【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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49_もう疲れて動けなくテェ……

 

 

 その日、何が起きるのか。

 次の日を迎えることはできるのか。

 何も分からぬまま、皆は空を見つめていた。

 

 裂けるのか。

 落ちるのか。

 それとも何もなさぬまま消えてくれるのか。

 そんなわけないと思いながら、そうであってくれと願う。

 でなければ、どうなってしまうのか想像すら出来ないのだから。

 

 しかし、そんな日にあってすら姿を現さない大うつけがいる。不安に思う彼女達を放っていったいどこへ行っているのか。

 家族のもとにいるからと言って、連絡すらしないというのはいかがなものか。

 最後に姿を確認できたのは実家。

 家族と団欒を過ごした後、本当にどこかへ消えてしまったのだ。

 

「加賀美さん……大丈夫かなあ」

 

「心配してもしょうがない」

 

「それはそうなんだけど……そうじゃないでしょ!」

 

 妖精の止まり木のメンバーも、この日ばかりはどこにも行かなかった。シエルの話が本当なら、蒼連郷という地方内のどこに逃げても意味はない。そもそも南と東は海、西は蛮族、北は山脈に挟まれているのだから、逃げることもできない。

 

 しかし一ヶ月の猶予があるならば、その間は何だってできた。

 先があることを見越して、普段通りに訓練だ。

 一応ダンジョン探索も行いはしたが、先に入った探索者達の言葉によりどのダンジョンも荒れていることがわかったのでアンダーは避けた。

 しかし誰もが同じ思考になっているものだ。地上のダンジョンに行く探索者がほとんどで、複雑かつ広いアンダーと違って浅い場所の広さは限られている。

 探索者と出くわす頻度が高かった。

 

 そうなると困るのが商工会だ。

 

 探索者を使ってダンジョンの間引きと魔素のコントロールを行っているのに、アンダーに全く人が行かないということになればその調節がうまく行かない。

 そもそも定量的に調節を行えているわけではなく、魔素濃度計による入り口付近から漏れる魔素の濃度の観測程度が限界だった。

 

 中に置けばいいじゃないかという意見も偶に発生するが、アンダー内部は魔素の変化が激しく、観測に向かないのだ。

 つまり──探索者が一定数以上、かつ定期的にダンジョンに入り込んで仕事をこなしてくれないと、途端にアンダーは不安定になる。地上に比べて魔素の逃げ場がないということも関係しているだろう。

 

 つまるところ、32セクターのアンダーは臨界状態が近くなってしまったのだ。

 

 リヴァイアサンが出現して第一セクターを攻撃した時点で、各地のダンジョンは不安定であることが確認されていた。

 それが、あの空が出現して以降は第一階層にも第二階層以下のモンスターの出現が頻繁に確認され、犠牲者も多数。

 もはや、これまでのアンダーとは違う。

 浅層の時点で第二級ダンジョン相当と判断された。

 

 探索者のボリュームゾーンというのは3級、レベル21〜40に存在する。

 それ以下は探索者としてヒヨッコすぎて安定戦力にカウントできないし、それ以上となるとレベルの壁にやって到達している人間が極端に少なくなる。

 故に、二級相当以降のダンジョンがある場合、2パーティー以上は二級探索者を置くのが鉄則だ。

 鉄則と言っても、全く守られていないが。

 

 第32セクターでは2パーティーいた。

 一つ目は、レイト達が冬の第100セクターで雪の精から助けた探索者であるメイが、帰還後に新たに所属したパーティー『ファイアフライ』。

 もう一つ──もう一人は加賀美明宏だ。

 ファイアフライはパーティーレベル42。

 アキヒロはレベル53。

 二つの間には大きなレベル差が存在するが、括りで言えば両者共に二級探索者だ。

 

 ファイアフライは一ヶ月中、アンダーに数回挑んで依頼を成功させている。討伐はもちろん、採取等を含めた内部の調査もだ。

 

 その結果、内部構造が大きく変化しているということが判明した。

 以前は多く生息していたアリやムカデなどムシ系のモンスターが減少し、ワーム系のモンスターが増加していたのだ。

 ムシ系で残っているのは、第一階層において最強だったタイラントや、生存競争に勝ち抜いたと思われる個体。

 また、地下深くから第一階層まで続くとみられる深い竪穴も発生した。

 

 もはや以前のアンダーと同じではない。ここのセクターも終わりかもな、と探索者達の間では実しやかに囁かれている。

 

「どうなっちゃうのかな……」

 

 アオイは、あれから安定して出勤していた。

 しかし不安なものは不安だ。

 ナナオを見つめて、不安を紛らわす。

 

「きっと何とかなるって」

 

 ナナオは、何とかならなかったら全部終わるだけだから! と軽い口調で諭した。

 

 何が起こるにせよ、もはや受け入れるしか選択肢はない。

 最後に親の顔くらい見に行けばよかったかと頬杖をつきながら、沙汰が降るのを受付で待った。

 

「ぷえ〜……」

 

 なんとも退屈そうな表情だが、実際仕事がない。

 探索者が誰も来ないのだ。

 今日ばかりは皆、静かに過ごしたいらしい。

 

「酒場埋めてくれれば、変なこと考えなくて済むのにね」

 

「…………」

 

 アオイは、ナナオの問いかけには答えず入り口を見つめていた。

 

「どしたの?」

 

「あ……その……何でもないです」

 

「……もしかしてハシュアー?」

 

「!」

 

「今日はレイト君達と一緒にいるんだろうね。朝から来てないんだし」

 

「そう……ですよね」

 

「暇だしサボっちゃえば?」

 

 受付で、受付嬢にサボリを勧める受付嬢がいた。

 本人がよく小休止という名のサボりを敢行しているから、勧め方もスムーズだ。

 しかし、みんながみんな彼女みたいに気楽に生きているわけではない。

 アオイは特に肩に力が入りやすいタチで、至極真面目だ。

 ナナオの意見に頷いて勢いよく飛び出すことはできなかった。

 

「そうできたら……なあ……」

 

「アオイちゃん…………」

 

 可愛げしかない後輩というのも困りものだと、ナナオは初めて知った。

 しかしそんなタイミングで開いた扉と、押して現れた人物に困り顔を深める。

 

「──アオイちゃん、よーっす」

 

 何食わぬ顔でハシュアーがやってきた。

 レイトやシエルは一緒にいない。

 理由を尋ねる。

 

「やる事ないし……」

 

「じゃあ、尚更なんで来たの?」

 

 その質問に対してハシュアーはカウンター席に座り、極めて深刻そうな表情でこう言い放った。

 

「気まずい」

 

「?」

 

 最近の二人は以前にも増して仲が良く、二人がリビングに揃っただけで花が飛んでいるような錯覚すら覚えるのだそうだ。

 飯の時など隣に座っただけで照れくさそうにはにかんで、対面に座るハシュアーは白目を剥きながら飯を突く。

 あまりにも居た堪れなかった。

 

「そ、そうなんだ……」

 

「こんな日だからゆっくりしよっか! ってレイトさんが言ったらシエルも嬉しそうについていくじゃん? それでソファーに二人で座るわけよ。一応3人で座れるやつだけど、そこに俺がいたらすごいなんか……気まずいんだよ……」

 

 頭を抱えている。

 相当に参っていた。

 状況に対して、あまりにも小さ過ぎる悩み。

 あの雲が怖くはないのか。

 

「自分の部屋に一人だけ篭ってるのも変じゃん? だからアオイちゃんの様子見て来るって言ってきたんだ」

 

「ふーん……」

 

「なんだよ、ふーんって!」

 

 ケラケラと笑う。

 いつの間にか、アオイも表情が和らいでいた。

 しかし、やはり暇だったので、ハシュアーは備え付けてある武器等の点検を始めた。

 そんな彼の様子を見るのはアオイだけでなく、他の暇な職員達も参加している。

 

 摩耗してそろそろ壊れそうな武器は作り直した方がいいとかアドバイスをしながら時間の経過を待つと、様子が変わった。

 明らかに、空から禍々しさが滲み出ている。

 ある程度の静けさを持っていた雲の表面が、沸騰したかのように泡立ち、今にも弾けそうだ。

 

 弾けるのだ──と、誰もが直感的に察していた。

 無駄な抵抗とわかっていながら、訓練所の盾を頭の上に翳しながらテーブルの下に隠れる。

 願わくば苦しくない最後を。

 そんな彼らは、しかし空に別のものを感じた。

 

 見上げて、そして呆然とする。

 弾けそうな赤に、違う色が混じり合っていた。

 

 ──黄金。

 ──白銀。

 ──群青。

 ──深緑。

 

 別々の方向からやってきたそれらが赤い海を突き進み、蹴散らしていく。

 さらに、お互いの色が衝突して消滅するたび、その付近の雲が一斉に消滅する。

 意思のある光が楽しげに追いかけっこをしているかのような光景だ。

 

 やがて赤は全て消え、青空が空に現れる。

 霧も同時に失せていた。

 まさに霧散。

 何が起きたのか分からない人々は呆然と空を見つめ、暫くして、助かったのかとお互いに顔を見合わせる。

 そもそもあの雲がなんだったのかすら分からぬままの一ヶ月だった。

 ナナオ達も同様の反応だったが、まだ終わりではなかった。

 空の向こうから何かがやって来たのだ。

 

 小さかった点は、やがてその姿を世に晒す。

 それに誰かが口を開いた。

 震える唇から紡がれる絶叫。

 

「──ド、ドラゴだああああああ!」

 

 このタイミングで、人口密集地帯に向けて2頭のドラゴンが飛んで向かって来る。それはもう、他のセクターに助けを求めても間に合わないタイミングだった。

 実績がないとはいえ、唯一対処できるレベルに到達しているアキヒロもいない。皆、扉を閉めて息を潜めるしかできなかった。

 

 ドラゴンはどこかフラフラとしているように見える。しかし、気のせいだろう。何せ、あんなに恐ろしいのだから。

 

 その背中に誰かが載っているような気がするが、それも気のせいだ。ドラゴンの背中に人間が騎乗できるわけがないのだから。

 

 背中に乗っている人間? の鎧がどこかの誰かさんのものにすごく似ているが、まさしく気のせいだ。ヘロヘロに疲れた顔で、白目を剥いて寝ている絶世の美少女を担いでやって来るわけがないのだから。

 

 支部の前に降り立って崩れ落ちるように降りた姿は、やはり彼らの知り合いに酷似した容姿をしているが、気のせいであってくれ。こんな時にどこをほっつき歩いていたのかという疑問がさらに濃くなってしまうのだから。

 

「も、もうちかれた……」

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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