【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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56_我が敬愛すべき先生

「はぁ……はぁ……ちょっと、待って……」

 

「ほら、こんな程度でへばってる場合じゃないですよ方目さん」

 

「もう……無理……二度と生意気な事、言わないから……!」

 

「そうは言っても、約束したのは方目さんでしょ。最後まで付き合ってもらうからな」

 

「そう……だけど……! これは、ちょっと……キツイって……!」

 

「普段からもっと運動しておけば良いんだよ」

 

「無茶、だよぉ……」

 

「……しょうがねえな……ちょっと休憩にするか」

 

 ドシャリ。

 雑な音が鳴る。

 荷物を置いた音に他ならない。

 彼女が荒くなった息を整える様は、受付で涼しい顔をしている様子からは程遠い。

 完全に地面に座り込むと立ち上がるのが辛くなるから、岩に座らせた。

 

「あ、ありがと……」

 

 ミツキ達とプールに行った4日後。

 ここにいる三名はそれぞれが山登りの出立ちだった。

 我らが商工会の受付、方目さんも三名のうちの一名として同行している。

 いつもの飄々とした表情はどこへやら、ヘタレ顔で半泣きだ。

 

「──ずいぶん楽しそうだったね?」

 

「永井さん、すみませんペースが……」

 

「いやいや、手が増えるなら大歓迎だよ。それに、可愛い女の子がいるとやる気もね」

 

「そう言っていただけると助かります」

 

 永井文俊。

 俺の通っている研究室の准教授だ。

 素人ダンジョン探訪、美味しいモンスターと美味しくないモンスター、モンスターの食生活、明日から君も研修生。

 ここら辺の本を書いたのはこの人だ。

 すげえだろ。

 

「うぅ、こんな筈じゃなかったのに……」

 

 忸怩たる、という顔をして言うので気になった。

 

「どんな筈だったんですかね」

 

「映画を楽しんだ後、良いレストランでお食事をして二人はホテル街へ……」

 

「なんだそのあり得ざる未来は」

 

「なんだとぅ!? 結構本気なのに!」

 

「うれし〜」

 

 気に入られてるってのは実感してる。

 そうでなきゃ、文句を言いながらも律儀に着いてくるなんて事もないだろう。

 

「わっはっはっは!」

 

 永井先生は口を大きく開けて、快活に笑っている。

 

「どうされたんですか」

 

「いやいや、なんでも無いよ」

 

「なんでも無い事ないでしょ」

 

「まぁまぁ……そういえば、コウキの娘さんとはどうだい」

 

「何がそういえば、なんだか……」

 

「仲はどうなんだい?」

 

 なんなんだよその質問。

 曖昧すぎんだろ。

 唐突だし。

 

 とはいえ、ミツキの事をこの人が気にするのは理解できる。

 コウキさんが若い頃にお世話になっていたらしいし、時折、顔を見にも来ていたらしい。

 加えて、小学校の運動会を見に来ていたんだそうだ。

 俺は大学に入るまでは会った事無かったけどな。

 

 世間は狭いって奴だ。

 研究の第一人者と、実技のトップランナーが知り合いなのはおかしい事じゃない。

 多分。

 

「仲は良いと思いますよ、よく家に遊びにくるし」

 

「変わらないんだねえ」

 

「まあ……幼馴染ですからね」

 

「幼馴染とはいえ、だよ」

 

「はは…………ん?」

 

 チラッと方目さんの方を見た永井先生の肩越しに、何かが見えた。

 崖上だ。

 紫に光っている。

 

「あれは?」

 

「うん?どれどれ」

 

 永井先生が双眼鏡片手に観察し出す。

 

「おや、パラマウントオポッサムじゃないか」

 

 言われてみれば、そう見えない事もない。

 草木が視界を一部邪魔してるのに、良く分かったな。

 

「流石、やつかみだね」

 

 今、俺たちがモンスターの資料を採取するために訪れている場所。

 

 霊領やつかみ。

 セクターに分類されない特殊な場所。

 モンスターは気性穏やかで、人を襲う事はない。

 人もまた、モンスターと争ってはいけない。

 理由は単純。

 ここが神の領域だから。

 

 人は、ここでは自然の摂理に混ざってはいけないのだ。

 

 争いを起こせば、大いなる災いが訪れる。

 ノストラダムス的な眉唾物ではない。

 過去にはとある地域でセクターが三つ巻き込まれ、死者行方不明者は合計25万人にもなったそうだ。

 

 永井文俊はそんな霊領に仲間と踏み入り、どう振る舞うのが正しいのかを研究した。

 神と人の違い、神とモンスターの違い、魔素の濃度、植生、モンスターのレベル換算。

 震えながらそれらをデータとして記録し、強大なモンスターがいる霊峰から1人帰還し、綴った冒険譚がある。

 

 永井先生の指示に従っておけば、この地は安全地帯だ。

 そして第一の指示として、コマちゃんはお留守番だ。

 いつもの事ではある。

 なんでも、この地と食い合わせが悪いらしい。

 犬だもんな……パニックになってどっか行っちゃう可能性あるし。

 頼れる相棒とは言えど、永井先生の指示は絶対なのです。

 

 コマちゃんはそんなに気にしてなさそうだったけど。

 今は管理人の小屋でおしっこでもしてるんじゃないかね。

 

『──ブモォォォォォオオオ』

 

「うわ、鳴き声ぶっさ」

 

 方目さんの口からそんな感想が出るのもやむなし。

 顔の可愛い感じからは想像もつかない低音で鳴いている。

 

 パラマウントオポッサムは体長1.5mほどの有袋類型モンスター。

 超高濃度の魔素を体内に溜めており、体毛や爪は魔素の結晶が構成している。

 

 あのモンスターを討伐できれば、相当な量の魔素が放出される。

 当然、レベルの低い探索者がそれを取り込めば急激なレベルアップを可能とする。

 だが、急激な体組成の変化は痛みを伴うし、肉体の歪な変質も起こり得る。

 あまり推奨されてはいない。

 

「私達に、注意を促しているようだね」

 

 紫の瞳は、こちらを見ていた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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