【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「おっ!?」
男は皮膚を焼く感触に目を見開く。
微傷だが、確かにダメージを通していた。
降り注ぐ光が止むと、皮膚の状態を確かめる。
自らの調子を確かめる。
「こりゃあ、確かにすげえ」
即座に掲げた盾は確かに光を跳ね返した。
だが、全てではない。
守りを貫通して男に届いたものもあったのだ。
「こんな雑魚どもがオレを傷付けるなんて、普通はありえねえぞ」
男は、自らの内側──魂とでも呼ぶべきものがダメージを負っていることを感覚で理解した。
そのダメージが表出したが故、肉体に傷が現れたのだ。
だが、驚いたのは男だけではない。
『バカな……』
『まともに喰らって、たったアレだけだと!?』
『レイフォールが効かないなんて……やっぱ一筋縄じゃいかないか……』
「おっ! そういう名前の攻撃なんだな! 覚えたぜ!
男は肩を回す。
やる気十分。
傷を負ったことに対する驚きはあっても、それが恐怖に繋がるわけではないようだ。
それもその筈。
「この程度の傷、逆に喰らうことなかったぜ。辞める直前だってな」
基本的に、ダメージを喰らう喰らわないは耐性や防具、皮膚の強度に応じたものになっている。耐性の強さについて定量的なデータは存在しないが、例えば男であれば溶岩に24時間使っても問題ないし水中に24時間いても問題ない。
そんな状態で通常の生活に戻るとケガをする方が難しく、その守りを貫いてくるようなモンスターとの戦いとなれば、かすり傷で済むわけもない。コレについては男以外の探索者も同じ話だ。
特に、高位探索者は同等レベルの相手と戦えることの方が稀という話ではある。
しかし、ダメージは入った。
かすり傷でも傷は傷だ。
敵の反応は各々に分かれていたが、次を放つという動きに違いはなかった。
『くらわせ続ければ、あるいは──っ?』
空気が変わった、というよりは変えられていた。
男を中心に渦を巻き始めたのだ。
雰囲気ではなく、物理的に空気を動かしている。
全員の視線が釘付けになった。
なんだ。
何をする。
こいつは何者だ。
本当に同じ人間の一種なのか。
男は、笑みすら浮かべて口を開いた。
「よくやった! 褒めて遣わす! お前らは立派に戦った! 敵地に乗り込んできて、カミサマの力?だかなんだかをうまく活用して、この俺に対して手傷を負わせた!」
なんとも不遜な態度だった。
敵に対しての賞賛という、余りにも見下した行い。
しかし、男は拳を強く突き出す。
「今なら見逃してやろう! 本国に逃げ帰って、しょんべん撒き散らしながら報告しろ! 手を出してはいけないってな! そんで、二度とあの山脈は超えずにママのおっぱい吸ってろ! 俺も早く吸いたいから!」
『ふざけたやつだ……!』
『先ほどの一撃を防いだ程度で生意気な……』
「…………知ってた! お前らがそういう態度で生きているやつだってのは何となく顔見ればわかる! だからこそ──見せてやるよ」
なにを?
しかし問いは投げない。
それはペースに乗せられるということだ。
笑みを顰めた男の放つ空気に呑み込まれぬよう、気を引き締めた。
「俺の名前を知ってるか?」
『ふん……ヨツカドコウキだろう。何ともヒューマンらしい低俗な──』
「光り輝くと書いて光輝と読む」
『…………』
「
『!』
胸元に引き寄せた拳が光っている。
更に、恒星に対して公転する惑星のように、拳の周囲を小さな光が回っている。
「アイツの話が本当なら、お前ら長年かけて俺たちのこと調べて来たんだろ? だったら知ってるよな、コレのこと」
『異能……!』
「そうだ」
光が強くなっていく。
糸にくくりつけた鉄球を振り回しているような、風切り音に似た音が環境音を打ち消して彼らの耳に入る。
「やろうぜ、ぶつけ合い」
『なんだと?』
「やってみろよ。あんなもんじゃねえだろ、神様の本気」
『──舐められてますよ! 完全に! やりましょうよ!』
先ほどの若い女が、指を刺した。
それを凶暴な笑みで迎える。
「今すぐ撃ってもいいんだぜ? そうすりゃすぐ終わるからな。でもそれじゃあ面白くねえよ。俺だって色々溜まっててさ……そろそろアイツのお腹も大きくなるだろうけど、とにかく、久しぶりに本気でやりてえんだわ!」
『……我々が本当に、全力でアレを放てば貴様は死ぬ。それでもやりたいと?』
「あんまくだらねえこと言ってると、今殺すぞ」
そこからの数分間、男は待ちに徹した。
ただ待っているだけではない。
空に浮かぶ天輪が巨大になっていく様子に目を輝かせ、その興奮度合いに合わせるように拳を明滅させていた。
──────
セクターから避難した住民たちから見えるほどに巨大な、100m以上に及ぼうかという巨大な天輪。半壊した町から逃げて、それでもまだ逃げ足りないのかと不安に思う彼らの中には、男の愛する者たちもいた。
その守り手も。
「……大丈夫なんだよな?」
男がどんなことをしているか知る由などない。
具体的にどんな敵と戦っているかも分からない。
嫁と娘を置いて好き勝手なことをしているとは思わず、青年は2人を近寄らせた。
「衝撃に備えた方がよさそうね」
「お母さん……お父さん大丈夫なんだよね?」
意外と冷静な嫁と、不安そうに落ち着きない様子を見せる娘。
青年は、対象的な母娘の前に立っていつでも庇えるようにしつつ、空に浮かぶ天使の輪を見る。
「アキヒロ……助けてくれたのはありがたかったけど、あなたにも家族が……アカネちゃんとか──」
「コマちゃんに任せてある」
「ヒナタさんと早苗さんは……」
「コマちゃんに任せてある」
「…………アリサさんは?」
「コマちゃんに任せてある」
「……ちょっと?」
「うん」
いくらなんでも、コマちゃんに任せる比率が高すぎた。
信頼している相棒だからといって万能ではない。
せめて2:2くらいで割り振るのが妥当なところではないか。
そもそも2:2でも数が足りないが。
そんな視線に対して、自信満々に振り返る。
「大丈夫、コマちゃんならいける──というか、一番穴なのがここだから」
「穴って……あの人がいるのに?」
「だからこそ、だよ。コウキさんにとって一番まずいのは2人を狙われることだ。最強の人間は倒せないけど、殺す方法は幾つでもあるんだから」
「あなた別にそんな強くないでしょ」
「だからコマちゃんに任せたんだって」
「……そんなに強いの? あの子」
「たぶん?」
男は黒の外套を脱ぎ、2人に被せた。
2人を覆うほどには大きくない為、体のあちこちがはみ出ている。それでも外部からの影響が消え失せたのを2人は感じた。
余計な雑音が消えて、嫌な予感もなくなり、快適だ。
「一生コレ着てたいわね」
「ね」
着るだけで万能感が2人を包み込んだのだ。
しかし、その言葉には同意できないと青年はバッテンを作る。
「ダメです」
「ケチね、あなたの彼氏」
「ねー」
うるさい2人の言葉はシャットアウトし、眼前の光景に集中した。
天輪が余りに輝くから、太陽すら押し負けている。
しかし、その下でまた一つ別の輝きがあるのも感じた。
「コウキさん……か?」
空には三つの光があった。
「あなた頑張ってー!」
「…………」
一瞬だけ運動会かと錯覚するような応援。
懐かしさすら覚えつつ、なぜか他からも湧き上がる声援に顔を引き攣らせた。
「いいじゃない、気分よくて」
「勝つときは勝つし負けるときは負けるんだよ……」
「でも、あの人は負けないわ」
そこには絶対の
自分が信じた男が負ける筈ないという思い。
見て来た背中の大きさ。
紡いだ時間。
その全てが、男の敗北などあり得ないと彼女に思わせていた。
「それなら、応援した方が気持ちがいいじゃない?」
「……分からん」
「おじいちゃんにはちょっと難しいかしら?」
「コレはシンプルに価値観の違いだ! というかお爺ちゃんとか言うな! 生々しいわ!」
「生々しいのはあなたの年齢でしょ」
いくら彼女の母親とて、ジジイイジリはノーだった。
しかし、ふざけている場合ではない。
戦時だ。
刻一刻と状況は変化していく。
『──うわああ!?』
避難民たちが驚きに包まれた。
天輪が一際強く輝いたからだ。
今から何かしますよという予備動作であることは、素人目にも明らかだった。
固唾を飲んで見守って、それは起こった。
──光の滝
「おい……おい!」
青年は、思わずと叫んだ。
背筋を伝う汗が止まらなかった。
それは先ほど見えたビームのような線とはまるで質が違った。量も比較にならない。
そんなに範囲はいらないだろうという光の集合が、滝となって降り注いだのだ。
「頭下げろ!」
「きゃっ!?」
「わああ!」
2人を抱きしめる。余波程度であれば背中で受け止めればよかった。
しかし、周囲にいる避難民たちのことは考えていない。あのタイミングで逃げても無駄だという事もあったが、優先順位を間違えることだけはなかった。
何かが起きると誰もが分かっていた。
しかし、それでも見ずにはいられない。
青年に限らず、この場にいる誰もがそうだ。
何が起きるのか野次馬根性が働かない人間はいなかった。
『──あっ! 光が!』
違うもの。
違う光。
降り注いでいるのと全く違う力が昇っていた。
対抗できる程ではないが、確かに光の奔流に抗って天へ向かうソレは、輝きを増していく。
「ほら」
得意げな笑みを浮かべて、女は
「お父さん……」
呆然と、娘は
「…………」
青年はすんとした顔で見ていた。
先ほどとは打って変わって冷めている。
「ちょっとアキヒロ、もっとはしゃぎなさいよ。つまらないわね」
「…………アイツ、チョけたな」
「ちょけ──何?」
「ふざけたって事。上のアレ……わざと撃たせたな」
「あー……でもほら、もしかしたら本当にギリギリで……」
「それなら、戦闘音がしなかったことがおかしい」
「さっきは聞こえてたの?」
「うん」
そう言っている間にも、光は滝を自らの体積に置き換えているかのように大きくなっていく。
──誰かが声を漏らした。
滝をがぶ飲みして巨大化した光は、天輪と激突した。
拮抗したのは一瞬。
砕け散った天輪が堕ちていく。
光はそのまま空へ上り、見えなくなった。
「どこいくねーん……」
「アキヒロ」
「え?」
「あの人のところに行きたいのだけれど」
「無茶言うなって……それで怪我させたら俺が怒られるじゃん。しかもミツキもいるんだしさ」
「どうせもう敵なんか死んでるでしょ」
「…………確かに」
先ほどの光球に巻き込まれて生きているのなら、それこそ天晴れだ。しかし、そう甘くはないだろう。
「分かったよ……でもアレだからな。2人ともそれ着たままだからな。歩き辛くても文句言うなよ」
「「はーい」」
「お行儀のいいことで……」
「よく褒められるわ」
「褒めてないんだコレが、実は」
「あら、そうなの」
先導する青年と、その背後に続く2人。
街に住んでいればそれが誰かくらいわかる。
『あっちは危ないぞ』なんて声を掛ける者は少数だった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない