【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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69_こちらがアレで、あちらがコレで

「はあん!? あの子は何考えてるんだい! 人の話をよく聞きもせず……しょうがないね、久しぶりにお婆ちゃんが叱ってあげないと!」

 

 意外なことにウキウキだ。

 そりゃそうか。

 孫とひ孫に会えるんだもんな。

 娘さんが亡くなってることは普通に受け入れていた。

 私がこんなことになる世界で、あの子が生きられるとは思えないって。そういう感じの人だったのか。

 

「ほら、案内しておくれ!」

 

 しかし、見た目は俺と同じくらい若い。

 その声で行くと自認ババアの痛い姉ちゃんが街中に出現することになってしまうのだが、良いのだろうか。

 それに明確なリスクもある。

『腐り果てた村』の人間たちは、商工会の実験の口封じであそこに押し込められた。その中から現れた人間であることがバレた時、彼女がどんな扱いを受けるか。

 この村も酷い扱いをされるかもしれない。

 

 なんて考えても仕方ない。

 みんな50レベルとまではいかないけど、40レベルくらいの探索者くらいの力はありそうだ。

 ラスダン前にある村みたいな感じになってしまったけど、良いことだ。商工会のちょっかいがあるとしても、探索者を使ってまでということにならなければ退けられるだろう。

 

「そんなこと気にしてるのかい。律儀なやつだねえ」

 

 人類は基本的に信用するに値しない、が俺の異種族間交友で気をつけてる事。

 

「あんたも人類だし、その異種族だって信用できるとは限らないじゃないか」

 

 今の所は特に問題ない嗅覚です。

 

「なんか脇が甘いんだよねえアンタ」

 

 確かに、俺は商工会の実験に巻き込まれたりしてないもんな。

 

「言うじゃないか! でも、そうだね……私たちが馬鹿だった。実験が成功すればもっと住みやすい場所になるなんて……甘い言葉を信じるべきじゃなかったんだ」

 

 だいぶ前の出来事にもかかわらず、彼女ははっきりと当時のやりとりなどを覚えているらしい。赤い水に浸かっていたせいだろうか。それとも、強い恨みのせい? 

 その如何を問う勇気はない。

 

「でも、結果的に若い姿に戻れたんだからあながち間違ってないのかね?! あはははは!」

 

 彼女以外の村人も、外の世界には興味があるようだ。

 まだ出ていないんだ……とは思ったけど、商工会がいるかもということを考えると当然か。

 

「動物を狩ってくるのが限界だね。それに、正直……アンタ以外の人間が来た時はどうしようか悩んでるんだ」

 

 それ問題だ。

 俺以外の探索者が来た時、最初は問題なく対応できるだろう。ダンジョンの場所を間違えてるね〜なんて言えば探索者は一旦大人しく帰る筈だ。

 しかし、何度かそのやりとりをしてやってくるのは調査室の奴ら──つまり、手鞠さんの後輩だ。

 そこで、村人が間違いなくかつて犠牲になった人々だと明らかになる。上層部にはどうせ記録が伝わっているのだから。

 そうしたら、何かの理由をつけて一級探索者でも派遣して絶滅させれば良い。

 

「まあ、そうなるだろうさ……アンタ凄いね」

 

 それほどでもある。

 

「そうなると、何に悩んでるかもわかるね?」

 

 引越し。

 

「そうだね」

 

 この土地は私たちが育てた大事な土地だ! 絶対に離れないよ! とか言い出すなら、鈴子さんだけは無理やり引っ張っていくつもりだ。なんだかんだで死にそうになってるし、魔石を運んでくるのだって大変だったんだから。

 

「そんなことは言わないよ……どこに行くべきか分からなくてね」

 

 商工会を除いても、エリュシオンだってやってくるかもしれない。あの赤い水がないと、正面から勝てる可能性は低いだろう。

 

「いつまでもこうしてたってしょうがないね。まずは世の中がどう変わったか見てみるとしようか!」

 

 これが列車です。

 

「便利なもんだね。お母さんがよく言ってたのに比べると……少し違うけど」

 

 こちらがセクターです。

 

「道が綺麗になったかな」

 

 こちらが商工会です。

 

「ふん……気に食わないね。弱い奴には威張ってそうだ」

 

 あちらが探索者です。

 

「あんたも探索者だろ」

 

 では……こちらが我が家です。

 

「あんなところに来れる力があるにしてはこじまんりとしてるね」

 

 あちらが家族です。

 

『……誰!?』

 

『また女!?』

 

『おい逃げるな!』

 

「アンタ、刺されるよ?」

 

 この傷跡を見ても同じことが言えるだろうか。

 

「前言撤回。これからも刺されるね」

 

 こちらが三船くん、シエル、ハシュアーです。

 

「あら、かわいい子達じゃないか! アタシのことは鈴子さんって呼んでおくれ!」

 

『えっ? えっと……』

 

『!!!??』

 

『姉ちゃん綺麗だな!』

 

「──風香の次くらいには可愛かったね」

 

 では──あちらが風香ちゃんの実家です。

 

「なるほどね……なかなか良いところに住んでるじゃないか。頑張ったんだね、あの子達は」

 

 

 ──────

 

 

「お婆ちゃん!」

 

「ああ、馬鹿な子だね……自分の娘の前で涙なんか見せるんじゃないよ」

 

 目を白黒させていた2人も、話すうちにやがて確信を抱き始めたのか警戒を解いていった。俺が部屋の中にいていいフェーズは過ぎたので、部屋を出てこっそりと顔を拭う。

 歳をとると涙脆くなるねえ。

 

「加賀美様」

 

「ああ、どうも」

 

「……あの方が、本当にお嬢様のひいおばあさまなのですか?」

 

 詮索が激しいな。

 いや、気持ちはわかるけどね? 

 仕事場のことあんまり知っても良くないよ。

 割り切るのが大事。

 

「それは本人達に聞いてください」

 

「そ、そうですよね……」

 

 暫く経っても部屋から出てこない。

 どうしよっかなあ──え? ご飯はいかがですかって? 

 それはぜひ、いただきたい。

 

 前回、俺の荷物を置いてくれていた部屋に入る。

 客室だそうだ。

 大変だよねえ、管理。

 

「確かに大変ですけど……お仕事ですからキッチリやります!」

 

 のんびりと部屋で待っていると、飯が届いた。

 そんなつもりはなかったけど、なんだか泊まるような雰囲気だ。お風呂や着替えまで用意してくれているらしい。

 小汚い探索者1人程度、止めるのに問題ないというわけか。

 

「と、とんでもありません! お嬢様のご学友でいらっしゃいますから! 前回も泊まっていただく予定だったんですよ? それが、突然飛び出してしまわれるので……」

 

 連れてくるにしたってさっさと済ませたかったからな。

 広瀬家だって、どうせなら早い方がいいに決まっている。

 ……あ、ちょっと家族に電話するんで。

 

『アキ! やっと出た! あのお姉さん誰!? …………泊まってくる!?』

 

 まあそういう反応になるわけだ。

 鈴子さんのことも説明せずに来てしまったからな。

 

『ふんふん……ふんふんふん…………いや、意味わかんないから! 帰ってきたらちゃんと説明してよね! あと、フウカに手出しちゃダメだからね!』

 

 人をなんだと──

 

「えーもうご飯食べちゃったの―!?」

 

 びっくり! って感じに口を押さえるのは風香ちゃん。

 やっと家族の語らいが終わったらしい。

 まさか、終わるまでご飯を待っていろとでも言うつもりだったのだろうか。お父さんの気遣いで用意してもらったのに。

 

「だって、食べなくても少しは平気なんでしょー? それなら、せっかくだしご飯一緒に食べたかったよー……」

 

 悪いことをした気分だけど、そもそも食べたら帰るつもりだったのをお父さんに止められた次第だ。

 何やら話したいことがあるようで。

 いや、なんとなく予想はつくけど。

 

「お父さんは大袈裟だから、あんまり話を間に受けちゃダメだよ〜」

 

 お化粧直ししてきまーすと言っていなくなってしまった。

 実際、部屋に入ってきた瞬間で涙と鼻水で顔面が濡れたままだった。まさか笑わせにきてるのだろうかと一瞬だけ悩んだほどだ。

 

「ああ、いたいた。探させるんじゃないよ全く…………」

 

 むぎゅ、とそんな感触が頭を包みこんだ。

 赤くなった目元。

 わずかに震える腕。

 いいことをした気分だ。

 

「気分じゃなくて、いいことなんだよ……」

 

 それならよかった。

 しかし、信じてもらえるもんだな。

 やっぱり共通の記憶があることが大事だな。

 俺も今のうちにみんなとそういう共有できるものを作っておかないとな。

 ほどほどに。

 

「あんたなら……きっと大丈夫さね」

 

 そんなことはない。

 思い返した時に辛くなることには間違いないのだから。

 楽しければ楽しいほど、離れたときに虚しさと寂しさが込み上げるばかりだ。

 今をとるか、少し未来をとるか、更なる未来をとるか。

 魂の腐敗が恐ろしいばかりだ。

 

「妙なことを言う男だね」

 

 若造にこんなところを見せるもんじゃないね! なんて飛び出した。楽しいのだろう、走らないでと声を掛けたメイドの手を掴んで、一緒に駆けていった。気持ちは12分に分かる。

 

 そして最後は──

 

「ありがとう……ございました……」

 

 淑女らしく、顔を整えた上でやってきた彼女は深々と頭を下げた。

 俺も、もう二度と会えないと思っている家族と出会えたなら彼女のような気持ちを味わえるのだろうか。

 共感に至るのだろうか。

 理解しかない今だけど。

 いいや、きっと無理だ。

 

 俺の場合は……もっと複雑で、もっと壁が大きいのだから。

 

「そして……申し訳ありませんでした……このご恩はどうやって返せばいいか……」

 

 恩といっても、俺は特に何かをしていない。

 あの婆さんは1人だけロッキングチェアーに座り続けていた。いずれ勝手に目覚めたかもしれない。

 それこそ、エリュシオンが襲撃をかけることによってとか、もっと先の時代に魔素をダンジョンが吸収したことによってか。

 

「でも……それは今じゃない」

 

 謝罪と謝意を受け取った。

 謝礼については、あのお金で十分だ。

 というか、お金目当てでやってない。

 貨幣文明からの精神的な脱却に成功しているのだ俺は。

 実際は許せ。

 

「でも、なんで? どうしてお婆ちゃんが生きてたの?」

 

 あ、そこの説明してなかったんだ。

 まあそうだよな。

 あの顔の雰囲気でそれ話せないもんな。

 だけど、話すとしたら一対一じゃなくて、風香ちゃんも一緒の方がいいだろう。

 彼女にはそれを聞く権利が誰よりもある。

 何せ、彼女がいなければ奇跡は始まらなかったのだから。

 

 

 




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