【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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ほんまごめん


62_えー、恥ずかしいです

 

 剣を抜いたはいいものの、迫り来る巨体への恐ろしさは堪えきれない。表情を引き攣らせた。

 

「うわああおぐっ──」

 

 逃げ出そうと走り出した瞬間、横っ腹に牙が突き刺さる。

 歪む顔、

 突き上げられ、木の葉のように高く舞った身体は、やはり地面に投げ出された。骨折、内臓損傷まではしていると素直に考えるべきだ。音もボキッと。

 見た感じ即死のラインではなかった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 だけどこれで、怪我のランクは入れ替わった。

 一番最初に足を負傷して動けなかった少女が一番軽傷だ。

 歯の根を震わせながら這っている。

 痛みを恐怖が上回ったのだろう。

 それとも、痛いと言っても反応してくれる人がいなくなったからか。

 無駄な努力の最中だ。

 

『フゴッ、フゴッ、フゴッ!』

 

「あ……ああ……」

 

 3mの獣の一歩は大きい。

 彼女の元へあっという間に辿り着き、鼻息を荒げている。

 匂ってくる香りは、彼女の恐怖が限界を迎えたことの証だろう。

 

「フゴォッ」

 

「ひいいいい!」

 

 おそらくは仕留めるつもりだ。

 あの前足を上げて振り下ろすだけで終わる。

 それとも噛み砕くか。

 ただの人間などおやつでしかない。

 あの3人だけならこれで冒険は完全終了だ。

 

「────?」

 

 不思議そうに動いている瞳。

 何が起きたか分かっていないだろう。

 綺麗に切り落とした首の断面から溢れ出る血潮が、その場に赤い水溜りを作る。

 体が硬直する前に近くにあった小川に運んで首を浸けておいた。

 

「うぎゃああああ!!?」

 

 3人は、痛みとダメージで動くことすらできなかったところに回復薬をぶっかけたせいで、体液という体液を撒き散らしながら気絶した。

 皮の下で、折れた骨がメキメキと音を立てながら元に戻っていく。抉れたところの肉が無理やり埋まっていく。

 それも全員に見させた。

 

 回復薬を使わなければならない状況とは何か。

 回復薬を使うとどうなるか。

 

 理想と現実の差。

 

 話ができる3人だからこそ何とか受け入れることもできたのだろう。顔を青ざめさせ、口いっぱいに溜めたものを吐き出しながらも逃げることはなかった。

 逃げる余裕がなかっただけ? そういう見方もある。

 

 寝てるのか気絶してるのかわからない3人の頬を軽く引っ叩いて起こす。

 

「俺たち……あれ……傷は……」

 

 恐怖で引き攣った表情のまま怪我を負っていたはずの部位を弄っている。夢とか思っていそうだったので、空瓶を3つ見せた。

 

「回復薬を3つ使った。死ぬ直前だったからな」

 

「え──」

 

「言うべきことは?」

 

 言うまでは解放しなかった。

 

「ありがとう……ございました……あと……ごめんなさい……」

 

 少女が舐めた態度だったのでぶん殴ったのも関わっているだろう。

 

『何で助けてくれなかったのよ! このヒトデナシ!』

 

 なんて言われたので普通に手が出た。

 シエルやヒナタ達に言われるのと、それ以外の人間から言われるのでは違うんだよ。

 ちなみにミツキも何か言いかけてたけど、俺が先にぶん殴ったせいで空振っていた。

 

「そういえばアキってそうだった……」

 

 そう、とは。

 

「私以外殴られてるの忘れてた……」

 

 アリサとヒナタの話だろうか。

 仕方ない、アレは2人が悪かったから。

 

「……そうだね」

 

 3人にボアの状態を見せると更に顔が青ざめていく。

 死体を見せるとレベルの理不尽さを可視化できていいな。

 これはコマちゃんの為に燻製にする。

 帰ってくるまでに残ってたら持っていこう。

 

「あ、あんな大きなの運べるわけねえ……」

 

 同じ大きの岩を持ち上げて分からせた。

 

「なんなんだ……あんなのあり得ねえ……バケモノ……」

 

 ところで、猪の血抜きをしているのは川。

 つまり水場だ。

 粘質草は水場に生える。

 

「あった!」

 

 あっさりと見つけることができた。

 これを一人ずつカゴ一杯持ち帰るのが今回の依頼。

 それぞれカゴを渡されている。

 初級者用の依頼ということで、粘質草は見つけること自体は極めて容易な採取物だ。

 だから、あとは数を揃えるだけ。

 6人分となると相当になる。

 

「まだ埋まらない……」

 

 茎の根元付近、白くなっているところより上を折ってカゴに投げ入れる作業。

 退屈だろう。

 想像していたのと違うだろう。

 それこそ、蹂躙されたとはいえ先程のイノセントボアとの戦闘の方がよほどイメージ上の探索者がやっていることに近い筈だ。

 

 実際のところは、採取系の依頼の方が圧倒的に多い。

 討伐系の依頼を出さなきゃいけない状態の人間はすでに死んでいるし、セクターの管理的に排除したいようなモンスターについて商工会から依頼を出す感じだ。

 採取は民間からがほとんどだな。

 

「もう少し上流に行く?」

 

「……あの人に聞いてみる?」

 

 ここら辺の粘質草をあらかた取ってしまったので、場所を変えたいようだ。

 わざわざ聞かれなくても状況は把握しているけど、きちんと自分から聞いてくるまでは待った。

 

「取り尽くしちゃったんですけど……もう少し川を遡っても行ってもいいですか?」

 

「別の群生地を探したいってことだな?」

 

「はい」

 

 ただ行くのじゃ意味ないか。

 

「──ところで、モンスターの活発な活動範囲は把握してるか?」

 

「え?」

 

「さっきのイノセントボアは群れで暮らすのが本来だ。なんでか逸れだったけど、どこかには必ず群れがいる。そして、基本的にはこのダンジョン内のどこかにナワバリがある。その場所だよ」

 

「…………知らない」

 

「うん、そうだろうな。あ、ちなみに責めてるわけじゃないぞ。これも学んで欲しいからな」

 

 下準備という概念だ。

 

「探索者が依頼を受けた時、ダンジョンで気をつけなきゃいけないことがわかる人」

 

「…………モンスター」

 

「そうだな、危ないからな」

 

 先程ボコボコにされたばかりの3人はそう言うだろう。

 見ていた他のメンバーもそう思うだろうけど、別の答えを出すように指示した。

 

「…………あ、向き。自分がいる方向」

 

「うん、いいね。他には?」

 

 意地悪みたいなものだけど、とにかく別の答えを出させた。

 

「えっと……天気!」

 

「確かに大事だ」

 

 ミツキは一番最後だ。

 

「なんでよ……うーん…………地形!」

 

「はい、全員正解」

 

 ブーイングが上がった。

 だけど、全員正解なのだから仕方ない。

 

「何で全員正解なんですか」

 

「全部必要だからだよ。全部気にしなきゃいけないことで、知っておけるなら知っておいた方がいいからだ」

 

「そりゃそうだけど……それだけ?」

 

「そう」

 

「無理じゃん、全部先に知るなんて」

 

「もちろん全部は無理だぞ。だけど、全部じゃなくても知っておくことができるものはあるだろ? 例えばイノセントボアの特徴とか。さっき出会した時、あのモンスターの名前わかったか?」

 

 話を繋げたいところは結局──

 

「上流に行きたいなら、まずは上流が安全かどうかを知っておきたいってこと?」

 

「そういうこと」

 

「どうやって知るの?」

 

「モンスターの生息範囲を知ることもそうだし、地図があるならそれを手に入れておくのも一つだな。まあ、ダンジョンは形を変えたりしやすいから目安程度にしかならないことも多いけど無いよりマシだ」

 

 今回は俺が先導するから良いけど、次からは自分で調べておくように言っておいた。

 あと、情報はタダじゃないとも。

 本来は、こういう生な情報を教えてもらうために教官制度があって、ハシュアーは金を払ってそこを利用している。

 今回は支部長からの依頼なので、探索者から金をもらう代わりに商工会から金をもらって教官モドキとしてやっているわけだ。

 

 自分がオーソドックスなタイプの探索者じゃないことは自覚しているので、そこは支部長にも伝えてある。好きなようにやって良いというお墨付きは得ていた。

 

「蝶々がいっぱいいるね」

 

 上流に進むと、体長20cmほどの蝶が群生していた。

 花に群がっている。

 触れないように注意した。

 猛毒だ。

 

「毒の花ってこんな普通に咲いてるの!?」

 

 咲いているのだ。

 ついでに、その毒花の蜜を吸って生きている蝶も猛毒を備えている。

 触れたら5分と絶たずに痺れて動けなくなるだろう。

 

「でも……」

 

 先に進むには花を避けないといけないが、花の群生地の広さは相当だ。つまり、相応に迂回しないといけない。

 ……ですが! 何と、今回に限り! 

 俺がいるので無視できます。

 というわけで、大岩をゴロゴロ転がしながら進みます。

 

「なにこれ……ズルじゃん……」

 

「うわ、石に虫がくっついてる気持ち悪……」

 

 使えるものは何でも使う、それもまた探索者だ。

 

「それ言っとけばいいと思ってない?」

 

 更に進むと粘質草が生えていた。

 この量ならカゴを埋めることもできるだろう。

 

「待った」

 

 しかし、飛び出すことは待たせた。

 思っていたより丈が高い。

 伏せるかしゃがむかしていれば、人がいても気づかないほどには。

 一回、上空に飛び出して草の様子を見ると、誰もいない。

 ここまでやってようやく採取開始だ。

 

「神経質……じゃないんだよね?」

 

「ああ、こういうシチュエーションで5人に待ち伏せされたことがある」

 

 コマちゃんがいたから気付けたけど、1人だったら捕まっていただろう。

 モンスターよりも人間の方がよほど恐ろしいと思うのはこういうところだ。

 という話をしたせいか、全員ビビりながら採取を行っていた。何のために最初に確認したのか分からないけど、初心者はビビるくらい慎重な方がいいな。

 

「おお! ちゃんと戻ってきたね!」

 

 こんなことを言っているが、別の受付のところに行こうとしたらわざわざ寄ってきた。どんだけ好き放題なんだよ。

 カゴの中身が粘質草であることを確認すると、裏に持っていく。

 少しして、ミツキ以外の5人は新しい通帳とドッグタグが支給された。

 ミツキはドッグタグのみだ、口座は光輝さんが作ってたからな。バイト代もそこに貯めていたらしい。商工会の口座は本来なら探索者しか使えないけど……まあ、はい。

 権力! 

 

 帰ったら夕飯だけど、もう少し時間がありそうだからナナオさんと話した。ミツキは剣を鞘から抜いてボーッと見ている。

 

「どうだった? どんな感じ? 探索者としてやってけそうだと思う?」

 

「女の子2人の方は行けるんじゃないかな」

 

「3人は?」

 

「今後に期待」

 

「そっか……まあ、そうだよね」

 

「後は本人たち次第だな」

 

 ちなみに、本当にマジでもう面倒は見ない。

 三船君達とミツキ、アリサに力を入れたいから。 

 ミツキがいなかったら絶対に話も受けなかった。

 

「アキヒロくんが探索者やめたら絶対に勧誘されると思うな〜」

 

「俺が探索者辞める時って夢が叶ってる時だから、絶対断るよ」

 

「えー!」

 

 ボケっとしたままのミツキの手を引いて帰った。

 何気に、アリサ・ミツキ・ヒナタの3人が集まって飯って覚えがないぐらいに珍しいのでは? 

 




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