【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「──とはならない」
『ぬ……』
「俺は確かに、彼女のことを大事にすると言いました。でもそれはやっぱり友人としてです。ドラゴニアの価値観では男女の意味しかないのかもしれませんが……俺にとっては、この3人が大事なんです。あと早苗ちゃんと三船君達と家族とロイス達と……まあ、そこらへんも」
グニグニと脇腹をつねられつつ、男の本意気で意思を表明した。厄介なことにマジで痛い。超痛いぞ!
『そこらへん……とやらにこの子はいるわけか』
「正直な話をすれば、そこにはいないです」
『なにっ』
「だって俺が彼女と過ごしたのって合計でも2ヶ月ちょいくらいだし……ちょっと浅いというか」
真面目に、時期が短過ぎて情がそこまで移ってない。
そういうの求められても困る。
俺が独り身だったら十分かもしれないけど、大事な人3人いるから。
そういうわけでお引き取りを願ったんだけど、パワーで押し切られた。助けてやったんだから面倒見ろってさ。
どうしろと。
「よかった。浮気するつもりはないんだね」
いまだに信用がないというか……いつまでも信用されないんだろうなって感じの視線だ。出歩いてばっかの俺が悪いことはよく分かってるので、それをやめろとも言えない。
「なんだったの? あれ」
追加でやってきたナナオさん達にとってはよく分からない話だろう。俺もよくわからないんだから。
説明すると呆れた顔をしていた。
「何そのバカみたいな話」
「俺も困ってるんだよ」
「いや、自分のせいでしょ……というか、あんなのと普段からやり合ってるんだ」
「普段からじゃない。あんな風になれるなんて初めて知ったし」
「あれの本体……って言えばいいのかな。大元とは会ったことあるんでしょ? なんでそういうの教えてくれないの?」
「ナナオさんに限った話じゃなくて、誰にも話してなかったんだけどな」
「なんで?」
誰のことも信用してないの? みたいな言い方をされたけど、信用することと全部話すことは別だ。
ナナオさんも分かってるコトでもある。
「秘密主義も程々にね?」
こんだけ多く集まったけど、逆に多くの前で浮気の意思はないよって明示したわけだから良い具合の抑止力になってくれるはずだ。
宣言は、後ろめたいことがない人間にとっては何の枷にもならないどころか後押しになる。
『うむむ……』
「というか、いつになったら身体を返してあげるんですか?」
『この子にとっては夢を見ているようなものだ。1日2日戻らなかったところで問題はない』
「いや、話終わったから良いじゃないですか」
『…………名を』
「なお?」
『この娘に名を授けてくれ』
「またそれか……」
少し話しただけの相手に命名権与えるなんてどうにかしてる。それで言われたからということで名前を付けるのは、あまりにも予後が悪い気がして乗り気じゃなかった。
「なぜ、こだわるのか分からないんですよ」
『お主…………お主は巡り合わせを信じているか?』
巡り合わせ──運命のことか?
『ナニカとナニカが出会う。それは草花をイタズラに踏みつけることではなく、木を這う太い蔦を辿るようなものだ』
それは分かりづらい言い方で、だけど分からないこともなかった。噛み砕いて、改めて問う。
「俺たちが出会ったのは、俺たちの運命だと?」
『どう思う』
思う。
彼女達を。
彼らを。
これまでに歩んだ道を振り返る。
『どうだ』
違う。
断じて違う。
俺が歩んできた道は運命に身を委ねた結果なんかじゃない。
例えばミツキ達との出会いそのものが運命だとしても、そこに至る過程は俺自身が選び取ったものだ。誰かにやれと言われて決めたことなんかじゃない。
見つめ返した。
『なるほど……』
「分かってくれて嬉しいです」
『……ところでこの体を見てほしいのだが』
「?」
なぜか、腕を広げた。
『美しくはないか?』
「美しいです」
『可憐だろう?』
「可憐です」
『抗えぬ魅力があるだろう?』
「魅力があります」
『…………理解できない』
いつまで中にいるつもりなんだろう。
それこそ理解できないんですけど。
『お主らも思うだろう! ……メスとしての魅力で、この子に優っていると思う部分は!? 貴様らにあるか!』
熱演を始めた。
『全体の均整も、火の神にすら焼き付くせぬ白き肌も、その振る舞いも、全てが最上だ! 最上にして最良にして最優だ! なぜ、分からない! なぜ、理解しようとしない!』
さらに暑くなっていく。
その言葉は家を揺らす。
魂よりの叫びだ。
『この子の美しさを、なぜ認めぬ!』
つまるところ、親バカというやつだった。
魂すら震えさせる警鐘。
窓から空を除けば、黄金が渦巻いている。
高まりつつある魔素のうねりが、世界を飲み込もうと既に胎動を始めていた。
当たり前のこと。
親が子を思うという、決して薄れぬ尊さ。
それを前にしてしまえば、どんな夢だって霞のようなものだ。
だけど勘違いしていることもある。
「あの……アキは娘さんの美しさを認めてないわけじゃないです……」
『認めているならば何故、其奴はこの子を番として認めない! 何故、頑なに拒む! 世界へ翼を広げたこの子を見捨てるつもりか!』
当てられた殺気は鳥肌をやむなく現させるほど。
今の彼女の肉体であれば、俺を殺すに至るだろう。
「空気が……輝いてる……!?」
「ナナオ先輩! なんですかこれ!?」
魔素のゆらめき。
ただ、降ろされただけのか弱いドラゴニアの身体であって、最強は揺るがなかった。
そんな存在を前にして、揺るがぬものがまた一つ。
「──私たちがいるからです」
『…………』
「どんなに可愛くて綺麗な子がいても。私たちなんか足元にも及ばないぐらい魅力的でも、アキは私たちのことを一番思ってくれるんです。──あ、一番だけは譲ってくれないか……」
『…………
「そういう場所にいないからです」
『?』
「アキは一番のために生きてるんです」
『なんだ?』
「聞いたことはありませんか? アキの夢」
『…………ああ、そういうことか』
──覚えていてくれたのか。
「うん。忘れたことなんてないよ」
普通は人の夢なんてどうでもいいもんだけどな。
「お生憎。私のお父さんは普通じゃないし、お母さんもちょっと普通じゃないし、幼馴染はすごく変だから……そんな変な人たちに囲まれてると影響されちゃうんだろうね」
そうだろうか。
元から変なんじゃなかろうか。
「そうだったとしても覚えてるよ。だって…………ずっと気になってたことでもあったもん」
「アキヒロくんの夢って……くっ!? ま、魔素が……痛い……! どうすれば────え?」
彼女達にとって離れないであろう、高濃度の魔素への曝露。
その中にあってナナオさんは何かを見ていた。
視線を追って知る。
「ミツキちゃん、髪が……それに、アリサちゃんも……」
それは俺たちの絆。
手を伸ばすに至った経緯。
過程の一つだ。
最初にあったもの。
「ミツキ、さん…………髪の色が……変わって……!?」
「アリサちゃん……牙が……それに、それって……毛?」
忌々しい記憶から、笑える過去にしたのは何歳の頃だったか。それほど昔の話ではない。
彼女達の体そのものだ。
「──え? これ、どういう…………」
日毎に変わる色を持つ特別な髪が次々と色を変えていく。
こうして考えている間にも。
藤色から瑠璃色へ。
赤褐色から白色へ。
黄金から純銀へ。
本人ですら呆然と、自らの手で梳き透かしている。
「モサモサ……つ、爪も……」
アリサの身体が獣のそれに近くなっている。
肌を覆う毛並みは耳と尻尾だけのはずなのに腕や顔にまで生え、牙と爪は鋭く尖っていく。
明らかに、何かおかしい反応が起きていた。
見たことはない。
経験もない。
それでもこの変化は、あのドラゴンの力を起源としていることに間違いなかった。
──かつて、先生と話したことを思い出した。
『魔素とは意志の力を増大させるものだ。あるいは……意志の力を依代に励起し世界への干渉力を強める、そういうものだね』
『その結論は……確かに俺たちの視座においてはそう見えるかもしれません。ですが以前もお話しした通り、この世界は物質によって出来ています。魔素そのものが世界を変えるというのは……やはり、都合のいい解釈ではないでしょうか』
『勿論覚えている。しかし……それこそ、キミの視座はキミの立場から見えるものだ。我々とは違う』
『…………』
『だからこそ、キミは私の研究室に来たのだろう? だからこそ……教えてくれたのだろう?』
『あなたが賢すぎたからです。話さざるを得なかった──まあ、1人目ではないので』
『ふふ、こういう場合は消されるものじゃないのかね?』
『それこそ都合の良い──悪い妄想ですね』
『…………感情が作用していることは、キミから見ても間違いないね?』
そうだ。
確かに俺たちはひとまずの結論をそうやって見つけた。
それが厳密なものとは言えないが、因果関係はどのサンプルから見ても間違いなかった。
──それなら、この2人は?
「髪が……なんで……?」
困惑はある。
確かに感情も多少は強く出ているだろう。
だけど、これは違う。アリサが肉体の変容を獲得するに至ったような強烈な意志の発露じゃない。
なんだこれは。
俺は何を見ている。
「アキ! なにこれ、私どうなってるの……!?」
「ヒロさん……」
「──2人とも、落ち着け。これは……後で考えよう。とりあえずこっちに来て」
「う、うん……」
「はいっ……」
『────ふぅ』
「!」
魔素が、弱まった?
『些か驚いた』
「なにを……」
『その娘達に免じて、此度は退いておこう』
「…………さっきのはなんです? あれは──」
『おかしなことだ。お主は一体…………いや、そうだな。己で辿り着いて見せろ』
瞳が落ち着きを取り戻す。
体の力が抜けたのか崩れ落ちたのを抱き止めた。
「ぅ……」
そこにいるのは『娘』だった。
どこか遠くを見ているような視線は、だんだんと焦点が合って光を取り戻す。
「──あ」
「おお」
「…………夢を見ていました」
「どんな夢だ?」
「おじいさまみたいに大きな体を手に入れて、空を自由に飛び回る夢です。みんな驚いていました」
「そうか……」
「……ふぁぁ〜」
眠そうだった。
依代となるコトを身体的に理解できているわけではないけど、アレほどの存在を身に宿すのは確かに疲れるだろう。
「寝ても良いですか?」
「うん、今日はもう寝て良い」
「はい…………すぅ」
ひとまず俺は、家の前に集まった職員達への説明をするとしよう。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない