【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
四門家の住まうセクターに限った話ではない。
襲撃は同時に、複数箇所において行われていた。散発的に行う意味はあるといえばあるが、今回は違ったようだ。
話術で増やした信者を前に立たせ、探索者にぶつけるという手法が取られていた。
戦闘経験の違いから大抵は探索者に軍配が上がるが、消耗したところで本隊がやってくる。
「あわわわ……」
『ふん……不可思議な奴もいるな』
姉妹の前にいるのは1人のエルフだった。
ヒナタと早苗は共に逃げ回っていたが、空を移動する相手に対してはそれも限界がある。
敢えなく回り込まれたというわけだ。
何故、わざわざこの姉妹を狙ったのか。
『妙な気配を追ってみれば…………ツラはいいらしいな。それに若い』
「……あ? 何だテメェ」
『気概も申し分なし……どうだ? 俺の女になるというのは。そうすれば命は助けてやる』
「……生憎だな。もう遅えよ」
『ふっ、その男も直ぐにいなくなるが……それでも意地を張るか?』
「お前より強いぜ」
『ほう、そのような大言を吐くか! ならばその男を目の前で八つ裂きにすれば気も変わるかな?』
男には相当な自信があるようだ。
しかし、アキヒロは別のセクターにいる。
早苗が前に出て吠えた。
「お姉ちゃんが許しません! あなたみたいな野蛮な人には妹は渡しません! 名前も教えません!」
『──フハハ! では、やはりその男を殺さなければならないらしいな! それとも、君が俺の相手をしてくれるのかな? お嬢さん』
「弱いものいじめが好きな人、嫌いなので! お断りします! それに……す、好きな人いますから!」
『何とわかりやすい! ではもはや、無理やり奪い去るしかあるまい!』
「へ」
予想外──だったのは早苗にとってでしかない。
分かっているヒナタは姉を後ろに押し込んだ。
当たり前だ。
彼らは破壊しに来た。
奪い去り、犯し尽くしに来た。
それに対して抗う力がないならば、好き勝手されても仕方ない。
『古来より、弱者は奪われるもの! その男とやらには悪いが、君たちは私がいただくとしよう!』
『えー、それはできなくてー』
『…………ん?』
エルフは首を傾げた。
今、どこから話しかけられたかが理解できなかった。
間延びした声。
明らかに2人とは違う異質な声。
辺りにいるのはトコトコと歩いている小柄な犬だけ。
もう一度探す。
『幻聴か? ……そんなわけはない。加護は効いて──いない!? いや、消えてはいないが……何だこの弱さは!』
男は慌てたように身をまさぐっている。
その様子を見た2人は安心したように溜息を吐いた。
『なんだ……何が……貴様らか!』
しかし、先ほどの余裕たっぷりな様子とは程遠い剣幕で男は睨み付ける。こんなことが出来るのは、不思議な気配を持つ彼女たちだけだと決め付けていた。
「なんだよ、いきなり人のせいにすんな」
『
「だから何の話だよ」
『加護を奪ったな!』
「はあ? 何だよ加護って……そんなにソレが大事なら住処から出てくんじゃねえ。ヒステリックな男とか一番きめーから。そもそも、人様の居場所にズカズカ入り込んでアレが無いだのコレが無いだの……姉ちゃん、こいつガキだわ」
もはや心底から冷え切った視線だった。
『余裕だな……先ほどの必死な姿も擬態だったというわけか! この毒婦め!』
「…………」
ヒナタの顔がどんどんと険しいものになっていく。
しかし、それで突っ込んだら取り返しのつかないことになる。早苗は早く来てと手を振った。
それに気付き、トコトコからトッコトッコぐらいの速さで寄ってくる。
『いやあ凄いね、ルッキズム万歳? アキヒロと気が合いそう』
「ああ!? ……あ、いや……」
『ごめんごめん、君を煽るつもりはないんだけどね』
小型犬が、ようやく2人の足元にやってきた。
パクパクと口を開くが、発言の内容とあいうえおが合っているわけではない。
しかし、確かにヒナタに話しかけている。
その状況を姉妹は何でもなく受け入れていた。
困惑しているのは、空から見下ろしている外来種一匹だけ。
『任されたはいいけどさあ、どこまでやれって指示くれないんだよアイツ。しかも3箇所分て……凄いよねえ、僕が本当にただの天才ワンコだったらどうするつもりだったんだろう』
「実はバレてるとか……」
『だからそれはないって。灯台下暗しで全然気付いてないし、そんな素振りもないから。あっ! その顔、信じてないだろ! なんて不遜な奴だ! 僕のことを疑うなんて! まあ僕は寛大だから許してあげるけど、コレがあのドブだったら普通に酷い目に遭わされてたんじゃない?』
「……」
『分かってるって……でもほら、何回も戦うのもめんどくさいからさ。一ヶ所に集めたいなって』
「ここにですか?」
エルフは、無視されていた。
先程まで確かに掴んでいた場の掌握権を一気に無くし、額に青筋を浮かべる。
『そこの!』
『そこの、だって! プププ! なんて呼べばいいかわからないんだよ! やっぱ学がないよね! 犬! とかでもいいのにさ。ああ、でも……犬! って叫ぶのちょっと滑稽か。いや、敵地でナンパかっこ誘拐かっことじなんか始めるような滑稽さに比べたらだいぶマシだけどね! ぷー!』
『──引き裂いてやる』
『いやー、元気だね』
──────
風切音で耳が潰れそうだ。
一つ跳ねれば更に加速し、更に耳がやられる。
それは攻撃性のあるものではなく、あくまで副次的な効果として表れたものに過ぎない。しかし、やはりそこはレベル17の探索者が身を置くような状況ではなかった。
「ひゃああああ!」
悲鳴を追い越して前に行く雷光。
斜め上後方からは陽の雨が降り注ぐ。
下から次々と襲いかかる木の槍は、そのまま空に樹冠を出現させた。
振り落とされないよう必死に毛を掴む少女は、理不尽さに絶叫した。
「なんでなんでなんでなんでなんでえええ!」
「ワフッ」
「僕の背中にいるからだって……そういうことじゃないよ!」
それは答えだが、求めている答えではなかった。
もっと親身な答えがいい。
誰だってそうだろう。
『ワフワフ』
「助けに来てくれたのはカッコよかったけど! けど、そうじゃなくて! 凄い数だよ!?」
「ワフゥ……」
「何で私が悪いみたいになってんの!? だってしょうがないじゃん! 私レベル17だよ!?」
「ワフッ!」
「うぇっ」
また一つ、謎の一撃が至近距離を流れた。
方向の急転換で手を離してしまった彼女を咥えると、そのままヌラヌラと舐めながら跳ねる。
「うええ……ヒロさーん……臭いよお……」
「もぐもぐ」
「……え? この状態でやるの?」
「もぐもぐ」
「怖いよお……そもそもあんな奴ら相手にコマちゃん戦えるのお……?」
泣きべそをかいた猫を咥えた犬は、猫の質問を一旦無視して立ち止まる。
すると当然、攻撃を仕掛けていた者達十数名が追い付いた。
『こいっ……つっ……速すぎだろ……!』
『やっと……追い付いた…………』
『観念……したか……!』
途中から攻撃しなくなっていた事からもそうだが、襲撃者たちの速度的にギリギリのところで逃げ回っていたようだ。
「にゅへえっ」
ベシャッと地面に落とされたアリサは、全身がひどかった。
べっちゃべちゃで、光り輝いている。
かわいそうに。
コレもひとえに弱いせいだが。
「うぇぇぇぇん!」
泣き出した。
よほど怖かったらしい。
『あいつ早く捕まえるぞ!』
『待てって! 先にあのモンスターからだ!』
『……おい! 早く隷属させろよ!』
襲撃者の中にはモンスターを使役する者もいた。
こんな街中でモンスターを見た住民はパニックに陥っていたが、それは道中で数を減らしている。
その分を補充する意味もあったのだろう。
しかし、理解できないと首を捻っている。
『──できない……やっぱり隷属させられない!』
『なんだそりゃ』
『加護の力が効かないんだ! 弾かれてるし……そもそも力が弱まってる!』
『はあ!? …………いや、俺たちもだ!?』
若い。
アリサと同じくらいの年代の男だろう。
それが集まって何をしようとしていたのか。
「うわ、ちょっ」
狛犬は脚の間に彼女を押し込めた。
親犬が子犬を守っているかのようだ。
だが、視覚的におかしなことがひとつ。
『大きく……なってるのか……?』
最初こそ彼女が乗れるほどの体格──馬程度のサイズだったが、それよりも大きくなっているように見えた。
脚の間にいる彼女も同じことを感じているようで、腹を見上げている。
「なにこれ……」
そのまま止まることを知らずに大きくなった狛犬は、大体10mくらいになった。
小さめの橋くらいの大きさで、取り囲んでいるエルフたちを睨み付けると口を開けた。
『なんっ──』
──────
「あら〜可愛いのね〜!」
「小さいねえ……でも、こんな放し飼いにしてるんだ」
「危ないから預けに来たんでしょ。一言言ってけばいいのに」
キラキラと目を輝かせて見上げる小動物を持ち上げたアケミは、息子への文句を呟きながら早速餌をあげる。
「あまりもので良いわよね」
「すんすん……ぺろっ……わふ……」
「今、首捻った?」
「……がつがつがつがつ!」
「気のせいかしら」
冷ややかな目を向けるのはアカネ1人だ。
それはコマちゃんに対してのものではなく、犬を勝手に預けた兄に対してだが。
「お兄ちゃん……サイテー」
「何言ってんの! あんたの学費とか出してんのあの子なんだからね!」
「それとこれとは別でしょ! お金持ってるなら何でもして良いわけじゃないじゃん!」
「そういうのは自分でお金稼ぐようになってから言いなさい」
「…………死ねっ!」
「あ、こらっ!」
「……なにこれ! 開かないんだけど!」
アカネは言うだけ言って飛び出そうとしたが、扉がギチギチに閉まっているようで開かない。これでは悪口を言っただけになってしまう。
気まずい沈黙の中で扉前に佇んでいた彼女の背後に気配。
それは母親ではなかった。
「アカネ、お母さんには謝りなさい。でも、そこは一旦どいてくれるかい」
「…………」
「これは──扉がおかしくなったわけじゃないね」
「……じゃあなに?」
「さあ、でも開けられないようになってるのは間違いない」
エリックは扉を離れて、掃き出し窓の前にやってきた。
家中を点検してエリックが出した結論。
それは──
「どうやら僕たちは閉じ込められたみたいだね」
途端にパニックに陥る嫁と娘。
てんやわんやで、扉や窓を壊れろというくらいに叩き始めた。拳や蹴りでは傷ひとつつかないとわかると今度は椅子まで投げようとする──が、非力なので無理だった
「だれかー! 誰かいませんかあああ! 外に誰かいませんか!」
「やだああ! たすけてええ!」
エリックはその様子をにっこりと見つめている。
何もできないとわかっているのに足掻く様子が微笑ましいようだ。
「そうだ! お兄ちゃんに連絡してよ!」
「あっ! そ、そうね!」
慌てて端末を動かすが届かない。
そもそも通話が機能していないのか、アキヒロ以外に試してもつながらなかった。
加速するパニック。
2人は同じ場所を回るばかりで打つ手は無いようだ。
「さて、2人とも」
そこでやっとエリックが動く。
ぴたりと止まった2人の泣きそうな視線に、落ち着いて返した。
「満足したかな?」
「──満足って何よ! 閉じ込められてるのよ私たち!」
「そうだよ!」
妻は、現状を改善しようとする意思すら見せない夫に対して失望した! と言葉を浴びせる。
娘は、とりあえず便乗する。
「仲が良くて良いね」
「真面目にしてよ!」
「いやいや、真面目さ──おっとっと」
突撃してきた妻を受け止め、泣きそうな顔を見ると抱きしめた。
娘にそんなもの見せるな。
「そんなに心配しなくて大丈夫だよ。だってほら、アキヒロがコマちゃんを預けたタイミングでこうなったって事は理由があるんだから」
「……それを先に言ってよ! そうじゃん!」
「だからほら、落ち着いて待っていよう。慌てるほど疲れるだけだし……そうだ、今日はもう寝ちゃうのなんてどうかな?」
それはいい、そうしよう。
しかし風呂には入れるのか。
外界から隔絶された状態だ。
「──ふぅ」
「入れるんだ……」
2人で入る風呂は、少し狭いくらいで問題ない。
お湯も出る。
「……はああ」
「あんまり長く入ってるとアカネも不安になるし、今日は早めに出ようか」
「うん……」
「また今度、ゆっくり入ろうよ」
「うん……」
「寝ちゃダメだよ」
「うん……」
『まだー!?』
「あはは、ほら」
外で何が起きているかも知らず、3人は久しぶりに川の字でベッドに並んだ。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない