【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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65_ただ、火を見つめていた

 周囲を見渡すともうメチャクチャ。

 俺の全力移動も割と環境破壊だけど、あの爺さんの方がよほど笑えない被害を出してる。

 そこらをほっつき歩いてたっぽい強そうなモンスターがミンチになって木に引っかかっていた。

 黄金まみれのミンチとか最悪だな。

 

 魔素の励起が止まったからか、すでに黄金化は止まっている。前来た時は黄金でベッドの釘とかを作ってもらうくらいだったけど、アレを本気で使われるとこうなるんだ。

 キラキラと光る皮膚を震える指先で剥がして回復薬を飲んだ。生皮自分で剥がすのキツすぎる。

 涙で視界が滲むのを堪えながらだった。

 戦闘時は痛みにも適応してるけど、普段はそうじゃないんだこれが。

 

「うあぁ……」

 

『娘』は鷲掴みにされて戻って来た。

 傷だらけだ。

 それに、あの衝撃は耐えきれなかったのか両足も折れている。顔が痛みに大きく歪んで、声を出すことすらできそうになかった。

 それを鷲掴みで運んでくるのだから、ドラゴニアは大概スパルタだな。

 

 回復薬で治すと不思議そうに足を触っていた。

 

「…………こんな感覚なんですね」

 

 彼女が外で怪我をするようなシチュエーションはなかったので、彼女に対して使うのも初めてだ。回復薬を使うところ自体はこれまでにも見せた事があったと思う。

 

 しかし、殺されると思っていただけに拍子抜けすぎて微妙な気持ちだ。

 それは向こうも同じようで、そんな重い覚悟されても困る……みたいな反応をされてしまった。

 俺の異能を確かめる事でなにを知りたかったのか、それが本当に謎だ。聞いてもむにゃむにゃ言って誤魔化すだけだし、娘は口半開きで視線を行ったり来たりさせている。

 答えを得ることはできなさそうだ。

 

 それはもう良い。

 異能が無いという話は悔しいけど、どうしようもないことだ。

 

『──場所はそやつに教えた』

 

 なぜ俺に教えないのか。

 

『お主が知ったところでわかるものでもない』

 

 どうやら、ドラゴニア特有の知覚器官が必要らしい。

 ピット器官? 

 

『そのようなものではない』

 

 彼女が俺を竜の里に導いた時の、あの遠見の力が必要なようだ。つまりそれは、他のドラゴンでも無理ということに他ならない。本格的に彼女を大事にしないといけなくなった。

 嫌ではないけど、難しい問題だ。

 

「ほら、アキヒロも腕を」

 

 ありがたいことに、彼女が腕を持って来てくれた。

 吹っ飛んだそれを、血の匂いを辿って探してくれていたらしい。本当にありがたい。

 塞がっていた肩口の断面を切り落としてもらって、そこにくっつけた。

 

 ちなみに、気絶したのでくっつける作業は彼女にやってもらっている。切られる直前は、頭の中に埋め込まれた小型爆弾を不活化させるために自分で電気ショックを喰らう気分だった。なんともややこしいことに、痛みで力のリミッターが外れるので木を咥えたりしても意味がない。

 鉄だろうが噛み砕いてしまう。

 

「もうやりたくないです」

 

 目覚めると、気分悪そうにそんなことを言っていた。

 俺だってやりたくないしやって欲しくない。

 

「アキヒロが全身傷だらけの理由がわかりました」

 

 休んでいる暇はない。

 終わったら次だ。

 彼女の導きに従って空を飛んでいく。

 相変わらず赤い雲は、近づくと明らかにドラゴン達が体調悪そうにするのでやや低めに飛ばないといけない。

 敵や探索者に見つからない為にも雲に隠れたいのに、それができないもどかしさは如何ともしがたかった。

 

 

 ──────

 

 

「大変だったんだね〜」

 

 本当に大変だった。

 一体は全然出てこないし、もう一体は全然追い付けないし、最後の一体は遠すぎてギリギリだった。

 ドラゴンに乗って行くことを選んだのは完全に正解だった。

 

「頑張ったアキヒロくんにご褒美〜!」

 

 伸ばされた手。

 意図は明らかだったので頭を下げると、子供らしくほんのりと湿った感触が髪をわしゃわしゃとしてくれた。

 

「おーい、またイチャイチャしてんじゃねーよ」

 

「ねえさあ。お姉ちゃん……しかも早苗さんに嫉妬するのみっともないからやめたら?」

 

「はあ!? こいつアキヒロの事狙ってんだぞ!」

 

「え? …………またまた〜」

 

「じゃあ本人に聞いてみろよ。ちょうど良い、狙ってねえってんならハッキリ言ってくれよ」

 

 この肉はなかなか美味いな。

 

「え、えっとお〜……」

 

「早苗さん?」

 

「……ね、狙ってるとかそういう変な感じじゃないかなあ? だってほら……アキヒロくんが私のこと大好きなわけだし」

 

「早苗さん!?」

 

 こっちの野菜はヌルヌルグチョグチョしてるな。醤油が欲しい。

 

「アキ! アキ! 変だよ! なんで早苗さんがアキのこと狙ってるの!?」

 

 うーん……味付けがいい。

 さすがヒナタだ。

 もうお嫁さんになっても大丈夫だな。

 

「あれっ!? 聞いてるよねこれ!?」

 

「遠く見てるね」

 

「ねえっ! ねえってばっ! 幼馴染が話しかけてるんだぞっ!」

 

 強制的に物質を黄金に変換する力……つまり分子に作用する力か? いや、魔素はそもそもそういう力だったな。

 力に指向性をつけて極めるとあんな風にできるのか。

 牧場を作るには……? 

 

「おいー!」

 

「んぶっ……なんだよ」

 

「なんだよじゃなくて! なんで早苗さんがアキの子と狙ってるのっ!」

 

 なんでってなんだよ。

 狙ってるものは狙ってるんだろ。

 

「なんで当然みたいな顔で受け入れてるの……? まさか浮気……?」

 

 おいやめろ。

 そんなことを言ったら──

 

「ヒロさん?」

 

「てめえ、これはどういうことだ?」

 

 改めて説明すると非難轟々も極まれりだった。

 関係ないテマリさんまで混じって、人のことを股間に支配された生物みたいに言いやがる。

 浮気をしたわけでもないのに。

 群れた女子とはドラゴンよりも厄介なもので、人の話なんてまるで聞きやしない。

 説明の一言一句に突っかかってくる。まるでウサギだ。

 

「こんなちびっ子に手出すなんて何考えてんだ!」

 

 出してない。

 誓って出してないし5回ぐらい言ったのに聞いてくれない。

 早苗ちゃんのことを待つよって話をしただけなのに。

 

「それもう、数年後に早苗さんとゴニョゴニョするって言ってるようなものじゃん!」

 

 数年経ったら早苗ちゃんが別の人に想いを抱く可能性があるのに、完全に否定している。

 

「そういう余地を残してくれないのはお前だろ!」

 

 何言ってるかわからなくなって来たな……つまりなんだ? 俺が嫉妬してすぐに手を出すみたいに思われてるわけか。

 

「なんでいきなり頭が悪くなるんだコイツ……」

 

「ヒロさんいいですか? よく聞いてくださいね。私がヒロさんを好きになってから20年が経ちました」

 

 まだ生まれてないよね、というツッコミ待ちだろうか。

 

「それくらいの気持ちでいるってことです!」

 

 20年も経ったら倦怠期だろ流石に。

 

「なんでそういうこと言うんですか! 私たちがそうなるって言いたいんですか!」

 

 そうは言ってない。

 普通は、ってことだ。

 今日は何故こんなに犬歯をむき出しにしてくるんだ、この子達。こんなに美味しいご飯があるのに、何故そこまで気分を悪くできるのか理解できない。

 

「ご飯が食えれば何でもいいのはアキだけだよ!」

 

 食事に幸福を感じることのできる国民性はまだ生きていたんだな……幸せなことだ。

 それにしても、肝心の早苗ちゃんが援護すらしてくれない。何をしているのかと見てみれば、ソファに倒れ込んでいた。服を被ってお尻だけ出している。

 頭隠して…………? 

 

「もう生きていけない……」

 

 わけがわからない。

 せっかく邪神の呪縛から解放された事が明らかになったのに……人生はここからだろ? 

 まさか、また邪神が現れたのか? 

 

「ころして……」

 

 コマちゃんを呼びつけようかと思ったけど、俺以外の全員が一致してその必要はないと言い切った。

 時として、専門家よりも大衆の意見が優先されることはある。大丈夫そうだね──なんて、こちらの様子が分かっているようで来てくれなかった。

 いつまで庭にいるんだよ。

 

 俺は蚊帳の外で3人が早苗ちゃんを責め始めるのかと思えば、意外なことにアリサが擁護をし始めた。

 どういう展開かわからなかったので庭に出ると、真剣そのものの表情のハシュアーが肉を監視している。

 うるさくなかっただろうか。

 

「あのくらいは普通だよ」

 

 職人らしい頑固さで、まるで気にしていないと言い切った。

 顔は煤で真っ黒だ。

 あの巨大な肉が燻製になるのを待つためだけに駆り出させてしまって申し訳ないけど、すごい助かる。

 

「ううん。俺も出来ることを色々増やしていかなきゃなって……これはその始めみたいな」

 

 何かの心変わり、あるいは覚悟が決まったらしい。

 何がきっかけかは分からないけど、ハシュアーは今でも十分に頑張っていると俺は思う。

 

「まだまだだよ」

 

 一旦手を止めて、こちらに向き直った。

 

「もっと強くなりたいし、もっといろんなものが見たいんだ」

 

 穏やかながら消えない確実な火種が見えたような気がした。

 

「逃げてんじゃねーぞ!」

 

「こっち来てください!」

 

 とほほ……

 




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