたかった。エルフだって分かってたなら、その時点で言えたはずだ。
あれだけ忌み嫌っていたエリュシア。その仲間であるシエルちゃんを殺すことだって出来たはずだ。
それなのに、前と変わらず接している。
「俺は森と木は別で考えるタイプでな」
また小難しい事を言って誤魔化そうとしている。
「おっと、誤魔化そうとしてないからな。エリュシアは間違いなく害悪だぞ? 俺たちが出会った奴らの
思い出すのは、やはりあの日のこと。
シエルちゃんが全てを打ち明けてくれた。
恐怖を振り払って、命を掛けて僕に伝えてくれた。
死ぬとしても2人で──そう思って、結局加賀美さんが審問官を。
……あの時、加賀美さんはエルフと戦っているって分かってた?
「あの日、実はお前らを追いかけた」
苦笑していた。
「心配だったからな」
それは心からの言葉なのかもしれない。
だけど尚更不思議なことがあった。
「それなら、あの時……僕たちの話を聞いてたんですか?」
「うんにゃ」
「…………な、なんで?」
「大事な話してたんだろ」
「──」
「それに話聞くどころでも無かったからな。モンスターはやってくるし、途中であの二人組はやってくるし」
「……それって!」
シエルちゃんが言っていた上級審問官だ。
「相変わらず何言ってたか分からんかったけど……性懲りもねえ奴らだったな。シエルはエリュシアの奴らのこと知ってたってんなら……あいつら、もしかして知り合い?」
シエルちゃんが背中から出て来た。
「……ちょっとだけ」
「そっか」
止めようとしたけど、シエルちゃんに逆に止められた。
自分でやるって目が言っている。
加賀美さんはシエルちゃんの覚悟の決まった顔を見て、困ったように頭を掻いた
「そんな顔しなくても……やっぱ信用ねえな」
「なんで、私を殺さなかったの」
「殺す、ね」
「敵だって分かってたんでしょ?」
止める暇もなかった。
それを口にしてしまえば。
はっきりと形にしてしまえば。
これまでは有耶無耶になっていたかもしれないことを、加賀美さんが名付けてしまえば。
終わりかもしれないのに。
加賀美さんは真剣な顔で応じた
さっきまでの軽い雰囲気は、霧と同じように散ってなくなってしまった。
あのベッドの上で、腕を失くした僕に問いを投げかけて来た時と一緒だった。
「──確かに、価値観の違いは致命的だ」
シエルちゃんの顔が強張った。
多分僕も、同じように強張っていることだろう。
「肉の焼き方でさえ、人によってこだわりがある。信仰ともなれば他者の介入する余地はほぼない」
僕たちに座るよう差し示して、自分も地面に腰を落とす。
「エリュシオンという信仰はつまるところ、第一期の世界に対する否定だ」
探索者の否定。
自然の賛美。
蒼連郷という場所の在り方を否定していたそれが、かつて存在したっていう超文明に対する否定にもなり得る。
加賀美さんは、それを受け入れられないと首を振っていた。
「あなたは……最初からエリュシオンのことが嫌いだった。それはどうして?」
「あれが民衆を扇動する初歩的な手口だからだ」
「それが嫌いなの?」
「蒼連郷は厳しいところだけど……民衆を完全に切り捨てているわけじゃない。やや歪でも、探索者というシステムが人々と政治を繋いで成立している」
「…………う、ん」
もう難しい。
シエルちゃんもなんとか付いて行こうとしていたけど、ちょっとだけ詰まっていた。
「…………もう少しわかりやすくしたほうがいいな。つまり──今の蒼連郷は国家運営という点から考えると、100点じゃないけど及第点は取れるんだ。だってそうだろ? 俺たちはここで生活しているけど、何事もなければ──俺に付いて来さえしなければ、これからも同じように生きていけるだろ?」
「うん」
「……素直だな」
「私、別にエリュシオンの考え方好きじゃないし」
「あらそう。それでエリュシオンの考え方は──」
「今あるものを全部捨てて、木々と一緒に暮らしましょう」
「そういうこと」
今あるものを全部捨てて──どれの事だろう。
「全部だ。家も武器も力も列車も、旧人類が遺したものを全て捨て去れって言っているんだ」
「……街もですか?」
「そうかもな」
だから、と加賀美さんは威嚇するような顔をした。
獣が牙を剥き出しにしているような、恐ろしい気配を漂わせて遠くを睨む。
「奴らは俺たちの敵なんだ」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない