【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「ほらよ」
「後10個お願いしま──」
「このっ! このっ! 大馬鹿野郎が!」
「痛い痛い」
アイアンクローは探索者やドワーフの腕力でやったら洒落になりませんからね。俺はレベルが高いから全力を食らっても余裕で耐えられるけど、ヒナタだったらパン! だ。
「お前以外にやるわけねえだろうが! 理由もねえ!」
「そんなこと言ったら俺だってこんなことやられる理由ないんですけど」
「速攻で仕事終わらせて持って来てやったと思ったら追加発注された俺の気持ちにもなってみろ!」
「…………」
「どうだこの!」
「うう……」
「ああ!?」
「ううう……可愛いそうに…………」
「──なにを泣いてんだ!?」
「終わらない……仕事が終わらない……無限に湧いてくる仕事で帰れない……」
辛いよなあ。
キツイよなあ。
夜中に1人だけ仕事してるあの感覚はやらないと分からないよなあ。
懐かしいなあ。
「俺、こいつが分からないんだけど」
「あはは……それにしてもアリサちゃんの耳当て、可愛いですね! もっとゴテゴテしたの作ってくると思ってました!」
「俺みたいなゴテゴテした男がモコモコしたものを作ってくるなってか?」
「いやいやいや! ちがいますって〜!」
「どうだか」
「試しにつけても?」
「好きにしろ」
「…………おお〜……聞こえない気がする! 何か喋ってみてください!」
「あー」
「…………聞こえないです!」
俺も装着してみるなどした。
確かに大幅な騒音の低減を感じることができる。
これならアリサも満足できるだろう。
本当はアリサに最初に使わせてあげるべきなんだろうけど、まさかこんなに早く持ってくるとは思わなかったからこの場にいない。
そうなったら、試さないと受け取れないよなあ。
「カネ、払え」
「ほい」
「……相変わらず金回りのいいやつだな」
どうも、二級探索者です。
今は軟禁処置中ですが、これでも活動的な探索者なんです。
道行く誰よりも稼いでるんです。
今日もミツキと一緒だしな……
「そこら辺はお前のせいだから何とも」
「本当にそう! 聞いてくださいよ! やっと落ち着いてるんですから! ここまで20年! 人の話を全く聞かずに好きなことばっかりやってたのを3人……4人がかりで止めたんです!」
「ええ……よくそんな男と一緒にいられるな」
「一緒にいられなかったって言ってるんです!」
「何で俺が怒られてんだよ」
早速持ち帰って渡した。
「おおー……」
可愛い。
可愛すぎてだめだろこんなん。
何らかの憲法に抵触してる可能性があるぞ。
許されるのか?
「ピッタリ合う! 聞こえない!」
ヘドバンをしても落ちない耳当てにご満悦のようだ。
声も抑えられているようだけど、一つ問題があるとすればアリサにはヒトミミもあることだ。変異で耳の位置が捻じ曲がったわけじゃなくて、新しく出来てるからネ……
「こっちは……みんなと同じくらいしか聞こえないので、とりあえず大丈夫です!」
ヒトミミを抑える時は頭の横に手をやればいいけど、ネコミミを抑える時は頭の上にまで手を上げないといけないからな。そこら辺の労力差を考えても大丈夫という言葉に嘘はないのかもしれない。
それはそれとして、という話ではある。
「折角なんだからこっちもな」
「ひゃっ」
「えっ」
「…………そ、そういえばこっちの耳を人に触られるの久しぶりかも」
そうか?
そうだったかな?
そうだったかも?
「みんなネコミミばっかり気にするから……」
言われてみると、アリサのヒトミミを気にしたことってないな。この際だし可愛いお耳触っちゃえ。
「キャハハ! くすぐったい! ヤー! やーめーてー!」
「…………」
みんなの前だからそれ以上は抑えた。
3人からの視線も怖いし……お前らも触ってやる!
「やー! 変態!」
「バカ! いきなり触んな!」
「…………や、やっぱくすぐったい!」
早苗ちゃんだけ耐えてたけど、結局逃げられた。
本当にほしいものは自分で手に入れなきゃいけないんだ…… どんな手を使ってでも!
「あーもう……部屋メチャクチャにしないでね〜…………私はやらないよ?」
「流石にです」
理性を投げ捨てたとしても、分別まで投げ捨てるわけにはいかない。人の女に手を出したら、俺がこの世界にきてミツキと関係が深まってからとか浮気だけどとか悩んでいた色々が全て無意味だったことになってしまう。
それを想像しただけで怖気が走るほどに、ありえないことだ。
「というわけで〜〜……お前だぁあ!」
「なんでえ!?」
一番ちょろくて一番足が遅い早苗ちゃんを捕まえた。
「うりうりうりうり」
「わ、わああ〜……」
ほっぺたをこねくり回す。
若さ故のもちもち感は、ミツキ達の肌のそれを上回る。
触っているだけで色々と回復しそうだ。
「バカが! 離れろ!」
「不倫! 不倫だ不倫! これはもう不倫! 不倫ですよねテマリさん!」
人様の純粋な気持ちを下心であるかのように捉えている奴らがいる。だから戦争ってなくならないんだなあ。
……あの、あんまり髪の毛とか引っ張らない方がいいっすよ。禿げたら責任取れんのか?
「これは不倫だねえ」
1人だけニヤニヤして、高みの見物がそんなに楽しいかよ。
あと、不倫を連呼されると本当に心に来る。
「……高くないでしょ別に。何の話?」
ことわざを返してもらいたい。
は? みたいな顔されるの嫌なんだが。
よく分からない言葉残すくらいなら日本語全部残しといてよね。
「真面目な話、不倫なのかよくわかんないところあるんだけど……早苗ちゃんは大人なの? 子供なの?」
「お、おとなだよお!」
「大人はそんなこと言わない」
大人解釈違い。
なるほど確かに、大人は自分のことを大人とは主張しないかもしれない。むしろ若く見られたい。
俺は若く見られると嬉しいよ。
でも早苗ちゃんの場合は本当にややこしいからなあ。
「これでもアキヒロくんより年上なんだから!」
腰に手を当てる姿は、まさしく中学生くらいだった。
「うーん……信じないわけじゃないけど……」
「信じてる人はそんなこと言わないよお!」
「確かに」
「やっぱり信じてないんだ!」
いわゆる小人症とか巨人症とかで大きくなれないのとは違う。ガチのマジで呪いによって姿を押し留められる。
まるでピーターパン。
ピーターパンは望んであの姿になったけど、早苗ちゃんは違う。
「最近、やっと身長が伸び始めたんですよ」
「ふーん……早苗ちゃんって探索者やってたんだっけ?」
「そういうのじゃなくて」
「……深い事情ってやつ?」
「そうです」
「解決したの?」
「そうらしいですね」
「らしいって?」
「俺は知らないんで」
「はあ、そういうのもあるんだね」
「──話しすぎましたね」
「そうかも」
ミツキ達もいるのに俺たちだけが喋ってるもんだから。
気まずい空間になってしまった。
「温泉、入ってくるね」
「昼風呂ですか」
「入るとお肌がツルツルになるからね」
角質が溶けているということは、アルカリ性ではあるわけだ。コマちゃんが大丈夫って言ったから大丈夫なんだろうけど、入りすぎには注意だな。
「何でお尻見てるんですか」
「見てない見てない。背中見ただけだよ」
「…………怪しい」
──────
やっぱりアリサはカラッとした性格じゃない。
俺の周りでカラッとしてるのなんてロイスと俺、ハシュアーくらいなもんだ。ソフィアはド級の激重だし、ミツキはめんどくさいし、アリサはじっとりしてるし、ヒナタはモッタリしてる。ああ、ナナオさんは割と軽いかもしれん。
尻の話じゃないぞ。
尻が重いのはいいことだけど。
「………………あ〜」
バカなことを考えていると自分でも思うけど、進み続けてきた足を一旦止めるというのはこういう事なのかもしれない。
肉体に回されていたエネルギーが全部頭を巡っている。
しかも、せっかくの余暇だというのに無駄なことばかりに思考が裂かれているんだ。
俺は何やってんだろうな。
「才能がねえな」
ここまでやって、だ。
全力を尽くしてきた。
本当に色々なことを体験した。
漫然と生きているだけでは得られない経験だ。
大事な人もできた。
悪い気はするけど、良い気分でもある。
それだけだった。
良い人生を送ろうとしているだけ。
やってることは前世と変わらない。
この二週間と少し、安寧の日々を送って思った。
幸せだ。
女の子も友達もいて、満足できる生活だった。
──俺は何をしているんだ?
「これじゃだめだ……」
焦燥感がいつまでも心を急かして止まない。
この二週間は何も悪くなかった。
たまの休息にはとても良い。
でも、こんな日々が続くと思うと震えが止まらなくなる。
生きている価値が感じられない。
生きて良いと思えるだけの価値を創出できていない。
「わふ」
そうだ。
これが俺だ。
難儀な性質だ。
面倒くさくてどうしようもない。
アドレナリン中毒ってやつなのか。
夢から離れるほど苦しくなる。
「チャンスの筈なんだ」
閉じこもっていた世界がひらけてきたんだ。
ようやく次のステージへ進めそうなんだ。
あの山の向こうに何かきっと特別なものがある筈なのに。
その筈だったのに。
やってきたのは地獄をもたらす天使達。
交流なんて頭にはなくて、支配にしか興味がない。
本質的には西の部族と変わらない。
そんな奴らに交渉なんか切り出せるはずもない。
命まで追い詰めれば何かは引き出せるだろうけど、言葉が通じなきゃ何の意味もない話だ。
戦力の規模からしても、あの雲からしても、あまりにも物騒すぎる。
俺の目的なんか話しても、絶対に協力してくれないだろう。
だからこそ意味があった。
命を賭けるに足るスリルがあった。
依頼で行くんじゃなくて、自らの意思で冒険をするという本物。
竜巻の中心に座すナニカ。
空を跨ぐ塔。
空を制する者。
ソフィアとの出会い。
ドラゴニアの郷。
ドワーフ。
いつも、胸が張り裂けそうなほどの興奮を得られるのはダンジョンそのものとは関係ない事だった。
だけど、それらを経験しても世界は見えてこない。
何が世界を変えてしまったのか。
その根元に至るモノを見つけられていない。
どうすれば
どうすれば魔素の影響を取り除いた場所を作れるのか。
どうすれば牛を増やせるのか。
この世界を正常にするにはあまりにも条件が必要だ。
「わふ」
神を殺せば。
殺し切れば。
絶滅させれば。
もしかしたら為るかもしれない。
だけどそれは倫理観を無視した非道であり、目的しか達成できない無意味な手だ。
だからこそ、
1人でいるつもりだったのは、だからというのもあった。
一度手に入れたモノを手放すことは何よりも辛い、
大きな動きに乗るにあたって、余計なモノを積んでいては身動きが取れなくなってしまう。
それなのにこの現状──中途半端な覚悟で望んでしまったから雁字搦めになっているんだ。
「わふ」
「夜だぞ? それに、勝手に出ていくのは……」
「わふ」
「…………そうだな」
初めてコマちゃんに乗った時のことを思い出した。
ただのスコティッシュフォールドから変異してすぐの話だ。俺がダンジョンに通いはじめたのは高校2年。そこにコマちゃんも付き合い始めて、すぐにデカくなれるようになった。
天才過ぎると最初はドン引きだったけど、良く考えたら神様のところから引っ張ってきてる犬だったわとドン引きした。
誰も知らない月夜。
霜柱の降りた土を踏み締めて足跡を残し、空を駆ける。
流石のコマちゃんも空は飛べないけど、俺1人乗せて疾駆する程度は容易い。当時からそれほどの身体能力だった。
乗り心地はぶっちゃけ最悪だったけど、犬に乗って夜を駆けるというシチュエーションの加点が1万点くらいあったから足し引きでプラスだ。
「たまには盗んだ犬で走り出すか」
「わふ」
コマちゃんなりの演出なのか、ボフンと煙を当てて変躯すると伏せる。そんな事しなくても乗れるが、気持ちの問題というやつか。
「──よし」
作ってもらったは良いけどなかなか使う機会がない鞍。
偶に使ってやらないと拗ねて使えなくなるかもしれないから──そんな子供じみた言い訳を考えつつ、伏せたままのコマちゃんの背中に装着した。
犬の背中に鞍があると、どうにもアンバランスな感覚は拭えない。コレは完全に俺の感覚の問題だろうけど、犬に乗るなら直接じゃないと──という観念が俺にはあるようだ。
「──」
目が合う。
映っているのは好奇と喜悦。
この行動の続きをナシにするという思考は千々に裂かれて消えていった。
そうだ、寝ている間ならば何も問題はない。
隣で丸くなっていたアリサの頭を撫で、窓から抜け出る。
俺は跨り、コマちゃんは跨られた。
ならばあとは発つのみだ。
「わふっ!」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない