【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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3_不穏な予感

 

 ──悍ましい。おおよそ人のする所業ではない。

 

 心が叫ぶ。

 

 ──いいや、人は醜い。想像の付く範疇の所業は全て行う存在だ。

 

 そんな思考が浮かぶ。

 

 不可解だとは思っていた。

 彼らがなぜ武器やら防具やらを持っているのか。

 似合ってはいない。

 振る舞いも扱いも、使い慣れた物に対するソレではなかった。

 

 最初に出会った5人組が元々大量に保持していて、ソレを提供したという可能性は恐らくないだろう。取り敢えず、どこかで手に入れたのか──その程度の薄らとした考察が、彼らを叩きのめしながら浮かんだぐらいだった。

 

 コマちゃんの案内についていく最中、ハッキリと理解したのは数十mまで近付いてからだ。

 匂いには、当然気づいていた。

 途轍もない悪臭。

 コマちゃんが鼻を一時的に消すほどの──死臭だ。

 ハエも飛び回っている。

 

 白く、血の気の無い腕が地面を掴んでいた。

 その手の甲に産み付けられたウジが蠢く様。

 のたくり、肉を食む。

 落ち窪んだ眼窩からは相当量の魔素を吸ったであろう、モンスター化したウジが顔を覗かせる。

 

 ──飛び回る人間大の蝿を焼き尽くした。

 

 打ち捨てられ、折り重なった死体はその多くが手酷い傷を負っている。

 下に行くほど腐乱が進み、得体の知れない液を蟲が泳ぐ。

 弔いは無く、敗者に尊厳など要らぬと廃棄されているソレは、倫理観の限界を否応なしに理解させた。

 

「こんなのは……ダメだ」

 

 心が急速に荒んでいくのを感じる。

 冷や汗が止まらない。

 

「コマちゃん……早く、案内しろ……」

 

「わふ」

 

 やってきたのは、先ほどの巨大なハエが一点に集まっている場所だった。

 何かをガリガリと削るような音。

 その中に僅かな異音が感じ取れた。

 

「もう……罷り通らないぞ!」

 

 ハエ達を取り囲む火袋を弾き出す。

 一瞬で、1匹たりとも逃さない為に。

 血に塗れた細足や、シュルシュルと君の悪い触手を動かす頭部をここから別の場所に行かせない為に。

 

「わううう」

 

 飛び立った群れのあまりに悍ましさにコマちゃんは毛並みを逆立てて後ろに隠れた。

 複眼に周囲の光景を映し出しながら向かってくる。

 同種ばかりが映された眼が距離を詰め切る前に炎を圧縮した。

 

「うげ……」

 

 匂いも見た目も最悪な黒焦げ死体を踏み越えて、先はどうハエが集まっていた場所へ寄る。

 異音の正体を確かめた。

 

「よかった」

 

 それは、頑丈な何某かの骨を格子に用いて洞穴に蓋をした牢屋だった。

 プリミティブな見た目だけど、一周回ってもはや先進的ですらある。

 骨を檻の一部に使うなんて、ここら辺のやり方じゃない。

 

 だけど、その堅牢さはあの巨大なハエどもの干渉から内部を守り切ったらしい。

 子供(内部)を。

 

「うう……うう……」

 

 三角座りで身を抱き竦め、歯の根も合わぬ様子だ。

 齢12〜3程度の子供にあの怪物どもと、そしてこの悪臭漂う環境はあまりに酷すぎる。

 至る所に嘔吐の跡が見られたし、身なりも汚れている。

 

「あ、あー……大丈夫か?」

 

 尋ねても震えが収まる様子はない。

 俯いてコチラを見ないのは、まあ仕方ないか。

 だけど、こんな場所にいつまでもいるのは不健康で不衛生で──不愉快だ。

 

 檻を破壊して中に立ち入った。

 

「ひっ!?」

 

 更に頑なに身を固めてしまった。

 もう一度尋ねる。

 

「こ、こっちこないで!」

 

「ほっ……」

 

 安心した。

 抗う気力が残っているならまだ大丈夫だ。

 助けに来たこと、外のモンスターは殺し尽くしたことなどを伝えると、恐る恐る顔を上げた。

 

「──あ!」

 

 泣き腫らしている目元が、グッと上下に押し広げられた。

 どうやら俺のことを知っているらしい。

 

「家に帰るぞ。お母さん達が待ってる」

 

「う……わ……」

 

 返答を待たずに背負う。

 軽い。

 水と干し肉だけ食べさせながら最初はゆっくり進んだ。

 少しずつ速度を上げる。

 

 コマちゃん曰く、例の結界が少しずつ修復し始めているらしい。

 

「犬と話ができるってほんとうだったんだ……」

 

「相棒だからな」

 

「へー……」

 

 意外と余裕そうだ。

 女の子とはいえ、こんな小さい子に無体なことを働かないだけの理性は連中にもあったようだ。

 ただ、それだけが救いだった。

 

「……ごめんなさい」

 

「ん?」

 

「服、よごしちゃったから……」

 

 布が無いから口元を袖で拭ってあげたことを言っているらしい。

 

「気にしなくていいよ。それより疲れてるんだから休んどきな。背中だとあんまり休めないとは思うけど……ソレとも疲れてないとか?」

 

「……うん」

 

 どれに対する是なのかいまいち分からなかったけど、タカタカと走っているうちに寝息が聞こえ始めた。

 あり得ないほど神経をすり減らす状況にいたのだから当然だ。

 

 暫く進んだけど、結界の修復はかなり進んでしまったようで、盗賊どもの襲撃が始まった。

 襲撃っつっても大掛かりなものじゃ無くて、武器を手にまっすぐ向かってくるぐらいのものだ。

 全員じゃないのだろう。それでも、やかましく騒ぎながら来るから寝息が止んでしまった。

 

 敵地な以上は下手にそこら辺に置いておくわけにも行かないし、背負ったまま戦っていればそのうち余波が華奢な体に負荷となる。

 非力なりに強くしがみついてくる気持ちを考えると、方法は一つだった。

 前に抱いて、速度を上げる。

 

「コマちゃん…………やれ!」

 

「わおん!」

 

 蹴鞠が如く飛び出した白毛は、稲妻が如く地を駆け、戦車が如く敵を蹴散らす。

 

「ぐぎゃあ!」

 

「うぎっ!」

 

 向かう先、血の花が舞ってしまえば邪魔はいない。

 慈悲を掛けようなどと、そんな思考にはまるで至らなかった。

 一線を越えたのは向こうが先で、既に二線も三線も越えている。

 

 思想は自由だ。

 言論も自由だ。

 行動も、自由だ。

 

 ただ、責任がそこにあるというだけの話だ。

 

 この考えがどこまでこの世界と一致しているのかは明確には分からない。それでも、俺が関わる以上は出来事に対して責任を取らせる。

 取らせた。

 

 ただ、気持ちは敗走そのものだった。

 

 

 ──────

 

 

 帰投し、少女を親元に戻した。

 きっと暫くは家の中から出されないだろう。

 だけどそれでいい。

 取り返しのつかないことになるくらいなら、宝箱の中に入れていた方がまだマシだ。

 

 ナナオさんにも会いにきた。

 現状について、整理して報告をするために。

 

「そんなことが……」

 

「何か聞いてないか? この状況を良くする策を」

 

「…………ううん」

 

「俺は中途半端な策が一番ダメだと思う」

 

「…………これまでも襲われてきたから?」

 

「それもある。だけど、子供をあんな目に遭わせるやつらを野放しにしてるのが信じられん」

 

「それは……」

 

 子供が好きとか嫌いとかというところを超えた話だ。

 子供に酷いことをできるような倫理観の終わった連中が、通常のコミュニティの近くにねぐらを作っているのを放置する状況が考えられない。

 

「まあ分かってるよ」

 

 これは俺が商工会の運営そのものには携わっていない、責任の無い立場だから言えることだ。あの連中と街に残った人達で、知り合いどころか家族親族の間柄の場合もあるだろう。

 だけど──

 

「だけど……いつまで放置するんだ? 本部は既に排除命令だって出してる。どこまで各支部が従ってるかは知らないけど、いつかはやらないといけないんだぞ」

 

「……私の友達もいる」

 

「じゃあ、何で動かないんだよ」

 

「っ……」

 

 頭が痛い。

 本当に、頭痛がしてしょうがない。

 あの光景が記憶から離れなかった。

 

「友達なら……説得するなり、ぶん殴ってでも連れ戻すなり、やれる事あるだろうが。何でお前らは──」

 

「…………アキヒロ君はいいよね。仲良い子、みんな守れるんだから」

 

「ナナオさん!」

 

「──私だって力があったら! アキヒロ君みたいに強かったら! ……そうしてたかも、しれないよ…………だけど、そうじゃないじゃん……私たちは、そんな強くないよ……」

 

「…………」

 

 力が抜けていく気分だった。

 目の前にいる美人の何と力ないことか。

 人の何と変わらないことか。

 異能や加護を与えられたとて、人に変革は起きなかったのだ。

 

「ねえ、なんで?」

 

「何ですか」

 

「何でそんなに強いの?」

 

「やる事が決まってるからです」

 

「……私たちは、バカに見える?」

 

「ええ」

 

 ここでウソをつく気はない。

 だけど、俺の答えを聞いたナナオさんは気まずそうに口を開いた。

 

「キミは……死に何を見出したの?」

 

「!?」

 

 背筋が凍りついた。

 いきなりの事に取り繕うことすらできず、身を引きそうになって腕を掴まれる。

 

「逃げないで」

 

 目の前にいる彼女が知らない人間に思えた。

 ともすれば幼馴染達よりも深く、俺のことを理解しているのではとすら考えさせられる。

 なぜ俺を前にして死などという言葉を選択的に発することができるのか。

 

 一瞬で状況が変わった。

 

「あの……あの時の絵」

 

「絵?」

 

「アルコバレノの、怪物」

 

「…………ああ」

 

 思い出した。

 去年、彼女に見せられた気がする。

 ソレがどうしたのだろう。

 

「アレはね。恐怖なの」

 

「?」

 

「アルコバレノの怪物の血を使って描いたと言われてる、見るだけで死をもたらす絵画。その複製」

 

「何を……」

 

「見てるだけで──ううん、見ることすら耐えられない筈なのにキミは……」

 

「……なるほど」

 

 詰まるところ──マヌケは見つかったようだな、ということだ。

 

「教えて。君は…………死にたいの?」

 

「?」

 

「アレが表すのは死そのものだって言われてる。だから、探索者ですら見ることができないの」

 

 それが本当なら、随分とわかりやすい死もいたものだ。

 

「それとも、怪物に会ったことがあるの?」

 

 何が聞きたいのか、結局のところ分からなかった。

 だからこそ何となくわかるのは、彼女がずっと抱えていた疑問なのだろうという事だ。

 今解消するべきなのかは別として。

 

「その話は今度にしましょう」

 

「…………うん。ごめんね、話の腰を折っちゃって」

 

「俺も、さっきは少し熱が入りすぎました」

 

「支部長に話してみる。アキヒロ君から言われたこと」

 

「何かあったら呼んでください」

 

「うん」

 

 進展はありそうだ。

 彼女に期待しよう。

 彼女と、第32支部のやる気に。

 

「──アキ、おかえり」

 

「ヒロさん、おかえりっす」

 

 2人の声音はどこか柔らかい気がした。

 ヒナタが正座をしていなければ、文句無しだったかも。

 ……どういう状況? 

 

「一ヶ月押し込んで何か変わるかなって思ったらコレなんだから足切り落としてやろうかと思ったら、まさか後押しする裏切り者がいたなんて思わなかったよ! こんなことならngjapwutキーー!!!」

 

「反省! 反省! 反省! 反省って言えば反省した事になるから良いですよね! あーあ! 私も反省で稼ごっかな〜! 反省探索者!」

 

 何言ってるか分からない。

 ゴチャゴチャで聞き取れないし、断片的に聞き取れたところも本当に言語なのか怪しかった。

 怒っているのはわかるけど、それどころでもない。

 

「3人とも真面目な話がある」

 

 席に着かせ、結論から述べた。

 

「俺は……たぶん戦う事になると思う」

 

「「「!」」」

 

 反応は三者三様だ。

 共通しているのは、良い反応ではないということ。

 ミツキが小さく手を上げる。

 

「なんでそう思うの?」

 

「西の部族の痕跡を見つけた」

 

「そ、それって……」

 

「もう、西方のセクターは壊滅してるところもあるだろうな」

 

 3人は顔を見合わせ、心を落ち着けるためか早めに寝室に入った。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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