【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「耳がザワザワする……」
アリサが猫耳を抑えてそんなことを言い出したのは、俺が軟禁されて2週間目に入った頃だ。
敏感な日かと思って、猫耳を覆ってお耳ナイナイしちゃおうな〜と遊んでいたけど俺も直ぐに聞こえ始めた。
ジト目が痛いね。
「コレになってから2回目ですけど、1回目は散々でしたよ。耳が良くなっちゃったから声が気持ち悪くて……」
声の季節。
空間を漂う声が頭に入り込んで何かを囁いてくる。
確かに耳がいいアリサにとっては地獄だ。
可哀想だったな。
「あーん、もう家出たくない……」
なにか対処法はないかということで、シエルを尋ねてみることに。三船君の家に行ったら1人で留守番をしていた。三船君は買い物に行っているようだ。
「え……?」
「だからさ、あのヘッドホン貸してくれない?」
「……な、なんで?」
「だってほら、耳塞ぐのにちょうどいいし」
「アリサの耳には合わないけど」
「人間の方には合うでしょ」
「…………ダメ」
ヴォルフガングがいた。
ちょうど耳をかっぽじっているところだったので手を振ったら、気のない感じでぶり返してくる。
俺たちには気付いていたらしい。
そりゃね。
「耳当てぇ? 別に俺たちゃ何でも作れるわけじゃねーぞ?」
「そんなこと言わないでさあ……この可愛いお耳が見えないんですか?」
「見えねえな。動物の耳は見えるが、可愛いか?」
「はあ……」
ドワーフはもっと外に出たほうがいいな。
こんなんじゃ人間と共生するなんて難しいぜ。
「いやいいですよ、こんな必死にならなくても……3ヶ月くらい耐えるんで」
3ヶ月は長いだろ。
耳の調子が3ヶ月間悪いの、俺は耐えられないよ。耳に水が入ったままってことでしょ?
「それはちょっと違いますけど……」
なんか方法はあるはずだ。
今耐えるのは3ヶ月だけでも、ここから先も生きていくことを考えると積み重なって人生の8分の1は耐えないといけなくなるんだから。
「……イヤかも」
「じゃあほら、イルックスのヴォルフガングさんも頑張ってください」
「何で俺が1から全部頑張る前提なんだよ! お前もなんかやれや! そもそも金払えや!」
いつから前払い(全部)になったのだろうか。
「素材がなきゃ何も作れねっつの!」
つまり、こう言っているのか。
素材を集めてこいって。
「いつもそうだろ!」
しかし、集めてこいと言われても指示に具体性がなさすぎてどうすればいいか悩ましい。
モコモコの毛皮。
吸音性の高い中詰め材。
耳に当たる部分のカバー。
耳当てと耳当てをつなぐカチューシャ部分。
うーむ……他に何かあるかな。
「分かってんじゃねえかよ、さっさととってこい。探索者なんだから何から採れるかぐらい知ってんだろ」
「人使い荒いなあ……」
とにかく、素材を集めなければ始まらない。
アリサと一緒に吟味した。
ウィンドウショッピングのようなもので、モンスターを見て素材を使うか決めればいい。
中詰め材としては羊毛。
原種ではなくて、ツノから雷を放出するモンスターだ。
倒した後もツノはずっと帯電しているけど、毛に関しては時間が経てば放電して普通の毛になる。
耐久性に問題はないので、採用。
カバーはスライムの格に近い部分を切り取った。基本的に下水に生息しているスライムだけど、普通の水場に棲んでいることもあるので、そういう奴らを狙った。綺麗とはいえ、流石に耳当てにウンコ由来の素材はいかんからな。アクフレちゃんでも似たような身体はしてるんだけど、あいつら自然環境でも大量に発生する代わりに第一世代目がほとんどだから素材取れないし、もう季節変わっちゃったからみんなシミになってる。
使えねーな!
「ま、まあそれは霧から声に季節が変わったから私が──っていう順序の逆転があるじゃないすか? それにしても……これ、耳に当てるんですよね」
「うん」
「……ブニブニしてる」
スライムだから、もちろんのことブニブニしている。だけど柔らかさに反して型崩れしないから常用には耐えるだろう。
難点があるとすれば──
「ひんやりしてて、冬だと冷たそうなんすよね〜……」
「それなあ」
「でも耳あたりは…………いいなあ〜」
「それなあ」
上位互換を探そう。
コレに薄布を被せるでもいい。
不快感をなくすための道具が不快感高めでどうすんだ。本末転倒にならないためにも妥協はできない。
プラスチックとかシリコン系の素材があればってところなんだけど、高分子化学はおろか化学そのものが発展してないから無い物ねだりだ。
モンスターの素材を地道に探すしかないね……カバーのカバーを探すなんて、車のバンパーが傷つかないために改造するようなもんだわ。
「──ほ、ほんとうにこれ?」
薄膜となれば、まず耐水性を確かめないといけない。対汚性や洗浄性も試して──ってやってくとコウモリの皮膜になった。凄く水を弾くし、死んで時間が経っても弾性が失われない。優秀な素材だ。
耳につけるってなると最初こそ微妙な気持ちにもなるだろうけど、コレです。
「ここの部分はどうしたんだよ。繋げる部分は」
「カチューシャ部分のことを言ってるなら、そりゃあ任せますよ」
だってほら、カチューシャってぐわんぐわんするし。
薄い金属の板で作るのが一番っしょ。
錆びないやつで一つここはよろしくしゃす。
カバー材は布でもなんでも。
「無茶なこと言いやがって……」
「鍛治師にはこんな難しい仕事できないって言った?」
「言ってねえ! 金払ってどっかいけ!」
鍛治師の器用さなら1日で終わりそうだけど、作業場はここにはないから、ほぼ移動時間になるだろう。
アリサが1ヶ月は耐えないといけないってこと?
ええ〜。
「仕方ない仕方ない。コレくらいは我慢しますよ。それに、みんなだってそのうち五月蝿いってなるんですから」
「まあな」
とはいえ、コレまで散々同じような脅しはされてきたけど言うほどか? というのが正直なところだ。
人口が少ないから世界そのものが静かで、そのせいでこの世界の人間が雑音に慣れていないのが原因なんじゃないかと思ってる。
「ヒロさんの住んでたところはそんなにうるさかったの?」
「五月蝿いわけじゃなくて、ここが静かすぎるんだよ」
「ええ? よくわかんないかも……」
「騒音レベルが違うんだよ」
「そうおんれべる」
「あー……人が多いから、喋る人も多いだろ? そうなると、風に乗ってたくさんの人の声が聞こえるんだよ。こっちだと人が少ないから俺のいたところよりもその分だけ静かってこと」
「……おー、何となくわかりました。第一セクターみたいな感じなんですね」
「あ、そうそう。それ言えばよかったわ。頭いいなアリサ」
「へへ」
実際は人の声以外の要因も大きいんだろうけどな。
「1ヶ月か〜、楽しみだな〜!」
「俺が勝手に言ってるだけだからな。実際は分かんないぞ」
「むー」
帰ったら、またみんなに囲まれた。
ヘイ! 文句一丁入りました!
「私もほしーなー」
「耳当ていーなー」
「ほちー」
「私もほちー」
「僕もー」
「俺も〜」
要するに、アリサにだけ耳当てをってところが不公平だよねって話らしい。
多いんだが。
……多いんだが!
まさかここまで大勢だとは思わなかった。
三船君達はなんでいるの?
「ご飯に誘われたので」
「シエルにあの神器貸してくれって言ったって聞いたぜ、そりゃあ通らねえよ! だって神器だもん!」
ドワーフ的にはそうなるんだ。
俺的にはヘッドホンじゃんで終わりなんだけど。
そもそも、何でシエルは敵国に神器を持ってきちゃってんの?
「それは……」
言いたくないなら別にいいけどさ。
そんなの持ってくるくらい大事な任務だったんだなって。
「…………」
「……ご、ご飯食べましょう!」
気まずくてごめん。
でも神器をこんなちみっこに持って来させることが謎すぎるじゃん。俺だったら俺に持たせるけどな。
「この話終わり! ほら、加賀美さん座りましょ!」
風呂入ってねんだわ。
「──耳当て、そんないいもので作るんだ」
三船君達は耳当てに興味津々らしい。市販の、普通の布製のは持ってても、モンスターの素材を使ってまで作ることに思考がいかなかったらしい。
確かにあんまり聞かないかも?
市販するには高価すぎるし……そんなもんか。
「いいなー……いいなー」
圧がすごい。
そんな欲しいだろうか、耳当て。
そもそもいるだろうか、耳当て。
俺はいらない。
邪魔じゃね?
「何でそんなこと言うんすか!? 私が使うのに!」
「アリサは可愛いから似合うけど、俺がつけても……」
ちょっと気持ち悪いよなあ。
「そんなことないですよ!」
「見たい見たい! 私も見たい! アキが猫耳つけてるとこ!」
なぜ猫耳なのか。
普通の耳当ての話ではないのか。
俺が猫耳をつけたら体調不良になる人間が続出するに決まっているのに、何故愚かな選択をしようとするのか。
人間が愚かということのメタファーってこと?
「少なくともこの場にいる人たちはみんな、見たいっぽいね」
「そうかな? 本当にそうかな?」
「私もちょっと見たいかな〜」
少し前まで寝たきりだったのに余裕あるな。
「まあね。おかげさまで少しだけ──だからほら、景気付けにさ」
「ええ……景気悪いだろ」
どこの世界に快気祝いで男の猫耳を見るなんて風習があるんだよ。この世界か?
「とにかくさ、みんな欲しがってるし……ね?」
はぁーん。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない