実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 思わぬところで伝説の装備を手に入れた私だが、何も有頂天になって万能感に酔い痴れている訳ではない。

 

 優れたりとはいえ、しょせんは単分子原子ブレード一本だ。できることは限られている。

 

 そう、しょせん刀、一本の刀、落ち着け、万能感と高揚感に溺れるな……。

 

 冷静になって一息。ともあれ、漁夫の利を得ると決めた時に諦めた〝アイガイオン級〟の鹵獲が適うかも知れないと分かって、テンションが上がらずにいられるだろう。

 

 アレが手に入ればできることは圧倒的に広がる。軽航空機を作れるようになって偵察範囲は圧倒的に広がるし、大改装が必要になるがブロックⅡ-2Bを内蔵したまま移動することが可能になるのだ。

 

 そりゃ手に入るなら欲しいだろう。

 

 『エルデスト級は〝ヒュペリオン2〟に夢中で此方に気付いていない。一体は我々で始末する』

 

 「始末って……あんな大きいの、どうするのさ」

 

 左背部のマウントラッチに単分子原子ブレードを搭載して貰っている作業の間、突貫で作戦を組み直しているとガラテアが異議の声を上げた。修羅場に慣れた彼女であっても、さしもの巨大さにどう倒せば良いのだと脳味噌が追いついていないのだろう。

 

 『巨竜で経験済みだが、竜は抗重力ユニットで重量を軽減し、翼で揚力を得ている』

 

 『つまり、高空域で翼を叩き斬ってやれば、自重で落ちて大ダメージを受けます』

 

 『その前に腹を割いて抗重力ユニットを破壊すれば、確実に即死だな』

 

 あの巨大さだ。総重量は数十トンでは済むまい。高空域に逃れたところに襲いかかり、飛行能力さえ奪えば、後は自由落下と終端速度がもたらす運動エネルギーがカタを付けてくれる。

 

 折角我々は1G下の惑星にいるのだ。それを使わない使わないと勿体ないお化けが出る。

 

 『だが、今は暫く待つ』

 

 「え、何で?」

 

 『折角労せずしてエルデスト級を一匹始末してくれそうなんだ。向こうが一対一になった瞬間を狙って飛び込む。横っ面を引っぱたく時は……』

 

 『油断してる時が最適! 古老も言ってタ!!』

 

 『そういうことだ』

 

 見たところ、かなり長い間戦闘しているのだろう。エルデスト級は動きに精彩を欠いているし、防御兵装の多くを失ったアイガイオン級は、きっと中も悲惨なことになっている。

 

 漁夫の利を狙いに来たのだから、双方が弱り切った時に殴りかかるのが一番だ。

 

 『セレネ、ステルス性は維持できているな?』

 

 『何とか。衛星無しでの探知範囲ギリギリ、超高空域を飛んでいるので問題ないかと。誘導弾が飛んできていないのが良い証拠です』

 

 よし、敵の電探担当官は素人か疑似知性に任せきりなのかで、竜に注意が行き過ぎていて空に潜んでいる我々に気付いていない。極めて幸運なことに、アダルト級の群れがミサイルの代わりになってくれているのだ。

 

 このまま高みの見物とさせていただこうじゃないか。

 

 三十分ほども代わり映えのない激戦を眺めていると、エルダー級に集られていた〝イアペトス4〟は、遂に磁場防護力場に限界が来たのか、船体の中央を穿つような一撃を貰って沈黙した。

 

 暫く惰性で動いた後、爆発し始めたので乗組員は助かるまい。さしものヴァージルも既知の情報を頼りに動いていただろうから、ここまでの損害を受けることは想定していなかっただろうから、さぞ慌てていることだろう。

 

 盾が減ったことに調子づいたのか、エルデスト級の動きが雑になってきた。

 

 いや、延々と回避機動を取り続けるのに疲れたのかも知れない。

 

 ここを好機と思ったのか、空中に静止して喉を膨らませ始めた。重粒子の吐息を吐こうとしているのだ。

 

 だが、残念ながらそれは〝ヒュペリオン2〟には悪手だ。

 

 敵の致命兵装機動を察知した人工知能が即座に誘導弾サイロを開放し、幾発かのミサイルを放った。

 

 そして、空中に力場を散らせる妨害物資をばら撒いて、陽電子砲を散らした。磁場に守られていない重粒子は即座に空中の物資を焼くことに忙しくなって威力を減衰。船体に到達するころには、通常の耐熱塗装で耐えられる程度の熱に留まって装甲板を焦がすに留まった。

 

 そこにすかさず叩き込まれる500mm重対地砲。照準を終えた超音速の弾丸は、回避機動を取らせることすらさせない。

 

 『ここだ!』

 

 気が逸って大技を放ちに掛かったエルデスト級が爆発四散するのを見送って、私は格納庫から身を投げた。

 

 『よぉし、露払いだ! セレネ! 気合い入りそうなのを頼む!!』

 

 『じゃあ、上尉のお気に入り、とっておきのナンバーでいきましょう』

 

 勇壮なギターソロと叫び声めいた歌い声。いいね、旧いデータからサルベージされた西洋の曲でもお気に入りだ。一体誰が責任を取るんだ? と問い掛けるようなサビの入りが最高なんだ。

 

 『さぁ、野郎の絵図を台無しにしてやる! 理由は私が気に食わないからだ!!』

 

 それに従って固定索を弾き飛ばして追随する〝ニュンペー22〟が操るウラノス3。

 

 敵は一瞬、巨大な標的を撃破したことに油断しただろう。その隙を突く。

 

 1Gに引かれる機体で更にスラスターを噴射。終端速度を大きく超えた、生身の人間が乗っていたら加速度で挽肉にされていたであろう速度で船体に肉薄。

 

 それから僅かに遅れて、斉射された十発のミサイルをカーテンに〝ヒュペリオン2〟の防空網に身をねじ込む。

 

 近接信管を仕込んだ高射砲の子弾が数発装甲を掠めたが、如何に航空機動兵器が脆かろうが、これくらいでどうこうなる物ではない。猛進する私を標に僚機も突撃する。

 

 ああ、今、弾丸のカーテンを潜った。際の際、機位を少しでも誤っていれば木っ端微塵になっていた死圏を私は越えたぞ。

 

 それと同時、先行していた誘導弾が迎撃用誘導弾や対空火器に叩き落とされて火の玉となり、内容物をぶちまけるが私には言い目眩ましだ。炎の紗幕を突き破って残りの距離を疾駆。射程圏内に入ると同時、全ての誘導弾を一斉に発射した。

 

 狙いは鬱陶しい敵の空対地誘導弾陣地、それと案外馬鹿にしたものでもない機銃陣地。一斉に叩き込まれるミサイルの雨を浴びて甲板上の防御陣が膨れ上がって弾け飛び、業火が甲板上を舐めるように広がっていく。

 

 そして、私は複雑な乱数回避起動を画きながら、最も鬱陶しい垂直発射型の誘導弾サイロに肉薄。上空を通り過ぎる刹那、爆弾槽に搭載していた重対地貫通弾を全て解き放った。

 

 『たーまやー!!』

 

 由来は最早忘れられた感嘆符を口にし、爆炎を背景に疾駆。側舷に普段は格納されていたが、今は顔を出している多種多様な迎撃装置が〝一直線〟に並んでいるレイアウトに感謝する。

 

 肩部マウントが前に移動し、ブレードを展開しやすいよう手元にやってくる。私は鯉口を切ると同時に引き抜き、何度見ても惚れ惚れする、濡れたような艶のある刀身を大気に晒した。

 

 さぁ、高次連の魂、サムライと呼ばれるまで練り上げた剣技をご覧じよう。

 

 『チィィィィエストォォォォォ!!』

 

 これまた私の流派ではないけれど、気合いが入るから気に入っている叫びを上げながら推力を全開に。刃は横に寝かせて腰だめに、各関節部をロックして力を溜める。

 

 まるで据え物斬りの巻き藁が如く、綺麗に居並んでいる迎撃装置の横を飛び抜け〝虎徹 TypeC〟で一掃した。

 

 その爽快さは、初めて一刀で五本の強化巻き藁――一本で強化外骨格の首相当――を両断できた時以上の清々しさ。

 

 斬られたことに迎撃機構は数秒、築いていないように射撃を続けてきたが、基部が動くに従って上部がズレて落ちていく。

 

 八町とはいかんが、まぁ念仏を唱える時間くらいは気付かせなかったか。

 

 『御美事です、上尉。たった一度の撫で斬りで二三基の迎撃装置が大破。これで六時方向の甲板は随分とスッキリしました』

 

 『いいや、まだだ!!』

 

 スラスターを噴かし、乱数回避機動を継続しつつ後続二機が戦果を拡張するのを見送りながら、私は基部に向かって全力で突き進んだ。

 

 狙うは砲塔、〝テミス11〟を一撃で粉砕し得る厄介な500mm重対地砲を黙らせる。

 

 砲塔の上に備えられた速射砲や副砲を複雑な螺旋機動で回避し――ご丁寧に護りが厚いことだ――基部に接近。

 

 今撃たれたら余波だけで機体がバラバラになる。だが、チャージはしていても指向はエルデスト級を狙おうと右往左往している。

 

 行ける。分の悪い賭けじゃない。

 

 『イィィィィヤァァァァァ!!』

 

 裂帛の気合いと共に左腕のパイルバンカーを基部に叩き込む。特殊展性チタン装甲が刹那に込めた爆発力に負け、接射された杭が側面装甲を穿って内部に埋没。

 

 離脱までの猶予時間は僅か三秒。私は全力で膝を伸ばして飛び上がり爆裂杭が起動する前に跳躍。

 

 そして、杭を叩き込んだ穴から盛大に猛火が吹き出した。まるで蛇が舌を伸ばすように長く伸びたそれは、砲塔内を焼く原始的な〝テルミット反応〟の噴出。

 

 人類が地球から巣立つ前の技術と言えど、しかし侮る勿れ。機動兵器用の巨大な杭に詰め込まれた量は凄まじく、恒星にも負けぬ熱を無差別にばら撒き全てを融かし尽くす。

 

 派手に爆発することはなかったが、エルデスト級を狙っていた主砲の動きがぎこちなくなり、やがて電池の切れかかった秒針が微動するように数度傾いて止まる。

 

 『500mm一門無力化!! 味方に伝えろ! 大戦果! 大戦果!!』

 

 『了解! 突撃は成功! 戦果大なり! 戦果は大なり!!』

 

 手持ちの武装は撃ち尽くした。〝虎徹 TypeC〟で暴れ廻るのも良いが、流石に効率が悪いので補給に引き上げねば。

 

 それに、一旦退くのは補給のためだけではない。

 

 囮役、散々恨みを買うような打撃を与えた私が逃げ帰ることで、降下強襲部隊への注意を逸らすためだ。

 

 『下がるぞ! 推力全開! 1-2、1-3、遅れるなよ!!』

 

 『承知しております艦長代行』

 

 突入は度胸が要るが、実は勢いに任せればいいだけなので案外簡単だったりする。途中でイモを引いて馬鹿な減速でもしないかぎり、素人でも成功してしまうことがあるくらいだ。

 

 最も難しいのは強襲攻撃後の離脱だ。降下時と違って自由落下の速度は得られないため、スラスターを最大限噴かして飛び上がっても加速度は比べるべくもない。

 

 『よぉし、撃ってこい撃ってこい!! 鬼さん此方!!』

 

 聞こえまいが煽るような直径を細かく変動させる螺旋機動を画いて上昇、今頃になって私に襲われたことに気付いた火器管制担当が武器を集中的に振り分けてくるが遅い遅い。機銃は砲口から予想される危害半径から踊るように避け、回避が困難な至近で放たれた誘導弾はチャフやフレアを吐いて欺瞞。曳光弾が賑やかに彩る空を抗重力ユニットと推進器の力を借りた最大速度で駆け上がる。

 

 ちっ、しかし離脱速度が遅いなウラノス3は。汎用装備の〝為朝6〟よりは速いが、流石に原型機となった〝紫電4〟には勝てないか。慣れた機体の感覚とのズレが煩わしくて、どうにもイライラしてしまう。

 

 今度セレネに頼んで追加スラスターや使い捨てブースターを設計して貰おう。そうじゃないと、一撃離脱の度にノロノロ這い上がっていく苛立ちでやっていけん。

 

 『ようし、注意は十分惹いたな!』

 

 下を睥睨しつつ対艦機関レイルガンをばら撒いて迎撃兵器を帰りがけの駄賃に撃破していくと、敵の迷いが見えるようだった。

 

 未だ襲いかかる無数のアダルト級やエルダー級、そして相方を倒されて激怒しつつも機を伺っているエルデスト級や手痛い一撃を与えてきた私。

 

 どれに狙いを集中すれば良いか、とろくさい基底現実時間で思考を練っている砲手長が迷っているのだ。

 

 いいぞいいぞ、どんどん迷え。けどいいのかな? 躊躇い箸は品が悪いし……。

 

 「全機降下! 行くよ!!」

 

 「「「応!!」」」

 

 ミサイルシャワーに守られた、陸戦部隊が降下してくる。2-1、ガラテアの号令に従って勇ましく応えた、速成ながら濃密な鍛錬を繰り返したテイタン2、守護神の群れが空から降ってきている。

 

 二択でも嫌なのに五択か、大変だな。

 

 ただ、たしかなのは、この中で一番狙う価値が低いのは私ということだ。既に火力は手持ちの対艦レイルガン以外撃ち尽くしたし、危険な単分子原子ブレードは射程外である。数も最も少ない三機編成であり、内二機は機械的な動きが目立つ半自律制御。

 

 ここで冷静な指揮官なら危険度を瞬時に分析して合理的な対応ができるのだろうが、私が強烈に煽ったが故に最も無力な存在に気を向けすぎている。

 

 熱くなると負けるのはゲームも戦争も同じだ。手酷く横合いから頬を張った押す、いや、殴り倒した私を落としたくて仕方がないと見える。

 

 いいね、悪手は嫌いだが、敵が指してくれるそいつは素敵だ、最高だ。追いかけてくる誘導弾をレイルガンで叩き落とし、時に姿勢制御で回避しつつ私はほくそ笑んだ。

 

 状況は最悪と思えたが、なんだ、存外悪くないじゃないか。

 

 何せ、私が想定したシミュレーション上では、誰一人生還できなかった強襲降下部隊が無傷で甲板に降り立ったのだから…………。

 

 

 

【惑星探査補機】突入時に最も安全なのは狙いを付け辛い前衛であり、これは離脱時も変わらないため、回避に優れた熟練兵ほど中衛や後衛を担い、その後戦果を上げて恨みを買い自らを囮とする。

 

 これをゲームの俗語に準えてヘイトタンクと呼ぶこともあるが、あくまで機動兵器乗りにだけ通じるスラングである。




想定より色々上手く言ってウッキウキの上尉。
更新が遅くなり申し訳ありません。明日も時間は未定でお願いします。
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