【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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68_腐り果てた村?

「コマちゃん、今回も頼むよ」

 

「わふ」

 

『腐り果てた村』は酷い有様と化していた。

 正確に言えば、村そのものではなく周辺が。

 ダンジョンの中は元から酷かったけど、死体がゴロゴロ転がっている。

 何があったのか聞きたいところだけど、それを読み解くには生きている人間が必要だ。

 いないので無理です、と。

 

「お邪魔しま……え?」

 

 目を疑った。

 自分の頭がおかしくなったかと思った。

 幻惑をかけられている可能性を考えた。

 しかし、どれも違う。

 コマちゃんに軽く噛んでもらったけど何も変わらない。

 ただ、現実だけが遷移していた。

 

「──おお! なるほどそういうとか! やあ! はじめまして!」

 

 入り口で挨拶をしてきたのは若々しい男だった。

 知らない男だ。

 やけにフレンドリーというか、笑顔が明るい。

 このダンジョンにへばりついている鬱屈した空気とはとても合わない──どころの話ではなく、ダンジョンどこ行った? 

 もちろん、入る時にはブリンクでグニョンと入ったわけだが……あの、腐り果てた水がどこにもない。

 コマちゃんの背中に乗っていたことが無駄になってしまって大助かりだ。

 コレなら次から来る時はコマちゃん要らずだろう──ではなくて。

 

「ようこそ! 始まりの村へ!」

 

 そこにあるのは綺麗な空、綺麗な土と緑、懸命に建物を建てている若者達の村だ。

 しかもその名前はRPGにありそうな名前と来た。

 やはり俺は正気をどこかに置いてきてしまったのだろう。

 あるいは夢の中? 

 まだアカネと一緒に列車の中で揺られているのかもしれない。コマでも持っていれば判断ができただろうに。

 

 というか始まりの村、とは……? 

 

「それより先に、するべきことがあるんじゃないか?」

 

 男は手を差し出していた。

 それが求めていることは自明だ。

 同じく手を差し出す。

 握った手には傷ひとつない。

 しかし、感じたことがひとつ。

 

「──探索者?」

 

 明らかに、その膂力と強度は一般人のそれではなかった。

 

「そう思うか! いやーワシもびっくり!」

 

 まあ、それ以前に男は鉄製らしき兜や胸当てをつけている。

 戦うものであることは明らかだ。

 

 しかし、前回魔石を婆さんに私に来た時はこんなのではなかった。最初と同じくアーウー言うだけの腐人が彷徨いていた。なんだ、この草木萌ゆる明るい場所は。

 

「さてはて、広瀬の婆さんを呼ばんとな」

 

 そう言うと、高らかに響く口笛を鳴らした。

 連鎖的に反応し、音源がだんだんと遠くにいく。

 まるで狼煙だ。

 

「──遅かったじゃないか!」

 

 綺麗な姉ちゃんがやってきた。

 親しげに肩を組んでくるあたり、鈴子さん(ひいおばあさん)なのだろう。

 しかし、顔立ちが似ているとはいえあのゾンビのような見た目はどこへ行ってしまったのか。

 何があったのか。

 

「待ち侘びてたんだよ!」

 

 バシバシと背中を叩いてくる彼女の言葉と嬉しそうな顔からして、本当に待ち侘びていたようだ。

 だからといって、この変化を無反応にやり過ごせるほど世界に無興味なわけじゃない。

 

「──ああ、連中のお陰さ」

 

 その示すところ。

 エリュシオンはここにまで手を伸ばしていた。

 どうやら、何かの術法を用いて彼女達を兵器として活用しようとしたらしい。しかしできなかったのだ。

 村の中を歩きながら説明を受けると、入ってきたエルフや信者は全員溶けてしまったらしい。

 想像するに易い、俺が恐れていたことだ。

 

「あはは! 最初は恐ろしい魔法みたいなもんを展開し出すから隠れてたんだけどね、全部意味なくて水の中に消えちまったのさ! 躍起になって人員を増していたけど、どれも意味なかった!」

 

 スッキリしたと表情が語っていた。

 まあ連中がいけすかない奴らなのは間違いないけど。

 

「みんな殺気立ってね! 次から次へと高波で奴らを溶かしたよ!」

 

 想像するだけで恐ろしい。

 俺だってなすすべなくやられるしかあるまい。

 しかし、それがなんだろう。

 

「感じたのさ。奴らを吸収すればするほどにみんなの自我が少しずつ戻っていくことに。だから挑発してやった。ご自慢の術も意味なけりゃ、長い耳も髪もここではなんの役にも立たない。半べそかいてママのお乳でも吸って大人しくしときな! ってね」

 

 中々な言い草だ。

 慣れているとしか思えない。

 

「そりゃあ、舐められたら終わりだからね」

 

 ということは、挑発に乗ってエルフどもはどんどん人員を増やしてくれたのだろう。

 その全てを飲み込んだ結果がコレか。

 

「赤い水も、赤い空も、どっかに行っちまった。もしかしたら私たちの身体の中にあるのかもしれないけどね……そんなことはどうでもいい。人の身体をちゃんと取り戻したら腹が空くんだ。あっちの姿になることもできるけど、誰が好き好んであんな姿になりたいんだい」

 

 というわけで今は復興の真っ最中ということらしい。

 なんとも喜ばしい話だけど、持ってきた魔石が無駄になってしまった。

 

「晴々しい気分だよ。人の姿になって息をするってのは、こんなに気持ちの良いことだったんだね。腹が空くのも用を足したいってのも、昔は面倒だなんて思うことがあったけど……なんのことはない、必要な事なんだね」

 

 その瞳に映る青空はどこまでも澄んでいる。

 一滴、波紋が映ったかと思えばそれはすぐに拭われた。

 

「ありがとね。あんたが呼び覚ましてくれたおかげだ」

 

 その礼を受け取るに値するようなことをしたかと言われると首を捻るしかない。しかし、ありがとうと言われれば、どういたしましてと返すのが礼儀というものだ。

 抱きついて来た鈴子さんの背中を軽く叩くと、いきなり突き放された。

 

「そうだ! 言いたいことがあったんだ!」

 

 今、言われたことではないのか。

 

「あの子の顔が見たい!」

 

 そうだ。

 その為に彼女に魔石を届けていたんだ。

 まだ風香ちゃんの無事を直接確かめたわけじゃないから、それも含めて呼びにいくのが筋だろうか。それに……孫にあたる、風香ちゃんのお母さんも? 

 

「そうだね! お願いだよ!」

 

 娘さん──風香ちゃんのお婆さんは亡くなっているらしい。

 

「とにかく、ここならあの子でもいられるんだろう?!」

 

 そうだとは思う。

 以前はあの赤い水による侵食で俺も命が危ぶまれるような場所だった。

 今は違う。

 とはいえ表面的なもので、普通の人間が足を踏み入れたらやっぱり死ぬなんてことも考えられる。

 

「どうすりゃ良いんだい!」

 

 そんなに肩を揺さぶられても困る。

 というか、今の彼女を見て分かるのだろうか。

 以前のしわがれた声ではなく若々しい女性の声。

 風香ちゃんの親族らしい整った顔立ち。

 ひいおばあちゃん要素がどこにもない。

 

「そんなの後回しだよ! まずは会いたいんだから! 会わせてくれったら会わせてくれりゃいい!」

 

 それもそうか。

 まだ安否確認はしていなかったし、顔を見にいくついでに連れてくるか。

 でも、まずは実験から! 

 

 

 ──────

 

 

 彼女の実家は、大学に通える人間らしい広さを持っていた。

 セクター内で有数の名家だそうだ。

 使用人もいる。

 こんな情勢だ。彼女をまた大学に通わせるということは今の所、考えていないのだろうという電話応対がまずあった。

 それと同時に、歓迎の雰囲気は感じる。

 

「お嬢様から、大事な友人であると伺っております」

 

 着てきたモノを恭しく預かってもらった。

 荷物も同様だ。

 部屋に置いておいてくれるらしい。

 クロークがあるようだ。

 それにしても、大学の話を除けば、探索者である俺に対してここまで丁重な扱いをしてくれるとは──彼女は、俺のことを相当に良く話してくれているのだろう。

 

「加賀美さまは探索者として活動していらっしゃいますよね?」

 

 応接室で待たされていると、お茶を注ぎながらメイドさんが話しかけてきた。何気ない風を装っていても、基本的には控えるのが仕事であるはずのメイドがこうして余計なことをするのは何か意味があるのか。

 ……俺がメイドに偏見持ってるだけ? フブキの実家も割とこんなんだったよな、そういえば。

 

「ええ、人様に自慢できるような職業ではありませんが……」

 

「──あ! いえ、そういう意味ではなく! お嬢様と同じお歳なのに、高いレベルの持ち主だと邸内でも既に話が持ちきりだったので! つい興味が湧いてしまって!」

 

 それは……逆に言ってしまっていいのだろうか。

 変な色眼鏡がついてはいないだろうか。

 

「私どもはそういった事とは縁がないもので……普段見聞きする探索者と、お嬢様から聞く加賀美様の差が不思議だったのです」

 

 ははーん、さてはクールイケメンと褒め称えていたな? 

 

「熱血系の狂人だとは言っていましたけど……」

 

 なんだろう。

 拳が真っ赤に燃えそうだ。

 

 しかし、話をして俺に対するイメージを大幅に改善することには成功したと思う。探索者の中にもまともな奴はいるんだぞって! 

 

「元より、人格については疑っておりませんでした。それにしても……やはり、他の探索者に比べるとだいぶマトモ……ええと、普通…………ううん……」

 

「はは、まあ言いたいことは分かりますよ」

 

「た、助かります……」

 

 そうして待っていると、連絡した時の話通り風香ちゃんと風香ちゃんのお母さんがやってきた。

 ひいおばあちゃんの件という話は伝えてある。

 風香ちゃんと違って、佇まいの堅い雰囲気の人だ。

 それか、鈴子さんの事ということで緊張が強いだけか。

 

「まずは……お婆様の手紙を届けてくださり、ありがとうございました」

 

 手紙。

 預かって、風香ちゃんに届けたものだ。

 当然というと変だけど、お母さんも読んだらしい。

 お婆ちゃんの手紙だもんな、そりゃあ気になるわ。

 

「その件では風香がご迷惑をおかけしました。まさか同級生にそんなことを頼んでいたなんて──」

 

「そのことならお気になさらず。勝手に首を突っ込んだのは私の方ですので」

 

「そういうわけには参りません! 仮にも広瀬家の娘が探索者をタダ働きさせたなんて風評が立てば、我が家の恥です! こちらを!」

 

 まんじゅうが包まれていた。

 どっひゃー! って感じだ。

 

「こちらは受け取れません」

 

「いいえ! 受け取っていただきます!」

 

「──受け取れません!」

 

「──受け取ってください!」

 

「────せん!」

 

「────さい!」

 

「──────ん!」

 

「──────い!」

 

 俺の意思そっちのけでいきなり金の話が始まったので、正直困る。貴重なサンプルを手に入れたので、むしろ金を払いたいくらい──と言うわけにもいかないか。

 

「しかたない……では、これは今後のことに使わせていただきます」

 

「そうしてください」

 

 さて、本題です。

 やっと本題かよ。

 ここに来てから1時間くらいかかったぞ。

 

「まず、驚くと思うので覚悟をしてください」

 

「大丈夫です。私はこれでも広瀬家の当主、それなりの修羅場を潜ってきました」

 

「そうですか…………ではいきなりですが、鈴子さんは生きています」

 

「──」

 

 時間が止まったように、わずかに開いた唇の間から呼吸だけが漏れる。

 もう一度繰り返すと、不快そうに顔を顰めた。

 いくらなんでも不謹慎じゃないかと。

 恩人だからと言って、ついていい冗談とそうじゃないものがある事ぐらいは理解してほしい。これだから探索者は──と言い始めたところで風香ちゃんが止めた。

 

「お母さんは黙ってて! 明宏くん、教えて? どういうこと?」

 

 事の一部始終を伝える。

 あのダンジョンでかつて起きた事。

 自我を再獲得した経緯。

 これまで何をしていたのか。

 何故黙っていたのか。

 どうして話したのか。

 

「────」

 

 風香ちゃんも固まってしまった。

 探索者でもない相手に話すには少々刺激が大きかったかもしれない。メイドさんも口元を押さえて叫ばないようにしているように見える。

 

「──嘘よ」

 

 忘我の状態から戻ると、沈んだ瞳で彼女はつぶやいた。

 そうだろう。

 普通は信じられない。

 俺だって実際に目にするまでは想像すらしていなかった。

 モンスター化して、そこから再び人間態に戻れるなんて。

 

「いくら手紙を持ってきてくれたからって、そんな事を鵜呑みにできるわけがないわ。あの手紙は確かにお婆ちゃんのものだったけど……あっ」

 

 素が漏れたのだろう。

 しかし、どれだけ信じれないと言われても、こちらとしてはありのままを伝えるしかない。

 

「ダンジョンでは…………幻惑させられることがあるんでしょう? だったら、あなたはきっとそれに罹ったのよ」

 

 こうなると、俺が精神喪失状態に陥っていたと勘違いされてしまう。

 コマちゃんを呼び寄せた。

 そして、幻惑薬もついでに持ってきてもらった。

 

「い、今どこから……今の今まで何も……」

 

 そういうことができる相棒だっているんだぞって。

 

「……ま、まさか、もう私たちのことをおかしな状態にさせているの!?」

 

 話がよくない方向にまとまり始めた。

 しかし、落ち着いてほしい。

 そちらが落ち着いてくれなければこちらは何もできない。

 

「お母さん良い加減にして!」

 

 風香ちゃんがまずやってみてくれるということで、幻惑薬を一滴だけ希釈して飲んでもらった。モンスターの体液だからねコレ。希釈しないとただの毒だ。

 

「はれ〜? なんだか……コマちゃんがおっきなイヌに……見える……」

 

 ニアミスな幻惑にかかっているらしい。

 

「それに……あれぇ〜? ……あ、そっか。ミツキちゃんと別れちゃったんだったっけ?」

 

 変なことを言い始めた。

 これ以上はお母さんがおかしくなってしまうので、コマちゃんに息を吹きかけてもらうと風香ちゃんの目が元に戻る。

 

「…………あれ、私いま明宏くんと……っ!」

 

 部屋から出て行ってしまった風香ちゃんはともかく、コマちゃんの力について理解してもらったところで、相棒がこれなので幻惑は意味ないと伝える。

 

「……信じられないわ」

 

 まあ、そうなるな。

 

「確かに、風香はあなたのことを大事な友達だっていつも言ってるけど……それとこれとは別問題よ」

 

 それならば、どうだろう。

 鈴子さんをここに連れてくれば信じるのだろうか。

 

「…………その人が本当にお婆様だったなら……それは…………嬉しいことだけれど……」

 

 ダンジョンでは──この世界では何が起きてもおかしくないと、信じられないのはこの世界の住人だからか。

 しかし、希望は抱き始めている。

 要件も伝えた。

 鈴子さん的には、怨敵である商工会のセクターに行くのはなるべくイヤだって話だったけど……こうなれば、やるしかないな。

 




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