【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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52_廃セクター

 

 空から降り注ぐのは終の災厄(レーヴァテイン)

 強大な祝福を得たディヴィアンツ(加護持ち)複数人が同時に行使することで、やっと発動が可能な大規模魔法。

 防ぐ術はない筈。

 探索者は点の攻撃に対しては強いが、面への攻撃に対しては対策方法がないのだ。

 

 それこそが彼ら探索者の欠点。

 異能の限界。

 どこまで行っても個人主義で、協力に向いていない。

 資質自体も、資質の伸ばし方も、極めて稚拙だ。

 

 異能の源泉は個人の欲望──個人の欲望というと浅ましく思えるが、探索者が異能を発現させるタイミングというのは大抵がダンジョンで危機に瀕した時だ。

 故にこそ、感情が極限まで昂らなければ異能は発現しない。

 他者の為に異能を発現させた例はほぼ確認されていなかった。

 

 精々が、ヒューマンスケールの範囲内で不可視の盾を発現させるだとか他人を回復させる異能。

 個人間のレベルを超えない。

 しかも、強力と呼ぶに値する異能を保有する者達であるほど、明確に他者の為の異能を持ち合わせていない。

 

 空から降り注ぐ粘性の火の雨が地獄を生み出す筈だったのだ。皮膚を溶かし、肉にへばりついたソレらが彼らを魂まで溶かし尽す。

 そんな光景と悲鳴を肴にワインを飲む筈だった。

 

「だというのに──さっきのはなんだ?」

 

 彼らが見たのは、想定の全く斜め外。

 探索者達がもがく姿ではなく、只人が苦しむ姿でもない。

 四方より飛来した(異常)が雲を消滅させた。

 生命を喰らい尽くすはずの呪いは逆に喰らい尽くされ、犯し尽くされて蒼天が取り戻されてしまった。

 

「例の守護獣か?」

 

「ふ、不明です……」

 

 空を見上げる2人の容姿は、特徴的といえば特徴的だ。

 金の髪、長い耳、緑の瞳。

 目鼻立ちの整った彼らは、まさしくエリュシアの民だ。

 エリュシオンの演説を聞いてかどわかされ、周囲に集まる蒼連郷の民ではない。

 本物のエルフがいた。

 

「考えている暇はないな…………いずれにせよ、行動を起こさねばならん」

 

「大丈夫でしょうか……」

 

「不安そうな表情を見せるな。不安そうな声を出すな。不安そうな仕草をするな」

 

 男は、平坦な口調でそう告げると人々の前に立った。

 動揺して口々に好き勝手を言う彼らの前に美しい顔を曝け出す。

 

『おおっ!』

 

 これまで見せてこなかったその顔が人々の目に触れた。

 美しさを体現させた黄金比で構成されたもの。

 視線は釘付けになる。

 そこには意味がある。

 頑なに見せなかった顔を漸く見せてくれたという、最上の喜び。

 

「救いは為された!」

 

 人々はまず困惑する。

 事前の話と違ったのだ。

『赤石の雨が地上の穢れを洗い流し、無垢な人々を救いたもう』──何故不吉にすら見えた赤い雲は消え去り、青天の下で何も変わらぬ心地なのか。

 

「先ほどの光こそがその証拠。既に穢れは打ち払われ、新たなる時代の到来はすぐそこです! しかし、完全ではない……いまだ抵抗する者は多い筈です! 今こそ、我らが威光を見せつける! さあ、共に歩もう! エリュシオンの名の下に!」

 

『おおおおおおおお!』

 

 響く声は、周囲に人が住んでいれば間違いなく気付かれてる程度のエネルギーを持っていた。

 しかし誰も来ない。

 解散命令まで出した彼らがまた集まり、戦意高揚の式を開いているというのに。

 

「──ふん」

 

 演説を終えた男は、踵を返した瞬間から最早興味などないとばかりに表情を消した。

 その姿を見ていた女が、人気がないかとを確認して集まった数を評する。

 

「あの人数で本当に足りますでしょうか」

 

「何にだ」

 

「ソレはもちろん……制圧です」

 

「お前は──想像を超える無能だったのか?」

 

 嫌悪感を滲ませた男。

 目の前にいる烏合の衆を使って、という意味で言ったのであれば前線からすぐさま送り返す心算だ。

 

()()()を先に当て、消耗・油断したところで我々が畳み掛けるという話であれば勿論のこと承知しております。ですが、あれを為したのが何者か特定できないうちに動くというのは──うっ!」

 

 男が青筋を浮かべているのにすら気付かず、空に視線を向けて憂慮の表情を形作る。

 その代償に、襟首を強く掴まれた。

 引き寄せられ、瞳と瞳が触れ合いそうなほど近くなる。

 

「いいか……アレはただの石ころだ。石ころは投げる為にある。そのタイミングについていちいち論ずる必要すらない。言われた事を、黙ってするのがお前の仕事だ……分かったか?」

 

「…………はい……」

 

「ふん、これだから辺境の出は……こんな愚鈍な、脳みその薄っぺらいグズが私の下に着くなどと……ソレもこれも……」

 

 女は身を投げ出され、目も合わせられない。

 しかも、くだらないことに時間を使ったと男はその場を立ち去ろうとした。

 しかし倒れている女を見下ろし、眉を顰める。

 

「早く立て。また私に手を使わせたいのか」

 

「……申し訳ありません」

 

 女はすぐに立ち上がり、力なき謝罪をした。

 それを無視して男は進む。

 どこへ? 

 食事だ。

 

 彼らがいるのは廃されたセクター。

 エリュシオンは、人の気が全くなかったそこを基地代わりに使用していた。

 建物がある。

 であれば、食料は彼らに採らせればいい。

 建物ごとに用途を決め、それ以外のところへ勝手に住むように言えば──明確な役割を与えられれば、人間はそこそこ性能を発揮するものだ。

 

『おお! お待ちしておりました!』

 

 心底から敬服した表情で食事を差し出す翁。

 娘が探索者になり、盗賊に陵辱されて生命を落としていた。

 今の蒼連郷の在り方は間違っていると、正しい方向に変えられるならばと、商工会を潰してくれるならばと付いてきたのだ。

 

「どうです? ここでの暮らしには慣れましたか?」

 

『ええ、ええ、それは勿論! エリュシア様の加護のおかげでモンスターが寄りつきませぬから! それに身体も軽い! 鍋を掴むのもやっとだった手がほれ、こんなハンマーすら震えますわい!』

 

 翁は嬉しそうに、人の頭ほどの巨大なハンマーを振り回す。

 明らかにハンマー本来の用途とは違う、殺傷力が認められた。

 

「お元気そうでよかった」

 

 男は、先ほど女に向けていたのとはまるで違うにこやかな笑みを浮かべていた。

 

『ささ、あちらでどうぞ』

 

 翁の大袈裟にすぎる敬意と身振り手振りを当たり前のものであると受け止め、腰に気をつけるように言って座った。

 女は対面に座り、同じように食事をとる。

 

「アレがなんだったにせよ、分かるようにするのは我々の仕事ではない。連絡を待つしかないということだ」

 

「……はい」

 

 食事を終えると男はセクターを出た。

 出発(攻撃)は少し先だ。

 では、なんのために街を出たのか。

 

「ふむ……」

 

 男は、暫く歩く。

 歩いて、歩いて、鬱蒼と茂った森の奥にたどり着いた。

 普通にモンスターが闊歩している場所だ。

 そもそもセクターが廃される理由のほとんどが、モンスターやダンジョンに対応できなくなったからというものだ。周辺にモンスターがいるのは当然と言える。

 

『──』

 

 そんな場所にいるのだから、彼を狙うモンスターがいるのも当然だ。細身で食い出は少ないだろうが、視覚的な問題で餌を探すのが難しい霧の季節にこうして迷い込んできたのだから、全身余すことなくしゃぶり尽くされるだろう。

 

 ──本来ならばの話だ。

 

 男は目を閉じると両手を広げた。

 これから自分の身に起こるであろう悲劇を全て受け入れるかのような構え。

 しかし、違う。

 変化が起きたのは彼自身ではなく、彼の周囲に存在した動植物だ。

 

 充分量の水分によって青々としていた下草は茶色くなり、木々も枯れることはないにせよ葉を散らしていく。

 足元を通りかかったネズミは動きを鈍らせ、やがて動かなくなった。

 近寄ってきたモンスターも何かを感じたのか、その場から離れていく。

 

 生き物から滲み出るように現れた白い光がフワフワと、男のもとに集まっていた。

 

「ふぅぅ……」

 

 清らかで美しいそれらを掌に載せ、うっとりと見つめる。

 何をするかと言えば、その光を近くにあった一本の木──今にも朽ち果てそうな幹に押し込んだ。

 すると枯死寸前だった木は忽ち葉を茂らせ、花を咲かせた。

 樹高もぐんぐんと大きくなっていく。

 

「ふむ、問題ないな」

 

 手を何度かにぎにぎと。

 動作確認のように動かし、満足したのかその場を後にした。

 残されたのは青々とした葉、色とりどりの花を身に付けた堂々たる大木が一本。

 その周囲には生命の色は何もなかった。

 

 問題はない。

 しかし、懸念はあった。

 

「司祭様……我々が攻め込むセクターなのですが、あそこには元々一級の探索者だった男がいますよね……我々のようなタダの人間に勝てるでしょうか……?」

 

 そんな質問をする男の周囲には、同じような不安を抱いているのであろう者たちが多く集まっていた。

 

「最近は活動してないと言っても、山すら削るような力を持った奴らです。加護は確かにすごいですけど……」

 

「──不安になる気持ちはわかります。ですが…………どうか信じてください。信じる気持ちこそが力。皆が同じ気持ちで悪を滅ぼさんとすれば、必ずや奇跡は起こせます」

 

「…………はい」

 

 悩みの種──それは彼が割り当てられたセクターに、この地方における最強の一角がいたことだ。

 十数人の一級探索者。

 その中でただ1人、普通に引退した男。

 探索者をやめて久しいが、数年で蒸発するほど彼の身体に定着した魔素は薄くない。

 直近の計測結果から見ても、変わらず最強のままだ。

 

 だが、弱点が無いわけではない。

 

「勝算はあります。そしてあなたが信じてくれれば──皆が信じてくれれば、その勝算は更に高いものとなるのです」

 

 司祭と呼ばれた男は、穏やかな笑みを浮かべて彼らの手を一人一人握っていった。

 その手に包まれると温かさが広がる。

 体が温まると、心まで温まるようだ。

 

「──信じます!」

 

 集まった人々は満足そうに退いて戻った。

 男は暫く笑みのままだったが 、それもやがて能面のような表情になる。

 

「無垢で、無知のままに信じていろ。私は本当のことしか言っていないのだからな」

 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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