【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「もしかして……外に出るとか出ないとか関係ないんじゃないか?」
唐突に湧き出た意見は、どっかで聞いたような話だった。
具体的には実家でよく聞いたような気がする。
「1ヶ月始まってすぐだってのに、お前全然落ち着かねえじゃん」
そう言われてもというところだ。
早苗ちゃん達が作っていた畑の場所を移したり、ドラゴン達が入れる小屋を建ててもらったりと、やることは多い。
いつもならやっといてねーで済ませていたことも、折角家にいるんだから様子を見るのも家長の役目ってもんだろう。
「あれか? 血筋か?」
「そうだな」
「え……じょ、冗談だぞ?」
実際、父さんの巻き込まれ具合はえぐいので否定する気もない。冗談だとしても、悪い冗談じゃないからな。
「……ごめん」
「そういう風に捉えられるのが一番効くからな? もっと普通に頼むぜ」
少なくとも俺は、この体質のようなナニカに対してネガティブには捉えていない。これのおかげで面白い体験がたくさんできるし、未知との遭遇も起こる。
何も起こらない20年間を過ごすことに比べたらなんと恵まれていることか。
「んー……」
畑を弄っているヒナタの手は既に土まみれだった。
それで目の近くを掻こうとするので代わりに搔く。
雑菌が入ったらどうするんだ。
「あんがと」
憑依の次の日、あの時の出来事を覚えているか『娘』に聞いてみたら身に覚えがないようだった。覚えていたらそれはそれで気まずいだろうから、逆に安心した。
だけど話をしっかり聞いてみると、憑依されている間は黄金竜の身体を逆に彼女が扱えるようだ。
こうなると憑依ではなく意識の交換が正しいだろうか。彼女の夢が鮮明すぎただけという可能性を排除すればの話だけど。
「自分の意識が別の体になんて……気持ち悪いだろ」
「俺へのストレートな悪口やめろ」
「あっ──そ、そうだった……」
「言いたいことは分かるけど、本人的にはそこまで意識してないっぽかったし俺たちがなんかいうのはナシな」
「分かった」
今日は根菜を植えている。
水気が多すぎると腐るので霧の季節には植えられなかったものだ。霧は昨日の時点で完全に消えた。
売ってるヤツは高いから、アリサと一緒に外の繁殖地帯から自分たちで持ってきた。
「サラダにして食うの楽しみだな」
「料理は任せた。食べるのはまかせろ」
「良い気になりやがって……」
「だって俺より料理できる人しかいないじゃん。料理するたびに貶されるし」
「貶してんじゃなくてアドバイスだよ! 毎度わけわかんないことしやがって……なんで料理だけできねえんだ」
「料理だけ出来ないわけじゃないけどな」
「女遊びもやめねえしな」
ちょっと待ってください。
一時たりとも、女で遊んだことなんかない。
「あのドラゴン女も……ついでに言えば私とかミツキ達のことだって、餌見せびらかすだけ見せびらかして放置してたじゃねえか」
「あー……まあ、それは……」
思ったてたよりもクリティカルなのが来たから、言葉に詰まった。でも、前半については反論できる。
「あの子は違うよ」
「はぁ……そればっかだなお前」
「なんだよ」
「何回聞いたと思ってんだよ、それ」
「え?」
ヒナタ曰く、高校生の時は口癖かと思うかってくらいに今のセリフを言っていたらしい。そうだっけ。
「休み時間とか、振られたっつって何人も泣いてたぞ」
「ええっ!? 告白されたことなんて、そんな何回もないぞ!? そもそもお前……割と不登校だっただろ!?」
「あのなあ! ちょっとは気使うとかしろよ!」
「ごめんな〜」
「こんな時にベタベタすんな! 鬱陶しい!」
そんなこと言いつつ、嬉しいくせに。
「一旦休憩にしようぜ」
「なんでいきなり」
「休憩中ならべたべたしてもいいだろ」
「…………しゃーねーな! 2人もいねえし、許してやる!」
アリサとミツキは剣の練習をしに山へ──じゃなくて、訓練所に行っている。やってることはハシュアーみたいなもんだ。教官に武器の使い方を改めて教えてもらう感じ。
ヒナタに教えてもらえよって言ったんだけど、モンスターと戦うならそっちのプロの方が良い! って早苗ちゃんが主張しだしたのでそうなった。
三船君達は2人の道場で良くなったと思うんだけど、それじゃいかんのだろうかね。なんだかんだで忙しいから剣とか教える時間ない?
「教えるくらいできるけど……あれはほら……その…………最初から私たちだって意味ないとは思ってたんだよ」
「えっ」
あまりにも驚愕すぎる話を聞かされて頭がフリーズした。
最初っていつだ。
「話聞いた時」
「最初じゃねーか!」
「だから最初だって」
「じゃあ、なんで引き受けてくれたんだ? それこそ断りゃよかったじゃねーか」
「…………だよ」
「はい?」
「だから! ひ、久しぶりに……会いたかったから…………だよ」
「…………」
「な、なんか言えよ…………恥ずいだろ……」
隣に腰掛ける彼女を見た。
片方の手は落ち着きなく握って開いてを繰り返し、もう片方は俺の右手と繋がっている。
綺麗に揃えられた両膝は彼女の育ちの良さをあらわすと同時に、今にも動き出しそうだ。
「可愛すぎる」
「──ば、ばかっ……何言ってんだよ……」
これは幸せだ。
こんなに可愛い子が一緒にいてくれるんだから。
それだけに、三股してるのがすごいモニョモニョとした気分にさせられる。自分でやってて何言ってんだって感じだけど……2人と別れるつもりなんざ微塵たりともないし、考えた事もない。
「…………」
「なんだよ」
「あいつらのこと考えてるだろ」
「2人のことっていうか──うん」
「……今、誰と一緒にいるのか思い出してみたらどーだ?」
「ごめん」
膝を軽く叩くと、そこに頭を載せてくれた。
土いじりで多少の疲労は溜まっていたのか、やがて握っていた手から力がスルリと抜ける。
「すぅ……」
静かな寝息。時折寂しそうに彷徨う手を軽く掴んでやれば、それが途切れることはなかった。
しばらく寝顔を見て、ソファーで寝るのはだめだなと思ったので寝室に運ぶ。折角カラダも綺麗にしたわけだしな。
「ただいまぁ……」
このタイミングで帰ってきた早苗ちゃんは、両手に荷物を引っ提げていた。買い物に行ったら、これも持ってけあれも持ってけと渡されてこんな状態になってしまったらしい。ヒナタやミツキが買いに行っても多少は同じことをされてるけど、早苗ちゃん1人だとまさかここまでとは。
「お、重かったよお〜……」
ともかく、ここまで1人で運んできたのだからあとは俺の仕事だ。早苗ちゃんにはソファーでぐったりしてもらって、白湯を渡して、荷物をしまっていく。
「ありがと〜」
「早苗ちゃんこそ、買い物ありがとな」
「へへ、これくらいなんでもないよ! ……ところで、なんで石鹸の匂いがするの?」
先程までのことを伝えると納得したようだ。
「なーんだ。てっきり──」
「…………てっきり?」
「なんでもない」
「あら、そう」
「んひっ何その言い方」
ミツキとアリサも少し経って帰ってきた。
午前いっぱい稽古していたのだから、体力のつき具合だって以前と比べたら見違えるほどだ。
「疲れた?」
「疲れたぁ〜よぉ〜……」
「もう……動けないっす……」
廊下に倒れ込んでぴくりともしない。
しかしこのままでは乙女の体に雑菌が繁殖してしまう! ほーれ! お風呂よー!
「アワアワアワアワ」
「泡泡泡泡」
お風呂でバブルしたら、綺麗さっぱり。
服を着させて、食卓に運んで、ヒナタとテマリさんにお昼ご飯作ってもらって──
「いただきまーす」
みんなでご飯だ。
「手が震える……」
「結構頑張ったもんね……」
カタツムリぐらいの動きで飯を口に運ぶ2人。
アリサは剣を使い、ミツキは未定。
2人とも剣だとバランスがゴミみたいなパーティーになってしまうのでミツキにはせめて槍、よからば弓使いになって欲しい。初期の三船君とシエルみたいな感じにな。
とはいえ、剣だけでもやれないことはない──そこら辺は異能次第か。
「どっちの方が剣を使えるんだ? 教官の話、聞いたんだろ?」
「わたしでぇす」
アリサの方が使えるらしい。
まあ当然か。
逆に、ミツキがこの段階で1年以上先輩のアリサを一瞬で追い越して行ったら気まずかったかもしれない。
「私どうしよっかなあ……剣やめよっかなあ」
「1日で折れんなよ」
アリサと2人で話し合ってね。
「そういえばハシュアーがレイジさんと戦ってたよ」
模擬戦かな。
あの風俗好きのにいちゃん、技量は中々のものがあったからハシュアーもメキメキ伸びてるんだろうな。でも………人に教える、かあ……
俺の荒削り剣術、俺用に最適化してるから他の人には使えない類のものに仕上がっちゃったんだよね。そのせいで人に教えるのが厳しいというか……三船君と前に戦った時も加減が難しかった。
それもこれも、この世界が悪い!
1人で戦ってたら後ろから襲いかかってくるような奴らが多いから、対処するためにしなきゃいけなくなったんだ!
「食事中に暴れないでね」
「……商工会は育成のこと真剣に考えてるんですか?」
「ん…………私が辞める前は
「少数精鋭ねえ」
「四門光輝も協力する手筈で……今はどうなのかな」
「協力してるって言ってましたよ」
「──そっか。知り合いだもんね」
「ぶっちゃけ不安しかないですけど」
「え? そうなの?」
「あの人、根本的に大雑把だし……」
「でも一級探索者でしょ?」
「等級と人間性は関係ないどころか反比例ぐらいの関係ですけどね」
「確かに、パーティーで見る一級の人ってあんまり理性感じないけど……」
「でしょう? ──ん?」
テマリさんと一級探索者あるあるを話そうとしたら、早苗ちゃんが脇腹を突いてきた。
「…………」
「どした? なんか落とした? それともどっか痛い?」
「……あーん」
「えっ」
中々話さないから何だろうと思っていたら、まさかの。
嬉しいけどね? 全然ウェルカムだけど、テマリさんもいる手前気恥ずかしいね。
「あーん」
「……んへ」
口を開けたら、にへらと表情を崩してスプーンを持ち上げた。待っていると入ってくるのは、テマリさんが作ったスープだ。
人が作った飯が一番美味い。
「よく考えたら、すごく気まずい……」
「へ?」
「邪魔じゃない?」
何を言っているんだろうか、この人は。
寝たきりで家の中にずっといたのに今更の話だ。
「それはそうなんだけど」
「定期的にこの話してるような気がする」
「だってずっと気まずいし……」
「…………監禁とかしてないですからね? 出て行きたくなったら言ってくれれば全然、はい。でも行き先は教えてもらいたいというか……一応、頼まれてるんで」
「──ありがとう」
その表情は、どこまでも寂しそうだった。
女性は別れた男のことなど直ぐに忘れると言うが、彼女の場合は複雑な事情が絡んでいるのだろう。
そこを追求する日は来ない。
彼女が俺に話す日も、きっと来ない。
でもそれでいい。
一時しのぎの待避所に愛着などいらないのだから。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない