実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 かなり安全になった空を飛んで二度目の補給に戻ったところで、私は戦闘工兵達に装備の換装を頼んだ。

 

 「爆装を解除ですか!?」

 

 『そうだ。それから追加スラスターと増槽を取り付けてくれ』

 

 もう陸上部隊が突入を始めた以上、航空機動兵器で無理矢理防空網をこじ開ける必要がなくなった。

 

 となると、後に残される大物はエルデスト級。

 

 コイツが主砲を失って、自分を害することのできる装備がない方面に行った方が楽だと気付いた瞬間に〝ヒュペリオン2〟は終わる。

 

 今は必死こいて船体を回転させながら同時に砲塔も旋回させてどうにか牽制しているが、上を飛び越えられてはドン亀のアイガイオン級では対応できまい。

 

 そして、壁艦であった〝ギュゲス級陸上戦艦〟も囮になる〝コットス級掃陸艇〟も沈黙した今、盾のない陸上戦艦は巨大な的に等しかった。

 

 暫くは〝磁場霧散障壁〟で吐息(ブレス)にも耐えるだろうが、エルデスト級が取り付いて格闘戦に移行したり、接射されたりしたら一溜まりもない。重粒子を保護する磁場を散らしたとしても、熱が大気に吸われて無駄遣いされるだけの距離がなければ何の意味もないのだから。

 

 「聖徒様、それで何を……」

 

 『ダンス・ウィズ・ドラゴンってな』

 

 故に仲間が乗り込んだ今、次に美味しい獲物であり始末するべきはエルデスト級だ。できれば動く状態で確保しておきたい〝ヒュペリオン2〟を完全に破壊されては困る。天蓋聖都まで運ぶ装備もないので、擱座でもアウトだ。

 

 流石にあの巨大さとなると、専用の船渠がないと修理できんからな。

 

 重外骨格兵達は困惑しつつも背部の爆弾槽を外し、高機動用追加スラスターと円筒型の増槽二本を作業時間四分という短さで換装してくれた。

 

 本職なら二分か二分ちょいってところだが、少し前に訓練を始めたばかりにしては上等。いや、ここは余計なケーブルなどがなく、非接触端子で接続の殆どを済ませる設計なのに剛性を保った〝ウラノス3〟開発陣を褒めるところかな。

 

 [族長! 壁を下ろされた! 迂回路が見当たらん!!]

 

 [来た道を引き返して他を探せ!]

 

 〔ノゾムさまー! 仲間が! 仲間が隔壁に取り残されて、中になにかそそがれてます!〕

 

 〔速乾ベークライトか! 焦るな! 外骨格なら半日は酸素が保つ! 隔壁を爆破して固まりきる前に救助しろ!!〕

 

 『ノゾム! 何か凄イ数だヨ! 雑兵ばっかりだけど!!』

 

 『撫で斬りにしろ! 武器を捨てて投降した者は蹴り飛ばして寝かしておけ!!』

 

 換装作業中にも内部に斬り込んだ仲間達から次々と指示を仰ぐ電文が届く。部隊は三班に分かれており、リデルバーディが指揮する第一小隊は隔壁に道を阻まれ、ピーターの預かる第二小隊も隔壁に速乾ベークライトを注いで無力化する罠で足止め。そしてヒュンフの第三小隊は大量の市民兵に――碌な装備でないことからして、時間稼ぎの捨て駒か――行く手を遮られて思うように前進ができない。

 

 チッ、準備のいいことだ。これだけの戦力を抱えながら、乗り込まれた時に備えて内部戦力を欠かさないとは。私は存在しているのならば、苛立ちを抑えるために奥歯を噛み締めたい気分になった。

 

 「聖徒様! 換装完了! いつでもいけます!」

 

 『了解! 派手にぶちかますぞ!』

 

 外骨格兵が退避するのに合わせて起き上がり、三度空へ。一機だけになった僚機を伴って、私はエルデスト級の注意を惹くべく、両手に装備した対艦機関レイルガンを驟雨のように上空から浴びせた。

 

 狙いは適当だ。どうせ効かないことは分かっているので、数発当てて苛立たせて、後は周りをギャアギャアと遊弋しているアダルト級の撃破に振り分ける。

 

 このレイルガンの装填数は僅か六千発。加減して撃たないとあっと言う間に弾切れになる。

 

 まぁ、今回は雑魚散らしのために持ってきただけで、直ぐ投棄するから遠慮なく奢ってやったがね。

 

 三十匹近くのアダルト級が肉片と装甲の混じった残骸になりながら虚空で霧散すると同時、視覚素子に映っていた両腕の残弾表示が零になった。

 

 ポイッと投げ捨て、次はミサイルをエルダー級に斉射。目眩ましに使った後、此方もパージして最大限身軽な状態に移る。

 

 さぁ、これからは私の時間だぜ。

 

 『1-3、援護に徹しろ! 背後にアダルト級を寄せるなよ!』

 

 『了解』

 

 『セレネ! 次のオススメ! 何か良いのあるか!?』

 

 『では、また往年の名ナンバーを。ヘヴィメタルで行きますか。ハードロックかどうかで議論が起こると思いますが』

 

 おっ、このギターとベース、そして小気味良いドラムの旋律から始まる曲は最高じゃないか。旧き粉砕されし地球のライブラリから発掘されたロックの名盤、今乗ってるマシンは歌にあるほど最高の代物じゃないが、音速を超えることはできる。

 

 やっぱり音楽を聞きながら戦うとテンションが上がるな!!

 

 『邪魔だオラァァァァァ!!』

 

 空の道なきハイウェイを疾駆しつつ抜剣、進路上を塞ごうとするエルダー級の首を撫で斬りにし、立ちはだかるアダルト級も斬り倒す。そうすると流石に鬱陶しくなったのか、エルデスト級の巨体が此方を見上げた。

 

 黄色い縦の瞳孔が走る瞳は無機質な爬虫類のソレなのに憤怒に燃えていることが分かり、口の端から重粒子の炎がチラチラと燃えている。

 

 私はヤツに向かって一気に加速……したりせず、腹の下を潜り抜けるような機動を取った。

 

 まずはエルデスト級に主砲を使わせねばならない。

 

 今までの戦闘データを見るに再装填に掛かる時間は二から三分、斉射時間は二四秒きっかし。一度吐き出せば途中で軌道を変更して薙ぎ払うこともできるので、距離を取った状態で使われると避けきれない。

 

 なのでヘイトを買えるだけ買って、此方に撃たせる。鬱陶しそうに振るわれた尻尾を避けながら、すれ違い様にその戦端を斬り落としてやると、エルデスト級はガラスどころか山脈に罅が入りそうな絶叫を上げて身をのた打たせた。

 

 そうか、これだけの巨体、尋常ならざる頑健さ。

 

 傷みを味わうのは久し振りか蜥蜴野郎。これからたっぷりくれてやるから覚悟した方が良いぞ。

 

 交錯する一瞬で距離は数百mは空いただろうか。そろそろ転回せねばならぬと思えば、何とヤツは体を丸めながら回転し、翼を器用に動かすことで超信地旋回ならぬ超信地ターンを決めてきた。

 

 なるほど、やるな。翼を持ち、四肢があるが故の狭小どころか、その場での180°旋回。実に美事だ。

 

 だが、それはコッチにだってできるんだぜ。

 

 『手足があるのは、私も同じだ!』

 

 推力を繊細に操り、四肢を振りたくって此方も前進しながら背後を向くという、航空機動兵器乗りならできて当たり前の曲芸を披露した。かなりのGが瞬間的に機体にかかるので関節各所が悲鳴を上げ、幾つかのスラスターがボッと不気味な音を立てたが旋回に成功。脆弱な機体に過保護過ぎるOSが警告の悲鳴を上げるが、私は鬱陶しいので主警告装置(マスターコーション)を切った。

 

 静かになったからヨシ!!

 

 お互いに向かい合って合成速度で接近すれば、数百mの空白など瞬き一つ分もせず浮かぶ。エルデスト級は口を開き、爪を振り上げて退避すればコバエかゴキブリかという大きさの私を叩き潰そうとするが、何とか潜り抜けて腹に刃を突き立て、そのまま走りすぎながら掻っ捌いてやろうと試みるが……。

 

 『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!』

 

 『ちぃ、やっぱりダメか! 表面装甲が分厚すぎる!!』

 

 流石に釣ってきた魚のようには行かなかったか。真っ白なスマートブラッドが雨のように飛び散るが、装甲と皮下脂肪が分厚すぎて内臓には届かず、筋肉層を断てなかったようで内臓が飛び出ることはなかった。

 

 もう1m深く斬り込めていたら内臓をぶちまけてやれたのだが、如何せん手首の強度が足りないからな。それだけ斬り込むと負荷が強すぎて関節が逝っていただろうから仕方あるまい。腹部に備わっているであろう、抗重力ユニットの撃破は諦めようか。

 

 これだけ斬り割いても血糊の一滴、血油の一つ浮かばぬ刀身に惚れ惚れしつつ、もう十分ヘイトは稼いだかと賭に出ることにした。

 

 エルデスト級が旋回するのを見届け、そのまま前方へ加速。十分な間合いを開けることでブレスを誘発する。

 

 撃ってこい撃ってこい。

 

 『~~~~~~~~~~~!!』

 

 短い咆哮の後、ヤツはぷくりと喉を含まらせ、口の端からチラつく重粒子の炎を大きくさせた。吐息を吐く準備をし始めたのだ。

 

 良い子だ。そのままそのまま。

 

 私は距離を取りながら発射の瞬間を見極めて機体を横滑りさせる準備をする。

 

 実は今まで、最大速度を出していなかったのだ。ヤツの目を曇らせ、横薙ぎの一撃に巻き込まれないようにするフェイントとして。

 

 口が開き、重粒子をたっぷり湛えた磁場球が牙の間に現れる。よし、発射タイミングは予想通りドンピシャ……って、あれ? 何か戦闘データのと形状違うくね?

 

 そう思った瞬間、エルデスト級の口から放たれたブレスが広範囲を焼き払った。

 

 『あぶねぇぇぇぇぇ!?』

 

 集束しての一撃ではなく、拡散する一撃は束になったスパゲティが広がるような勢いで空の殆どを埋め尽くす。

 

 おいおいマジか!? 聞いてないぞ!!

 

 私は様子がおかしいと思った瞬間に最大加速していたので何とか回避が間に合ったが、判断が1μs遅れていたら機体は細い重粒子の光線に貫かれていただろう。無色無形の光線が乱舞する様は、まるでアイドルを応援するサイリウムの如く空間を入り乱れて裁断する。

 

 畜生! 何で一本一本が変装的に動いて、しかも首の動きに伴って中央が移動するんだ! 弾幕ゲーだったら五十円玉を確実に持って行かれる理不尽な動きとしてクレームが来るぞ!! 専属の回収班がいない今、一乙(ピチュン)したらお終いの私になんてことを!!

 

 『爬虫類の親戚のクセして多芸すぎるだろ! いい加減にしろ!!』

 

 無茶苦茶に振り回される光線を避けるべく、こちらも機体負荷を無視して回避に専念するが、如何せん10mの巨体は当たり判定がでかすぎて厳しい。しかも敵も狙ってか偶然かしらないが、荷電粒子の帯は動きにランダム性が強くて演算しての回避ができん。

 

 『うぉぉぉぉぉ!!』

 

 かといって、ここで乱数回避をするのは自爆するようなものだ。気合いで――義務教育空間の地元ではアチョー避けって言ってたっけ――自力回避を試み変則的な軌道を描き続けていると、ついにその一本が機体に迫る。

 

 『くっ……増槽パージ!!』

 

 重粒子の熱が背部から大きくせり出した円形の増槽を切り払うのと、パージされるのは現実時間で誤差の範囲でほぼ同時。真っ二つになって大気中に燃料をばら撒いた増槽が、掠めて行った熱線の残り火で引火するのは、その三秒後のこと。

 

 『おあぁぁぁぁぁ!?』

 

 爆風に抗重力ユニットを最大限働かせていた機体が煽られ、盛大に吹き飛ばされる。何とかスラスターを噴かせて進路上の荷電粒子砲を回避したが、減速が終わる頃、左膝が最悪な音を立てた。

 

 めきょっ、あるいがめぎっ、そういうオノトマペが似合いの音を立て、機体剛性を越えた回避行動に付いてこられなかった左膝から下が三行半を突きつけてきたのである。

 

 あっ、ヤバい。そうだった、さっきから膝に圧迫感があったんだけど、この子、〝為朝6〟の半分くらいしか剛性ないんだった。弾幕が濃すぎて機体剛性に気をやっている余裕がなかった。

 

 気付いた瞬間、予想していたマニューバが取れなくなった機体はあっさりとコントロールを喪失。

 

 復帰までに二秒はかかるが、この状況でそれはちと拙すぎる。残念ながら、私にはVRゲームと違って被弾後の無敵時間もなければ、敵弾を打ち消せるボムもない。

 

 死んだかなコレ、と思った刹那、機体を大きな衝撃が襲った。

 

 予想重粒子噴出限界まで、あと五秒のことであった…………。

 

 

 

【惑星探査補記】機体の蛮用が常である機動兵器乗りは鬱陶しがって剛性限界を報せる主警告装置をオフにすることが多いが、元があまり頑丈ではない機体でやると致命的な事故を引き起こすことがあるため注意が必要である。




悲報、上尉、調子に乗りすぎる。

すみません、ちょっと風邪の引き始めみたいで休憩をもらうかもしれません。季節の変わり目にやられました。
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