【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
王とすら呼ばれる竜に挑む。
それは簡単な話ではない。
里に住むドラゴニアの中では最弱と言っていいらしい彼女のレベルは30後半〜40前半程度だろうと推測していた。特殊な力があるだけで、戦闘力が高いわけではない。
爪や牙もそこまで長くない為、素の肉体の強さもそこまでだ。魅了させる力はあるようだが俺やドラゴニアには効かない。
それでも小柄ゆえの有利な部分はある。
通常のモンスターが相手であれば、の話だ。
『!』
「うおあ!?」
「きゃあっ!」
翼をはためかせただけで俺たちは空中に巻き上げられかけた。空に投げ出されると、翼を持たない俺たちは圧倒的な不利になる。
地上に降りることすらできずになぶられるだろう。
故に、魔剣を突き立てて耐えた。
彼女の手を掴んで、腰に腕を回させる。
「──これじゃあ近寄ることすらできません!」
攻撃じゃない。
ただの動作だ。
それがレベル50の俺ですら抗えない環境の変化をもたらす。単一の生命が持っていいような力ではない。
「──それでも近付くんだ!」
力を示すために。
片手で魔剣を構え、地面に突き刺す。
もう片手はもう少し先の地面を殴った。
硬い。
多量の魔素を含んだ大地だ。
ただの土に見えてもそこらのと同じじゃない。
だけど貫けないわけじゃなかった。
痛みはあるけど、黄金に置き換わって硬くなった俺の拳なら突き刺せる。
「な、なんて無茶な……」
片腕と魔剣を交互に地面に突き刺し、無理やり進んでいく。
風速にすれば100m毎秒は容易に超えるだろう風の中では、吹き荒ぶ大気に混じって小石や枝などが飛び回っていた。
着ているのがただの服であれば、あっという間に傷ついて全裸になっていただろう。
「外套の中に入れ!」
「……はいっ!」
薄布一枚の貧弱な装いでは心配が勝る。
俺の鎧は重いからひっついていた方が風の影響も薄まるだろうと考えた。
多少動きづらくなったけど、腹回りでうろちょろされるよりはマシだ。
「あの!」
「なんだ!」
「痛くないんですか!」
「その質問、今答えた方がいいのか!?」
「はい!」
「痛えよ!」
「へー!」
やっぱ今じゃなくてよかっただろ!
「何でもない顔して地面殴ってるから!」
だから覗き込んできたのかコイツ……余裕あるなら──!
「う、うわわわ」
気遣ってちょっと抑えめに進んでいたのを全力でいくことにした。だけど、それもすぐに限界が来る。
「近付くほどに……!」
風は、中心に近づく程に強まっていく。
表土が風の負圧によって捲りあげられ、黄金に変じながら俺の体を打つ。
それだけじゃない。
もはや何の痛みなのかすら分からないほど、体の変質が激しかった。
風が吹き当たるたびに皮膚が赤く燃える。
もはや、金メッキを施された人間のようなものだ。
このまま進んでも戦うどころではない。
竜の足元がそうであるように、黄金の立像に変えられてしまうやもしれん。
「どうするんですか!」
「──」
右手に力を込めた。
鋭い痛みを無視して黒い炎を纏わせる。
『…………』
僅かな揺らぎ。
さしもの竜でも思うところがあるようだ。
しかし魔素の嵐が弱まるわけではない。
…………こんなところで地面を這いつくばってちゃ、力を示すも何もないだろ!
「そ、その禍々しい炎は……」
「俺の全力だ!」
『──ならば、よし』
俺が全力を出すのを待っていたのか。
言うが早いか、天高く飛び立った。
途端に収まった風。
空中で羽ばたきすらせず留まり、その両翼から黄金の鏃を無数に飛ばした。
「はっ! ……おい嘘だろ」
風がなくなった今ならば避けられる程度の速度。
しかし威力は──
「あんなのに当たったら即死だぞ!」
着弾した木々が黄金に成り変わった。
心臓や脳など致命的な部位でないところであっても、肉体全てが金属に変われば生命活動は停止する。回復薬が効くかも分からない。
皮膚だけであれば今の所効いているが。
「次が来ます!」
「もう降りろ!」
「私じゃ避けられませんよ!」
「何しに来たんだ!? ──うおあっ!」
黄金の斬撃。
深く抉られた地面は、やはり金に輝いていた。
「お爺さまが全力を出すと、空から勝手に黄金が降り注ぎます! まだ、全く全力ではありません!」
「そりゃ嬉しいねっ!」
ぶん投げられた岩を両断した。
「力を示せなんて言ってるけど……空にいるしなあ」
地表を直走ることでなんとか的は散らしている。
それでも、当てようと思えば出来るだろうに避けたら問題ない程度に抑えてもらっていた。
「届け!」
全開の炎は、勢いだけなら空にも瞬く間に上ってくれる。
俺の意思に従って竜へ一直線に進み──黄金の息吹と激突した。
「おっ……もい……!?」
果てしない重さだ。
こちらが質量のある炎なら、あちらも質量のある炎ということか。
しかし、押し合いで負けるわけにはいかない。
腕が折れるまでは粘った。
「飲んでください!」
「ぐっ……すまん……!」
回復薬を出してもらい、砕けた両腕を再生させながら駆ける。
竜は、やはり地表に降りてくる気はないようだ。
こうなったら腹を括るしかない。
「なにを……わっ!?」
大岩をいくつも投げ飛ばし、それに飛び乗った。
足場代わりに弾いて接近すると、呆れたようにこちらを見ている。
『力を縛って挑むなど……半端だったか』
「生憎と、異能なんか持ってねえ!」
迎える爪目掛けて、渾身の力で剣を振り下ろした。
──腕が吹き飛んだ。
体も同じく弾き飛ばされ、空中を舞い飛ぶ。
どこに向かっているか分からぬまま、瞳の先に詰め寄ってきた竜と目が合った。
『チカラを持たない……?』
くどいほどに黄金の瞳は、俺の全てを見透かそうとしているかのように全身を睨め付ける。
なんとも悔しいことに、さっき言った通りだ。
空を飛ぶことすらできないから、あんなことをしなければならない。自在に飛び回られたらなす術がない。
『──おっと』
残った左腕で掴んだ空気銃を突き付けてトリガーを引いた瞬間、バレルロールによって離れていく。
巨体がありえないほどの身軽さで銃撃を避け続け、口元に雷を溜め始めた。
また嫌な攻撃をするのだろう。
「私も!」
あっちが雷ならこっちも。
背中にひっついていた彼女は、口を大きく開けて同じような雷を溜めていた。
放物線に従って地面に落ち、両脚で付くと同時に放たれた確かな雷光。
十分な威力を持っていただろう。
ドラゴン一匹を丸ごと飲み込む程度の太ましいレーザーだった。
──返されたのは、山をも穿つのではというサイズ。
「──!」
声すら上げられない。
あまりの威力に、直撃の寸前に押し寄せた圧縮空気によって吹き飛ばされた。
地面を跳ねるように吹っ飛び、体感1分くらいはもみくちゃだった。
右腕は多分消えた。
「ぅ……」
全身を殴りつけられたような痛みが走っている。
黄金がどうとかじゃない。
ただの人間と変わらないように嬲られていた。
左腕で地面を掴んで体をなんとか起こすと、重いものが着地する振動が伝わってきた。
『不可思議な。我々の持つチカラも貴様らの持つチカラも等しく不可思議ではあるが……それを一つすら持たぬとは更に妙なことだ』
これまでは本当に肉の焼き手くらいにしか見られていなかったのだろう。俺という個人にフォーカスが当てられると、そういう感想になるらしい。
「お孫さん吹っ飛ばしちゃってよかったのか」
『ふむ……まあ、生きておる』
「そりゃ良かった」
視界が飛び始めたので回復薬をがぶ飲みした。
きつけ代わりも兼ねての止血だ。
まだまだ元気だからな。
「さて──」
『待て』
「?」
『チカラが無いとなると話が違う』
「どういう……?」
『示せと言ったのはお主のチカラの全てじゃ。それを以てお主の道筋を見定めるつもりだった──が、チカラが無いのは話が違う』
そんなこと言われても、腕があれば殴れるし足があれば跳べる。何が気に食わないのか。
まさかチカラが無いやつとは戦いたくないってことだろうか。
それは困る。
戦ってもらわないとチカラが示せないし、あの雲をなんとかしてもらうこともできない。
そもそも、何故そんな理性的なのか。
力こそ全てじゃないのか。
『ふむ……』
いきなりハシゴを外された気分だ。
しかも強者が拳を引いた以上、弱者が何をしてもみっともないだけになる。
──でも撃っておいた。
『ぬっ!?』
やはり神器に昇格しただけはある。
突然の痛み、というやつを与えることはできたようだ。
ドゴンドゴンと着弾音が響き、竜は再び飛び上がった。
『……そこまでやりたいか』
「あの雲を消したいんだからやるだろ」
『その事ならもう良いのだがな』
「え? 本当に?」
単純な力比べになると本当に意味のない、気遣いありきのものになるからだそうだ。
それはそうだけど、最初からそうじゃなかったか?
『チカラを使うために時間がかかるのかと思ってな。待っていた』
そもそも異能から何を読み取れるというのか。
よく分からんかったけど、とにかくもう良いようだ。
『あの子を導いてくれたことには感謝しておる。他の猿はどうでもいいが……まあ、お主は信じても良い』
「…………ありがとうございます」
『大事にしろよ』
「え? ああ、それはもちろん」
もちろん友人として、末長くお付き合いをさせていただくつもりだ。何せ貴重な人型の人外なのだから。
どうやって社会を築くのか気になるところだ。
しかし、その大事にするべきお孫さんは吹き飛ばされてしまったわけだが。
『呼んでくる』
「────はぁぁ……」
一人になった瞬間、その場に尻餅をついた。
「何もできなかったな」
本当に、まるで歯が立たなかった。
分かっていたけど負けると凹む。
不断の努力は、圧倒的な災害には勝てないということだ。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない