実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 奇襲は払暁より少し前、夜と昼の淡いに行うのが定石である。

 

 夜番はそろそろ勤務時間も終わりかと油断し始め、朝晩は浅い眠りで脳がぼやけている頃。そして何より、地平線から顔を出した陽と翳りつつある月光が重なり合って、得も言えぬ視認性の悪い状況を作り出すからだ。

 

 尤も、レーダーや視覚素子でものを見る現代戦においてはあまり関係なく、旧人類として戦うVRゲームで得た知識なんだけどね。

 

 さりとて敵の殆どは旧人類。有効であろうと〝竜の丘陵〟に到着する時刻は合わせていたのだが……。

 

 『警戒は空振りでしたね』

 

 『ああ、絶賛戦闘中とは』

 

 『この調子だと一晩ぶっ続けでは?』

 

 念のため今の推進器で上がれるギリギリ一杯、高度三万を飛んでいたが――それ以上は地上仕様スラスターが燃焼不良を起こす――敵さんは我々どころではなかったようだ。

 

 シミュレーターの中で見た、枯れない鋼色の華が燃えていた。正確には、炎上せんばかりの勢いで迎撃火器を絶え間なく撃ち続けているのだ。

 

 脇に控えるのはコットス級とギュゲス級であるが……何とも不運な、いや、我々にとって幸運なことに敵は相応の被害を出していた。

 

 掃陸艇コットス級の〝レアー9〟は激しく炎上して動きを止めている。最先鋒で巨竜の注意を集める任務を果たしたせいで、重粒子の光線を浴び続けて防護力場に限界が訪れたのであろう。船体の諸所が円形に熔け崩れており、相当な時間、集中砲火を浴びたことを窺わせる。

 

 そしてギュゲス級〝イアペトス4〟は抵抗を続けているものの、激しく炎上しており、600mある船体の上に多数の遺骸を載せて、トロトロと蛇行機動を行っていた。よく見れば後部推進器は一基を残して大破しており、移動能力を失いつつあるのだ。

 

 その周囲には小型竜の亡骸が無数に散らばっており、大型竜の残骸もチラホラ見受けられる。船本来の役割、アイガイオン級の壁艦という役割を十分に担って大破寄りの中破状態で今も尚、乏しくなった砲火を上げ続けている。

 

 最後にアイガイオン級、この艦隊の旗艦にしてヴァージルの居城であろう〝ヒュペリオン2〟は、無傷とはいかないが大戦果を上げていた。

 

 『……巨竜を格下げしないといけないな』

 

 『ええ、あれと比べると子供ですね』

 

 八枚ある中でも三枚の一際長い甲板、砲塔を備えた巨大甲板の――これのせいで、アイガイオン級は全長2.5km、全幅400mと些か歪な形状をしている――一枚が巨竜よりも更に巨大な竜によって押し潰されていた。

 

 全長200m、体高長40mは下らない巨体は、私が帝都でガチンコした巨竜が子供に見える大きさだ。

 

 いや、あれはもう竜というより怪獣と呼んだ方が“らしい”かもしれん。

 

 『以降、小型竜をアダルト級、巨竜をエルダー級、あの超大型をエルデスト級と呼び分けよう』

 

 『安直ですが分かりやすくて良いですね』

 

 そのエルデスト級は、甲板の上で死んでいた。恐らく、自分に対する最も脅威となる500mm重対地砲を破壊しようとし、相打ちになったのであろう。至近距離で砲弾が炸裂したのか、甲板上が凄惨なことになっているのが上空からでも分かる。

 

 というか凄いな、〝アレ〟を喰らって原形が残っているエルデスト級も、あの巨体が乗っかって砕け落ちていない甲板も。

 

 『しかし、漁夫の利を狙ってきた訳だが……』

 

 私達は上、つまり地べたの敵より遠くから敵を発見できるという利点を活かして、まだ戦いが始まっていなかったら攻め込むまで待つ漁夫の利作戦を狙っていたのだが、これはちょっと手を出すのは考え物だな。

 

 真逆、鳥と貝が争っているどころではなく、巨人と鯨が格闘しているとは。

 

 しかも、まだ鯨が残っている。

 

 『エルデスト級、二匹確認』

 

 『結構賢いな、重対地砲を畏れて斜角から外れるように飛んでいる』

 

 500mmのレイルガンを頭から喰らって原形を失わない化物が、自分達の住処を守るべく、未だ空を遊弋しているのだ。

 

 〝ヒュペリオン2〟は回転することで主砲を一基失ってできた死角にエルデスト級を寄せないように機動しているが、向こうの方が速くて追いついていない。そして、一般的な迎撃兵器は殆ど効果がないようで、誘導弾が直撃しても鱗が数枚飛ぶ程度の損害しか与えられていなかった。機銃に至っては弾かれて全く用をなさず、圧縮光も熱量が足りていないのか虚しくピカピカ光るばかり。

 

 『……どうしよっか、アレ』

 

 『我々にアレを撃墜できるだけの攻撃オプションはありません』

 

 参ったな、ブリアレオースパッケージと巨竜の相手をするだけのつもりで来たから、土壇場であんな化物見せ付けられても反応に困るぞ。

 

 『ガラテア、聖都にアイツらの情報は……』

 

 『ないよ! あったら一番に報告してる!!』

 

 凄い悲鳴混じりの抗議が飛んできたので、恐らくアレらは領土から出ることがなかったのだろう。

 

 それか、ここより東により優れた狩り場があって専らそっちに向かっており、天蓋聖都には食い扶持から溢れた個体がやって来ていただけとか?

 

 まぁ、生態の推測はさておくとして、どうしたもんだか。

 

 『脆いだろう目を狙って脳を破壊するか?』

 

 『まず無理かと。頭蓋も相応の硬さを持っているでしょうから、現有の火器で眼底骨を抜けるかは限りなく微妙です』

 

 『口腔内からの攻撃』

 

 『非推奨です。攻撃を加える前に噛み砕かれて終わりか、できても分厚い肉に阻まれて脳まで届かないかと』

 

 『飽和攻撃……は、絶対効果ないよな』

 

 『当艦が搭載している誘導弾の三倍以上ある威力の対空誘導弾で鱗数枚ですよ。鬱陶しがらせるのが精一杯でしょう』

 

 『どうするのノゾム?』

 

 私達の相談は戦闘準備を終えている各機にも伝わっている。情報を共有した方がいいと思ったので、公開回線で話していたのだ。

 

 『ここはアレだな』

 

 『そうですね、アレですね』

 

 『何かいい手が!?』

 

 私は気持ちだけすぅっと大きく息を吸い込み、できるだけの大声を出した。勿論、五月蠅いけど皆の鼓膜を傷付けない程度の音量で。

 

 『がんばえー! ヴァージルー!!』

 

 『がんばえー!』

 

 船内で大勢がずっこける音がした。あ、一応外には漏れないようにやってるからね。

 

 『なにそれ!?』

 

 だって仕方ないだろ! 怪物同士が殴り合ってるんだから、常識的な火力しか持っていない我々には応援することくらいしかできないんだよ!

 

 それに昔から言うじゃないか! 化物には化物をぶつけるんだよって!!

 

 そして、最終的に勝った方を倒す!

 

 最終的に全員殺せば良いのだ! 結果は大体後から着いてくる!!

 

 『それは流石にないんじゃないかなノゾム!?』

 

 『かっこ悪イ! こんなの歴史に残せなイ!!』

 

 [流石に見損なったぞ族長! この■■■■!!]

 

 〔ああー、こきょうにかえったら、みんなになんてせつめいすればいいんだ……〕

 

 『やっかましい!! 勝てない戦をするのは阿呆のやることだ! 勝利に弛みきった面を横から殴るのが、油断した面殴るより楽しいんだよぉ!!』

 

 我ながらこれほどに情けないことがあるかという言い訳だが、実際そうする他に対策が見つからないんだから仕方ないだろう!

 

 『第一、アレに対抗できる武器があったら、私はとっくに……』

 

 『……アレ? 上尉、ちょっとご確認したいことが』

 

 『何だ!?』

 

 大人げなく半ギレ気味に相方へ問うと、彼女は船内の攻撃オプションを検索して、本当に対抗策がないかを練っていたのだろう。

 

 その中で一つ、予定にない荷があると言った。

 

 だからそれが何だという話なのだが、どうしても確認して欲しいというので、私は船内の監視カメラと視覚素子を直結した。

 

 場所は一般兵装保管庫で、破損した場合や銃身を射耗し尽くした時の予備兵器が整然と並べられているのだが、その中に一つ、奇妙なものがあった。

 

 布に包まれた奇妙な棒だ。大きさは7mほどと機動兵器に近く、一般的な超硬質ブレードと同じラックにかけられていたが、明らかに標準形より長い。

 

 何だ何だと思って重外骨格を着た作業兵に剥がさせれば、私は思わず目を剥いた。

 

 『たっ……たた……単分子原子ブレード!? 機動兵器用の!?』

 

 驚くべきことに、布に包まれて安置されていたのは〝機動兵器用の単分子原子ブレード〟であった。

 

 見た目はよく、朱塗りの鞘に収まったそれは恐らく儀礼用の物であろう。

 

 しかし、飾りのために作った物であっても高次連の技師は一切の手を抜かない。細部に神は宿ると言わんばかりに、実用目的でない物も実用するつもりで作るからこそ映えるのだと機能を込める。

 

 これは恐らく、式典時に指揮官機が帯びるため用意されたものだ。

 

 あっ、と思い出す。

 

 そういえばアウレリアは言っていた。禁忌区画には何でも斬れる剣が眠っていると。

 

 『これは……』

 

 「アウレリア様が守護神様の武装ならノゾムにこそ似合いだろうって……」

 

 『こんな良い物があるならさっさと出してくれ!! 私、格好悪いこと言い損じゃないか!!』

 

 慌てて〝イナンナ12〟に残っていた記録を探れば、儀礼用装備一式の授与記録があった。これは播種船団の代表が〝テラ16th〟の完成セレモニーで装備させてやるため、一本だけ進呈した式典で装備するためだけに作られた、しかし本物の剣。

 

 銘は……おいおいおいおい、いくら贈り物だからって気張りすぎだろ。

 

 大東亜重工業のハイエンド、職工が原子配列レベルで立体鍛造する最高級品〝虎徹〟シリーズじゃないか!

 

 ガワこそ儀礼用だが刀身は対艦刀と言って過不足ない代物であり、正しくこれで以て断てない物はこの世に存在しない。

 

 しかも、人間大の単分子原子ブレードと違い、機動兵器用の単分子原子ブレードは内部に自己再生鍛造機構を搭載しているため、一々研ぎ直す必要がない優れものだ。

 

 その中でも一等の品が偶然残っていて、思い出したように積み込まれてたとかある!?

 

 『ガラテア! なんで教えてくれなかった!?』

 

 『い、いや、だってノゾム、今回は危険だからブーレドは使わないって。機械神のご加護があればなくらいに思ってたから……』

 

 『それは正しく神器だ! 格納庫に引っ張り出してくれ!! セレネ、固定索解除!』

 

 『新しい玩具を見つけた子供みたいに……』

 

 私は固定していた機体を引っ剥がすと、格納庫に乗り込んで――流石に作業員が吹き飛ばされないよう待った――重外骨格兵が五機がかりで運んできた単分子原子ブレードを受け取る。

 

 そして、恭しく捧げ持って一礼。

 

 それから、慎重に鯉口を切り、ゆるりと刃を抜き放った。

 

 『正しく、虎徹……儀礼用だからTypeC(セレモニー)か……この目で刀身を見るのは初めてだ……』

 

 何と美しい。私の貧弱な語彙力では、いいや、この世で高次連が解読した全ての言語を用い、喩え三至聖が形容したとしても、この美は完全に表現できないだろう。

 

 長さ23,1尺(約7m)、反りは現代調よりも美しさを意識した古代式の室町時代を思わせる力強さ。梨地肌風の紋様は触れることさえ烏滸がましいほど麗しく、板目がよく詰んだ様は丁寧に丁寧に時間を掛けて原子プリンターで作った形跡が窺えて溜息が出そうなほど。

 

 そして何より、実用重視の刀剣には入れぬ刃文! 完璧で流麗な互の目の何と、何と美麗なることよ!

 

 『ははっ、竜退治に相応しい逸品じゃないか。アウレリア様、粋な土産をくだすったもんだ』

 

 「わ、わぁ……な、なんかノゾムが聞いたことない声出してる……」

 

 『コワ……』

 

 『慣れてください。あの人、実は結構な刀剣フェチなんです。そうじゃないと官給品じゃなくて、年俸の十五倍もする上、五十年待ちの国綱なんてオーダーしませんって』

 

 「何か今信じがたい数字が聞こえたんだけど?」

 

 しかも拵えさえ素晴らしい! 鞘はマウントラッチに固定できるよう現代調の意匠だが、態々丹塗りにした上、ちゃんと一本の木から削り出した物だ! 柄も合成繊維ではなく天然繊維製で、鮫革を模倣した柄糸の端正な結びといったらもう!

 

 絶頂を覚えそうな感動を抱きながら、私はこんな銘刀、本当に使って良いのかと震えた。こんな幸福がこの世に合って良いのか? もしかして私、今、VRやってたりしない?

 

 『勝てる、これなら勝てる』

 

 「ね、ねぇ、なんかヤバくない……? ノゾム、ちょっとおかしいよ……?」

 

 『あー……まぁ、腐っても甲種近接徽章持ち、サムライを名乗れる連中の一人なんで、そこは信頼してやってください』

 

 何か凄い失礼なコトを言われているような気がするけど、全く気にならなかった。

 

 この美しさ、そして兼ね備わった実用性の前には大した問題ではない。

 

 これならば、これならば〝アイガイオン級〟を諦めずに済むかもしれないじゃないか…………。

 

 

 

【惑星探査補記】虎徹シリーズ。東亜重工業が送る機動兵器向け単分子原子ブレードの傑作。あまりの気合いの入れ様に原始鍛造プリンターを用いても三年で一本しか製造できないこともあって、専ら儀礼用や他国への敬意を示す贈答用、あるいは高給指揮官が退官前に〝自分へのご褒美〟で用意するような代物である。




イナンナ12に眠っている何でも切れる剣の正体でした。

明日も更新時間は未定でお願いします。

ブラッシュアップのため、感想頂けるととても嬉しく存じます。
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