◆◇◆
病室にてとある少年が目を覚ました。
「うぅ・・・頭が痛い。」
少年は、鉛のように重くなっている体の上体をベットから起こした瞬間に、頭に頭痛が走り蹲る。しかし、数秒間蹲った後、頭の痛みが引いたのか再び顔を上げる。
そして、現在の状況を確認すべく周りを見渡すとそこでようやく自身につけられている医療器具等に気づく。
「・・・ここ、どこだ?」
数秒の間、思考を巡らせてようやく自身が入院していることに気づく。だが、そこで再び疑問が出る。何故、自身が入院しているのかという疑問だ。
そもそも、少年は目覚めてからずっと違和感を感じていた。その違和感は時が進むにつれてだんだん大きくなっている。
そして、彼は自身の現状を踏まえ結論づける。記憶喪失、今の自分に該当する症状を当てはめる。だが、少年の中には不思議と記憶がないことへの不安はなく、それどころか理由が分からない歓喜すらあったのだ。それに、どうやら全てを忘れたわけでなく一つだけ思い出せるものもあった。
「・・・神島静夜」
自身の名前だ。
少年───神島静夜は自身の名前をどこか噛み締めるように呟く。
何故、名前のみ覚えているのかなんて疑問は覚えたが、何もわからないより
ずっといいとそう思い、そこまで深く考えなかった。
これから自分がどう行動すべきか考えていると、病室の扉が開く音が聞こえ不意に意識がそちらに向く。扉から入ってきたのは薄いピンクのナース服を着た看護師だった。
看護師の女性が目を大きく見開き「お目覚めになられたんですね!」と驚きつつすぐさま、病室から出ていった。
数分後、慌てて病室を駆け出していった看護師が戻ってきた。看護師の後ろには、先程慌てて駆け出した理由であろう白衣を着た人物がいた。
静夜は状況から考え、自分の担当医だろうと当たりをつける。
「お目覚めになられてよかったです。私はあなたの担当をさせて頂いてる村上と申します。失礼ですが、お名前を教えて頂けますか?」
どうやら、静夜の目の前にいる人物は考えた通り静夜の担当医であっていたらしい。
「・・・俺の名前は、神島静夜です。」
「神島さんですね。早速で悪いのですがご家族について教えていただけますか?なにしろ今まで神島さんの身分が分からなかったためご家族にも連絡することができなかったので」
静夜は担当医からの質問に眉間に皺を寄せ困った表情をする。現在、彼には自身の名前以外の記憶がなくわからない状況だ。医者の質問に答えるために思い出そうとするが、すぐに諦める。
「すいません。実は自分の名前以外何も思い出せなくて・・・。」
医者は静夜の回答にしばらく難しい表情を浮かべ「なるほど」と呟き、すぐに近く待機していた看護師と小声で話をする。
看護師との会話が終わったのか医者は再度静夜のいるベットに近づいてくる。
「神島さん、あなたにいくつか質問をしますので、答えられるものに回答をお願いします。」
「分かりました」
それから、先生の簡単な質問に対し静夜は答えられるものは全て答えた。体調や好きな食べ物など、何か静夜の記憶を思い出すきっかけになればいいという意図で質問していたのだろう。しかし、結果は芳しくなかった。
医者はある程度質問して、また難しい顔をしながら静夜に告げる。
「神島さん、申し訳ございませんが現段階ではあなたが記憶を思い出すのを待つという方法しか我々には取れません。」
医者はただ申し訳なさそうに謝罪をする。しかし、これは静夜も薄々とは感じていたことだ。こればかりは、治療できない医者のせいではない。恨むというなら記憶を失うようなことになった自分の不幸にだろう。それに静夜自身特段記憶を思い出せないからといって悲観はしていない。
「いえ、大丈夫です。こればかりは、先生のせいではありませんので」
「そう言って頂けるとありがたいです」
静夜は自身の担当医にフォローを入れつつ、ふと頭の中で自身に何が起きたのかという疑問が浮かび上がった。そんな疑問が浮かび上がり、その疑問を解決するために医者に言葉を投げかける。
「一つ、質問いいですか?」
「・・・どうぞ、なんでも聞いてください。」
医者は人当たりの良さそうな笑みで質問に静夜の質問に対して答える意を表明した。
「俺が、入院してる理由について教えてください」
入院している理由と記憶喪失になったであろう理由はほぼ間違いなく因果関係があり、そしてその根幹にある事件あるいは事故は、医者や看護師の様子を見る限りある程度大きい物であること、そして自身の現在状態を見れば明らかだ。だが、今の情報だけでは推定、大きな事故あるいは事件に巻き込まれたぐらいで具体的に何が起きたかが分からない。その理由が一体何なのか気になり出し、どこか焦ったい感覚に襲われる。だから、静夜は目の前にいる自分の入院理由を知っているであろう医者に多少の好奇心を伴いつつも尋ねた。
「あぁ、大変失礼致しました。いきさつについても話していませんでしたね」
目の前の医者は少し申し訳なさそうにしつつも真剣な表情に変え静夜が置かれている状況について話し始めた。
「神島さんあなたは、ここからそう遠くない来訪町という町の社の中で傷だらけで倒れていたそうです。」
「来訪町ですか・・・?」
「えぇ、その来訪町も実は2週間以上前に燃え尽きたような状態で発見されたそうです。」
「町、そのものがですか?」
「えぇ、町の全てがです。」
医者からのいきなりの発言に静夜は理解が追いつかなかった。
まず、なぜ自分が社の中で傷だらけで倒れていたのか、次に町全体が燃え尽きて発見されたという特大の厄ネタになぜ自分が巻き込まれているのか、謎だらけである。
そもそも、町全体が燃え尽きた状態で発見される。それが、どれだけ異常なことであるかを記憶がなかろうと理解できる。
「地震か噴火でも起きたんですか?」
静夜はこの大規模な事件の真相は何なのかと思い、候補になり得そうな災害を上げ再び医者に質問する。
「ニュースの報道では来訪町に何が起きたかは原因を調査中とのことです」
その言葉を聞き静夜は唖然とした。事象が起こる理由には、それ相応の理由がある。ましてや、町そのものが燃え尽きるような事件だ。大規模な事件でおそらく世間的関心も高いはずだ。徹底的な調査も行われたことも想像に難くない。それにも関わらず、原因が不明であるなどどう考えてもおかしい。
何もかもがおかしい。一体自分は何に巻き込まれたのか。
「その、先生、町にいた人達はどうなったんですか?」
少し考え込んだ後、ハッとして一番重要な疑問を静夜は医者にぶつけた。
しかし、質問に対して先生は何かをどこか戸惑いつつも、ゆっくりと口を開き話し始める。。
「来訪町に住んでいた約5000人住民全員行方不明との報道が出てます。もしかしたら神島さんあなたのご家族も来訪町にいたのならば、巻き込まれて行方不明となっている可能性が高いです」
ある程度、予想はできていた。町全体が燃え尽きたのだ。自身以外の生存者の存在は薄い。そして自身の家族の存在。仮に来訪町で自分や家族が暮らしていたなら、少なからず死亡している可能性が高い。
そこで、引っ掛かりを覚えた。
・・・医者はなんて言った?
そうだ、医者はこう言ったのだ。
来訪町に住んでいた5000人住民全員が行方不明であると。死亡を確認したと言ったわけではない。
そう、まるで遺体一つ見つかっていないような言動だった。
「先生確認ですけど、全員が死亡ではなく行方不明ですか?」
「えぇ、報道では行方不明と聞いています」
そう、町には5000人にもいるのに誰一人として見つかっていないのだ。おそらく先生の反応を見る限り、焼け焦げて身元の判別ができないから全員が行方不明という扱いというわけでもない。
ただ単に遺体が見つからないのだろう。
なぜ?
いや、今考えるのはよそう。記憶がない自分が考えたところで何も解決しないだろう。
「そうですか。ありがとうございます。」
「申し訳ございません。目覚めたばかりだというのにこんな暗い話になってしまって」
「いえ、むしろ自分の状況を早めに知れてよかったです。」
静夜の言葉に医者はほっと胸を撫で下ろす。
「そういえば、誰が俺を助けてくれたんですか?」
静夜の疑問はともっともだろう。自身を助けてくれた人物を気にならないはずがない。
「あぁ、救助してくれた方についてもお話ししていませんでしたね。そうですね、彼らは魔術都市から派遣された魔術師の方たちと聞いてます」
「ん?」
聞きなれない単語を耳にした静夜は頭に疑問符が浮かんだ。
「魔術都市、魔術師ってなんですか?」
静夜の疑問に医者は少し考え込みすぐに得心のいった表情となる。
「あぁ、なるほど。魔術師に関連する記憶にないということですね」
「えぇ、多分魔術師?に関しての記憶はないと思います」
医者は少しの間、考えるそぶりをしてから再度口を開く。
「私が、魔術師の説明するよりも、今、病院に向かってきている方々から魔術師について説明して頂いた方がいいかも知れません。」
「向かっている方々って誰ですか?」
「そうですね、貴方を来訪町で救助してくれた方々です。」
「俺を助けてくれた、魔術師の方が向かっているってことですか。」
「えぇ、ですからもうすぐ到着するとのことなのでお会いになってくれませんか」
「分かりました。俺も命の恩人には礼は言いたいので」
「よかったです!では、彼らが病院に到着次第面会の準備をしますのでよろしくお願いします」
「分かりました。」
医者は静夜の承諾を得られたからか一旦静夜に病室から離れる旨を伝え、病室から出ていた。
一方病室で一人になった静夜は再び思考を巡らせる。自身の置かれている状況、魔術師および魔術都市は何なのかそしてこれからの自分の身の振り方それらを統合して頭の中でまとめる。そしてある程度頭の中でまとめ終えた後だった、ノックをし再び病室に医者が入ってくる。
「神島さん、先程ぶりです。先程言った魔術師の方達が思ったよりも早く到着したみたいです。今から面会して頂いても問題ないでしょうか?」
「えぇ、俺としては問題ないです」
「分かりました。では早速お呼びするのでお待ちください」
そう言い病室の外にいるであろう魔術師達を呼びにいく医者。その僅かな数分にしか満たないあろう時間の中で僅かに静夜は内心に期待感があった。魔術師とはどんな人物達なのか一体何をする人物達なのか。
静夜自身目覚めてからこの短時間で自身の自己分析をある程度済ませていた。自身が知識に貪欲で知らない事を知るということを楽しめる人間であるということを。
そして病室の扉が開く。静夜が待ちに待った魔術師達が入ってきたのだ。
病室に入ってきた魔術師達を見た静夜の第一印象は、懐かしいだ。それと同時に切なさという感情も湧き上がる。
目覚めてから初めて湧き上がる感情にすこし戸惑うがすぐに切り替える。
「やぁ、初めまして。君が神島静夜くんだね。私は神谷レイ。よろしくね!」
金髪の美少女-神谷レイが自身の名前を名乗りあげた瞬間、胸にちくりと痛みが走ったような気がした。
「俺は、月島竜玄だ。目覚めてばかりめで整理したいこともあっただろうに押しかけてすまないな。」
「いえ、そんなことはないです。むしろ俺も命の恩人達にお礼を言いたかったので来てくれて嬉しいです」
どうにもこの二人には懐かしさを覚える。もしかしたら、記憶が無くなる前にどこかで会っていだのだろうか。だが、二人の様子を見る限り初めて会ったような反応だ。やはり、俺の気のせいなのだろうか。
「お二人はすでに名前を知っているようですが、改めまして神島静夜です。俺の命を助けてくれてありがとございます。」
「君は生真面目だねぇ〜」
「そうですかね。だけど、あなた達に助けられなかったら俺は今ここにはいませんでした。」
そう、少なからず俺は彼らに助けられなかったらここにいなかったのだ。こうやって誰かと話すこともこれからの未来についても考えることもできなかった。
「そっか!じゃあ、こういうべきかな。どういたしまして!」
彼女は笑顔で俺にそんなことを言う。
「さて、自己紹介はこれくらいにしよう。君の事情については先程医者からある程度聞いている。君も色々と聞きたいことがあるだろう」
「まぁ、そうだね。じゃあ、君が知りたいことを私達が答えるからどんどん質問してごらんなさい!」
「分かりました。まず、あなた達魔術師について教えてください」
⬛︎人物紹介
神島静也(かみしましずや)
来訪町で倒れていた、現在記憶喪失の少年
月島竜玄(つきしまりゅうげん)
少し厳つい初老の魔術師と言われる人種の一人
神谷レイ(かみやれい)
金髪の魔術師と言われる人種の一人
皆さんお久しぶりです。これからは1週間に一回はとりあえず投稿できるように頑張ります!