【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
静まり返った草原。
本来ならばあり得ぬ衆人環境の中、鳴り止まなかった金槌の音もいつしか消えていた。漂う匂いは空を燻り漂い、霧を伝って肉食の鳥類を集める。
大人しく森の枝葉に身を預けるばかりだったはずの昼間が、俄かに豪華なビュッフェの様相を呈したのだ。集まらねば無作法というもの。
『──ぐぁぅっ』
そこに待ち受けているのは頂点に座する生命。
少し頑張れば人を収めることすら可能な顎を大きく開け、木立を楽しげに飛び出してきた鳥類を羽も骨も気にせず丸呑み。
もちろん咀嚼も忘れない。
いくら彼らとて、内臓に骨が突き刺さる痛みは耐え難い。
胃酸が溶かしてくれるとはいえ、飲み下すときのことも考えなければ。
「まったく……あの匂いで我慢ができない気持ちは分かりますが、美味しく食べられませんよ? アキヒロ曰く、『空腹こそ最高のスパイス』だそうですからね」
スパイスが具体的に何を表しているか掴めていないながら、それが意味するところは理解できるだけの知性があった。セクター内では基本的に山田家と加賀美家を寄生先としている彼女は、食事時になれば台所にやってきて隙あらばつまみ食いをしようとする。
その容姿や発言は人類の枠組みから外れたところにあるが、振る舞いのみを見れば犬猫のそれと変わらない。
家を守る者達が料理をしているところ、いつの間にか現れてこれは何だの今日は何だのと尋ねる。渡された一欠片を口に放り込めば大切な食事を楽しもうと咀嚼を重ね、味わいの中に身を預けるように身体を揺らしていた。
スパイスという単語もそこで幾度か聞いている──らしい。
「ふふん……これなら、私達も食べられるでしょう?」
出来あがった食事を前にして、片頬を釣り上げて、自らの成果を誇示する。
火の近くでヤンキー座りをしている俺が直接的に焼いたのだとしても。ドラゴン達の火力によって表面だけパリッと焼いたのだとしても。
彼女が指揮した以上は彼女の成果なのだ。
「──焼いて終わり?」
早苗ちゃんは目を丸くしていた。
ドラゴン達が捕らえてきた鳥類や鳥系のモンスターはこの俺の手によってあっという間に内臓を抜かれ、小さく切られた後にドラゴンの息吹によって表面をカリッと焼かれた。
内部に火が通るまで焚き火の近くでじっくりと温めているということだ。
「みんな、これを食べてアキヒロの事を受け入れたんですから」
「みんなっていうのは? もしかしてドラゴニアの人たち?」
「人たちではありませんが……まあ、ドラゴニアの皆の話ということであれば会ってます」
「これで?」
早苗ちゃんが指差すのは焼かれただけの鳥肉だ。
「コレとはなんですかコレとは! 美味しいじゃないですか! そのせいで、私は生肉なんて食べられなくなってしまったのですからね!」
「料理はできます! とか前から言ってたからちょっと期待してたんだけど、焼くだけなんて思わなかった……」
「不満ですか? ですが私はちゃんとリョウリしましたからね」
肉を焼いただけのものが真面目な意味で料理に該当するか否か。
高名な料理家は言った。
──パンとパンで自らの頭を挟んでみろ。
つまりそういうことだが、ここは厳正な料理判定の場ではない。
「…………まあいいんじゃね? そういう雑なのが好きってヤツもいるだろ。特に男なら」
「最初にヒナタちゃんがダメって言ったんだけどね」
「うるせえな。出来ないなりにちゃんとやったんだから、良いって言うの普通だろ」
かくして本題に入る。
本題とは──そう、職人達の昼休憩だ。
『羽ぶりもいいし昼飯も出る……最高だな!』
『コレで酒もありゃあ文句なしだった』
気持ちよく仕事させさえすれば、彼らのような職人気質の人間は120%の仕事をこなす。逆に、閉鎖的に冷たく扱えば同様のことが返ってくる。
そこら辺の塩梅はごちゃごちゃと言葉で示すよりも、金と美味いものがわかりやすい。
それに、誤魔化そうとしている空気は伝わるのだから。
「この葉っぱにかかってるの、変な味だけどクセになりますよね。前も食べた気がします」
「うん、美味しいって言ってたから作ったんだ」
「…………私のために?」
「だって、どうせみんなで食べるんだからさ。美味しいって言ってくれた人がいるものを作った方が迷わないじゃん?」
「早苗…………大好きです!」
「えぁっ!?」
「コレからも美味しいものをたくさん作ってくださいね」
「あ、うん」
『素直なヤツだな。変な声を操るなんて話があったけど別にそんなこともねーし、ただドラゴンと仲が良いだけの美人さんだ』
『そーなると……あの旦那様は只々モテるだけのいけすかない野郎ってことか』
『お得意様に変なこと言うんじゃねー』
全部聞こえるわけだが。
それにしても気になるのはナナオさんが言っていた西の話だ。二級探索者も駆り出されるとなると、俺のそのうち対象になる可能性も……いや、ないか。
俺がトップになれる程度の弱小セクターで、俺を手放すような指示を出せるとも思えない。
一級はともかく、二級については大きなセクターから出されているのだろう。
「手、進んでないよ」
「ん? ああ……ちょっと考え事です」
話しかけてきたのはテマリさんだった。
「考え事? またどこか行きたいところでもできたの?」
彼女の中での俺は旅行キャラになってしまったのかもしれない。間違ってないけど。
「……聞いてる?」
「行きたいところはそりゃありますよ。結局カゾーの……あ、いや……」
口が滑った。
よく考えたらテマリさんはドワーフ達のことを何も知らない。
「カゾーって……カゾー……カゾー……」
商工会ライブラリーを漁り出すのをやめてほしい。
イルヴァの牙でも居場所の知れぬ鍛治師の場所を知る方法なんて、それこそカミサマでもなければ無理だろう。
…………いや、もしかしたら調査室の室長クラスなら何か隠された知識について──
「わかんないや」
まあそうよね。
期待してなかったし。
知ってたし。
「自由だね」
「自由?」
「なんか、すっごく自由だなーって」
「…………俺が?」
そんな横目に見られても、返答に困るな。
「自分の好きなことをどこまでも追い求めてるんでしょ? それって自由じゃない」
「色々と投げ捨ててるからこその自由ですけどね」
社会に対する帰属意識がないからこそ気楽に振る舞えるという自覚はある。ハタから見れば真の自由だと思えることもあるだろう。
「前から聞きたかったんだけど、三船君達ってなんなの?」
「三船君?」
「その……関係性がよく見えなくてさ。早苗ちゃん達に聞いても本人に聞けの一点張りで……三船君に聞くのも気まずいし、シエルちゃんは三船君にべったりだから聞くも何もないじゃない?」
「俺は口が軽そうだって?」
「そうは言ってないでしょ。聞きやすいって褒めてるの」
三船君との関係を人から聞かれたのは初めてではない。
普通に考えたらあんな美少年と俺みたいなバリバリの戦闘者が出会うことなんて良からぬ系の話にしかならないからな。
「で? 教えてくれるの? くれないの?」
当然、話した。
隠す意味もない。
「──へえ、そういう縁があるんだね。というか……そのナナオって受付嬢は何考えてるんだろうね。探索者にあんな可愛い子を任せるなんて」
発言が微妙に俺をディスっていることに気付いてないのだろうか。そもそも、付き合いで言うならナナオさんのほうが長い。事務的なやり取りと意外で話すようになったのは去年から今年にかけてのこととはいえ、積み重ねで信頼されていたってことでしょ。
「ミツキさんは幼馴染で、アリサちゃんとヒナタちゃんは元々不良だったところを制圧して…………あの子は何なのかな」
確かに、彼女だけ明らかに異質だろう。
「うん。モンスターを扱える探索者なんて見たことないよ。一級だって…………あの子、どこから連れてきたの?」
「ダンジョンに転がってました」
「あのさ……」
まだ、彼女に全てを教えることはできない。
商工会に復帰した時に情報を乱用されないとも限らないのだから。
そして、どれだけ話が進んだところでドラゴンの郷の話をすることはないな。
『──はー! 食った食った!』
『いやあ、まさかこんな美味い飯を食えるなんてな!』
『続けるか!』
飯を食ったと思ったら動き始めた。
早苗ちゃんはお腹を丸くして椅子に寝転がっているというのに、職人はかくも逞しい。
早苗ちゃんのお腹を撫でながら、打ち響かされる大工仕事を見て時間を過ごした。
『──できたできた! いやあ、すぐ出来るもんかと思ったが温泉なんて作るのは初めてだったから手こずったな!』
『じゃあ帰るか!』
職人はそういうものなのか、出来上がったら後は興味がないらしい。さっさと帰ってしまった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない