【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「おら! シャキシャキ答えろ!」
仁王立ちで逃げ場をなくす。
場所はソファー。
モノのように風呂場で洗い終え、綺麗さっぱりとなったアキヒロが力なく座り込んでいた。
一ヶ月の次にまた一ヶ月、このままでは顔を見られるのが一月に一回なんてことになりかねない。
冗談抜きで由々しき事態だ。
「アキ! しばらく旅に出るの禁止ね!」
「んあー……」
早苗が連絡して、コウキとミツキもすっ飛んで来ている。
目がトロンとして今にも寝そうなアキヒロと、その隣に同じく並べられた『娘』。
「いやいや……こんな痴女が……」
「んんっ!」
「あ、いや……こいつ人間じゃねえなって」
「え?」
まさかそんなわけ──とミツキは彼女の姿に注意を凝らす。
確かに自分たちのような純人間の姿とは少し違うが、コウキだって髪を剃ればモヒカンの形になっているのだから、人間の括りから外れるとは言えない。
父親の良くない思想が出たと睨む。
しかし、コウキはその反応に慌てて手を振った。
「ちげえよ! 馬鹿にしてるとかじゃねえ!」
「おーとーおーさーん?」
「だからそうじゃねえって! マジで人間じゃねえだろ!?」
「お父さん!!」
「だー!」
娘から父親に対する好感度が直滑降していく。
それを哀れに思ったのか、『娘』は口を開いた。
『私は……ドラゴニアです』
「…………ははーん、なるほどな」
『分かるのですか?』
「いいや? でもドラゴンのなんかなんだろ?」
『ドラゴンというのは、あなた方サルが私たちを呼ぶときの言い方ですね』
「おお……」
ミツキからの誤解は解けたが、探索者として様々な経験を積んできたコウキと既知のアキヒロ以外は彼女の肌をペタペタと触り始めた。
何せ、ベビーパウダーを使用しているわけでもないのに、肌の通りがよくペタつきが微塵もない。
肌荒れすらない。
やや硬いのは種族特徴と飲み込んで、顔も腕も遠慮なしだ。
「えー! すごーい! なにこれ、ずるーい!」
「ふん……まあまあ、だな」
「さらっさらだ〜」
三者三様。
3人とも同年代に比べて明らかに老化が遅く、ミツキとヒナタはまだ高校生でも全くもって通用するが、隣の芝はどうしても青く見えるモノだ。
「早苗さんもモチモチだよ!」
「えー? でもミツキちゃんも私と同じくらい……どうなってるの?」
「私はほら、多分お父さんがアレだから」
「あー……私は神様のせいだけどね〜」
「ね! そういえば早苗さんの神様ってどんな感じなの!? 私が知ってるのってイルファーレ様だけだから、気になっててさ!」
「ふ、普通の人が神様と知り合ってるってだけで凄いと思うけどね……」
「何せ、私ですから!」
「あはは!」
しかし、早苗は神について語ることは遠慮した。
ミツキもそこまで深く突っ込むつもりはなかったのかアッサリと引く。
「それで、お前はどこの誰なんだ結局」
『私に…………名前はありま…………あの、眠いんですけど』
たくさん眠って、ちゃんと体調を整えた2人は改めてコウキの前に立つ。
当然、睡眠は別の部屋だ。
『私は皆から『娘』と呼ばれています。あなた方のような名前はありません』
「へー…………じゃあドラゴニア? なんだからニアでいいじゃん」
『!?』
「悪くねーよな──」
女子から猛烈な勢いで抗議が入った。
「何考えてんの!? 信じらんない! 知らないオッサンに名前決められるとか最悪だから! 帰って! キモい!」
「四門のおっさん……本当にないわ……」
「ちょっと……うん……私も嫌かも……」
一番怒っていたのはミツキだ。
噛み付かんばかりの勢いで詰め寄る。
コウキの顔立ちが若いせいで、大学生同士の喧嘩に見えないこともない。
「そもそも、ドラゴニアだからニアって……語感が良いだけじゃん! 私たちで言うと、人間だからゲンって名前にされるみたいなもんだよ!? ……しかも女の子だからね!?」
「い、いや、娘って呼ぶくらいならそっちの方が……」
「だとしてもお父さんが勝手に決めて良いことじゃないから! この子が納得して決めるまで待ってあげるのが普通でしょ!? 考えたら分かるじゃん!」
「…………ア、アキヒロ! アキヒロがやれって言いました!」
ぼんやりと成り行きを見守っていた男に鉢が回りかける。
しかしそんな言葉が通用するほど四門家とアキヒロの仲は浅くない。
「嘘までつくなんて信じらんない!」
「落ち着けよ」
何に怒っているのかわからない段階に到達してしまった為、一旦ヒナタが仲裁に入る。
親子喧嘩はよそでやってくれ、話が進まない──というわけだ。
『娘』も口を出す。
「本当はアキヒロに名前をつけてもらおうと思ったんですけど、拒否されたんです」
「だって親じゃないし……この話続けなくて良いよな? どうせするならもっと意味ある話にしようぜ」
本題は彼女の名前ではない。
アキヒロが何をしていたのか、彼女をなぜ連れて行ったのか、の2点だ。
しかし女子は、答えを聞くと面白くないからまずは予想したいなどと言い出した。
本当にやるの? と見てくる『娘』に、人間を舐めちゃいけないよと教える。
「街角先生の力で何とかしてもらった!」
「あーね」
「違うかー」
ミツキはハズレ。
「神様に頼んで来た、とか」
「あーね!」
「ちっ……やめろそれ」
ヒナタも外したが、微妙に反応が違う。
というわけで早苗は本気で当てに行った。
「うーん……」
考えるだけではダメだとばかりに、アキヒロのリュックを漁る。証拠を探そうという魂胆だ。
顔を突っ込んで、アレでもないこれでもないと放り出す。
どうせ片付けるのは自分たちなのだからとやりたい放題だった。
というわけで、早苗のやりたい放題タイムが終わる。
「…………」
目を細めて取り出したのはとあるモノ。
黄金に輝く物体だ。
黄金ではないが、あまりにもその輝きは完璧だった。
「なにこれ」
「ああ、見つかった」
その笑みは、イタズラを見つけられた少年のようだ。
何かあるに違いないとじっくり観察する。
光に照らすと、あまりにも眩しくて観るどころではない。
逆に暗闇に持っていくことでその正体が僅かに見えてきた。
薄くて薄くて、髪の毛よりもずっと薄い板を何枚も重ねたような、層状の構造。
トゲトゲとした形。
端に指を当てるだけで切り傷から血が流れ出る鋭さ。
「──鱗?」
「うおっ!」
反応的に正解のようだ。
しかしなんの──そこまで考えてハッとした。
『わっ』
家具を観察して楽しそうな『娘』の腕を見る。
彼女の腕にはないが、しかしそれ以外には考えられない。
「ドラゴンの鱗?」
「おお〜」
パチパチと、純粋な称賛に満ちた拍手が部屋に一つ。
一つだけ。
盛り上がっているのは1人だけだった。
「いや、鱗であの女がいるんだから分かるだろそりゃ」
ヒナタだって突っ込む。
「でも、2人は探しもせずに決めつけたじゃん? 早苗ちゃんはちゃんと探したもんな〜」
デロンデロンに甘い顔で早苗を甘やかし出した。
「えへへへ……ぶいっ!」
「…………チビ」
「はぁああ!?」
勝者は1人。
勝ったのだから全てを持って行っても許されるのだ。
さあ、家に帰ろう。
「おおい! どこ行くんだよ!」
「え?」
「え? じゃねえよ! 何も分かってねーから!」
ドラゴンの鱗だということが分かったらなんなのか。
あの二頭のドラゴンか、或いは他のドラゴンから貰ったのか。
ドラゴンの知り合いがいるのだから、そこからプレゼントしてもらったということだってありえるだろう。
モンスターと仲良くなって何かをもらうなど、既存の常識の中に存在しない。しかし、この場にいるのは『娘』を除いて彼の出自を知る者だけだ。
あり得ないからと捨て置くには、彼自身があり得なさすぎた。
「だってそこから先を当てるのって多分無理だし、正直当てられても困るし……」
「…………心配するのもダメなの?」
「え」
「また、どこか行っちゃったんだって……」
「うっ……」
幼馴染は瞳を潤ませていた。
胸元にしがみついて、全力で眉を垂れ下がらせて、怒られている飼い犬くらいしおらしくアキヒロを見つめる。
更には加勢も。
「アキヒロ……私だって、さ……」
「うぐっ」
「また、あの時みたいになるんじゃないかって──」
彼の肩に頭をコツンと。
彼女が思い出すのは、山を穿った戦い。
目撃したのは歴史上おそらく彼女達だけだろうという、まさしく人智を超えた争い。
当事者にしてみれば、争いというには一方的な差があったらしい。だが、外から見れば余りにも意味が違う。
破滅の風は、一歩間違えれば彼女の故郷どころかその周辺まで巻き込んでいた。
それが心に刻まれていた。
──というのは事実だが、今は少し状況が違う。
左頬を、彼の右肩に擦り付ける。
自らの匂いをそこに残すかのように。
彼の右手を両掌で包み込み、たじろぐ男を見つめた。
「かっ……」
真正面と右側からの同時攻撃を喰らって、男の口から声が漏れる。
処理能力の限界を越えようとしていた。
「教えて〜?」
「……教えて?」
超えた。
「…………!」
数値に直せば絶対に敵わないはずの膂力さをひっくり返し、男をソファーに再度座らせる。
両脇に陣取る2人に対して参ったと両腕を上げるアキヒロの、その脚の間を更に少女がすっぽりと埋めた。
「なんだこいつ……死ねばいいのに……」
『なにがですか?』
「…………お前が話してくれりゃあ楽なんだがな」
『え? 嫌ですよ。お爺様と約束してますし…………あっ』
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない