【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「こっちめっちゃ見てる……」
「焦らず、ゆっくり座って」
「う、うん」
「目は見ないで」
「はひ」
パラマウントオポッサムが20mの距離にいる。
片腕にしがみつく方目さんを宥めつつ、永井先生に倣って土の上に胡座をかいた。
「────っ!」
ソロソロと怯えながら座り込んだ方目さんは、俺の腕に顔面を押し付けて声を押し殺している。
目を見るとか見ないとか、そういう程度の話には達していない。
ここまで恐怖を前面に押し出されると、流石に申し訳ない気になってきた。
知ってたけど、受付って戦う人じゃないもんな。
肉体的な意味ではマジの一般人だ。
永井先生があまりにも堂々としているから、麻痺していたのかもしれない。
「ふんっ、ふんふんっ、ふんっ」
巨大な獣が至近距離で鼻を鳴らしている。
制御不能で自由気ままに動く、本物のモンスターだ。
獣臭い匂いが漂い、放射された体熱が大気を通じて皮膚へと伝わってくる。
「〜〜〜〜!!?」
方目さんは、声にならない悲鳴をあげた。
それでもなんとか動かずに、オポッサムの動きを受け入れる。
「大丈夫、大丈夫ですから」
口を耳元に寄せ、限界までしぼった声量で宥める。
ここでいきなり方目さんが走り出したりしたらモンスター側もパニクって、取り返しのつかないことになる。
勿論、立ちあがろうとしたりしたら抑え込むけど、その動きがモンスターの目にどう映るかはわからない。
「…………」
永井先生は慣れたものだ。
全く動じてないどころか、寝てるんじゃないってくらいに落ち着いている。
モンスターと命のやり取りをすればするほど、目の前にモンスターが現れた時にはより早く、より鋭く武器を抜き放ち、殺しにかかるようになる。
俺だって、ここがそういう場所だと言われなければ武器を手に取ってしまう。
これはもう探索者のサガだ。
だからこそ、全く殺意も戦意も敵意も持たず、モンスターの目の前で無防備な姿を曝け出せるのは驚異としか言いようがない。
「ふん、ふん、ふん……ふんふん……ふんっ」
何度も三人の匂いを嗅いで、何かを確かめる。
血の匂いか、フェロモンでも感じとっているのか。
鼻息を間近に感じながら、数分間は耐え凌いだ。
「──ふんっ」
余計なことすんじゃねえぞ、とでも言うように鼻を鳴らすと、草木をかき分けてどこかへと歩き去った。
「……さて、もう大丈夫だね」
すっくと立ち上がると、パンパンと土をはらう。
顔には微塵も動揺は見られない。
やはり永井先生にとって、霊領内での振る舞いとは呼吸みたいなものなのだろう。
「ほら、方目さん、もう大丈夫ですよ」
「うぅ……」
何もしていないのに疲れている。
そんな方目さんが普通だ。
だけど、永井先生も最初からそんな鉄人だったわけではない。
正気に基づいた狂気的な挑戦が、彼をこの地に適合させただけだ。
冒険譚を読めばわかる。
彼も最初は、仲間達と共に踊り狂ったのだから。
「これで、通過儀礼は済ませたと言ったところかな」
「とりあえず、昼ごはんにしましょう」
「そうだね」
もっちゃもっちゃと沈んだ目のままで昼食をとる方目さんを見兼ね、永井先生は明るく声をかけた。
「方目さん、済まなかったね」
「ぇ……」
「恐ろしかっただろう、モンスターとあんな至近距離で」
「…………はい」
口の中のものを飲み込むと、小さく首を縦に振った。
永井先生は片眉をあげ、だよね、とそれを肯定する。
「ともあれ、私達はこの地で動き回る入場券を手に入れた」
「そうなんですか?」
「うん、私たちの求めるものを探し回る程度なら問題ない」
「──よかったぁぁ……」
伸びていた背筋が曲がり、力の抜けた声を出す。
声と一緒に吐き出された息は、先ほどまでの張り詰めた感情をそのまま排出しているかのようだった。
背中をさすると、唇を尖らせて文句を垂れる。
「恨むぞ〜、加賀美くーん」
「どうぞ」
だけど、と永井先生はつなげた。
「この地は、恐ろしいばかりじゃない」
指差す先。
霧が覆い隠す場所。
「現実を超えた景色を見る事もできる、きっと気に入ってくれるはずだよ」
「ほぇ?」
間の抜けた顔を見せる方目さんへ、永井先生はお茶目に笑いかけた。
「まずは、目的を果たしてからね!」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない