実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

102 / 117
第102話

 案の定、低空域を遠回りしたせいで推進剤が足りなくなり――空になった物を投棄して軽量化してもだ――〝テミス11〟に迎えに来て貰うハメになった。

 

 ちゃうねん。

 

 これはね、ヴァージニア嬢を酸欠で死なせないため酸素濃度が濃い地表付近を飛ぶ必要があったし、高空域じゃないと推進剤の燃焼効率が悪くて燃費がガタ落ちするんだよ。だから私が計算NOOBだからじゃなくて、マジで予想外の出費で計算が狂っただけなんだ。

 

 誰にするでもない言い訳をしながら“テミス11”に戻ると、そこで中々驚きの事実が判明することとなる。

 

 『上尉、このご令嬢、深部スキャンした結果……深度Ⅴの電脳化が施されています』

 

 『……何?』

 

 快適とはいえない空の旅からヴァージニア嬢を解放し、呼吸できるギリギリの位置まで降りてきてくれた〝テミス11〟に移乗させたところ、セレネがそんなことを言いだした。

 

 船内に入れるにあたって危険物がないか調べたのであろうが、そこでヴァージルの一粒種が重度の機械化していると知らされて、私は僅かながら動揺を覚えた。

 

 『確実か?』

 

 『対テロ用のスキャナが搭載されているんですよ、今の弊機は。読み間違いはあり得ません』

 

 『……規模は?』

 

 『電脳化は深度V。骨格置換まで行われています。黄道共和連合の兵士並ですよ』

 

 『腐れ外道が!!』

 

 しかし、考えれば当然かとも思う。

 

 ヤツはブロックⅡ-2Bを、機動兵器を欲していた。〝テイタン2〟を操りたいのならば、有人化改造して同調する必要が我々にはあるが、〝アイガイオン級〟には高度な遠隔操作施設がある。

 

 指揮半径は衛星がないせいで狭い……いや、まて、アレには普通に大型の量子通信設備が搭載してあるよな。以前は前線に押し出したコットス級掃陸艇には小型量子通信機しか搭載されてなかったせいで後方まで繋がらなかった。それでもテイタン2ならば増強アンテナなどを装備すれば、相当の広範囲で活動が可能だっただろう。

 

 さぁっと血の気が引く音がした。

 

 いや、ヤベェ、マジで詰みかけていた。下手するとヤツが惑星の覇者になってもおかしくない状況だった寸前じゃないか。遠隔操縦設備に、それを操れるパイロットを作る下地、そこまで整っていたなんて。

 

 ブロックⅡ-2Bのために命を賭けた甲斐はあった訳だ。

 

 『ヴァージニア嬢、貴方の体は高度に機械化されている。覚えは?』

 

 「その、わたくし……お恥ずかしながら聖女なのです。天蓋聖都には行かずに済みましたが、父が聖女の儀式を施すと私に注射を」

 

 ド畜生! あの下衆、自分の娘を実験台に高度機械化施術を行いやがった!

 

 そして、試したのだ。自分や配下に施して守護神を操れるようになるかを。

 

 ああ、最悪だ、胸くそ悪くて吐き気がしてきたぞ。元は〝イナンナ12〟の乗員が末裔、それ故に遺伝子治療の残滓は残っていようが、よくぞ手探りの状態に近かろうに我が娘に〝深度Ⅴ〟に〝骨格置換〟なんて危険な電脳化を施したな。

 

 高次連では当たり前だが、脳全体を極小機械群の殻で覆って、我々の脳殻に近い装備を作り出すモンだぞ。骨格置換に至っては万全の治療設備で経過観察しながら行うようなものだ。

 

 それを碌に原理を知りもしないで、たった一人の娘にやるか?

 

 いや、むしろ娘だからしたのか。遺伝子型が半分自分と同じなら、そりゃ安全度は高まるもんなぁ! クソが!!

 

 「ガラテア!」

 

 「なんだいノゾム」

 

 「このご令嬢に一等良い部屋を宛がって、お茶を饗して差し上げろ。それと、見張りの兵は必ず外骨格を装着するように」

 

 「了解」

 

 この調子ならば内臓も一部機械化しているだろうし、筋繊維も強化してあるだろう。この虫も殺せなさそうな大人しいご令嬢は、丙種筐体並の強化を受けていると見て間違いない。

 

 何らかの意図があって領民二十万を救うのではなく、天蓋聖都で色々やらかそうとしている可能性を加味して護送しなくてはいけなくなった。

 

 勘弁してくれ。うら若きお嬢さんに手枷なんて着けたくねぇよ私。

 

 『それとヴァージニア嬢、保安上の都合により、端子には封印を施させてもらう』

 

 「是非はありません。どうぞ、必要だと思う処置をお取りください」

 

 彼女の端子はよくよく見れば、首筋にもある。急拵えで革の首輪と手袋を用意させて直結できないようにしたが、何とも倒錯的である上に哀れみを誘う見た目になってしまった。

 

 この怒りは、全てヴァージルにぶつけてやろう。

 

 裁可を仰ぎたいのもあったので、尋問は〝天蓋聖都〟にて行うこととなった。〝テミス11〟で急いで戻り、アウレリアに火急の用だと申し出れば、謁見は帰参から一時間と経たずに始まった。

 

 「それで、如何したのです?」

 

 「北方の強行偵察案を立案し、許可をいただいたので実施したが、幾つか報告せねばならない重大事があります」

 

 普段着に――丙種義体のことだ――着替えて謁見の間に拘束したヴァージニア嬢を連れて訪れると、彼女は大変驚いたのかヴェイルの下で口を開けているのが分かった。

 

 「アシュレイ……」

 

 「誰です? それは」

 

 「私の幼馴染み……ヴァージルと同じ、同郷の幼馴染みとそっくり」

 

 彼女は囚われの令嬢と目線を合わせると、優しげな声で母親の名前を問うた。

 

 「アシュレイ・リッチモンドです、大司教補佐猊下」

 

 「ああ、何てこと」

 

 話を聞くに、ヴァージルの幼馴染みはアウレリア一人ではなく、ヴァージニアを代々修めるリッチモンド公の娘とも幼馴染みで、幼少期は三人で仲良く遊んでいたそうだ。聖女であるアウレリアはリッチモンド令嬢のお友達に丁度良く、ヴァージルの母は代々高貴な乳母の家系であり女家庭教師(カヴァネス)でもあったようで、その縁でヴァージルもお遊び相手に選ばれたそうな。

 

 「……貴方が生まれた時にお亡くなりになった母上とね、私はお友達だったのよヴァージニア。今でも手紙を大事に持っているわ」

 

 「そう、なのですか……? 父は、ヴァージル卿はあまり私と喋ってくれませんでしたから……」

 

 「可哀想に。あの人に、一体何があったというの。あの子の何が悪かったというの。この子の何が不満だったというの」

 

 小さな娘を抱きしめて、アウレリアは鼻声で言った。泣きそうになっているのを堪えているのだろう。

 

 「そのままお聞きください。ヴァージルは北方を捨てました」

 

 「何ですって?」

 

 「文字通り、持てる物を持って自らの艦隊のみを率い東方に向かったのですよ」

 

 そんな馬鹿なと言いたげなアウレリアであったが、事実は事実。彼女と私では、戦略的な観点が違うのだ。

 

 現代戦において、都市は防衛すべき物であるが、あくまで経済的生産拠点であって最重要防衛拠点ではない。

 

 それは戦闘の晴れ舞台が宇宙に移り、地上でできることが限られ大きく変わった。

 

 故にブリアレオースの巨人達が如き、巨大で移動可能な陸上戦艦が作られたのである。

 

 彼の戦艦群は都市近郊に布陣すれば、条約で禁止されている〝民間人密集地への質量攻撃違反〟を盾に――これがあるから、我々は態々降下強襲戦をやること多い――防衛戦を展開することができるのだが、姿を眩ませば立派な軍事基地一つ丸まる使ったゲリラ戦を繰り広げることも可能となる。

 

 何で学んだか知らないが、ヤツは我々の戦略を知っているのだ。

 

 必要とあれば街の防備を捨て、移動できる基地で遠方に逃げ去り反撃の機会を伺うのは勿論、別の戦略的に重要な位置へ布陣することもできる。

 

 基地が移動するようになった時代では、街は経済的な補給拠点に過ぎず、必ずしも絶対に守り抜かねばならない存在ではないのだ。

 

 ことアウレリアのように略奪を絶対に許さない人間がトップに座ったならば、ヤツはこれ幸いとばかりに北方を捨てることに迷いを抱かなかったであろう。

 

 何せ今は〝天蓋聖都〟側も兵力不足。定期的に氾濫する〝ノスフェラトゥ〟の軍勢を追い返すことすら我々に外注せねばならない状態だったのだ。占領に必要な歩兵戦力が枯渇していることは割れているので、奪還しようと思えば何時でも取り戻せるという打算もあったのだろう。

 

 「父は変わってしまいました。鉄屑山から何かが見つかった時から急に」

 

 「その鉄屑山とは?」

 

 「外典にある〝天蓋聖都〟の下半分、その崩壊した部分が大量に落着した地です」

 

 アウレリアが補足して説明してくれたのだが、鉄屑山とは山岳ではなく山の如く積み上がったスクラップのことで、良質な金属資源の産出地として北方を支える資源帯の一つであるようだ。

 

 たしかに、衛星級艦船の下半分が降り注いだのならば、燃え残りが山脈のように連なっても不思議ではない。そして元々は航宙艦の外殻や内部構造だったのだから、合金資源としては実に良質であっただろう。

 

 そうか、そこに埋もれるようにしてブリアレオースパッケージを搭載した区画が生き残っており、発掘したことでヴァージルは燻っていた野心に再び火を灯したのか!

 

 「私が五つの頃でしょうか。父は軍務の合間を縫って、頻繁に鉄屑山に通っていました。私には何も話してくれませんでしたが、側近達は偉大な発見があったと」

 

 「間違いない、そこで〝アイガイオン級〟を掘り出したんだ。古代の貴重な軍事技術と共に」

 

 これで種が分かった。ブリアレオースの巨人達は突然どこかか湧いて出たのではなく、ブロックⅡ-2Bと同じく奇跡的に生き残っていたのだ。そして、〝イナンナ12〟ほど巨大な船であれば、搭載している疑似知性は一つではない。それを起こし、様々な知識を得ると同時に情報をかき集めてクーデターを上首尾に運ばせる種とした。

 

 クソッ、何だこの理不尽感! 偶然に偶然が重なりすぎている上、剛運にも程があるだろ! 無料十連を回してピックアップの人権キャラを三枚抜きしたようなもんだぞ!

 

 「しかし、東に向かう理由が分かりませんね……聖徒様、そのアイガイオン級で竜の丘陵を制圧することは可能ですか?」

 

 ヴァージニアがいるからだろう。畏まった調子で私に呼びかけた彼女の言葉をセレネと検討してみる。

 

 巨竜の戦闘能力は高い。それこそ、乗り慣れた私だからこそテイタン2単騎で撃破できたのであって、今の機動兵器部隊では武装万全の中隊で掛かっても苦戦は避けられない。

 

 恐らく、あの柔軟にして堅牢な生体装甲は、生身の柔らかさで衝撃を吸収して対機動兵器レイルガンにも耐えうる。乱射されれば流石に堪えはするだろうが、一部に集中しなければ貫徹するのは難しかろう。

 

 データリンクされて狙いを一点に集中できる、機械化人操縦手と数列自我副操縦手の操るテイタン2なら小隊一個で十分過ぎるが、今の中隊にそこまでの能力はない。

 

 人員を拡充しているので半年もあれば大隊規模まで膨れさせることは可能なれど、それでも五匹以上が集ってきたら大惨事だな。

 

 なにも、あの巨竜は一匹だけではないのだ。本拠たる丘陵には数十体規模で生息しており、その危険性から〝死の渓谷〟のように遠征を計画したことすらないという。

 

 そんな危険地域に残った三隻で向かって何ができるか?

 

 まぁ、かなり厳しいが負けはするまい。少なくとも竜に劣らぬ機動力を持つ機動兵器を迎撃するための装備が〝アイガイオン級〟と〝ギュゲス級〟には満載されているし、あの500mm重レイルガンなら直撃すれば一撃で無力化どころか木っ端微塵になる。

 

 搭載してある迎撃格闘機では巨竜の相手は困難なれど、小型竜くらいなら相手取ることもできよう。

 

 …………いや、ちょっと待てよ。

 

 「セレネ、たしか、あの巨竜にも〝光子結晶〟はあったよな?」

 

 『はい、頭部に神経塊の代わりに存在していました。解剖して確認済みです』

 

 「……ヤバい!」

 

 ガタンと椅子を鳴らしながら立ち上がった私に、二人は驚いているが、それどころではない。

 

 ドグサレめ! ヴァージル、あの野郎、テイタン2が確保できないと分かるや否や、別の物に目ぇ着けやがった!!

 

 巨竜はいわば巨大な生体兵器であり、光子結晶が搭載されている。

 

 つまり、やろうと思えばオーバーライドできるわけだ。

 

 そして、〝アイガイオン級〟には遠隔操作可能な設備が備わっているため、竜を上手いこと半殺しにして直結できるよう改造したら、機動兵器でも対処が難しい重攻撃機に様変わりする。

 

 「アウレリア様! ここから竜の丘陵までの距離は!」

 

 「えっ!? あっ、は、早馬で一月程ですかね……」

 

 「ヴァージニア嬢! アイガイオン級が北方を出たのは?」

 

 「せ、先週です……」

 

 まずい! ブリアレオースパッケージが足並みを揃える必要があるなら、移動速度は多少鈍るが、そろそろ到着していてもおかしくないぞ!!

 

 「セレネ、〝テミス11〟をかっ飛ばしてどれくらいかかる!」

 

 『二日半……いえ、上手く季節風を捕らえれば二日で』

 

 「総員緊急召集!!」

 

 『待ってください上尉! 現状、戦力化できているのは増強中隊規模ですよ!?』

 

 そんなことは私が一番良く分かっている! まだ誰も上級コースをクリアできていないことも。

 

 しかし、ただでさえ厄介な〝アイガイオン級〟の艦載機に巨竜が仕立てられてしまったら、こっちは詰みだ! 向こうも一日二日で動かせる訳じゃないだろうが、準備が進めばそれだけで悲惨なことになる!

 

 「無理でもやらねばならんことはある! 相手が竜と戯れている時に横っ面を引っぱたけば、勝機は十分にある!」

 

 兵は巧遅より拙速。まだ勝ち目がある内に、無理をしてでも盤面を整えねば詰んでしまう。

 

 畜生、じっくり穴熊組んでると思ったら、駒を確保して原始棒銀で殴り倒すつもりだったのか! たまには相櫓でじっくりやろうって気にはならんのか。

 

 「アウレリア様! 出撃します! ヴァージルを止められる内に!」

 

 「……分かりました。許可します。機械神のご加護を」

 

 急いで部屋を去ろうとする私であったが、腰に衝撃を受けて足を止めるしかなかった。

 

 「聖徒様! お父様を、どうかお父様を……お止めください! あの人は、何か恐ろしいことを考えているのですね!?」

 

 「ええ、ですから、今より止めに参ります」

 

 「……お願い、します。どうか聖徒様に機械神のお導きがあらんことを」

 

 自分の父と戦えと願うのは、優しい彼女にとって辛いことなのだろう。うるうるとしていた瞳から遂に大粒の涙がこぼれた。

 

 私はそれを親指で拭ってやった後、こう言った。

 

 「意味は分からないでしょうが、どうか三至聖にも幸運をと願ってやってください」

 

 「三至聖……様?」

 

 「ええ。我々にとって、何より大事な存在です」

 

 頭を撫で、腰に回された手を放してやってから、私は戦仕度を整えるべく早足で天蓋聖都を後にした…………。

 

 

 

【惑星探査補記】光子結晶を中枢演算に用いるということは、理論上ではあるものの、外部から操作することが可能であることに繋がる。 




やろうと思えば人間の頭を素手で砕けるご令嬢。いいと思いませんか?

明日も更新は未定でお願いします。

コメントは作者の原動力。性癖博覧会を開いてもええんやで。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。