【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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42_無事は無事だけど

 

「うわーん! もうどうしようもないよお!」

 

 看板娘が、受付に突っ伏して仕事を放棄している。

 悲壮感に満ちているが、その泣き顔を見て探索者たちは酒を飲んでいた。

 塩辛いものは酒のツマミになるものだ。

 

「私は終わりなんだ! 彼氏もできず! お母さん達の死に目にも会えず! ここで1人で死ぬんだあ! うわあああ!」

 

 なんなら彼女自身の顔が赤い。近寄ってみるとわかるが、かんせまんに酔っていた。

 周りの職員は忙しなく駆け回っているが、彼女には話しかけないでいいのか。

 そんな疑問は当然浮かぶものだ。

 

「あ! 浮気性の男が来た!」

 

 最悪の出だしで迎えた彼女に対して、アキヒロは無視しようか悩む。しかしそれではここにやってきた意味がない。

 彼女だけではないが、彼女の安否確認も用事には含まれていた。

 

 それはそれとして入門編から。

 

「ディーン」

 

「んだよ」

 

「ディ〜〜ン」

 

「なんだよ!」

 

 若い子にウザ絡みするの楽しい……楽しくない? 

 楽しいに決まっている。

 だから、アキヒロがディーンにそういう絡み方をするのも当然だった。

 

「今日は探索やめとけよ」

 

「そんな思い付きで探索行かねーよ! お前じゃねえんだから!」

 

「俺も思い付きじゃないけど」

 

「大学の帰りに寄ってダンジョンに行く奴がどこにいるんだよ!」

 

「あんまり大声出すなよ。迷惑だぞ」

 

「このっ!」

 

 落ち着いて、と宥める少女達。

 酒池肉林を体現しているかのように、彼にひっついていた。気持ちを落ち着かせようとしているのかもしれないが、見ている側としてはたまったものではない。

 特に受付から酒場全体を睨み回していたナナオはガニ股でやってきた。

 

「やい! 私にイチャイチャを見せつけないでよね!」

 

 やい。

 とてもヤカラを感じる物言いだが、彼女は涙ぐんでいた。本当は自分だって良い男を見つけたい。

 色んなことをしたかったのに、そんな青春にはありつけなかった。

 

 理想ばかり高くなる日々。

 自分磨きは怠っていないのに、どうしてここまで周りと差がついたのか。

 毎日思い返して、悩んで、合コンにも出てみるけど。イメージ通りの人は見つからなかった。

 若い男は金がないし落ち着きがない。

 年取った男は金以外の魅力がない。

 探索者は若い見た目の金持ちは多いけど、女遊びがひどくて話にならない。

 

「なんで……どうして……この世界が悪いの? そうだよね? だから滅びるんだよね?」

 

「この人何とかしてくれ」

 

「ディーン君……」

 

「な、なんだよ」

 

「私はどう?」

 

「……どうとは」

 

 3人からのプレッシャーを浴びながら、何とか絞り出す。

 

「私は可愛いよね」

 

「……ええ、まあ」

 

 職員の中では1番モテているだけのことはあり、容姿は確かに伴っている。二十数歳ということで周りにいる少女達より少し歳はいっているが、成熟した美しさというものが彼女にはあった。

 

 しかし、アンチエイジングという概念の存在しない──単純に技術が失われたことを意味している──世界だ。

 20歳を超えればどんどんと年をとっていく。

 美しさを担保する最大のものは若さだ。年月を経れば見た目もすぐにおばさんとなり、彼女は真に恐れる状態になるだろう。

 

「どう?」

 

 故に彼女の真剣さを笑ってはいけないのだ。

 特に、うまくいっている女であれば尚更。

 しかし、そこは探索者。

 自分の男にちょっかいをかけている女を前にしてただ黙っているわけもない。

 

「おばさんはあっちいってよ」

 

「私はまだ若いですー。24ですー」

 

「ディーン17歳だよ。ナナオさんが20の時、まだディーンは13だよ」

 

「ぅ…………アキヒロくーん!」

 

 見つかったあ。

 隣の席に移動して知らんぷりをしていたが、すでに気付かれていたようだ。

 

「あの子がいじめる!」

 

「ははは」

 

 アリサもいる手前、下手なことはできない。

 

「ほら、だから言ったじゃないですか。大学生紹介しようかって」

 

「うう……大学生……」

 

「そもそも白馬の王子様なんて居ないんですからどこかで妥協してかないといけないんですよ」

 

 モテたいなら共感すれば良いが、彼は正論をぶちまける事を選んだ。

 彼女の周りには、アキヒロから見てマトモな人間は少ないが彼女も人にとやかく言えるほどマトモではないのでお似合いだった。

 それこそレイジは年齢と行動だけ見れば風俗ハマりの中年だが、所帯を持てば一気にしっかりするタイプだとアキヒロは睨んでいた。

 

 試しに勧めてみる。

 

「いやだ! いやだ! 不潔! 普通にキモい! ああいうのが1番嫌だ!」

 

 嫌悪感はどうしようもない。

 諦めよう。

 酒を飲んでいてそこまで嫌がるのだから、普段からそう思っているのだろう。

 

「そういえば、俺が出かけてる時ってエリュシオンの連中は大人しかったんですか?」

 

「大人しくないよお……他のセクターでも色々問題起こして……誘拐とか強盗とか……」

 

「それはエリュシオンの連中が? 迎合した市民が?」

 

「どっちも。レベルが低い探索者しかいないところは本当に大変だって…………だから、高位探索者は結構駆り出されてるらしいよ」

 

 数ヶ月前までの平穏な日常は既に消失していた。

 彼がダンジョン探索及び世界探訪に明け暮れている間にもエリュシオンは勢力拡大を図り、多くの犠牲が出ている。

 エリュシオンに対して、街からの追放という優しい策ではなく、見つけ次第抹殺という作戦が取られるほどにり

 

 また、エリュシオンの意見に賛同している市民に対しては拘束。何かしらの事件を起こしている場面に出会した場合、対応している人間は彼らの殺害まで許可されていた。

 

「物騒だな」

 

 アキヒロは顔を顰める。

 警察組織が正式にはなく、治安維持を探索者に対する指揮命令権という形で担保している以上は、細かい指示を出せるはずもない。

 仕方ないことだ。何せここは法治国家ではないのだから。

 

「そのうちアキヒロ君も駆り出されるかもね〜……やだやだ」

 

 友人が危ない場所に行くのを忌避する感情を、彼女も持ち合わせていた。

 

「それで済めば良いけどな」

 

「どーゆーこと?」

 

「高位探索者だけじゃ手が回らなくなる時も来る。そうしたらアリサみたいな低レベルの探索者まで、なんて可能性もあるだろ」

 

「…………?」

 

 酔いの回った頭では理解しきれなかったらしく、首を傾げている。口がよく回るようになるだけで、頭の回転は鈍るのが酒だ。

 

「──寂しい街になったな」

 

 商工会の周囲が最も賑わう地域であるのに、雑踏は外になく静けさに囲まれている。うるさいのは酒場にいる探索者達だけで、それもいつもに比べると大人しさを表出させていた。

 

 探索者達のうちの数パーティーは、例の審問官の襲撃の件にてアキヒロ(レベル50以上の探索者)が致命傷を負っていたということに衝撃を受けて出奔してしまったのだ。

 

「信じてなかったのにね……」

 

「信じたいものを信じれば良いんです」

 

「そういうのきらーい」

 

 アオイの家にハシュアーが向かっていたという事実が分かったので、商工会への用事は無くなった。

 となればあとは確認するべき相手もいくつか。

 

「──加賀美君!?」

 

 突然に押し掛けたのはアリサの実家。

 列車が鈍行という事で、セクター郊外からドラゴンで時短をしたというわけだ。

 もちろんアリサも一緒にいる。

 

「急だね……いや、そうでもないか」

 

 空を見れば、何が起こってもおかしくない事は誰にだってわかる。見られる顔は、今のうちに全て見ておこうと誰だって思うだろう。

 

「アリサ、無事だったね」

 

「うん」

 

「さあ中に入って」

 

 彼女の父母はしっかりと揃っていた。

 こんな状況では下手に仕事にだって行けない。

 

「お土産も持ってこられずに申し訳ありません」

 

「はは。いつだって顔を見られれば十分さ」

 

「助かります」

 

 軽い世間話が済めば、あとは真面目。

 空のこともそうだがアキヒロが大怪我をしたという話は彼らも聞き及んでいた。

 

「アキヒロくん、大丈夫だったの?」

 

「5体満足です」

 

 人間との戦闘によるものだというところまではアリサも伝えていない。あくまでダンジョンによるものという体で話が進んでいく。

 

「大怪我……そろそろ、どうなんだい?」

 

「え?」

 

 発言の趣旨が読めず、首を捻る。

 

「その……ほら…………た、探索者も良いかもしれないけど! ……なあ!?」

 

「え、ええ! そうね! そろそろ……かなあ〜なんて? お母さんは思ったりするんだけど……」

 

 夫婦揃って何か言い辛そうにしている。

 しかし、明言しない。

 なにか良くない事があるのかと勘繰るも、思い当たる節がまるでなかった。

 そろそろとは。

 

「アリサ、わかるか?」

 

「ぴゃっ!?」

 

「…………え?」

 

 聞き慣れない素っ頓狂な声に思考がフリーズする。

 その赤まった顔を見てアキヒロは驚愕していた。

 

 ──このタイミングでその話を!? 

 

「どどどどうなんだい!? そろそろ……そろそろ良いんじゃないかな?!」

 

 それを聞いてアキヒロは考えた。

 

 確かにこの世界の平均寿命を考えると早いに越した事はない。それに自分は探索者だ。いつ死んでもおかしくない人間が相手だとすると、親の立場からすれば早く孫が見ておきたいというのも共感できる。

 結論を言えば、そろそろ、というのは何も間違っていない。

 

 しかし、アリサは顔を真っ赤にしながらこう答えた。

 

「ヒ、ヒロさんはやる事あるんだから! 余計な事考えさせちゃダメ!」

 

「…………!」

 

 更なる驚き。

 まさか、アリサがそこまで自分のことを理解していたとは彼にも認識できていなかった。それは嬉しい話だが、だからこそ不誠実な話でもある。

 

「だ、だけどアリサの高校のお友達はみんな結婚してるじゃないか……」

 

「それは……とにかく私はまだいいの!」

 

 アリサの部屋で2人きりになって、アキヒロは堪えきれなかった。

 

「ごめん」

 

 細身の引き締まった体を抱き締めて、万感の思いで言葉を吐き出す。あまりにもワガママで、あまりにもどうしようもない自分のことを好いてくれる、そんな彼女が愛おしくて仕方がなかったのだ。

 

 アリサは腕の中でモゾモゾと動きつつ、尻尾を腕に絡ませる。むふーと鼻息を大きくして、得意げな笑みだ。

 

「私がヒロさんのことを1番分かってるんですから!」

 

「そうだな……」

 

「むふふ」

 

 マウントポジションを取るための素材がまた一つ増えたことに喜びつつ、念押しをする。

 

「でも……あんまり待たせちゃヤ、ですよ?」

 

「──ああ!」

 

 さて、一晩過ごした後は次だ。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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