【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「久しぶり」
穏やかな笑みでアキヒロを迎えたエリック。
しかし、母親はそうもいかない。
息子が無事に家まで辿り着いたことに安心して気を失ってしまった。彼女をベッドまで運んで、首を回す。
エリックやアケミのように自分を待っていない人物がいたからだ。
「アカネは?」
「部屋の中さ」
彼氏とは別れたらしい。
兄が探索者ということを聞いてバカにしたり、金があるならとタカってきたのだそうだ。
明宏は青春の酸いの部分を味わっている妹に頷きつつ、その彼氏の住んでいる場所を聞く。
「何をする気なのかな」
「何って……」
ニッコリと中指を突き立てた。
「君がやると洒落にならないから、やめなさい」
探索者が一般人を襲ったなどと、たとえ家族がらみのことだとしても醜聞にしかならない。それに、こういうことで傷つく経験も時には必要だとエリックは諌めた。
父親として多少思うところはあっても、そういう人間はいると分かりきっているようだ。
「仕方ない……」
エリックがそういうならばと矛を収めるが、アカネの様子を見ると布団の中に埋もれて山がぽっこりとできている。
初めて付き合えた男の子があんなんで、大きなショックを受けてしまったのだ。
かわいそうに、と飛び出ている髪を撫でて慰める。
『さわんな!』
ペシっと、傷心の乙女からのアグレッション。
どうやら彼女にとっては、空よりも失恋の方が大事らしい。
「良い男なんかいくらでもいるから、諦めんなよ」
『うるさい!』
くぐもった声は心底からイラついているようだった。
3人も彼女──しかも美人──を持っている奴に励まされても誰だって嬉しくないだろう。
気休めも気休めすぎる。
帰ってきたのにおかえりすらないことに対して説教しようと思っていたアキヒロも、ここまで拗ねていると気が変わる。
「今度、お兄ちゃんとデート行こうか」
『やだ』
「ほら、何か買いたい服とかあるんだろ?」
『……』
顔を出した。
金のかほりには抗えないようだ。
その彼氏とお似合いだったのでは……何てこと思ったりしないし、思っても口に出さないだけの分別を持った兄でよかったという話である。
新作のフーディーを買うという約束を取り付けると機嫌が少しだけ治って布団から這い出てくる。
髪がぐちゃぐちゃだ。
「お前さあ……家とはいえ、いつ男の子が来ても良いくらいにはしときなさいよ」
「うっさい。服のセンスないんだから黙っててよ」
「関係ないだろ」
「どいて」
お小遣いをもらうとき以外はこんなものだ。
アケミがいればキレて『お兄ちゃんに謝りなさい!』とまで言われるが、今は部屋で寝込んでいる。
「え、何で昼間から寝てんの?」
自分が先ほどまで何をしていたかを棚に上げての言い草。エリックにじっと見つめられてたじろぐ。
「う……お、おかえりなさい」
「ただいま」
家族四人揃い踏みというのもしばらくぶりだ。
大学生になってからますます金が集まるようになってますます活動的になったアキヒロは、家に帰る時間などないし昼間帰ったとしても大抵アカネはいない。
最近はエリックもどこかに行っていたので、大体は女二人だけの家となっていた。
「あのさー……お父さんもお兄ちゃんも留守にしすぎじゃない? お母さん寂しがってたよ?」
「はは! だから最近は可愛がってあげ──」
「聞きたくない! やだやだ!」
「そうかい……」
「お兄ちゃんは?」
アキヒロは首を振る。
「そもそも俺は違う家に住んでるから仕方ないだろ」
「それにしたって、だよ」
「忙しいの」
「もー……うちの男は何でこんなに自由人なのー……」
アカネのぼやきに、兄はドヤ顔で答える。
「父さんの遺伝だな」
「いいや、その理屈はおかしい。なぜなら僕は君みたいに危険に突っ込む性格はしていないからね」
「アカネ、逆に考えて欲しいんだけど……普通の男の子がこんな風に探索者になって危険なダンジョンに行く訳がないよな」
何が逆なのかは分からなかったが、とにかくアカネは頷いた。普通の男の子は探索者にならないからだ。
「俺、割と普通だよな」
頷くのと首を捻るの中間くらいでアカネは悩んだ。
格好も問題なく通える知性と理性を持ってはいるけど、ネジは飛んでいる。割と普通じゃない部類だった。
しかし、それを口に出せばお小遣いが減るやもしれない。
結局頷いた。
甲斐性なしの父親と、実質的に育ててくれた兄とでは好感度が違うのだ。
「ほら、そんな普通の俺が変だって思うところがあるとすれば父さんからの遺伝しかないだろ?」
「そもそも遺伝って何」
ピキリと二人の表情が凍りつく。
もはや誤魔化すにはやや遅かった。
勉強真っ盛りの彼女に嘘をつくのは厳しいところもある。
「そりゃあ…………な、なあ!? 父さん、あれだよなぁ!?」
「うっ……お……そ、そうだなあ! ははは!」
「ほら! 父さんも言ってるぞ!」
二人して狼狽しだす。
アカネはますます目を細めた。
「何隠してんの?」
「いや、アカネ……世の中には知らなくても良いことがあるから部屋に帰ってなさい」
「お母さんに言うよ!」
「アカネ」
「…………ハゲ!」
「は、禿げてないぞ! お父さん禿げてないからな! ……アキヒロ! そうだよね!?」
しかし、アキヒロは食材を漁っていた。
エリックのハゲは確定し、気を逸らしている間にアカネは再び自室へ戻っている。
異常事態ということを受けて全ての学校は一時休校だ。
アキヒロの通う大学も例外じゃなく、帰ってきてから知った。
「はあ……全く、言葉遣いは誰に似たんだか……」
「あの年頃だと、一番影響されるのは学校の友達だよ」
「なるほどね……よくないんじゃないか?」
「ハゲって言われたくらいで気にすんなよ。臭いが出てきたらいよいよなんだから」
そう言われて自分の体の匂いを嗅ぎ出すエリック。
20代の匂いだ。
ほっと胸を撫で下ろした。
「本当にまずい奴らと
「──いや、それは僕がやるよ。そうするべきだろう?」
「…………じゃあ任せるけど、本当にいける?」
「これでも少しは動けるからね」
そう言うが、アキヒロたちが生まれるよりも昔に遭遇したという事故の影響で左足が痺れている。左頬も痺れて上手く動かない。
あまりにも皮肉すぎた。
「僕だって、やる時はやるからね」
「そか」
「ところで……」
エリックが指差すのは天井。
しかし、その意味は天井にとどまらない。
もっと先、上にこそ彼の言いたい意味が示されているのだ。
「アレは良くないものだ」
「…………」
「見てるだけで嫌な気分になってくるね」
赤に包まれた不気味な空を指して眉を顰める。
しかしわざわざ言わずとも、ここしばらく状態が固定されている空にその感想を抱くのはありきたりに過ぎた。
「アレは通常発生しない雲だ。魔素が滞留したとしても紫に輝くだけで──だけと言うのは語弊があるけど、あんな風にはならない。それにグリーンウィンドが発生する状況とも違う」
「!」
「モンスターとも違う何かがやってきたんだ。例えば、別の国から敵が──なんてね」
言いながら薄く笑みを浮かべたエリックに、アキヒロは反応することも忘れて顔をじっと見つめた。
だが、笑みはすぐに消える。真面目な顔で、息子の肩に手を置いた。
「アキヒロ、無理はしないでくれ。たとえ何かに失敗しても、君ならば必ずやり直せる。だから……命を投げ出そうなんて考えるんじゃないぞ」
「…………」
「母さんたちが悲しむからね」
「父さんは?」
「怒るよ」
「…………勘弁してくれ」
アキヒロもお手上げだった。
世の中、財力が上回ろうと武力が優れようと、息子が父親に勝てる通りなどないのだ。
たとえ中身が妄執に駆られた耄碌ジジイだとしても。
「全く……不思議な人だ」
「君には負けるさ」
父と息子の会話には思えない仰々しさ。
だが、それがこの二人の間にある絆の形だった。
揃って肩をすくめ、そんなところが似通っているという事実に身をゆする。
「ところでアキヒロ、最近はミツキちゃん達とはどうなんだい?」
「それ今聞く?」
「いやいや、他にいつ聞くんだよ。孕ませた?」
「あのさ……」
「真面目な話じゃん。僕もそろそろ孫を抱きたいというか……だって3人でしょ? もう、パコパコ?」
「ぶっ!」
「若いって良いねえ」
自分もアキヒロと大して見た目は変わらないくせに、そんな事を言う男がいた。
「僕の予想はね、やっぱりミツキちゃんが1番かなって」
「なんで?」
「あの子が1番普通だから」
「…………」
理屈は分からないが、何となく言いたいことは理解できた。しかし賛同はしない。
「というか、隠してるだけで実はもう……とか?」
「いや、わかんない」
そこに関して、アキヒロは嘘をつかなかった。
実際、そういう予兆が3人の体に現れたという話は聞いていないのだ。
「実際どうなの? 会うたびに?」
「教えるわけねーだろ!」
「いーじゃん」
「よくねーよ! 人の彼女を変な目で見るなって!」
「それもアレだよね。いつまでも彼女のままだとアレだし結婚しないのかなって思ってたんだけど……」
「もう良いから! 何でどいつもこいつもその話なんだよ!」
「気になるでしょそりゃ、親なんだから」
宗教なんかないので、結婚のスタイルは極めてフリーダムだ。式を上げるにしたって各々がやりたいようにやるしかない。
未だにウエディングドレスという概念が残っているのは、乙女たちのささやかな抵抗だろうか。
「僕もねえ、本当はドレスとか着させてあげたかったんだけど……お金に縁がなかったから……」
昔から金欠なのは変わらないようだ。
「今からやればいいじゃん」
「そ、そうなるとお願いが──」
ともかく父と息子は、あまり良くない状況ではあるが久方の再会を楽しんだ。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない