【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

545 / 571
70_人の家に来て客室で酒を飲んでいた男

「はぁ……良い家だね」

 

「はは……」

 

いきなり現れた嫁の祖母に、風香ちゃんのお父さんは困ることしきりだ。自分の娘と同じように見える歳の娘が御歳云十歳の老婆だというのだから齟齬でバグってもおかしくないのをよく耐えている方だ。

彼女達が俺に騙されている可能性をまだ考えていたりするのだろうか。

 

「この家はいつ買ったんだったかね」

 

「風香が8歳の時です」

 

「そうかいそうかい」

 

その時には既に飲み込まれていたのだろう。

知らないという雰囲気だ。

そうでなくても身体が動かない時期だったか。

 

風香ちゃんとお母さんはまだ来ていない。

のんびり風呂に入っているのかもしれない。

まあ、話すならやっぱり全員揃ってからだな。

 

「あの子達はお風呂長いねえ……こんなに悠長にしてたら、あたし達の村だったらモンスターが来ちまうよ!」

 

いや、アンタがモンスターやないかーい!というツッコミ待ちなんだろうけど、それ知ってるの俺だけだよね。

でもほら、子供達が安心して長い時間お風呂に浸かっていられるのは良いことじゃん?

 

「時と場合によるじゃない」

 

なんとも正論。

 

「ほかほか〜」

 

「お待たせしました〜」

 

親子揃って湯気を全身から燻らせながらやってきた。

マイペースさが誰から移ったものかわかるな。

お母さんに関しても、前回や昼間の姿とはだいぶ印象が違う。こっちがプライベート?

 

「なーにがお待たせしましただい!早く座りな!この子をだいぶ待たせてるんだからね!」

 

ねえ?って顔で見られたけど、探索者的には微塵も疲れてない。まあ、待たされたなって感じではあるか。

さて、説明しますかね。

 

「――な、なによそれ……おばあちゃんたちの村に実験の失敗を押し付けたって……それじゃあエリュシオンの言ってたことって正しかったんじゃ……」

 

話してもあんまり良いことはないけど、隠しても良いことないので1から全て説明したら、あ、そう解釈するんだ?みたいな感じに受け取ってしまったらしい。

しかも、3人ともそんな感じに受け取っている。

これは早くしないと面倒臭いことになるぞ〜。

 

「アンタら落ち着きな。街を襲った連中が言ってることをいちいち信じるんじゃないよ!アンタもこんな良い家を手に入れておいて、おつむの出来はイマイチだね!」

 

「でも……ひいおばあちゃんの村に商工会が悪さしたのは本当なんでしょ?」

 

「それとこれとは話が別だよ。商工会が憎いからエリュシオンの仲間になるって――そんなのバカの理屈じゃないか」

 

それはそれとして商工会は憎いと。

 

「なんだろうね。昔は憎い憎いとしか思えなかったけど……こうして若返ってみると、仕方ない部分もあったなんて思っちゃったりするんだよ。もちろん今だって憎いけどね」

 

明るい口調とは裏腹に、瞳は沈んでいた。

そんな彼女の肩にそっと頭を寄せる孫ひ孫。

応えるように、彼女達の頭を抱きしめた。

 

「おばあちゃん、これからはウチに住むんだよね?」

 

「うんにゃ、そうもいかないね。だってアレだろ?戸籍、ができたんだろ?そしたら私の正体がばれちまうんじゃないかい?」

 

なぜか俺に視線が向いた。

お金持ちならそこらへん詳しいのではなかろうか。

家族同士で話してくれれば全然良いんですけども、ええ。

 

「良いから教えておくれ」

 

戸籍ってそこまで万能じゃないから、僻地でモンスター倒してた部族ですとか言えば普通に大丈夫だと思う。まずいのは、あの村にいる状態で商工会に存在を捕捉されることであって――あー……

 

「なに!?アキヒロくん!ちゃんと教えて!」

 

2〜3回目くらいの必死な顔。

ガックンガックン首揺らされてちゃ、説明できるもんもできない。

落ち着いてもらいたい。

落ち着いてくれ。

なあ、落ち着いた方がいい。

一旦落ち着こう。

落ち着……落ち着けぇ!

 

「同じ時期に同じくらいのレベルの探索者が、別のセクターとはいえ一気に現れると後で捜索された時にばれる可能性はある?確かに……」

 

つまり、急ぎつつ段階は踏まないといけない。

商工会の統治するセクターに出入りしたいなら、という話ではあるけどな。

もし、金輪際関わりたくないっていうなら別の場所を探すのが手っ取り早い。

人の目の及ばない奥地とか。

 

「ダメ!そんなのダメよ!お婆ちゃんにはこの家に住んでもらうんだから!なんとかしないと!」

 

まあ、やりようなんていくらでもあるだろう。

 

「なんでいきなり投げやりになるんだい……」

 

お金持ちだからなんとでもなりそうだなって。それこそ表向きにはメイドさんとしてやってもらうとかでも――

 

「何バカなこと言ってるんだい!この歳であんな小っ恥ずかしい格好できるわけないじゃないかい!」

 

「それ……いいわね」

 

「アンタまで何言い出すんだい!あたしゃそんな歳じゃないんだよ!」

 

睨まれても困る。

俺はただ提案しただけだ。

それをどう扱うかはあなた達次第!

 

「ところで加賀美君、君はうちの娘とどんな関係なんだい?」

 

「お父さん!?」

 

流石に待ちくたびれたらしい。

話の流れをぶった斬るストレートを投げ込んできた。

 

しかし、それに返せる言葉は一つしかない。

同じ大学に通っていた同級生で、餅部の部員でした。

大学なくなっちゃったからただ同い年の人間でしかなくなったけど。

 

「そ、そんな冷たいこと言わないでよ〜」

 

もちろん友達だけど、そういうことが聞きたいわけじゃないのは猿でもわかる。安心してください、彼女をそういう目で見ているわけではありません。今回のことを盾に差し出せとかそういう話をすることもありません。

そもそも彼女がいるので。

 

「何度も同じこと話したんだってぇ……」

 

俺は初めてなのでなんの問題もない。

 

 

――――――

 

 

「はぁ……美味い。流れる清水がそのまま酒になったような滑らかさだ。これを手に入れるのに、商人を一人一人尋ねなければならなかった」

 

確かに美味い。

甘味が強いのもあって、女子でもスイスイいけるだろう。

しかし、なぜ俺は晩酌に付き合わされて……?

 

「君がお酒を飲んでいたからだね」

 

なぜ俺は、部屋でお酒を飲んでいただけで友達のお父さんの晩酌に付き合わされて……?

 

「君が快諾したからだね」

 

なぜ俺は快諾した?

 

「話したいことがあるからだね」

 

――そうだ。

話さなきゃいけないことがある。

友達本人じゃ意味がないことを伝えなきゃいけない。

伝えたい。

 

「どんなことかな」

 

この家にこだわることは考えない方がいい、ということ。

 

「つまり?」

 

エリュシオンの攻撃がアレで終わりとは思えない。

侵略する以上、明確な戦略を持って臨んでいるはずだ。

今、この状況すら計画のうちである可能性がある。

 

「む……酔いの頭に難しいことを言わないでくれ。風香となんの関係があるんだ」

 

アリサ――俺の彼女も襲われかけた。

そういう目的で攫いにくる可能性がある。

いつでも逃げ出せるような準備はしておくべきだ。

それか、探索者をボディーガードに雇うか。

 

「君はもしかして、行く先々でそんな話をしているのかい?」

 

酒が不味くなるような話なのは申し訳ないけど、茶化すところじゃない。エリュシオンの残党が今も襲撃をかけていることを考えると、考えずにはいられなかった。

 

「詐欺師なんて呼ばれたりしないかい?」

 

生憎と俺があなた達のボディーガードをするわけじゃない。

あくまで可能性を提示するだけ。

その上で、どうするかはあなた達次第だ。

何もなかった場合、不安を煽られて金だけかけてしまったということになるし、若造に騙されて――なんて話に尾鰭がついてしまうかもしれない。

 

「そうだ、よく分かってるじゃないか。娘の友人だからといって………いや、娘の友人程度から聞いた話を元に何かをしようなんてのは余りにも自分の頭で考えていない」

 

ごく自然な反応だ。

 

「仮にその話を鵜呑みにできるなら、時折やってくる吟遊詩人の援助契約だって鵜呑みにできるだろう」

 

正直、どっちでもいい。

言うだけならタダなので言っているだけで、何もしないを選んだところでデメリットがあるわけじゃない。

そういう考えもあるよね〜で終わり。

その時になって後悔するのは俺じゃない。

 

「そういう言い方はずるいな……」

 

ミツキの親友が死ぬかもっていうのに、ただ見てるのは忍びない。

 

「ミツキ、というのはよく聞く名前だよ。ミツキがミツキが、と……あの子の雰囲気は、独特だろう?だから昔は浮いててね………大学に入ってようやく、友達ができたんだって……」

 

そりゃあ目頭も熱くなるというものだ。

俺もミツキのことを思い出して泣きそうだ。

やっぱり似たもの同士が惹かれ合うんだな。

 

あれ、なんの話だっけ。

 

「そうだった……そういえば気になったんだが、さっきはアリサという子が彼女だと言っていたのに、今はミツキが――と。聞き間違いか?それとも……」

 

もちろん、どっちも彼女です。

 

「探索者は性豪だという噂はよく聞くが……まさか……」

 

それは多分、探索者の体力が多いって話と混同している。

もちろん体力が多いからそれに付随して――ってことはあるけど、性特化じゃない。

 

「え、本当に?」

 

どこに食いついたのかわからない。

 

「おばあさまを見ただろう。若い。私よりも圧倒的に……それこそ風香くらい……いいなあって……」

 

金持ちになると、たいていの人間は若さを維持したいって思考に行き着くよね。もちろん俺もだけど。

 

「探索者か……いや、私には無理だな。あんな野蛮な生き方はできない」

 

風香ちゃんの話はどうなったんだろうか。

 

「探索者をボディーガードに雇い続けられるほどうちも余裕があるわけじゃない。なるべく外には1人で歩かせない、メイドと一緒に、とかそういうことを徹底させるさ」

 

いざとなったらウチに避難しても大丈夫だとは一応。

俺が知らないうちに遊びにきていたらしいので、1人で来ることはできるらしい。

 

「絶対に行かせない。だいじな一人娘をパンデモニウムには、絶対に」

 

そんな言う?

 

「絶対に」

 

そっか……

 




https://x.com/goldmg3?s=21
ツイッターです、フォローしてね

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

  • いる
  • いらない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。