【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

516 / 571
41_焼き尽くす光

 

 駆け込んできたドワーフの報せが耳に入るのと、アリアに降臨してレイトと話していたイルファーレが気付くのは同時だった。

 とてつもない悪寒に身を包まれて震える少女。

 彼女を抱きしめたレイトは、外から駆け込んできたドワーフが走りながら口にした言葉に最初、耳を疑った。

 

『空が! みんな、大変だ!』

 

 空が大変。

 その言葉に最も敏感に反応したのは『娘』だ。

 何せ彼女の兄弟が外にいる。

 通常性能の目には収まらない速さで動き出して、危ないからとアキヒロに止められた。

 

 改めて、皆で駆け足で外に出る。

 

「なに……これ……」

 

 (あか)

 (あか)

 (あか)

 (あか)

 (あか)

 (あか)

 

 少年は呆然と呟く。

 空が染まっているのは夕焼けの赤ではなかった。

 もっと破滅的で恐ろしい、何かどうしようもないことが起こっている色だった。

 イルファーレの守護能力をもってしても貫通するこの色が、外の世界に対してどれほどの悪性を持っているのか。誰にも図ることはできなかった。

 

 ドロドロとしているが、溶岩のそれよりも余程血に近い赤。

 粘性すら帯びているように見えるそれは、いつ垂れ下がってきて世界を焼き尽くしてもおかしくはないだろう。

 

「火? それとも……溶岩?」

 

 レイトは、無意識に答えを求めた。

 同じように空を見上げていた彼に。

 

「分からない。火事が映っているにしては、雲そのものが赤すぎるような気がするし……太陽も見えない。動きも変だ」

 

「──あれはレーヴァテイン」

 

「え?」

 

「使者の杖レーヴァテイン。降伏目的で放たれる加護の一撃。でも……なんで……」

 

「戦略級の兵器ってことか!?」

 

「……焼き尽くす力。私が見たことあるのは小規模な発動しかないけど……こんな大掛かりな……」

 

 もはや、とどまっていられるわけもない。

 大事な人たちの安否を確かめるために急行した。

 特別なブリンクによって一瞬でセクターの地下に戻ることができたが、外に出るとやはり空はあのままだ。

 

 レイト達は急いで自分の家へ。

 アリサとアキヒロは家族の安否を確かめる。

 一体何が起こったのか、あの不吉な赤によって良くないことが起こっているのではないか。

 

『アキヒロ! はぁ……エリック! アキヒロ無事だった!』

 

「何があったんだ? みんなは? アカネは無事なのか?」

 

『大変なんだよ! 掃除してたらいきなり霧が赤くなって、空も真っ赤に……隣の奥さんもパニックで、なんなのこれ!』

 

 埒が開かない。

 替わるように言うと、向こうで何やらゴソゴソと物音が聞こえた後に再び声が聞こえた。

 先ほどよりも低い。

 

『やあアキヒロ、無事だったんだね』

 

「父さんも」

 

『うん、こっちは3人とも無事さ。そっちはアリサちゃんも一緒にいるんだろう? どうなんだい』

 

「一応、今のところは大丈夫だけど……父さん、これが何かわかるか?」

 

『分からない。でも、終末って感じだね』

 

「…………うん」

 

 空は先ほどよりも粘性を強め、それこそ粘液のような挙動で空にへばりついている。今すぐ垂れておかしくない。

 

『とにかく、一度帰ってきてくれないか?』

 

「……わかった」

 

 エリックから初めてされた、帰宅の催促。

 従うほかない──というよりもアキヒロ自身が彼らの無事を直接確かめたかった。

 彼らだけではない。

 他にも大切な人はいる。

 

「ヒナタ!」

 

 もはや恒例の行事に近い、遠征帰宅後の大声。

 しかし仕方あるまい。

 普段の日向に対するイメージといえば、高校生の時からまるで変わっていないのだから。

 隙あらば授業を抜け出そうとしていた不良女子は、もしかしたらこんな時でも外にいるかもしれない。

 そんな不安が拭えなかった。

 

「いるよ」

 

「ああ、良かった!」

 

 板間が軋むことも気にせず駆け寄ると、女子にしては比較的背のある彼女を強く抱きしめた。

 

「暑苦しいな……」

 

 口ではうざったそうにしながら、得意げに腕を回す。

 視線の先は後ろからやってきたアリサだ。

 

「へっ、お前も生きてたんだな」

 

「んーまっ! んーまっ!」

 

 憎まれ口を叩いていることなど気にせず、頬や額に連続でキスを浴びせる。女としてというよりもペットに対するそれのようで、だんだんヒナタの眉間に皺が寄り始めた。

 

「おい、私はコマちゃんじゃないぞ」

 

「ん〜……良い匂いだなあヒナタちゃん!」

 

「おい!」

 

「早苗ちゃーん!」

 

「…………おい!!」

 

 満足するだけ満足したら、1番大事なところにだけはキスせずに早苗を探し始めた。頭にウジが湧いているのかもしれない。

 そんなアキヒロを蹴り殺すために追いかけていく。

 

「…………」

 

 アリサは、マジマジと山田家の玄関を見回した。

 追いかけるよりもそちらを選んだのは、なかなか来る機会がないからだ。

 姉? である早苗はともかく、日向に関しては個人的にもアキヒロ関係的にもウマが合わない。

 そんな相手と出くわす可能性が極大の家にわざわざ来るわけがない。こういう機会でもない限りは。

 

 女としてあんなガサツな奴に負けるわけがない──と信じているアリサだが、アキヒロはそういう序列付けをしないのでマウントも取りづらい。

 強いて言うならミツキがやや優勢というのは、アリサ・ヒナタに共通した見解だ。

 そんな微妙な関係ではあるものの、こんな近くに住んでいるのを見ると思うところはある。

 

「私も引っ越そうかなあ……良いよね、別に」

 

 何せ、通っている大学は一緒で付き合っているのだ。

 むしろこれで同棲していないのがおかしい。

 ミツキは親の七光りパワーで物件を借りているため、そちらに住むという事でいいのだが、アリサはそうではない。

 両親の負担を減らすためにも、少し寂しいが勇気を出して家からこっちに引っ越す気分がひしひしと湧いてきた。

 

「あとでヒロさんに言おう、うん」

 

 基本的には事後承諾。

 上目遣いで大抵は突破できるし、理屈も通っている。

 ダンジョンに同行する時も同じ場所から出発すれば色々やりやすい。

 それに、他にもヤリやすくなることがあるのは間違いない。

 説得材料しかなかった。

 

「はー……早苗ちゃんは太陽の匂いだな!」

 

 アリサの目は死んだ。

 なんと輝かしい笑顔か。

 先程までの必死な顔はこの為だったのか。

 自分よりも遥かに幼い少女(自称成人)の手を握っている。少女は少女で恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうにそれを受け入れていた。

 

「良かった良かった!」

 

「…………」

 

 少女の顔には似つかわしくない色気を帯びた瞳が、彼の横顔をこっそりと見つめている。口元は波立つのを堪えているのがバレバレで、握っているのとは反対の手が自分の服を掴んで緊張を隠していた。

 

「よし、2人の無事を確かめたから……手鞠さんだな」

 

 手鞠はベッドから起きていた。

 空の赤さに視線をとらわれ、両手を強く握りしめて緩まない。

 

「手鞠さん、お身体は大丈夫ですか」

 

「……ええ」

 

 ご飯も食べているようだ。

 顔付きもグッとして、以前よりは少しだけマシのように見える。それとも、異変によって彼女の責任感が刺激されたか。

 

「今は、外には出ないようにお願いします」

 

「…………分かってる」

 

 極めて事務的なやり取りをした後、アキヒロは安堵の表情で部屋の外に出た。

 理由はともかく、彼女が少しだけでも起き上がるようになったのは良い事だ。

 

「早苗ちゃん、ヒナタ……ありがとう、あの人の世話をしてくれて」

 

 改めて理解する。

 2人がいる事で、なんと助けられたか。

 自分勝手な理由で、自分勝手な理屈で引き受けた彼女の世話を、何とかできるなどとタカを括っていた。しかし、蓋を開けてみれば──彼には絶対に不可能な事だった。

 家政婦でも何でもない2人の好意に甘えて、助けられている。そのことを強く実感したが故に、また2人を抱きしめた。

 

「いいんだよ〜」

 

「だから言ってんだろ、お前じゃ無理なんだって」

 

 軽口で返してくれるのが、また救いだった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

  • いる
  • いらない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。