【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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50_山盛りのサラダだ……

 

「はへえ……」

 

 最初は支部の中から出ようとすらしなかった彼らだが、建物前でグデンと倒れて動かない2名+ドラゴン2頭がどうしても気になって仕方ない。

 どう考えても加賀美明宏だった。

 

 しかし、知り合いであることを差し引いてもドラゴンに乗って来たことが意味不明すぎる。

 どういう目で見ればいいのか。

 扱いに困って出てこようとしない彼らの前で、男は手を挙げた。もちろん倒れたままだ。

 

「へうぷみぃ〜」

 

 やる気を微塵も感じられない、ふわふわとした口調。

 戦意も敵意も一見してないがどうにも信じられない。

 果たして彼は、本当にここにいる者たちが知る男本人なのか? 

 疑念を抱きながらも、最初に出て来たのはナナオだった。

 

「アキヒロくん……?」

 

「ナナオさん……ちょと……本当に疲れた……」

 

「そ、そのドラゴンは安全なんだよね……だよね!?」

 

「そうだよ、安全だよお……」

 

 なぜこんなに話し方がふわふわしているのか。

 やっぱり誰かが姿を真似しているだけなんじゃないか? 

 ナナオは恐る恐る近づき、爪先でちょんとアキヒロに触れる。

 

「死にかけのセミじゃないぞ〜……」

 

 誰もナナオを手伝いに来ない。

 ハシュアーも目を丸くして見ているだけだ。

 仕方ないので両脇に手を入れて、成人男性(筋肉付き)を引きずろうと顔が近付いた。

 

「──くっさ!?」

 

「あだっ……なにすんだよ……」

 

 臭い。

 何日も風呂に入っていないような匂いだ。

 触れた手も臭い気がする。

 

「風呂なんか入る暇なかったよ……あっち行ってこっち行って……」

 

「水持って来て!」

 

「…………嘘だよな? ナナオさん、親しき仲にも礼儀ありって言うよな? なあ……おい………………ぼばばあ!」

 

 1回目。

 

「待て! ちょっ、んぼばっ!」

 

 2回目。

 

「おい! ナナオ! やめぶぼお!」

 

 3回目。

 ずぶ濡れになれば多少は臭気もマシになる。

 隣にいる例の美少女はそこまでだったのと、単純に水で濡らしたら大変なことになる服装な為、水をかけられることはなかった。

 

「拷問だ……」

 

「アキヒロくん、お家行くのと支部の中に入るのどっちがいい?」

 

「……い、家……ヒナタ達の顔が見たい……」

 

「死ぬの?」

 

「死ぬほど眠い……」

 

 目の下が真っ黒だ。

 ソレなのに笑顔とは、先ほどの水責めがそんなに嬉しかったのかとナナオは再び水を追加しようとする。

 

「待て……ナナオ……ステイ……」

 

「よ、呼び捨てやめてよね!」

 

「なんだこいつ…………いや……本当に……ハシュアー……」

 

 後ろの方に隠れているのを目ざとく見つけ出すと、救いの手を求めた。

 ゾンビのような顔で腕を伸ばすアキヒロの姿に、ハシュアーは仕方ないとため息を吐き出して出てくる。

 何故そんなに嫌そうなのか。

 アキヒロは困惑したがその答えを少年自ら告白した。

 

「シエルの気持ちがわかった」

 

「なんだって……?」

 

「アンタ、普通じゃないよ」

 

「…………そう……」

 

 反応する気力もない。

 アキヒロは、普段であればもっとノリのいいキレキレのツッコミを入れられるのに……と残念そうにしながらハシュアーを待った。

 

「仕方ないなあ……」

 

「……持ち方よ」

 

 鎧の首部分を引っ掴んでずるずると引きずっていく。

 少女の方は肩に担いだ。

 今のハシュアーの膂力ならソレが可能だった。

 とはいえ、アキヒロの身に纏っている鎧はナイフと同じく神器の域に達していると言われている。

 相応の重さは、すぐにハシュアーの腕に限界をもたらした。

 

「なんでこんな重いんだよ!」

 

「そりゃ……なあ…………」

 

 この世から退去しそうな掠れ声。

 哀れみすら誘うが、二つの重量物に苦しんでいるハシュアーにとってはあまりにもアノイングだった。

 何せ重いのだ。

 

「重い重い重い! 重い!」

 

「……わたしですか?」

 

「んぐっ……ちっ、ちがう! アンタじゃない! こっちのバカだよ!」

 

「そうですか……」

 

「うぐぐ……喋らないで! 力抜ける!」

 

 以前に比べたら、何故か多少マシになった彼女の言力(ことぢから)。しかし今はソレでも十分な障害だ。

 顔を真っ赤にしながら、この程度では負けてられないとアキヒロの家まで引きずっていった。

 

「──ぜはあ……ぜはあ……ぜはあ…………はああ……疲れた……」

 

 振り返れば、地面に溝ができている。

 アキヒロの防具が地面を抉り取っていた。

 背中に土が入り込んで最初よりも重くなった彼の体を引きずったハシュアーの根性や、あっぱれと言うしかあるまい。

 しかし、話はこれでおしまいではない。

 急いで隣の家に向かった。

 

「ヒナタさん! おいヒナタさん!」

 

「──!」

 

「うげえっ!」

 

 ドタドタドタと、廊下を走ってくる足音が二つ。

 扉が勢いよく開け放たれてハシュアーを弾き飛ばした。

 まるで、何の報せか最初からわかっていたようだ。

 扉を開けて現れたのは当然、この家の借主である姉妹だ。

 

「アキヒロどこだ!」

 

「い、家……」

 

「邪魔!」

 

「ぐええ!」

 

 子供を手荒に扱うなんて許せねえ……

 しかし、早苗すらハシュアーを気にせず走っていく。

 その速度はやはり、普通の人間のソレよりはよほど速かった。

 

 姉妹は、家の前でぐったりと倒れている影が二つあることに気付いた。

 まさかあの2人のどちらかを連れていったのかと訝しむヒナタと、先にその姿をはっきりと目にした早苗。

 わずかに顔を曇らせたヒナタだが、更に曇らせた姉に手を握られる。

 

「姉ちゃん?」

 

「ヒナタちゃん……あの子、知らない」

 

「!」

 

 既に2人は気絶していた。

 入眠していたとも言う。

 何故かびしょ濡れだが、ヒナタは気にせずアキヒロを運び始めた。早苗も手伝い、2人を合わせて家の中に運び込む。

 鍵が開いたことで入れるようになったハシュアーも後からやってくると、扉を開けて開口一番に文句を垂れた。

 

「ひどいじゃん! あ、あれ……いない……」

 

 音がするのは風呂場から。

 その時点で察したハシュアーは、もうどうでもいいや……と商工会に戻った。

 ドラゴンはまだ倒れているが、そのうちアキヒロが回収するのだろうと無視した。

 未だ、自分の実力ではどうにもできないのだから。

 

「酒!」

 

 どうして俺の周りの奴らはどいつもこいつもベタベタと……恥ずかしくないのか! と拳を振り上げる。

 アキヒロがいると飲酒は禁じられるが、もうやってられなかった。

 しかし、待てども待てどもやってこない。

 何をやっているんだココの従業員は! と正当な怒りを携えてカウンターの方を見ると、人が全くいない。

 

 最初に運ばれて来た揚げ物をやけ食いしている内にこんな事になっていたらしい。

 どこだ、どこへ行った。

 首を巡らして、入り口の方から聞こえてくる声に気がつく。

 

「おお」 

 

「よく食べるなあ」

 

『くるるる』

 

『しゅるるる』

 

 例のドラゴン2頭が餌付けをされていた。

 アキヒロが安全というならそうだろうと、ナナオから始めたようだ。

 ドラゴンは伏せたまま口を開け、投げ入れられる食べ物をバリボリと食べる。ハシュアーが頼んだ骨付き肉もそこにあった。

 生肉は避けている。

 

「なんだこいつ、調理したもんしか食わないのか? 贅沢だなあ」

 

「あの嬢ちゃんが躾けたんじゃないか?」

 

「……あの子は怖かったな、あまりにも綺麗すぎた」

 

「相手されないからって悪く言うなよ」

 

 ハシュアーはトボトボと席に戻った。

 空が元に戻ったのはとても良いことだけど、何となく疎外感があった。

 

「ちぇー」

 

 とりあえず、なんかよく分からないけど大丈夫になったのなら一旦は家に戻って、2人と話さないといけない。

 シエルなら何か知っているかもしれないから、レイトと一緒に聞こう。

 明日から特訓も再開だ。

 あの女のことはアキヒロに聞けばいい。

 ドラゴンのことに関してもアキヒロに投げれば良いだろう。

 ダンジョン探索も再開するかはレイトに聞かないといけないな。

 

 ──ハシュアーは、段取りをつけることに慣れていた。鍛治の訓練を長年して来たからだろう。

 

 それはそれとして、つまらないことに変わりはない。

 早くメイスを振りたい気分だった。

 

「ハシュアーくん、はいコレ」

 

「うわあ」

 

 視界にいきなり現れた山盛りのサラダとアオイ。

 驚くというか圧倒された。

 そもそも注文していないが、誰か頼んだのだろうか。

 

「食べよ!」

 

「え……」

 

「何で嫌そうな顔するの!?」

 

「俺、こんないっぱい葉っぱ食べないよ……」

 

「全部とは言ってないでしょ! 半分!」

 

 そもそも注文していない。

 しかも元々の量が多かったから、半分にしてもかなりの量がある。肉の口になっていたところにコレは流石に……と盛り分けられた野菜を見つめた。

 あと、ハシュアーは注文してない。

 

「私が食べたかったの」

 

「食べれば良いじゃん」

 

「一緒に!」

 

「葉っぱを一緒にって……」

 

「文句あるの?!」

 

 ハシュアーは肉が大好きなので、アオイの鬼気迫る様子には共感できなかった。せめて肉を持って来てくれれば……という表情が伝わったのか、対面から身を乗り出してくる。

 

「お肉ばっか食べてると太っちゃうよ!」

 

「俺、毎日動いてるから太らないよ。前より痩せたし……ほら」

 

 服の裾を捲ると、余計な脂の落ちた腹が隙間からのぞいた。

 慌てて両目を隠すアオイは、隙間からガン見しながら叱りつける。

 

「な、なにしてるの! 早く隠して!」

 

「痩せてるっしょ?」

 

「うん!」

 

「だからほら、肉──」

 

「野菜食べたいの!」

 

 食べりゃ良いじゃん……と言いつつ、目の前に置かれた野菜をもしゃもしゃと食べる。

 意外と美味い。

 しかし美味いのは野菜そのものではなくドレッシングなのでは、とハシュアーは提言をした。

 そして後悔する。

 少女は、野菜がいかに美味しいかということを滔々と述べ始めたのだ。

 

「だからね、青臭いって感じるのは子供の証だよ。この味を楽しんでこそ食事じゃない? それに、楽しんであげなきゃ野菜に失礼でしょ?」

 

 知らないしそもそも子供だし、野菜を楽しまないと野菜に失礼とは何なのか。

 むしり取って食べた挙句感謝というのは逆に怖いとハシュアーは考えた。しかし、そんな考え方をする人が他にもいたことを思い出す。

 

「加賀美さんは……良い人だよね!」

 

「そういうことじゃなくない?」

 

 お風呂で洗われていた彼も、食べる前は手を合わせていただきますと言う習慣があった。他のことが気になりすぎて気にしていなかったが、考えてみればあれもアオイと同じ考え方だ。

 

「いつも酒場でご飯食べ始めるとき手合わせるから聞いてみたら教えてくれたの。だから私も最近マネしてるんだ!」

 

「…………」

 

「だ、ダメ……かな……?」

 

「あ、ううん。良いと思うよ」

 

「──そうだよね! よかった〜」

 

 感謝すること自体は良いことで間違いない。

 ハシュアー自身も、頻繁にイルファーレに感謝している。

 しかし、アオイの考え方の出処がアレというのが引っかかるポイントだった。

 

「ハシュアーくんも一緒にやらない? 手を合わせて、いただきますって」

 

「俺は食材よりもイルファーレ様に感謝したいからやめとく」

 

 いつのまにか、野菜はなくなっていた。

 そこでハシュアーは首を傾げる。

 どうしてこのタイミングでアオイが来たのか。

 尋ねると狼狽え出して──

 

「し、知らなーい!」

 

 と、どこかへ行ってしまった。

 ハシュアーは1人残され、呟く。

 

「…………お代は?」

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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