実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 相対する〝ヘパイトス3〟は〝ウラノス2〟より2mも低いというのに、全く小兵だとは感じさせなかった。

 

 銀色の塗装か、指揮官機と分かるよう追加された鶏冠飾りか、はたまた乗っているヴァージル自身の気迫か。

 

 『最早、言葉は無用か』

 

 『そうだ! 掛かって来い偽りの救世主!!』

 

 〝虎徹 TypeC〟を上段に抱えて斬りかかると、この刃と斬り結ぶ愚かさを一目で悟ったのであろう。ヤツはスラスターもないのに綺麗なサイドステップで軌道から逃れつつ、同時に逆胴を入れようと大型スパナを叩き込んできた。

 

 このままだと胸郭に直撃するそれを咄嗟に離した左手で受け止め、肘を撓めさせ威力を減衰。

 

 すると、奪い合いになると出力差で負けると分かったのか、ヴァージルはすぐさまスパナを放り出して、手近に転がっていた撃破された友軍機のレンチを手に取った。

 

 『ちっ、中々やる。対人戦の経験を機動兵器戦に活かすとは、相当やりこんだなコイツ』

 

 軽く愚痴りながら、私は対人戦の基本が分かっている相手となれば、本気を出すしかないなと構えを変えた。

 

 前のめりになり、構える手を右腰に当てるように背後へ。背に隠した刀身は敵に間合いを読ませづらくすると同時に、出足を欺瞞する周到な隠れ蓑に包まれる。

 

 代わりに刃で刃を防ぐ盾としての役割を一切果たさなくなる捨て身の構えであるが、私は剣術を読み合いと考えているのでこれでいいのだ。

 

 先の先、後の先、どちらを取るにせよ何をしてくるか分かりづらい方が良い。

 

 それに、この構えは西洋剣術にも近い物が存在する。ヴァージルは即座にそれを感じ取ったのか、レンチを八相に構えた。肩に担ぐように得物を保持し、一息で振り下ろせるメリットと、一歩動くだけでどの方向にも攻撃を加えられる持久の構えだ。

 

 いい判断だな、敵ながらそう思いつつ、私はスラスターを噴かして水平に移動、足下から決死の覚悟で放たれた誘導弾を避けた。

 

 ったく、どいつもこいつも覚悟決まりすぎだろ! 10m級の巨人が暴れ廻っている足の下を掻い潜って、奮進弾やら誘導弾やらをぶちかまそうとするとかマジかよ。

 

 そりゃ私達の所の対装甲歩兵任務を帯びた外骨格兵ならこれくらいやってのけるが、センサーが基本前にしかついてない筐体、しかも一回死んだら終わりの体でやるこっちゃねーぞ!

 

 『くそっ、ゾロゾロと!』

 

 『わぁ!? くそっ、2-3、膝部破損! 機動できません!』

 

 『3-1被弾! 左肘から異音がする!!』

 

 しかし、敵サンも無茶苦茶するな! ちょっと逸れただけで味方に当たる……というか、実際に同士討ちしている弾もあるのにバカスカ撃ちやがって。普通、もうちょっと躊躇というか考えてやるもんだろう。

 

 いや、ここまで、考えることができない状態まで追い詰めた我々のミスか?

 

 私は蛇行機動を取って誘導弾を回避しながらヴァージルへ肉薄。一瞬、左手を上げることで上段に斬りかかると見せかけたフェイントを挟み、膝を斬り割こうと下段から切り上げる。

 

 すると、ヤツはその繊細な動きを読んだのか、半歩下がって回避して来たではないか! 刃先が捕らえたのは装甲部をシーリングしている耐破片繊維のみで、アクチュエーターや人工筋肉には届いていない。

 

 その上でワンテンポ遅れながらも振り下ろして追撃を拒否してくるのだから、政治力だけで成り上がった訳ではないというのが窺える。

 

 本来なら起動重機なんぞ怖くも何ともないのだが、流石に作業用だけあって出力は高いので、ぶん殴られると〝ウラノス2〟の貧弱な装甲だと変な曲がり方をする可能性があるため、あまり強気に出られない。

 

 ええい、今乗っているのが〝為朝6〟なら攻撃を片手で振り払いながら、手足をカニ鍋の蟹が如く捥いで無力化してやれるというのに。

 

 こちとらこの先があるから、機体を壊される訳にはいかんのだよ。

 

 『ヴァージル卿を守れ!』

 

 『雑兵を抑えておいてくれ!』

 

 『うああああああああ!!』

 

 ああ、もう、しかも部下までしっかり躾けているとか嫌だなぁ! 一時的な数的優位にあっても、総大将が襲われていると分かったら、味方が不利になっていることを知っていても殴りに来る。この辺の臨機応変さが実戦経験の差か。

 

 『ヴァージル卿! お守りいたします!』

 

 『偽りの聖徒を討てば我等の勝利!』

 

 『お下がりを!!』

 

 三機のヘパイトス3が立ちはだかって来たのだが、連中装備が中々鬱陶しい。二機は普通にスパナとレンチで武装しているのだが、一機が応急修理用の装甲圧着杭を持っている。私が左腕に装備していたのと同じく、杭を超圧力で撃ちだして装甲板を強引に固定する工具だ。

 

 密着しなければ撃てないという欠点はあるものの、あんなもん操縦手槽に直撃したら流石に死ぬ。脳殻は無事かもしれないが、中枢電算部分がイカレて一発でオシャカだ。

 

 となると、あれから潰すほかないか。

 

 『上尉、かなりの賭けですよ、弊機はおすすめいたしません』

 

 『こういうのはなセレネ! イモ引いた方が負けるって昔から決まっているんだ!!』

 

 〝ヒュペリオン2〟を確保した後、撤退戦の殿軍もやらねばならない私は、ここで破損する訳には行かない。

 

 かといって、引けた腰でとれるタマではないのだから、気合いをいれて挑まねば長引くばかり。仲間の損害も馬鹿にならないので、このまま押し通る他ないのさ。

 

 敵は半包囲ではなく、僅かに軸をずらした縦列で突っ込んで来た。

 

 捨て身の戦法だ。先頭が何が何でも動きを止め、中列がトドメを刺せるなら刺して、無理なら命を投げ捨てて拘束。そして、最後尾に付いた杭打ち機持ちがトドメ。

 

 機動兵器の戦術は、お互い地べたに足をくっつけている限り対人戦の要素がそのまま流用できる。

 

 しかし、私が今乗っているのは、散々文句を付けたが〝航空機動兵器〟なんだよ。

 

 『ちぃぃぃぃぃぃえぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 裂帛の気合いを伴って突っ込んで来た前衛に対し、私は受け止めるのではなく、真正面から〝飛び越える〟ことを選んだ。

 

 抗重力ユニットを最大出力にして機体を軽くし、スラスターを噴いて浮かび上がる。幸いにもここは整備区画、ドーム一つ分はある縮退炉を呑み込んでいるだけあって、高さも十分にあるのだ。

 

 先頭の頭部を踏み潰し、跳躍して二機目をスルー。そして咄嗟に上から襲いかかってくることに対応できていなかった三機目に大上段から斬りかかり、頭部から唐竹割りに。サジタル面を覗かせて倒れていく機体を振り払ってヴァージルに迫る。

 

 『覚悟ぉぉぉぉ!!』

 

 『舐めるなぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 横薙ぎに振り払った〝虎徹 TypeC〟が上段からの振り下ろしで軌道がねじ曲げられる。

 

 やはり賢い、この短期間で単分子原子ブレードの弱点を見抜いてきている。

 

 要は切れる刃部ではなく、腹を叩けば払えるのだ。

 

 しかし、私が盛っているのは甲種白兵徽章。

 

 剣に生き、しかし剣に拘らぬ白兵戦に特化した兵士のカナでも選り抜きの兵士なのだ。

 

 『なにぃ!?』

 

 ヴァージルが驚愕する。それもそうだろう、私は元々、打ち払われることを予想して〝虎徹 TypeC〟を握る握力を弱めていた。

 

 さすれば弾き飛ばされても隙は小さく、組み付く余裕ができる。

 

 『うぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

 『なぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 

 私はそのままヴァージルに組み付くと、全てのスラスターを全力で噴かせて機体を猛進させる。目標は200mばかし離れた壁だ。

 

 そして、ウラノス2の加速度なら、そんな距離は瞬きの間で埋まる。

 

 『ヴァージル卿!!』

 

 配下が悲鳴を上げる中、十分な装甲を持っていない〝ヘパイトス3〟は壁と〝ウラノス2〟に挟まれて一撃で拉げた。

 

 左肩から先は吹き飛び、腰部はねじ切れ、申し訳程度の外殻が木っ端の如く舞い散る。

 

 その中で無茶な動きをするなと〝ウラノス3〟の警告音を聞きながら、私は辛うじて原形を保っている操縦手槽を取り上げて鬨を上げた。

 

 『総大将、討ち取ったり!!』

 

 『おおおおおおおお!!』

 

 苦戦していた仲間から歓声が上がり、数で押し包もうとしていた敵の動きが止まる。

 

 ヴァージルからの声が掛かることはない。当たり前だ、全速で加速したのもあって、瞬間的に掛かったGは20以上。機械化していることと、操縦手槽のパイロット保全機構で死んではいまいが、動けはするまい。

 

 『武器を捨てろ! 然もなくば操縦手槽を破壊する!!』

 

 この脅しは覿面に効いたらしい。敵は次々武器を取り落とし、膝を突いて嘆き始めた。

 

 ……なあ、ヴァージル、これだけの人望があったんだ。何であんな馬鹿な手段を取った? お前なら、もっとやりようがあったのではないか? そう思わせる光景に、思わず私は掴んでいる手から力を抜いて、ゆっくりと地面に下ろした。

 

 そして、放り投げてしまった〝虎徹 TypeC〟を拾い上げ、改めて操縦手が乗っているであろう場所に突きつける。

 

 『改めて警告する! 即座に停戦し、武装を解け! さすれば命は保証する』

 

 武装解除は淡々と進み、すすり泣く兵士達の嘆きを聴覚素子が拾う。これで、縮退炉は安泰と見て良かろう。ケーシングに何か細工された様子もないし、電撃的に攻めたのが功を奏したな。

 

 『こちら第一小隊! 中枢CICを制圧したぞ!!』

 

 内心で胸を撫で下ろしていると、陸戦隊も続々と戦果を報告してくる。隔壁が上がったて進路を邪魔する者もなく、内部に配備された警備ドローンや自動迎撃システムが高次連のIFFを味方認定して攻撃しなくなったこともあって、陸戦隊が仕果たしたのだ。

 

 『よくやった! 損害報告!!』

 

 かなりの激戦であったこともあり、陸戦隊の損耗率は四割、つまり全滅判定に踏み込んでいたが、彼等はここが気張り所だと脱落者を出しながらも延々押し込み続けて三つのCICを占拠したらしい。

 

 損害は重軽傷者がテックゴブ、シルヴァニアン、トゥピアーリウスと外骨格兵で計三五名。戦死者は未熟な天蓋聖徒からかき集めた徴収兵に多く、二十人近く出させてしまった。

 

 『……クソ、もっと訓練期間があれば』

 

 『族長、そう気を落とすな。これだけの寡兵で城を堕としたんだ。異教徒だろうと太母は喜んで胸元に迎え入れただろう』

 

 『星々もきっと歓迎してくれますよ』

 

 『そウだヨ、ヒトでもきっと、死後の館で歓待されてるはずだシ』

 

 それぞれの小隊長から気遣いの言葉が届くが、私からすると限りある命が失われるのは辛いことなのだ。

 

 必要だからやった。死んでこいと命じて送り出した。

 

 それでも、それでもだ。我々と違って簡単に死んでしまう炭素基系の生命が失われるのは悲しい。彼等にも家族があり、夢があり、将来があったろうに。

 

 それは敵対した者達も同じだろうが、やはり戦列を共にした相手となると話は別なのだ。

 

 アウレリアに掛け合って、遺族年金か報酬金でもたんまり支給してやるよう、お願いしてみるか。

 

 『さて、ヴァージル、お前の夢もここで終わりだ』

 

 『……そのよう……だな……。煮るなり……焼くなり……好きにしろ』

 

 おや、驚いたな。気絶していたかと思ったが、意識があるのか。独り言のつもりでかけた言葉に返事が返って来るとは。

 

 散々抗った末の敗北だからだろう。妙に諦めの良いヴァージルを操縦手槽から引っ張り出し、拘束した後に私は〝ヒュペリオン2〟に告げた。

 

 テロリストは排除した故、一時的に我が麾下に加わるようにと…………。

 

【惑星探査補機】白兵徽章は剣術の扱いではなく、五体全てを用いた闘争に一等秀でた者に与えられる名誉である。それ故、武器を持っていなくとも、彼等の五体それそものが凶器であることを忘れてはならない。




随分と間が空いて申し訳ありません。コレが面白いのか、コレでいいのかの葛藤と書籍作業に押し潰されてニューロンが拉げていました。

これにて9章は完結。次回から戦後処理に入ります。

そして、皆様のご支援のおかげでネトコン12に入賞いたしました! ブシロードノベル様から出版が決まりましたよ! 本当にありがとうございます!!
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