【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
エリュシオンは敵。
上級審問官を容赦なくバラバラにしたように、きっと加賀美さんはこれからもエリュシオンを殺し続ける。
僕には理解できない怒りを携えて。
イルヴァン王国のドワーフにすら手を下さなかった加賀美さんが、自らの全身全霊を持って抹殺する。
それは恐ろしいことだ。
多分、抗いようのないことだ。
僕たちがやめてと言っても、やめない筈だ。
だとするなら、エリュシオンの仲間だったシエルちゃんは?
この場であの剣を振り抜くの?
「…………そうだな三船君、そういう道もあった」
指先から、細くて鋭い針先のような殺意が漏れ出ている。シエルちゃんの顔から、一気に血の気が引いた。
受け止めきれずにえずく。
僕も崩れ落ちそうになる。
それでも、睨み返した。
今、この時だけは負けられない。
「そう、その道だ」
「ヒロさん……でも……違いますよね?」
「……どうなんだ?」
シエルちゃんが、苦しそうにしながら顔を上げた。
今にも吐きそうで、これ以上追い詰めないであげてと言いたい。でも、逃げたらここから先はない。
「私は……レイトの味方」
なんて馬鹿なことを。
もっとマシな答えがあったはずだ。
加賀美さんの敵じゃないとか、蒼連郷の味方だとか、そういう事を言えたはずだ。
なんで僕なんかの──
「だって、レイトはリーダーだから」
「……なるほど」
「あなたこそ、レイトの敵になることはないんだよね」
「それは俺じゃなくて三船君に聞いてくれ」
2人の視線が集まった。
加賀美さんの敵になるなんてありえないし、そんな度胸はない。一生懸命に首を振ると、シエルちゃんが優しく微笑んだ。
「そういうわけだから」
「……いいパーティーだな」
「うん」
「羨ましい限りだよ、そういうの」
なんでも出来るように見える加賀美さんが、僕たちに対して羨ましいって思うことがあるんだ。
「三船君は俺のことを誤解しているみたいだけど……俺は敵なら誰でも殺すわけじゃないよ」
「それ……は……」
「そもそも、人を殺しちゃダメだろ」
「……はい」
「敵でも説得できるならそれでいい。実際はそんな甘くないけど……あの二人組だって、一応説得しようとしたんだぞ。やっぱりダメでした、ってだけ」
パチンと、大きく手を叩いた。
弾けた空気がゆらゆらと、火事場から流れてきた煙に紛れる。
「はい! この話終わり! とにかく、三船君が心配してるみたいなことはないから!」
人の家の裏でずっと話していたせいで、道に戻ると住人のおばさんがすごく怒っていた。
みんなでごめんなさいをして、お詫びに知り合いの家に荷物を届ける事に。知り合いのドワーフに荷物を届けると、お礼にってご飯を食べさせてくれたから結果的に良かったのかもしれない。
その後はのんびりした。
本当に、久しぶりに何もしなかった。
シエルちゃんと一緒に、ハシュアーのお家の前でロッキングチェアーに座ってボーッとしているだけ。
ハシュアーのお父さんが作ってくれた。
『いつまでもいていいからね!』
ハシュアーのお母さんは優しくて、テーブルまで作ってそこに飲み物とお菓子を置いてくれている。
それを少しずつ食べながら上を見ていると、揺れが空洞を襲った。
たまに起きるようで、加賀美さんはいくつか理由はありそうだって言っていた。不安にさせたくないから言わないとも。
知らない方が不安になるんじゃないかなあって思ったけど、全然教えてくれない。
ケチ。
ドラゴンは二頭いた。
加賀美さんたちを連れて行った子と、僕たちを乗せてくれたナイトドラゴン君。
加賀美さんを載せて行った子は外で自由に過ごしていたらしい。あの大穴の前で一旦解散したから地下には捕まっていなかったんだって。
普通に考えて人様の家にドラゴンを連れ込めるわけないよなって……それはそうなんだけど、ドワーフたちがあんなに敵対してくるなんてわからないじゃん。
最初っから戦争してて危ないぞって言ってた? ……もう疲れたから知らない!
加賀美さんは、偶にやってきて話を振ってくるけど長居はしなかった。来る時は必ず何かの荷物を配達中なのと、一緒に子供達がいる。
見た目は威圧感あるけど、優しいから子供達もそれが分かったのかもしれない。
遊具代わりにしている。
ついでにアリサちゃんも引っ付いているので、2人の子供みたいだ。
でも、僕たちだって本当に椅子に座っているだけじゃない。ハシュアーのお家の仕事を手伝ったり、アルスさんやアリアちゃんと話したり、なんだかんだで色々やっていた。
ハシュアーの暴走の正体もイルファーレ様には分かっていたようで、アリアちゃんを通じてその話をした。
イルファーレ様は神様なのにコマちゃんみたいに恐ろしくない。それに、僕たちみたいなただのヒューマンに対しても鍛治のやりかたを優しく教えてくれた。
そのおかげで少しだけ鉄の扱い方がわかってきて、武器の研ぎ方も加賀美さんよりは全然マシになった。
イルファーレ様はフレンドリーなんだけど、加賀美さんとはあんまり話したがらない。アリアちゃんの身体に顕現しても、加賀美さんが来ると僕の後ろに隠れちゃうんだ。
加賀美さんは何となくそれが分かってるみたいで、遠くからニョキって顔だけ出して僕たちを見てることが多い。
何がそんなに怖いのか聞いてみたら、僕たち──ヒューマンやドワーフには分からない事だって。
それと、イルファーレ様から謝られた。
同胞が傷つけてごめんなさいって。
イルファーレ様は何も悪くないんだから、謝る必要なんかどこにもない。
むしろ、勝手に来た僕たちを受け入れてくれて感謝している。
分霊として、本体が失礼な事を働いた事を詫びますって……すごく律儀だった。
加賀美さんもその話を聞いて呆れていた。
バカがつくほど真面目だって。
それと同時に妙な顔も。
そんな真面目なやつの本体が、来客への狼藉を見逃すなんて違和感しかねえぞ! らしい。
言われてみれば、確かに変だ。
加賀美さんがドワーフの強そうな人を打ちのめした時、イルファーレ様に助けを求めたけどやってこなかった。イルファーレ様は、自分がその場にいたら恥ずかしくて顔が出せないと言っている。
民衆をまとめ切る力がないのに神を名乗るのは、神様的に恥ずかしい事らしい。
それをフォローしたのは加賀美さんだった。
人の──特に、民衆のコントロールを行うのは事前に緻密な計算を起こっていないと不可能で、力を振るっているだけの神様では一時的な制御が限界だろうって。
……フォローだよね?
自分ならどうしたんだってイルファーレ様が加賀美さんに食ってかかると、何か目標を定めるしかないらしい。それも、外敵として何かを認定してそこに怒りを逸らすことが限界で……そうじゃなきゃ、恐怖でコントロールする事になるから関係性ももっと酷いことになるって、真剣に教えていた。
まるで見てきたみたいな言い方だ。
パンと水とサーカスは統治に不可欠。
ただ生かすだけならパンと水の二つでもいいけど、統治を行うなら三つ。
それも悪感情が無いときの話で、今のイルヴァン王国みたいになってしまったら善性じゃどうしようもない。求められてるのは善悪じゃなくて圧倒的な
『私はカリスマあります』
すごい不満そうに反論していた。
でも、子供の癇癪じゃない。
僕だってイルファーレ様のカリスマはすごいと思う。
ハシュアーやアルスさん、ヴォルフガングさん達ドワーフはみんな、イルファーレ様の事を尊敬している。
それに僕だってイルファーレ様が好きだ。
嫌いになる理由がない。
加賀美さんは…………どうなんだろう、神様を殺す事を目標として掲げていたけど。
『…………!』
その話をすると、イルファーレ様は途端にアリアちゃんと入れ替わった。逃げたとも言う。
だけどイルファーレ様がアリアちゃんに憑依している時特有の変な空気は感じるので、こっそり見ているんだと思う。
加賀美さんもそれが分かっているからか、真面目に答えてくれた。
「冗談にならないからハッキリしておくけど、流石の俺も真面目に統治やってる人──ヒト……神様は殺さないから」
イルファーレ様は真面目にやってるから見逃してやるよって、すごい上から目線だった。
加賀美さんって、探索者の中だと言葉遣いが1番ぐらいに丁寧なのに考え方がすごい傲慢な時がある。
「俺の夢が人の命より重いとは思ってないよ」
「自分の命よりは重いんだ?」
アリサちゃんは加賀美さんのことをよく分かっていた。
首元まで詰め寄って、ジトーって見つめている。
お怒りだ。
「ほら、そこは昔から一貫してるから。みんな知ってるだろ?」
「だから信用できないの!」
「悲しい……俺の知り合い、みんな俺のこと信じてくれないんだ……」
「自分がどれだけやらかしてるか、ちゃんと思い返して反省してください」
でも、イルファーレ様を殺す方法なんてあるのだろうか。ヒナタさんと早苗さんは神様が殺されるところを見たらしいけど、それはコマちゃんがやったことだ。
実際に殺すってなったら、加賀美さん1人で……?
何か策があるのかな。
聞きたくないけど知りたい。
「話が逸れたな……ただ統治する事にカリスマなんていらないよ。必要なものを必要なだけ渡せば、それで人はついてくる」
ドワーフが単純って事だろうか。
アリアちゃんも聞こえていたのか、憑依を貫通してムッてしている。
「それ、被害妄想だぞ」
とにかく、加賀美さんがドワーフ達と本格的に敵対することは避けられた。
僕たちも加賀美さんに殺されずに済んだ。
『娘』と合流できた。
新しい武器を手に入れた。
イルヴァの牙に行った意味はちゃんとあったんだ。
──空を覆う
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない