【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
猶予の一ヶ月はあっという間に過ぎ去っていく。
しかしその間、ずっと空に留まり続けた赤い雲によって人々は不安に駆られていた。
そもそも、一ヶ月というのは基本的に商工会の人間しか知らないことだ。第一セクターでは人の噂によって多少なりとも広まっていたが、それ以外のセクターにおいては端末を持っている人間や支部の人間しか知り得なかった。
いつまであの雲が空に居続けるのか。
体に影響はないのか。
外出の自粛は解けないのか。
支部の受付に人々は押し寄せ、不満を口にした。
不満はやがて、批判に変わる。
住民が集まれば、探索者たちが中に入れないほどの密度には容易になった。
そんな押し寄せる波をなんとかしようと、一ヶ月という単語をぽろっと漏らすのが人間というものだ。
そして一ヶ月と口に出せば一ヶ月以上は許さないのが市井であり、一ヶ月も待たされるのかと怒るのが市井だ。
多くの人数が集まり、同様のマイナスな感情を抱いていると連鎖的な反応によって危ない雰囲気が漂い始める。なんとか宥めようと声をかける職員たちの人数も、集まった人数に比べれば圧倒的に少ない。
一方的な一触即発の雰囲気というものになる。
一部のセクターにおいては暴動も起こったという話が聞こえる中、第32セクターではそこまでは至らなかった。
「…………」
酒場でのんびり酒を飲んでいるわけにはなくなった探索者達だが、その武力まで消えたわけではない。職員達から一時的に避難しておいて欲しいという言葉に、不満そうにしながら外に出ていた。
大抵は、裏口からコソコソ依頼を受けてダンジョンに行っている。
しかし、そうじゃない者たちも。
「なんで俺たちが……」
「へっへっへっ!」
「呑んでるし……ちゃんと働いてくれんだろうなあ?」
酒場入口の両脇に立って通る人間を監視する二人。
ディーンと源田だ。
ディーンはパーティーではなく個人でそこにいた。
男だけの方が舐められねえからあ! という誰かの言葉によってだ。
武器も携えている。
この二人はアキヒロを介して顔見知りではあるが、二人きりで何かをしたことというのは機会がない。気まずさ半分、困惑半分で監視を行なっていた。
「個人指名っつうから期待したのにこれだもんなあ……」
ディーンは天を見上げた。
ナナオから言われた時は、遂に自分にもこんな機会が!? とテンションが上がっただけに、その依頼主が誰かというのを知っての落胆も大きかった。
と同時に、知り合いだからこそ選ばれたのだろうという納得もある。
「まあ、実績として考えればいいかなあ」
「へっ! 実績なんか積んだところで、大変なのが舞い込んでくるだけだぞ?」
源田を脇目で睨む。
望むところだ、という思いが強くあった。
ドラゴン討伐を目標に掲げているのだから、どれだけ大変だとしてもやらなければならない。
あの3人と一緒に進むためにも、厳しい道をむしろ選んでいく気持ちでいた。
「ドラゴン倒したいんだっけか?」
「ああ」
「俺も昔は倒そうとか考えてたけどよお、いやあ無理だ。空なんか飛ばれちまうんだから」
「一緒にするな」
入ったばかりの
源田の過去に何があったとしても、自分の未来に何があるとしても、あんな酒浸りの体たらくに堕落することは決してない。
「いいねえ、そういう目。おじさん震えちゃうよ」
「…………仕事しろ」
酒を飲んで、つまみを食べて、薄ら笑いで話しかけてくる。
探索者とはどうしようもない奴らだが、源田はその中でも最もしょうもない類だという認識だ。
繊細さのかけらもなく、受付嬢にセクハラをする。
最近入ってきたアオイがもう少し育てば、彼女にもセクハラをするようになるんだろうとディーンは顔を顰めた。
「アキヒロは何してんだかなあ」
それは本当にそうだ。
人にはこんな地味な仕事をやらせておいて、自分はまた楽しい事をやっているのだろう。
ハシュアーの時もそうだ。
暫く見ないな〜と思っていたら明らかに訳ありの少年を連れてきて、しかも明らかにお気に入りときた。
三船黎人と辺見シエルのパーティーに入り、新しい体制でスタートすると勢力的に活動している。
それ以外には──一ヶ月くらい不在にした後に何故かレベルが50以上にまでなっていたし、超絶美人だけどどう考えても人間じゃないだろうという少女を連れてきたりもした。
パーティーを組んでいたらどんな目に遭わされるんだろうと、想像しただけで夜も眠れなくなる。
「あ、おーい。そこのあんちゃん、何持ち込もうとしてんだ〜」
「え?」
源田が何気なく声をかけた男。
ディーンの目からは何もおかしなところは──一般人が酒場に入る時点でおかしいが──ないのに、声を掛けた。
酔い過ぎて姿が良く見えなくなっているのか? と訝しんだ瞬間。
「!」
「おっと、そうはいかねえ」
「うぐっ!」
「……こりゃあ、普通じゃねえ」
何故かダッシュで中に入ろうとしたが、挙動の起こりを見て源田は足を引っ掛ける。転んだ男の背中に乗っかり、動かないように首元へナイフを押し付ける。ギチギチと音を立てて腕が動いているところを見るに、並の力ではない。
「これがあれか? アキヒロの言ってた加護がどうたらの──」
「誰か助けてええええ! 探索者に襲われてる! 誰かあああ!」
「お、おいおい……」
そんな声を聞いた他の住民達はより集まり、汚いおっさん探索者が一般の男性の上に乗って拘束しているのを目にする。
酒場の中にいた人間達もぞろぞろと出てきて、やめさせようと複数人で取り囲んだ。
「ば、バカやめろ! こいつは──」
そこに響く風切り音。
そしてカカッと刻まれた地面の溝。
「お前、その手を近づけたら腕を切り落とすぞ」
槍を構えたディーンが、近づこうとした者達と源田の間に
しかし十分な効果を発揮している。
槍を持った人間が、それを凄まじい勢いで振り回した。
その振りは地面を容易く通り抜け、溝として刻み込んでいる。
しかも、腕を切り落とすとまで警告。
集まっていたからこそ発揮していた、そして集まった状態でしか発揮できない義憤が波を引かせた。
ディーンは油断なく群衆を睨み、槍を構えたまま源田に声をかける。
「武器は取ったか?」
「ああ! でもこいつ、力が普通じゃねえ!」
「!」
「くっ…………おわっ!?」
源田が弾き飛ばされた。
レベル30程度の探索者の体を跳ね除けるような膂力は、普通の人間ではあり得ない。
そして跳ね除けた男は、そのまま民衆を弾き飛ばしながら入り口へ突き進む。
「まっ──」
「エリュシオンの為に……!」
手の内から溢れ出す赤い光。
男は酒場の中で、周りに人間がいる状況で、明らかに只人が使っていいものではない手品を中で解放しようとした。
危険の予感に周囲の人間は気付くが既に遅い。
押し合いへし合いで入り口に殺到するが、詰まって出られなかったのだ。
職員も同じだ。
裏口から逃げようとして、しかし余りにも唐突過ぎて統率が取れていない。
結果として、裏口と表口で同じ光景が繰り広げられている。
もはや何が炸裂するまで秒読みだった。
「──らあ!」
ガラスが砕け散り、勢いよく突き破ってきた一人の男。
酒でまだ顔が赤いが、槍使いが持っていたはずの得物をその手に握っている。
それに対して周囲の反応が来るより先に、開けた酒場内の床を幾度か踏みしめてから槍を横に薙いだ。
──グラリと揺らいだ重しが落ちる。噴き出た血潮は酒場の床に撒き散らされた。
パニックに陥っていた人々、そして職員は槍を振った男の姿を見た。
槍の持ち主ではないその男は、噴き出す血によって濡れないように遺体から離れている。
赤ら顔のまま、常はしない険しい表情で静けさにつぶやいた。
「どうなってんだよこりゃあ……」
集まっていた民衆は恐れをなしてその場を去った。
残ったのは職員、そして警備についていた探索者二人だ。
いきなり槍を取られたディーンは軽く文句を言いはしたが、返された言葉に黙り込むしかなかった。
あそこでガラスを突き破るという判断を取ることができなかった。そうしていなければ、何が起きていたか分かったものではなかったというのに。
酒を飲み始めると、再びふざけた調子に戻る。
「アイツも金を払った甲斐があるなあ!?」
「……」
「まあ、仕事したのは俺だけどな! ハハハ!」
「俺の槍がなきゃ届かなかっただろ……」
支部は当初、アキヒロが出した謎の依頼に困惑していた。
確かに暴動が起きたとかいう噂は出ているが、あくまで噂でしかない。
それで支部に対して金を払って勝手に護衛をつける探索者なんて、ありがたいけどねえ……と半笑いで捉えられていた。
しかし、それも状況が変わってしまった。
支部長は起きた事を聞いてぶっ倒れた。
エリュシオンに対して、凛として追放を宣言していた男がだ。
支部は、民衆とぶつかってはいけないからと追い出していた探索者達に対して、その話を撤回して普段通りに過ごしてもらうようにした。
確かに住民達は大事だが、自分たちだって住民だし命は大事だ。それに支部がいなくなった時、誰がそこを運営するのかという問題がある。
最優先で守るべき場所がどこか、ここにきてやっと見えてきていた。
住民達も、不用意な外出をさらに控えるようになった。
皮肉なことに、単独襲撃事件が起こってやっと商工会の言葉が正しかったと理解していた。
源田とディーンも、探索者達が戻ってきたのだから続ける意味はあまりないと思われた。しかし入り口に誰かがいることの重要性から、最後までやってくれと支部長直々に頼みこまれては拒めない。酒や食事がタダということも関係していただろう。
アキヒロのことを愚痴りながら依頼を続けた。
そして、一ヶ月経ったその日。
アンケートも応えてくれると嬉しいです。
もちろん評価も。
漫画も近づいてきた……!
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない